ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
飛翔と空への憧れ
次第に小さくなっていくシグルドと、それに従うパーティーメンバー二人の姿を視界の端に留めつつ、リーファは大きく息を吐き出して傍らを見た。
「………ごめんね。妙なことに巻き込んじゃって…………」
「いいえ、私達も火に油を注ぐような行為をしてしまって………」
「しかし、いいのか?領地を捨てるって言ってたけど…………」
「あー………」
リーファをどう言ったものか迷った挙句、無言でキリト達の背中を押して歩き始めた。
野次馬の輪をすり抜けて、ちょうど降りてきたエレベータに飛び乗る。
最上階のボタンを押すと、半透明のガラスでできたチューブのそこを作る円盤状の石がぼんやりと緑色に光り始め、すぐに勢い良く上昇を開始した。
数十秒後、エレベータが停止すると壁面のガラスが音もなく開いた。
白い朝日と心地よい風が同時に流れ込んでくる。
足早にチューブから風の塔最上部の展望デッキに飛び出す。
数え切れないほど訪れたことのある場所だが、四方に広がる大パノラマは何度見ても心が浮き立つ。
シルフ領は、アルヴヘイムの南西に位置する。
西側は、しばらく草原が続いた後すぐに海岸となっており、その向こうは無限の大海原が青く輝いている。
東は深い森がどこまでも連なり、その奥には高い山脈が薄紫色に連なる。
その稜線の彼方に、ほとんど空と同化した色でひときわ高くそびえる影────世界樹。
「うわぁ……」
「うお……凄い眺めだな………」
リーファに続いてエレベータを降りたレンとキリトの口から、感嘆の声が漏れる。
更にその後ろから出てきたカグラの眼も、僅かな驚愕に見開かれている。
「空が近いな……。手が届きそうだ………」
瞳に憧憬にも似た色を浮かべて青い空を仰ぎ見るキリトに並んで、リーファはそっと右手を空にかざし、言った。
「でしょ。この空を見てると、ちっちゃく思えるよね。いろんなことが」
「「……………………………」」
レンとカグラが思わずといった顔で、気遣わしげな視線を向けてくる。
それに笑顔を返してリーファは言葉を続けた。
「………いいきっかけだったよ。いつかはここを出て行こうと思ってたの。一人じゃ怖くて、なかなか決心がつかなかったんだけどね。それが今日だったってことだけだよ……」
「そう………でも、なんか喧嘩別れみたいな形にさせちゃって………」
オイオイ喧嘩売ったのはどっちだよ、とキリトは思ったが言わなかった。
「あの様子じゃ、どっちにしろ穏便には抜けられなかったよ。………なんで────」
その先は、半ば独り言だった。
「何で、ああやって、縛ったり縛られたりしたがるのかな………。せっかく、翅があるのにね………」
それに答えたのは、キリト達ではなく彼の肩、ジャケットの大きな襟の下から顔を出したユイという名のピクシーだった。
「フクザツですね、人間は」
きららんと音を立てて飛び立つと、キリトの反対側の肩に着地し、小さな腕を組んで首をかしげる。
「ヒトを求める心を、あんなふうにややこしく表現する心理は理解できません」
彼女がプログラムであることも一瞬忘れ、リーファはユイの顔を覗き込んだ。
「求める………?」
「他者の心を求める衝動が、人間の基本的な行動原理だとわたしは理解しています。ゆえにそれはわたしのベースメントでもあるのですが、わたしなら………」
ユイは突然キリトの頬に手を添えると、かがみこんで音高くキスをした。
「こうします。とてもシンプルで明確です」
あっけに取られて眼を丸くするリーファの前で、キリトは苦笑いしながら指先でユイの頭を突いた。
「人間界はもうちょっとややこしい場所なんだよ。気安くそんな真似したらハラスメントでバンされちゃうよ」
「手順と様式ってやつですね」
「………頼むから妙なことを覚えないでくれよ」
「なるほど……。手順と様式………」
「カグラ、何で真剣な顔でそこを繰り返すのさ」
キリトとユイ、ついでにレンとカグラのやり取りを呆然として眺めていたリーファは、どうにか口を動かした。
「す、すごいAIね。プライベートピクシーってみんなそうなの?」
「こいつは特にヘンなんだよ」
言いながらキリトはユイの襟首をつまみあげると、ひょいと胸ポケットに放り込んだ。
「そ、そうなんだ。……………人を求める心、かぁ……」
リーファはピクシーの言葉を繰り返しながら、かがめていた腰を伸ばした。
なら────、この世界でどこまでも飛んでいきたいと願っている自分の気持ちも、実はその奥で誰かを求めているのだろうか。
不意に、兄である少年の顔が脳裏に浮かび、ドキン、と心臓が大きな音を立てる。
ひょっとしたら……この妖精の翅を使って、現実世界のいろんな障害を飛び越えて、あの胸に飛び込んでいきたいと、そう思っているのだろうか………?
