IS〈インフィニット・ストラトス〉駆け抜ける者
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第13話
「待てぇ白いの!!俺に捕まれってんだよ!!」
「逃げられはしない、このシュヴァルツェア・レーゲンからはな!!」
只今、絶賛乱入してきた白いボーデヴィッヒをボーデヴィッヒと二人で追い回している。
こいつのせいで話が拗れたんだ、少し痛い目見てもらわないとな!
その白いボーデヴィッヒ、長いから白兎とする、は、半泣きで逃げ回っている。
泣くな!逃げるな!コレじゃあ、俺とボーデヴィッヒが悪人みたいじゃないか!
『ハル!今行く!』
「来るなゼロ!邪魔すんな!」
「女好きなど呼んでいない!」
通信の向こうでゼロがアホ抜かすので拒絶したが、ゼロったら、
『二人のやってることは弱い者苛めにしか見えない!俺が何とかする!』
なんて言いやがりまして、何様だ銀髪がっ!!
「ボーデヴィッヒ、作戦変更!ゼロが来る前に、全力をもって敵機を鎮圧!でどうよ?」
「良いだろう、乗ってやる!」
勝ち負け言っている事態では無くなったので、出しうる最高の力で早急に白兎を沈めたいと思う。
「兎狩りだ!!」
「兎?」
頭の両脇を指差してやる。首をかしげていたので、通じてはいないようだが。
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「当たらないなあ…」
「その様だ」
立て続けに攻めているのに、一向に当たらない。
「こうなったら、ボーデヴィッヒ、耳貸せ」
「何だ?」
ボーデヴィッヒに策を耳打ちする。
「この状況では、それは有効だな。貴様の案を採用だ」
「んじゃそういう事で!」
別々の方向に別れ、時間差攻撃を繰り返す。
逃げ回っている白兎も表情を引き締め、遂に反撃してきた。
………俺だけに。
「何故俺限定!?同じ顔は攻撃できないってか、意気地無しがぁ!!」
「人気だな丹下智春!」
「うるさいっ!」
やたら楽しそうなボーデヴィッヒに腹が立つ。
「そらよっと!」
白兎に収束弾を放つ。避けられた。その攻撃は、背後にいたボーデヴィッヒに向かって突き進み、停止結界で止まる。
「撃つ方向を考えろ!」
「ああ!?其処に居るのが悪いんだろ!?」
ボーデヴィッヒと口論になる。好機と見た白兎がやって来る。え?嘘でしょ?
無防備に突っ込んだ白兎の体を捕まえ、停止していた収束弾に向かって投げる。
「こんな子供騙しで良いとは…」
停止結界をボーデヴィッヒが解いた。動きを取り戻した収束弾は、投げ飛ばされた白兎を容易く飲み込み、ダメージを与えた。
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唖然とする俺とボーデヴィッヒ。そこに、零式を展開したゼロが来て、目を目を見開いた。
「…二人がやったのか?」
「まあ、うん、そうなるの、かな?」
「まさかこんな事になるとは、正直、な」
ゼロの責めるような視線と声色に、なんとも言えない気持ちになる。
ゼロが見ている先には、ズタボロの白兎。
但し、俺達がやったのは最初だけで、後は全部『自爆』、自分のミスで傷付いたのだ。
例を上げると、何も無いところで躓く、レールカノンの排出された薬莢にぶつかる、等、何をしたらそうなるんだ、と言うミスで傷を増やしていった。
どう見てもボーデヴィッヒと同型の機体を使えていない。
回避が絶妙だったので、ボーデヴィッヒとトリックプレイで攻めよう、となったのだが、初めのアレの後は自滅するので、可哀想になって何もせず、今に至る。
「結局、このボーデヴィッヒ擬き何なんだ?」
「さあな」
興味なさそうにボーデヴィッヒが答える。ま、いずれ分かるか。
さて、今から待ち受けるのは、
「丹下、ラウラ。二人とも私に逆らうとは良い度胸だ」
泣く子も黙る恐怖の教官のお説教の時間だ。
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織斑先生のありがたいお説教を存分にいただき、心身共にヘトヘトな状態で解放された。
あの白兎は、学園で身元等を調査するらしい。
ま、乱入してくる位だから、普通ではないな。
一緒に説教を受けたボーデヴィッヒは、
「またいずれ」
とだけ言ってさっさと部屋へ戻っていった。
そして、俺は、
「師匠師匠ー!」
シエル嬢に絡まれている。
「師匠じゃない。何よ?」
「師匠の戦闘を見てたら、いてもたってもいられなくて!ボクにご教授お願いします!」
「まずゼロからイロハを吸収しろ」
折角俺が才能あるイケメンを斡旋したんだ、そのままゼロに夢中になっていてくれ。
「確かにゼロは教えるの上手だし、すごく優しいけど、何か足りないと言うか…、あ!違うよ師匠!別にゼロの事は…、その…」
顔を赤らめ、モジモジし始めたシエル嬢。順調だな。
