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IS〈インフィニット・ストラトス〉駆け抜ける者

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第15話

仰向けに倒れた一夏、見つめる俺、見下すゼロ。誰一人動かず、喋らない。

「一夏、今…!?ゼロ!?」

信じられない光景だった。倒れている一夏を、ゼロが『攻撃』したのだ。

「止めろ…、止めろっ!!」

一夏を庇う。お構い無しに、ゼロは攻撃を続けている。

シールドエネルギーの無い今、その攻撃は無条件でその操者に当たる。俺と一夏の体が、痛め付けられていく。

観客の中にいた篠ノ之達が走っているが、時間がかかる。意識が持ちそうにない。だが、一夏は、一夏だけは!

一夏の体を抱き抱え、体を強張らせる。しかし、攻撃は来なかった。

ハクトがゼロに抱き付いて、止めていたから。

俺が理解できたのはそこまでで、その後は、俺は意識を手放していた。

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「……くん、…君!弟君!」

誰かの呼び掛けに反応し、目を開けると、泣きそうな顔をした姉が手を握っていた。

「ユリ姉…、一夏は…?」
「弟君!織斑君は隣だよ!」

よく見れば、ここは俺達の部屋。一夏は隣で静かに寝息をたてていた。

「…痛っ…」
「無理しちゃ駄目だよ弟君、重傷なんだから」

起きようとして生じた痛みに顔をしかめ、姉に手助けしてもらってどうにか起きる。

「俺達はどうなったんだ?」
「あの後医務室直行。弟君は、左腕を縫ったんだよ?」
「…、みたいだな」

目覚めてから包帯が巻かれた左腕を見て苦笑する。あの手段を取ったことに微塵も後悔はないが、心配をかけさせてしまった。

その点は重く反省すべきだろう。

「ごめん、心配かけて。今後は控えるよ」
「本当だよ?お姉ちゃん、心臓止まるかと思ったんだから!」

俺の鼻先を指差し、我が姉がたしなめる。今度同じ様なことがあれば、どうなるか想像に難くない。

「じゃあ、私は弟君が起きたことを、皆に知らせてくるから。安静にしてるんだよ?」

ユリ姉は何度もこちらを振り向きながら、出ていった。

一夏はまだ目覚めていないので、一人になる。

同時にのし掛かってくる、負けという現実が。

「畜生…畜生畜生畜生…っ!」

右手で膝を何度も叩く。悔しさが、不甲斐なさが俺を苛む。

「ごめん…、ごめんな一夏…!俺が、俺がもっと動けていたら…っ!」

あの時ああしていれば、こうしていれば、と自身のいたらななさが歯がゆい。

俺達はゼロに負けた。それは、紛れもない事実であり、真実だった。

「う、ううっ…。と、トモ…」
「一夏!?一夏、大丈夫か!」

よろよろと起き上がる一夏を右手で支える。暫く回りを見た一夏は、一言、呟いた。

「……負けたんだな、俺達は」
「ごめんな一夏。俺がもっとしっかりしてたら…」
「そんな事はない!トモは、最高の動きをしていた、俺が足りなかったんだ!」

俯き、悔やむ俺を一夏は励ましてくれた。自分だって、辛いのに。

「なあ、トモ…、悔しいよ…」
「…一夏…」

一夏の肩が、震えていた。俺は、黙って続きを聞く。

「トモが託してくれて、追い詰めたのに、届かなくて…、俺は、…俺は…っ…!」
「良いんだ一夏。…良いんだ」

嗚咽が混じり、言葉に詰まる一夏の肩に右手を置き、喋らなくて良いと伝える。その気持ちは、同じだから。

啜り泣く一夏の肩に手を置いたまま、俺も涙を流す。

部屋に男の泣く声が二つ響く。部屋の外の姉たちは、俺達が落ち着くまで、外で待っていてくれた。

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一夏が意識を取り戻した事もあり、篠ノ之達は安堵していた。

