IS〈インフィニット・ストラトス〉駆け抜ける者
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第14話
ゼロが俺達に勝負を吹っ掛け、騒ぎを聞き付けた生徒たちが何事かと見ている。
「一週間後の放課後、お前らを潰す」
言いたいだけ言って、ゼロは立ち去った。残ったのは殴られた俺と、理不尽な責めに憤る一夏。
倒れたまま、考えうる最悪の事態になったことにため息をはく。
まさかゼロがここまでとは思わなかった。ゼロをはかり間違えた、俺のミスだ。
「トモ、頬は大丈夫か?」
一夏が、手を差し出してくれている。その手を握り、立ち上がって、今後の事を話す。
「女に逆上せた馬鹿が嘘八百を鵜呑みにして、喧嘩を売った。どうする一夏、勝ち目がないな?」
怒りが抜けなくても、今回だけは勝機を見出だせない。
相手は適正Sの天才ゼロ。専用機の扱いも前に俺と戦った時とは桁違い。
正攻法も奇策も通じない。
「それでもやる。ゼロから逃げたら、それこそゼロが正しい事になるから」
「……そうだな。一夏、初めて組むことになるな」
そう言うことを言うときではないことは分かっていたが、自然と出てしまった。
「そういえばそうなんだよな、トモ、俺達のコンビネーション、ゼロに見せてやろうぜ!」
士気を上げる一夏と腕を組ませ、頷きあう。
その後一週間、一夏と対ゼロの戦略をひたすら練り続けた。
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「師匠…、ゼロ、どうしちゃったの…?」
「ゼロがお二人に勝負を仕掛けるなんて…、おかしいですよ…」
「おりむー、タンタン、ゼロと~、何かあった~?」
一週間後の約束の放課後、俺達の準備しているピットに、ゼロのガールフレンドの三人が来ていた。
各人とも、困惑を隠せていない。
「最近ハクトって奴がゼロと仲良くなったよな?」
「ええ、それは…」
宮間さんたちは浮かない表情。訳ありか。
「で、そのハクトに難癖つけられてこうなったんだな」
「そもそも関わりが無いことくらい調べれば分かるのに…」
どうでもいい口調で俺が説明し、一夏が不機嫌そうに呟く。
「ゼロ…。悪い癖です。好きな人の話を信じる。それは美徳ですが…」
「好きな人の悪口で悪いけどな、宮間さん、ゼロは『子供』なのさ」
世の中にはどうしようもないことがあることを、知ろうとしない。
確かにゼロの身の上を知れば同情に値するが、それまでだ。ゼロ自身が、白騎士事件に囚われすぎている。
それに、今回のは完全に言いがかりだ。非はハクトとゼロにある。
「それに、俺は頬に一発貰ってるんだ。やり返さないと」
「……そう、ですね。丹下さん…、ゼロを…お願いします」
不安そうに見つめる三人の視線を受け止め、一夏と共にステージに降り立つ。
ゆっくりとマントをはためかせ現れたゼロを見ながら、各部を確認していく。
初の男のISの戦いは、異様な雰囲気に包まれていた。
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観客席がざわめいている。観客も、この雰囲気を感じ取っているのだろう。
「相方は?」
「ハクトだ。隅に居る」
端の方を一瞥すると、前回会ったときより怯えたような白兎が縮こまっていた。
(一夏、開始即仕掛ける)
(分かった)
アイコンタクトで一夏と意思を繋げる。視線を一夏からゼロに戻すと、鞘から太刀を抜いたゼロが一夏に太刀を振ろうとしていた。
一夏の前に出て、左手の幕で太刀を受け止める。
「開始の合図はまだ鳴ってないだろ!」
「勝利の為なら手を選ばないんだろ?なら良いじゃないか!」
幾筋も迸る太刀が幕を細切れにした時点で開始の合図が鳴り響き、尋常ではない戦闘が始まった。
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「このっ!」
「無駄だワンサマー!」
雪平二型で切りかかる一夏をいなし、フォローに入ろうとする俺を体で塞ぐ。
二対一の状態で圧倒的に優位に立っている。
ゼロの太刀が煌めく。放った収束弾が斬られ、四方八方へ飛び散る。
「なら一夏!」
「おう!」
一夏と同時に瞬間加速を発動、両側から挟み込む様にゼロに刃を振るう。
「フッ…」
「なっ…!」
「グッ…!」
振りかぶった俺と一夏の腹に、ゼロの飛ばした両腕がめり込む。腕に飛ばされ、背中合わせに一夏とぶつけられ、地面に叩き付けられる。
「オマケだ!」
腕が戻ったゼロが頭上に両手を掲げる。両手の内に淡い光が生じ、俺達目掛けて降り下ろされた両手から、夥しい数のエネルギー弾が発射された。