「まさかね………」
「ん?何か言った、リーファねーちゃん?」
「へ?い、いや、何でもないよ。………さ、さて、そろそろ出発しよっか」
こちらに首を傾げてくるレンに笑顔を向けると、リーファはつっと空を振り仰いだ。
夜明けの光を受けて金色に輝いていた雲もすっかり消え去り、深い青がどこまでも広がっていた。今日はいい天気になりそうだった。
「────と、その前に」
リーファはあることを思い出し、三人のほうへと向き直った。その理由は
「キミ達、ロケーターストーンって知ってる?」
「ろけーたーすとーん?」
案の定知らないようだったキリトの顔に苦笑を返しつつ、リーファは展望台の中央に置かれた人の等身大ほどの高さの石碑を指差した。
それを見て、レンとカグラは得心といった風にさっさとそちらへ向かって歩き出した。
それをキリトと二人して追いながら、石碑について手短に説明をする。
「んーとね、ロケーターストーンっていうのは、簡単に言っちゃうと昔のゲームで言うとセーブポイントのことだよ。あそこで記録してたら、もし死んじゃっても最後に記録したロケーターストーンの位置で復活するってわけ」
「なるほど。ALOにもそんなシステムがあるんだな」
「そりゃそうだよ。いくら島が世界の全てとは言っても、直径がリアル置換で五十キロ強あるんだから」
「な、なるほどな。そりゃ確かに死亡位置に戻るだけでも一苦労だ」
そんなことを言い合っている間にも、レンとカグラは石碑の前で位置の記録を済ませていた。
それに続き、リーファも石碑の前に立ち止まる。
すぐさま視界の中央に、記録を行うかという旨の書かれたシステムメッセージウインドウが浮かび上がり、躊躇わずにイエスのボタンを押す。
すると、体を中心に薄緑色に発光する光の輪が出現し、それが二つに分かれてあたかもスキャンするかのように一方は足に向かって、もう一方は頭に向かってゆっくりと上昇と下降をし始めた。
すぐさま光の輪はそれぞれ頭の天辺と足のつま先まで行き届き、セーブしましたのウインドウ。
隣を見ると、見よう見真似といった風なキリトが同じように光の輪に調べ尽くされたところだった。
さて、というような感じでリーファは四枚の翅を広げて軽く震わせた。
「準備はいい?」
「ああ」
「うん」
「はい」
レンとカグラ、キリトと、彼の胸ポケットから顔を出したピクシーがこくりと頷くのを確認して、いざ離陸しようとしたところで────
「リーファちゃん!」
エレベータから転がるように飛び出してきた人物に呼び止められ、リーファは僅かに浮いた足を再び着地させた。
「あ………レコン」
「ひ、ひどいよ。一言かけてから出発してもいいじゃない」
「ごめーん、忘れてた」
がくりと肩を落としたレコンは、気を取り直したように顔を上げるといつになく真剣な顔で言った。
「リーファちゃん、パーティー抜けたんだって?」
「ん………。その場の勢い半分だけどね。あんたはどうするの?」
「決まってるじゃない。この剣はリーファちゃんだけに捧げてるんだから……」
「えー、別にいらない」
リーファの言葉にレコンはよろけたが、この程度でメゲるような彼ではない。
よくメゲないなぁ、とレン達一同は思ったが言わなかった。
「ま、まあそういうわけだから当然僕もついてくよ………と言いたいとこだけど、ちょっと気になることがあるんだよね……」
