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我が剣は愛する者の為に

作者:wawa
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賭けの結果

猪二人組の突撃と奇襲のおかげか元は乱れていた隊列がさらに乱れ、完全にこっちの流れに傾いた。
俺は出来るだけ兵を傷つけさせないように、突出せず向かってくる賊を一撃で葬る。

「さぁさぁ!!
 次はどいつだい!?」

最高にハイなテンションになった胡蝶は興奮を隠せない声をあげて、次々と鉄扇で賊を仕留めていく。

「うおおおおおおおお!!」

方や別の所では、豪鬼の咆哮と共に悲鳴をあげて逃げ出す賊の声が聞こえる。
巨大な斧を振り回して、獣のような声とあの顔で迫られたら誰だってビビる。

「伝令!」

「どうした?」

賊の首を刎ねつつ、伝令の報告に耳を傾ける。

「荀彧様の指示を伝えに来ました!
 逃げる者は逃げ道を無理に塞ぐな、後方から追撃を掛けるとのこと!!」

「了解。
 豪鬼と・・・あ~、胡蝶にも伝えてくれないか?」

「えっ・・・司馬懿様にですか。
 私がですよね?」

伝令役の人は物凄く嫌そうな顔をする。
まぁ、あいつの性格をある程度知って、さらにあのテンションで話しかければ問答無用でこちらにも襲い掛かってくる可能性が高い。
伝令一人で胡蝶を抑える事は出来る筈がなく。

「分かった、俺が行くよ。
 豪鬼の伝令を頼む。」

「申し訳ありません。」

「気にするな。
 あれが質悪いのは慣れている。」

申し訳なさそうに言う伝令を俺は声をかけながら、胡蝶の所へ向かおうとして一つ思い出す。

「そうだ、一刀はどうしている?」

質問を聞いた伝令は少しだけ視線を落とした後。

「一人の賊と一騎討ちをしておられます。
 指示通り、誰も手は出しておりません。」

「胡蝶に言い聞かせたら、そっちに向かうか。」

予め一刀にはある事を言っておいた。
この戦で必ず賊を一人は斬れ。
刀を持ち、実力としてはまずまず。
そろそろ、自分の手で人を殺すというのを実感してもらわないといけない。
もちろんあいつには人を殺すという重みを背負わせたくない。
でも、あいつは天の御使いとして生き、自分が背負うべき物は背負うと決めた。
なら、戦で人が死ぬというのを実感してもらわなければならない。
それはただ見ているだけではなく、自分の手で実感しなければ意味がない。
豪鬼達や兵士にも一刀が賊と戦いになったら手を出すな、と指示は出していた。
一刀もそれは知っている。
緊張か恐怖か、あいつは戦が始まるまで口を開く事はなかった。
始まってかなり経つ。
賊もほとんどが敗走している中、一刀はまだ賊と戦っている。
最後の一歩が踏み出せないのだろう。
胡蝶の猛攻に怯え、逃げ惑う賊。
それを追おうとする胡蝶に声をかける。

「胡蝶、指示が入った。
 逃げる者は無理追うな。
 後方から追撃を掛ける手はずになっている。」

「そんなの関係ないよ!
 もっと滾り、熱く燃え上がりたいんだ!!」

完全にスイッチが入っているな。
一刀の事もある、ここは荒療治だが。

「まぁ待て。」

と、足を氣で強化して胡蝶の後ろに回る。
そのまま肩に手を置いて、胡蝶の氣の波長を合わせ合氣道を繰り出す。
カクン、と胡蝶の右膝が折れ、俺は背中で背負い地面に軽く叩きつける。

「ぐぅ!」

まさか、強引に止めてくるとは予想もしていなかったのだろう。
しかし、体勢を整えて鉄扇を構える。

「ふぅ~ん、縁が私を鎮めてくれるの?」

「時間がない。
 さっさとするぞ。」

冷たい殺気を放ち、熱くなっている胡蝶の殺気にぶつける。
既に賊は逃げ、兵士達も俺達の殺気を感じ、距離を開けている。
時間があれば付き合ってやるのだが、一刀の事もある。
胡蝶は舌で鉄扇を舐め、こちらに接近してくる。
俺は全身に氣を送り、限界の一歩手前まで強化する。
おそらく、胡蝶は最速でこちらに向かっているのだろうが、俺にはとても遅く見える。
納刀状態から一気に抜刀。
最速の剣速で二撃で両手の鉄扇を頭上に打ち上げ、胡蝶の首筋に刃を当てる。
この間、わずか三秒。
首筋に刃を当てられても、胡蝶は一瞬も怯むことなく妖艶な笑みを浮かべている。
対する俺は無表情。
見つめ合うこと、十秒くらいして胡蝶が下がって地面に落ちている鉄扇を拾う。

