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我が剣は愛する者の為に

作者:wawa
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討伐

 
前書き
間が開いて申し訳ない。

依頼されている小説の手直しに手間取りました。
かなり出来てきたので、更新も安定するはずです。 

 
盗賊団の砦では、山の影に隠れるようにひっそりと建たれていた。
許緒と出会った所からそんなに離れていなかったが、かなり分かりにくい所にあった。
よっぽど上手く探さないと見つからなかっただろう。
あの時、尾行するように指示を出さなければこうして見つけれていないかもしれない。
近づけば気づかれて逃げられる可能性もあるので、距離を開けて様子を見ている。

「許緒、この辺りに他に盗賊団はいるの?」

「いえ、この辺りにはあいつらしかいませんから、曹操様が捜している盗賊団っていうのも、あいつらだと思います。」

「敵の数は把握できている?」

「およそ、三千という報告を聞いています。」

三千。
こちらの部隊の数は千ちょっと。
ざっと三倍の兵力差だ。
これがきちんと訓練された兵士相手なら厳しい戦いになっていたが、相手は盗賊団。
指揮や作戦もなく、ただ突っ込んでくる烏合の衆。
きちんと作戦を立てれば、苦戦する相手ではない。

『桂花、作戦は考えてあるの?』

これは桂花が華琳に認めてもらうための戦いでもある。
同じ軍師として黎が聞く。

「どうなの、桂花?
 糧食の件、忘れていないわよね?」

「無論です。
 兵を損なわず、より戦闘時間を短縮させるための策は、胸の中に。」

「説明しなさい。」

「まず、曹操様は少数の兵を率いて、砦の正面に展開してください。
 その間に夏候惇、夏候淵の両名は残りの部隊を率いて後方の崖に待機。
 本隊が銅鑼を鳴らし、盛大に攻撃の準備を匂わせれば、その誘いに乗った敵はかならずや外に出てくる事でしょう。
 その後は曹操様は兵を退き、充分に砦から引き離した所で・・・・」

「私と姉者で、敵を背後から叩くわけか。」

「その通りよ。」

俺達の部隊が名前が出なかったのは、桂花自身どれほどの戦力か判断できなかったからだろう。
まぁ、具体的に戦ったのはあの初陣だけだし、仕方がないと言えば仕方がないか。
軍師としてはっきりと戦力が分かる兵だけを考えて、作戦を立てる。
優秀な軍師であるのは間違いないな。
あの荀彧の名前を語るのだから当たり前か。

「ちょっと待て。
 それは華琳様に囮をしろと、そういうわけか!」

「そうなるわね。」

「それに何か?」

不満の表情を浮かべて春蘭は声をあげるが、当の華琳は囮になるのを気にしていないみたいだ。

「華琳様にそんな危険なことをさせるわけにはいかん!」

「姉者、縁達もいるのだ。
 万が一もないと思うが。」

「それでも危険であるのは変わりない!」

「じゃあ、あなたに何か変わりの策があるの?」

「烏合の衆なら、正面から叩き潰せば問題なかろう。」

作戦も何もない答えを聞いて、華琳や桂花は呆れたような顔を浮かべ、辺りに沈黙が流れる。

「油断した所に伏兵が現れれば、相手は大きく混乱するわ。
 混乱した烏合の衆はより倒しやすくなる。
 曹操様の貴重な時間と、兵の損傷を最小限にするのなら、最良の策だと思うのだけど。」

「誘いに乗らない場合の策は考えてあるの?」

気になったのか月火が口を挟む。
その質問も想定していたのか、余裕の態度を崩さず答える。

「この近辺で拠点になりそうな城の見取り図は、既に揃えてあるわ。
 あの城の見取り図も確保済み。
 誘いに乗らない場合は、内から攻める事もできるわ。」

「対策は万全、ということだな。」

あらゆる可能性に対しての対処をしているのに、星は感心するような表情で言う。

「分かったわ。
 この策で行きましょう。」

「華琳様!」

「これだけ勝てる要素が揃っている戦いで、囮の一つもこなせないようじゃあ、この先の覇道の道は歩めないでしょう。
 縁、貴方の部隊から囮と後方で奇襲する部隊を分けて頂戴。」