「…………なに?」
「まだ確証はないんだけど………少し調べたいから、僕はもうしばらくシグルドのパーティーに残るよ。────キリトさん、レンくん、カグラさん」
レコンは、彼にしては最大限にマジメな様子でレン達に向き直った。
「彼女、トラブルに飛び込んでく癖があるんで、気をつけてくださいね」
「あ、ああ。わかった」
「わかったよー」
「承知しました」
三者三様の返事が返ってくる。だが分かる。完璧に全員面白がっている。
「────それから、言っておきますけど彼女は僕のンギャッ!」
語尾の悲鳴はリーファが思い切りレコンの足を踏みつけたことによるものだ。
「余計なことを言わなくていいのよ!しばらく中立域にいると思うから、なにかあったらメールでね!」
早口でまくし立てると、リーファは翅を広げ、ふわりと浮き上がった。
名残惜しそうな顔のレコンに向かって、大きく右手を振る。
「……あたしがいなくても、ちゃんと随意飛行の練習すんのよ。あと、あんまサラマンダー領に近付いたらダメだよ!じゃね!」
「り…………リーファちゃんも元気でね!すぐ追いかけるからね!」
と涙まで頼りない瞳に宿して叫ぶアバターの中身とはすぐ学校で会うというのに、それなりの別れの感慨がこみ上げてきてしまって、リーファは慌ててくるりと向きを変えた。
そして、北東の方向を見据え、翅を固定して滑空を開始した。
後書き
はい、読者の皆様こんばんにちわ。作者ことなべさんでございます。
えーなぜこんなことをやっているかと申しますと……
SE『えぇぇ~っ』
ってオイ!スタッフ!なんでここでSEを入れる!?しかもなぜブーイングなんだ!そこはかとない悪意を感じるぞ!
と、とにかく、今日、つまり2013年9月27日は、私がこの作品《無邪気な暗殺者》の第一話をupしてからちょうど一年目になるのです!そして、もう一つ!この話が始まってからちょうど100話目にになるのですよ!
イヤーホントにめでたい………
え?何だスタッフ。………言ってることがマトモすぎて気持ちが悪い?
うっせぇわ!気持ち悪いって言うな!気持ち悪いって!
まぁ、一周年って言いますけどもね、何もしませんのことよ?ここでは。
『えぇぇ~っ』
うん。まぁ、使いどころとしてはあってるけどね。心に来るなぁ、コレ。
そしてスタッフ!調子にのって連打しようとすんな!鬱になるわ!
ん?そろそろ時間がヤバイって?
はいはい、わかりましたよ。
えー、それでは皆様。なんとか一年間を持ち続けていたこの作品に目を通していただき、ありがとうございました。作者として、これ以上の幸福はありません。
これからさらに苛烈に、そしてさらに凄惨にヒートアップしていくALO編にも、変わらずの声援をちょうだいできれば幸いです。
相変わらずの原作にガン垂れながら、これからも行くつもりなのでお楽しみに(笑)
それでわ────
オイ!なんでスタッフが全員帰り支度始めんだよ!
スタッフ「いやー、この後飲み会すんですよ」
俺も誘えよ!
スタッフ「いやー、なんか黄昏ちゃったからお邪魔かと思って………来ます?」
そこまで言われて行く訳ねぇだろぉおおおぉぉぉぉ!!!
──To be continued & thank-you!──
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