「仲良くなって何よりだ。シエル嬢、シャルルでもなく、俺でもない、シエル嬢だけの『スタイル』を確立しろ。俺が言えるのは、それだけだ」
シエル嬢に、最初で最後のアドバイス。
シャルルの姿を見て劣等感を抱き、俺に可能性を感じたのは理解した。
故に、俺やシャルルへの拘りを捨て、ゼロ達から数々の要素を取り込み、『シエル・デュノア』としての戦法を編み出してもらわなければならない。
それが出来ると信じ、言葉を贈った。今は分からなくても、いつかその境地に辿り着いたとき、俺の言葉の意味を知る事を願って。
「…っ!はい、師匠!」
「師匠じゃない、トモハルさんだ」
「師匠は師匠なの!ボクがそう決めたんだから!」
変わらないシエル嬢に苦笑する。
「ほら、ゼロが向こうで待ってる。行ってこい」
「はーい。師匠、また明日!」
元気よくシエル嬢はゼロの元へ駆けていく。転校当時とはすごい違いだ。
「と、なった訳だ、一夏」
「それがトモじゃないか」
背の一夏に肩をすくめて見せると、軽い感じて一夏が返してくれる。
この気兼ねしなくて良い一夏との掛け合いが、一番心地良い。
持つべきは友、とはよくいうものだ。
「ボーデヴィッヒとはうやむやになった。ゼロからは、偽物ボーデヴィッヒに対する行動でよく思われてない。織斑先生には怒られる。散々だな」
「良いじゃないか。毎日怒られたり、ゼロに嫌われてる俺に比べれば」
「違いない!!」
二人でどっと笑い、肩を組んで部屋に戻った。
眠りにつくまで、俺達二人から、笑いが消えることは無かった。
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ボーデヴィッヒと戦ってから数日後、俺は、改めて一夏と自室で戦いを思い返していた。
「あの時は熱くなったが…、実際は勝てたか怪しいな。向こうも手札を出しきってはいなかったし」
「アレで手を隠す余裕があるとなると…、当たった時厳しくなるな」
振り返ってみれば、ボーデヴィッヒは俺の動きを待っていた感じがあった。
手の内を晒しきらず、現時点の俺を相手に余裕すら感じさせる、代表候補生の名は伊達ではなかった、ということか。
「それ位が良いのかもな。目標は近く高く。そうだろ?」
「その通りだ、一夏」
「それはそうと、トモ、あのボーデヴィッヒのそっくりさんはどうなったんだ?」
「俺も詳しくは知らないが…、芳しくないみたいだな」
あの後、調査された白兎は、身元不明の上、その目的も白兎自身が語らず、一向に進展していないらしい。
ただ、医務室へ連れていったゼロにはなついたらしく、今はゼロが面倒を見ている。
先日、わが教室に『ハクト』を名乗り、学園の制服を着ていた時は、引っくり返るかと思った。
そのハクトがゼロと一緒に学びたいとごねて、受け入れたゼロが相当無茶を言ったようで、先生方は疲れきっていた。
「一夏、ハクトには注意しろよ」
「何で?ゼロなら抑えられるだろ?」
「ゼロ『だから』尚更注意が必要なんだよ」
ゼロは、基本自分に好意を抱く『異性』に甘く、意見を曲げない男だ。
これだけなら別に構わないが、ハクトがゼロに何かしら吹き込まないか、と懸念が残る。
もしそれが、一夏を悪意を持って害そうとする内容なら?
最悪の事態になる。
ゼロが私怨でISを動かす餓鬼だと思いたくないが、可能性がある以上、警戒した方がいい。
改めて一夏に注意を促そうとすると、大きな音をたて、乱暴にドアが開けられた。
開いたドアの向こうに、憤怒の形相のゼロが居る。予測通りのゼロに、強い失望を感じた。
「ワンサマー…、ハル…!よくもハクトを…!」
「なんの話だゼロ!?そんな「よせ、一夏!」止めるなトモッ!」
いきり立つ一夏を羽交い締めにし、ゼロから引き離す。
「ゼロ、白兎は何て言った?俺達が何をしたと?」
「惚けるな!!お前らがハクトを虐めたんだろうが!!」
「いつだ?いつ俺達が白兎を、何処で虐めた?」
「そんなの、お前らが一番知ってるだろ!!」
「覚えがないから聞いてるんだ。白兎は何て言った?」
怒り狂うゼロに、一夏を宥めながら淡々と聞く。
「ハクトが此処に来たときから、目に入ったらいわれのない事で責められ、虐められて辛いって、ハクトは、ハクトは泣いているんだぞ!!」
とうとう俺も怒りがわいた。そんな嘘を、不可能な嘘を信じるほど阿呆だとは思わなかったぞ、ゼロ・グランツ!
「どうやったらその虐めが可能なんだ!ここ数日、奴は検査で人と会わない、その上、監視に常に誰かがついている!更には、一夏はアイツと喋ってすらいないのに、どうやって!」
「監視の目を掻い潜ったんだろうが!」
「それをやるメリットは!?」
「それをお前らが聞くのか!!」
ゼロの右手が唸った。俺の右の頬に、ゼロの拳がきれいに入り、倒れ込む。
「ワンサマー、ハル、勝負だ!俺がその根性叩き直してやる!」
倒れた俺を見下し、怒りと憎悪の炎を目に宿し、ゼロはそう宣言した。
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