俺は俺で真琴をあしらうのに気をとられ、一夏と彼女達が何を話したかは知らない。

そのまま暫く俺達の部屋で篠ノ之達は騒いでいたが、年長者である姉の怪我人に無茶させない、の一声で解散、部屋には再び一夏と俺だけになった。

「一夏、月末のは大丈夫そうか?」
「月末の?ああ…。白式に問題はない」
「そうか…。俺は、無理そうだ」

左腕の怪我もだが、それ以上にISの損傷が激しい。修復が間に合いそうにない。

「トモ…」

一夏の表情に翳りが出来た。そんな表情はしてほしくない。

「ISと怪我が治るまでは、少しだけ休息だな」

思い返せば、四六時中ISの事にかまけて、自分を労って無かった気がする。今は、体を休めるのもいいかもしれない。

「トモ…。そうだな!そうだ!俺の動きはどうだった?俺としては…」
「そうだな…、あそこでああ動いたから…」

お互い、ちょっと前まで意識を失っていたのに、ゼロとの戦いを考察していた。

時間を忘れて、一夏と論議していたら、いつの間にか声が大きくなってしまい、近隣の部屋の生徒から苦情が来てしまった。

その後、そんなに元気なら問題ない、と笑われたが。

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怪我はしていたが、生活に支障をきたす程度ではないので、一夏と共に教室に入ると、生徒達が一斉にこっちを見た。

大半は、大丈夫か?と無事を確認するのだが、例外に、

「一刻も早く復活しろ。決着を付けられない」

忌々しそうに吐き捨てるボーデヴィッヒがいる。

「追々機会があれば、な」

言葉を濁し、自らの席につく。すると、ゼロのガールフレンド達が来た。

「丹下さん…、その…」
「良いんだ」

何か言いたそうな宮間さんを遮る。ゼロとの一件は済んだ事だ。その背景に何があろうが、事実は変わらない。

「それにしても酷いよ…。ゼロってばハクトの嘘を真に受けて…」
「ま、そうだとは思ったけど」

予想するに、白兎は、ゼロに慈しんでもらいたかったのだろう。他愛ない嘘で、ゼロに自分を見てもらいたかったのだろう。

女は『女』を武器にできる。涙も然りだ。

但し、それが裏目に出て、今回の事態になったわけだ。

呆れを通り越して笑いすら出てくる。

「まあ、それがゼロなんだろう?お三方がよくご存じの」
「む~。言われてみれば~」
「だから、行きな。ゼロに嫉妬されたら困る」

右手で追い払う仕草を見せて、ガールフレンド達をゼロの席へ向かわせる。

件のゼロは、こちらを見ようとしない。自分が間違ったとは、思っていないようだ。

織斑先生が教室に入ってくる。

今後の事を考えながら、織斑先生の声に耳を傾けた。

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昼休み、珍しく一夏から誘われたので、共に屋上で昼食のご相伴に預かっていた。

「で、丹下、あんたどうするの?」
「どう、とは?」
「グランツの事。あれだけ好き放題言われて殴られて、何もしないとは言わないわよね?」

凰の笑みに凄絶さが含まれている。好意を持つ一夏がアソコまでやられれば、そうもなるか。

「凰の言いたいことは分かる、けどな、ゼロは変わらないよ」

あの男は決して譲らない。全てを破壊し、自らを通す、そんな男だ。

加えて、奴は織斑先生と同格の適性を、この学園屈指の才覚を有している。

凰とオルコットが組んで挑んでも、勝ち目は一割あるかどうか。

それほど奴は強力で、タチが悪いのだ。

「だが、それでもやる。あの面ひっぱたき返さないと、沽券に関わる」

凰に言われなくとも、俺は最初から再びゼロに挑むつもりだった。

「それなら安心。一夏だけだと不安だからね」
「おい鈴、それはどういう意味だ?」

「そうなると、特訓だね」
「そうなるな。暫くは俺は見るだけになるが…」
「丹下はダメージが大きい。万全になってからでも遅くはない」
「そうです。一夏さんの方が課題が多いですから」

シャルルの特訓の言葉に、不甲斐なさを感じたが、篠ノ之やオルコットの励ましで気持ちが軽くなった。

逆に、一夏は落ち込んだが。

「となると、今は一夏か。一夏の戦い方は接近一辺倒だから…、」

一夏の大まかな動きを思いだし、チェックしていく。

「ま、今のままを貫いて大丈夫か」

不器用な一夏に戦術は似合わない。長所をより尖らせた方が一夏は強くなる。

「じゃあ、ガンガン行こうぜ、一夏!」
「あ、ああ!トモ!!」

一夏を促し、屋上を去る。目標はゼロ・グランツの打倒、やるは一夏の特訓。

必ずゼロにリベンジする。胸に熱い想いを秘め、篠ノ之達と一夏の特訓に力を振るうのであった。

…一夏は相当地獄を見ているようだが。 
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