久遠の神話
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第四十二話 表と裏その十一
「例え何があろうともです」
「ですか」
「戦いに。いえ快楽を求めるのは」
「人間ですか」
「そういうことです。彼もまた、です」
「人間ですか」
「快楽を追い求めている」
所謂麻薬中毒者と同じ意味での人間だというのだ。麻薬やそうしたものもまた人間の世界にしかないものだからだ。
「人なのです」
「成程、あの人も人間だったんですね」
「そうした意味で人間です。それに」
「それに?」
「おそらく表の世界でも裏も世界でも」
そのどちらでもだというのだ。
「戦いをしておられるでしょう」
「表でも裏でもですか」
「そうされている筈です」
「そういえばあの人についてはまだよくわかっていないですね」
今わかっている八人の剣士達はその殆どが職業や立場がわかっている。だが加藤だけはまだわかっていない。
それでだ。こう言うのだった。
「けれどあの様子だと」
「おそらく表だけで生きてはいません」
「裏の世界にもおられるんですね」
「裏の世界ではよく血生臭い戦いが行われます」
「古代ローマのあれみたいにですか」
「剣闘士の様な」
「ああしたことが行われているんですか」
それは上城の知らない世界だった。一介の高校生に過ぎない彼が知る筈もない世界であった。裏の世界自体が。
「実際に」
「私もそれは実際に目で見たことはありません」
大石にしてもだというのだ。
「そうですが」
「あるんですか」
「神父は。いえ宗教者は実はです」
「実は?」
「裏の世界とも関わりを持ちやすいのです」
「えっ、そうなんですか!?」
「教会や寺社に来るのは普通の方々だけではありません」
このこともだ。大石は話を聞いて驚く上城に述べた。
「だからです」
「教会に来る人の中には」
「所謂暴力団の関係者もいますので」
「そうなんですね」
「これはお寺も神社も同じで」
寄付をする人が必ずしも社会的に褒められる職業とは限らないということだ。浄財というがその浄財を出す人間も善人とは限らないのだ。
「そうした信者の方もおられます」
「ううん、そうした人もですか」
「そしてです」
「そして?」
「様々な顔を持っているものです、人は」
こうも言ったのだった。
「表の顔も裏の顔も」
「裏もですか」
「表では朗らかにしていても」
「実際はですか」
「はい、間違ったことをしてしまいそれに悩んでいたり」
そうしたこともあるというのだ。
「苦しんでいる方もおられます」
「そうなんですか」
「汚職や裏切り、不倫」
こうしたことが挙げられていく。大石の口から。
「人はそうしたものを隠しています」
「そしてそれをですか」
「私は見るのです」
「神父だからですか」
「そうです。神父は人の懺悔を聞くものです」
これは教会独特のものだ。懺悔室という場所で来た人のそうした罪の意識や悩みを聞くのである。それにより人の心を救うのだ。
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