「やっぱり縁は楽しいよ。
 薄々分かっていたけど、あの時は手を抜いていたね?」

「お前の戦法は初見だったら誰だって、波に乗れない。
 さっきも言ったが時間がないからな。」

「いいよ、縁との一瞬の試合で満たされたし。
 首筋に刃を当てられるまでの瞬間、殺されるという恐怖を本能が感じ取って、少し身震いしたよ。
 危うくイっちゃいそうだったね。」

刀を収めながら。

「なら、部隊を纏めてくれ。
 今頃、豪鬼がやってくれていると思うが。」

「はいよ。」

満足げな笑みを浮かべ、胡蝶は兵士を纏めていく。
少し不安が残るが、俺は彼女に任せて一刀のもとへ向かう。
一刀は部隊から結構離れた位置で、賊と打ち合っていた。
どうやら、賊が隙を見て逃げようとして、それをしつこく一刀が追いかけた結果、かなり離れた場所に移動することになったのだ。
一刀も賊も肩で息をしている。
賊は疲労的なのが主だが、一刀は精神的なもので息を切らしているのが分かる。
俺が近くに行くと、賊が顔を青ざめる。

「くそ!
 援軍か!?」

「安心しろ、俺は手を出さない。
 そいつを殺しても俺は何もしない。」

「へっ、信用できるか!」

賊からすれば当然の反応だ。
だから、俺は腕を組みじっと見つめるだけにする。
一瞬、一刀と視線がぶつかる。

(おまえの戦いだ。
 手は出さないぞ。)

そういう意味を込めて、鋭い視線を投げかけた。
視線の意味に気づいたのか小さく頷いて、賊を見据える。

「まだ、死にたくない。
 死にたくないんだよおおおおおお!!」

叫びながら型も何もない大雑把に剣を振るう。
俺と毎日欠かさず鍛練して来た一刀なら、余裕でかわせる。
案の定、最小限の動きでかわし、カウンターの要領で剣を振るおうとするが寸での所で止まる。
まだ、迷っている。
だが、俺はそれを責めない。
これは強要して身につける覚悟ではない。
自分自身の手で、意思で、やり遂げなければならない事だ。

「あああああああああああああああ!!」

言葉にならない声をあげて、何度目になるか分からないが一刀に刀を振るう。
変化はそこにあった。
後ろに下がって避けていた一刀が、一歩前に踏み出して剣を避け。

「ご、めん・・・なさ、い。」

歯を食いしばりながら、絞り出すような声と出し、賊とすれ違い様に胴に一撃を与える。
抜き胴のような一撃を受けた賊の腹は裂き、鮮血が迸る。
賊は斬られた胴を手で押えながら、膝を折り地面にうつ伏せに倒れた。
刻一刻と迫る死を感じ、「死にたくない」と念仏の様に何度も唱えていたがすぐ後に聞こえなくなる。
一刀は胴を斬り裂いた形から微動だに・・・いや、肩を震わせながら立っている。
俺は一刀に近づいて、刀を持っている両手を優しく解いて鞘に収める。
いつもは乱暴に頭を撫でていたが、今回ばかりは優しく撫でた。

「よくやったな。」

「え、縁は・・・いつも、こんな気持ちを・・・?」

「だな。
 例え、相手が賊でもこの感触は慣れない。
 ただ、守る者のためなら俺は容赦なく斬る。
 それが自分勝手な理由で奪った命に、申し訳が立たない。」

「お、れは・・・縁みたいに強くない。
 だから・・・出来る限り人は、斬りたくない。
 俺の大事な人を守る為でも、出来るだけ・・・・」

「それがお前の答えなら、何も言わない。」

「いいのかな、こんな答えで。
 人を斬る感触が、嫌だから人を殺したくないって、言っているようなもんだぞ。」

「あの賊を・・・人を斬って出した答えに俺は口出しはできない。
 ただな、一刀。
 それでは・・・」

「分かっている。
 これじゃあ、俺の大事な人を守れないかもしれない。
 大事な人を守る為に、俺は人を斬るかもしれない。
 でも、」

それでも、人は出来るだけ斬りたくない。
一刀は消えそうな声で想いを吐きだした。
こいつは分かっている。
後は俺が言わなくても自分で答えを纏める。
俺は動かない一刀の肩に腕を回して、強引に本陣に戻る。

「ちょ!?」

急に引っ張られ驚くような声をあげる。

「さぁ、戻るぞ。
 早く戻らないと、華琳や桂花が怒るからな。」

「・・・・・だな。」

無理矢理にでも元気づけるため、大きく声を出すと一刀も力のない笑みを浮かべつつ本陣に戻った。



桂花の作戦通り、敗走した賊は後方部隊が追撃を行い、賊を壊滅させ、城を陥すことに成功。
一時的なものだろうが、この辺りは賊による被害は治まる筈だ。
季衣はそのまま華琳の部下として残る事になった。
ちなみに今回の武功をもって親衛隊の隊長に任命。
大出世である。
この辺りを治めていた州牧が盗賊に恐れをなして逃げ、華琳が引き継ぐような形でこの辺りを治める事になった。
当初、独立を最終的に考えている俺達に渡す話も出たには出たのだが、これは華琳の部下たちによる功績が大きかったので、謹んで辞退した。
ここまでは順調だったのだが。