体勢を立て直す暇などない俺達を、容赦なくエネルギー弾が喰らう。
みるみる内にシールドエネルギーが減っていく。
「一夏、まだ行けるか!?」
「何とか!」
どうにか立ち上がり、雨のごとく降り注ぐ弾幕を刃で弾く。弾いて、ゼロに接近する。
「やはり近付くか」
ゼロの姿がぶれる。センサーの反応に振り向けば、ゼロの肘のブレードが伸び、鈍く光っている。直後、全身を切り刻まれていた。
肩の、腕の、足の装甲の破片が落ち、俺の膝も落ちる。
「これで寝てもらう、ハル!」
「そうさ。お前は詰めを誤らない。だから…」
付き出した太刀を、左腕で止めた。シールドエネルギーで止まらなかった太刀は、俺の左腕を貫通して止まった。
生じる激痛で意識が飛びそうになる。歯を食い縛り、呆然と太刀を握るゼロの顔面に、渾身の右腕を放ち、ゼロは太刀を手放し吹き飛んだ。
「グウウッ…!」
左腕の太刀を気合いで引き抜き、ハクトの足元に投げ捨てた。ハクトの顔面は蒼白で、微かに震えている。
「トモッ!!ひ、左腕が…!」
「必要経費だ。それより、来るぞ!」
一夏を右手でひっつかみ、その場から飛び退く。その後、巨大な刀剣が横凪ぎに振られた。
「なんだよあれ…」
「当たったら痛いでは済みそうに無いな。さて、いよいよ厳しい」
視線の先には、巨大な刀剣を携えたゼロの姿。懸念であったリーチの短さを克服し、破壊力は倍増。隙が無くなってしまった。
「どうするトモ?」
「どうするも無いだろ?俺達がやるのは」
「上等!」
傷付き、シールドの幾ばくもないが、勝利を諦めてはいない。勝つのは、俺達だ!
一夏が瞬間加速で飛ぶ。はたき落とさんと、ゼロは刀剣をククリ刀に変え、投擲する。それを待っていたんだ!
「行くぜ一夏ぁ!!」
「頼むトモォ!!」
飛んだ一夏の背を、瞬間加速で飛んだ俺が押す。狙いは最初から、一夏の零落白夜での一撃必殺。一夏の速度に、俺の加速を追加したこの接近を俺達は最初仕掛けようとした。先にゼロが手を出したので出来なかったが、今なら行ける!
「任せたぁ!!」
「おおおっ!!」
残った力で一夏をゼロの元へ送り、一夏は零落白夜を起動。ゼロの反応より一夏の振りが速い、勝った…!
勝利を確信した俺の笑みが凍った。一夏の動きが止まっている。ゼロの太刀の鞘が、一夏の腹をえぐっている。
「ワンサマーにハルの速さを加えた人間大砲、恐れ入ったぜ。だが、俺には通じない。お前らにはハクトを虐めた報いを受けてもらう、まずは、ワンサマー、お前だ!!」
手元に戻った刀剣が、巨大な対艦刀に変化する。
「喰らええぇ!!」
振り上げた刀剣が一夏に襲い掛かる。
しかし、その一撃は、一夏に届くことはなかった。
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「あ…、トモ…?…トモッ!!」
「悪い…、しくじっちまった。」
すんでのところで、一夏の前に割り込み、少しだけ反らせた。代わりに、もうヴァンガードは動けない。
「辛うじてシールドは残ってる。でも、武装がやられちまった」
左腕は太刀で負傷した。右腕は、珠が破壊された。体は切り刻まれ、エネルギーを放出出来ず、もう、戦えない。
「ごめんな、一夏…全部、任せて、いいか?」
「トモ…。任せろ!」
力強く頷いた一夏に微笑み、傷付いた左腕で白式に触れ、左腕の珠から残ったエネルギー全てを流し込む。
零落白夜の色が変わる。純白から、黄金に。
「ヴァンガードのハイパーモードのエネルギーを流した。『金剛零落白夜』って感じか?…頼む!」
「ああ…。行ってくる!」
強く地を蹴り、黄金の太刀が迸る。
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「ゼェェェロォォォ!!」
「ワンサマァァァー!!」
ゼロと一夏が、絶叫しながら互いの得物を振るっている。
状況は僅かに一夏が優勢。そこにいれない自分に悔しさを感じながらも、一夏を見守る。
そして、一夏の振り上げがゼロを体勢を崩し、決定的な隙が生まれた。
返す刀で降り下ろす一夏、信じられないれないという面持ちのゼロ。
固唾を飲む観客。まさに勝利は目の前、『だった』。
ゼロに当たる寸前、零落白夜が切れた。エネルギーが尽きたのだ。獰猛に笑うゼロ。ゆっくりと対艦刀が掲げられる。
「ごめんなトモ…。届かなかったよ…!」
一夏が俺を見て言う。
直後、降り下ろされる対艦刀。ブザーが、ステージに鳴り響いた。
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