「さて、桂花のことについてだけど。」

「はい。」

少しだけ顔色の悪い桂花。
それもその筈。
結果から言わせてもらうと、桂花は賭けに負けた。

「桂花、最初に約束した事を覚えているかしら?」

「はい。」

わざとらしく確認を取る辺り、華琳はちょっと性格が悪い。

「城を目の前にして言うのもなんだけど、私はとてもお腹が空いているの。」

桂花が提案した策が思っていた以上に上手くいって、予想以上に兵士が残った事。
これに関しては桂花の予想の範疇だったので、糧食は足りる筈だった。
だが。

「ですが、曹操様。
 一つ言わせていただければ、それは季衣が・・・」

「にゃ?」

桂花の発言の意図が分からない季衣は首を傾げる。
そう、季衣が小柄な体型の割に物凄く食べる。
ざっと言えば、普通の兵士が食べる十倍は食べる。
季衣の胃袋を満たすために、糧食は見る見るうちに減り、昨日の夜に全て無くなったという訳である。
あの時、血の気が引いていく桂花の顔は凄かった。

「華琳、今回は大目に見てやれ。」

「そ、そうですよ、姐さん。
 桂花さんの策のおかげで兵士さん達は怪我も少なく、被害も最小限でした。
 季衣さんがあれだけ食べるなんて、誰も予想できません。」

「不可抗力や予測できない事態が起こるのが戦よ。
 それを言い訳するのは、適切な予想のできない愚か者ということよ。」

俺と華憐がフォローに回るが、聞き入れてくれない。

「え、えっと、ボク、何か悪いことでもしたかな?」

「いや、お主は悪くない。
 気にする事ではないぞ。」

自分の事で話しているとようやく分かった季衣は、顔色を窺うような視線で俺達を見るが、豪鬼がそれとなく言葉をかける。

「約束を反故にする事は、私の信用に関わる。
 でも、功績を得られなかった訳ではない。
 だから、死刑を減刑にしておしおきだけで済ましてあげる。」

「曹操様っ!!」

華琳の言葉を聞いて、ぱぁ!と笑顔を咲かせる。

「それから、季衣と共に私を華琳と呼ぶのを許しましょう。
 より一層、奮起して仕えるように。」

「あ・・・ありがとうございます、華琳様!」

「ふふっ。
 なら、桂花は城に戻ったら、私の部屋に来なさい。
 たっぷりと可愛がってあげる。」

「はいっ!」

おお、華琳と桂花の間に桃色の空気ができ始めた。
何週間か華琳と仕事をして、分かった事はあいつはレズだ。
春蘭や秋蘭は華琳に夜な夜な身体を預けている。
今も華琳の発言を聞いて、姉妹は羨ましそうに見つめている。
そこで、ふと疑問に思った事を口にする。

「華憐もそっちの気があるのか?」

「ぶっ!?」

水を飲んでいた華憐が一気に噴き出す。

「ごほっ、ごほっ!?
 ち、違います!
 わ、わた、私は姉さんと違って普通です!」
 

咳き込みながら顔を赤くして、必死に否定してくる華憐とちょっとだけ可愛いと思ってしまった。

「一応、参考に何だが。
 他の奴は?」

「私はそっちに興味はありませんよ。」

「右に同じ。」

「私はやった事ないけど、面白そうとは思わね。」

「れ、黎がその気なら、私は・・・・」

『縁様、一筋。』

星、月火、胡蝶、優華、黎がそれぞれ答えた瞬間、優華の双鞭の片方が首を狙った一撃が振るわれる。
直前に首を引っ込めてかわす。

「あ、あぶねぇ・・・・」

「あっ、ごめんごめん。
 手が滑ったわ。」

「完全に八つ当たりですよね!?」

俺が優華に殺されそうになったのに文句を言っている間。

「美奈はどうだろうか?
 普通だと思うが・・・・待てよ。
 あいつが普通だとして男を連れて来たら・・・・
 その男と結婚したいと言い出したら・・・・・・・おおおおお!!
 美奈よ、儂を置いて行かないでくれ!!」

「豪鬼ってたまに美奈ちゃんの事が絡むと、正気が無くなるよね。」

「ここで常識人は縁と私と一刀くらいかしら。」

「失敬な。
 私もその中に入っていないのか?」

「あんたはどっちかって言うとあっち側でしょうが。」

豪鬼は頭を掻き毟りながら、何故か涙を浮かべ。
一刀と月火は呆れた顔を、星は納得いかない顔を浮かべていた。 
 

 
後書き
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