華琳に言われ、今回の作戦の内容をもう一度頭の中で復唱する。
誰が適任かを頭で思い浮かべながら。

「囮の部隊には俺、一刀、豪鬼、胡蝶。
 桂花の補佐を黎。
 後方には星、月火、優華。」

「ちょっと私と黎を離すなんて、ありえないわ。
 人員の再編成を申告する。」

この過保護は、どんな時でもぶれないな。

「駄目だ。
 この作戦はどれだけ囮が目立ち、後方の部隊がタイミングよく奇襲を行うかにかかっている。
 となると、今言った人選が一番良い。
 それが分からないお前じゃないだろ。」

「でも、私が目を離した隙に黎が貴様に襲われるかもしれないじゃない!」

「するか、ぼけ!!
 戦中に襲うほど余裕はないわ!
 黎からも何か言ってやってくれ。」

おそらく、俺がどれだけ言っても優華は折れない。
けど、黎の言葉なら優華は素直に従う。
俺の言葉を聞いて、黎は竹簡に素早く文字を書き見せる。

『縁様の作戦は間違っていない。
 お願い、優華。』

「よし、行くわよ。
 きっちりと奇襲を成功させようじゃない。」

可愛くお願いする黎を見て、掌を返すようにさっきと真逆の事を口にする。
これからは黎に全部任せた方が良いかな。
変わり身の早さに、一同は苦笑いを浮かべている。

「華憐、貴女は私の傍に。
 縁達が先陣に立つから問題ないと思うけど、本陣の守りをお願いするわ。」

「分かりました。」

「許緒も華憐と共に本陣の守りをお願いするわ。」

華琳の指示に許緒はコクリ、と頷く。

「では、作戦を開始する。
 全員、持ち場につけ!!」



後方から奇襲にかける部隊は離れ、最低限の部隊しかここにはいない。
何せ、部隊を半分に分けたのだ。
大体五百くらいしかいない。

「縁兄ちゃん。」

「ん?
 どうした、季衣。」

作戦の行動中に季衣は俺に話しかけてきた。
傍には華憐もいる。
許緒――季衣は俺達に真名を預けてくれた。
華琳達も自分の真名を預け、俺も預けている。

「縁兄ちゃんはこうやって戦うの初めて?」

「二回目だな。
 そう言えば、華憐は?」

「私も姉さんと一緒に何度か。」

右手には大きな盾があり、面には髑髏が描かれている。
その武器は見ているだけで何やら畏怖させる。
人見知りで引っ込み思案だが、武器がそれを感じさせない。
話に聞いた所によると、盾の先端には一メートルくらいの剣が収納されているらしい。
つまり、あの武器は攻防が一体となった武器である。
曹仁は史実通りなら知力、武力共に高い。

「あ、あの・・・どうかされましたか?」

じっと見つめていたらしく、華憐は顔を赤くしながらおどおどと聞いてきた。

「悪い、気にしないでくれ。」

「?
 縁さんがそう言うのでしたら気にしませんけど。」

軽く首を傾げる華憐。
俺達が喋っていると桂花が持ち場につけ、というお叱りを受けた。
話を止め、盗賊団がいるであろう砦の前に展開する。
戦いの野に激しい銅鑼が鳴り響く。
戦う意思を象徴するように銅鑼を鳴らすと、砦の城門が開かれ咆哮を上げて盗賊団はこちらに突っ込んでくる。
もしかしなくても、賊達は今の銅鑼を聞いて出撃の合図と勘違いして、こちらに突っ込んでいるらしい。

「あまり刺激のない戦いだと思っていたけど、面白味はあるようね。」

賊の馬鹿さ加減を見て、くつくつと笑いながら胡蝶は言う。
胡蝶は笑っているが俺は重いため息を吐いた。
あんな奴らに力のない人達が苦しんでいると思うと、ため息の一つも吐きたくなる。

「縁殿、呆れている場合ではありません。
 こちらは少数、相手はおそらく全軍で突っ込んできています。」

豪鬼の声を聞いて、思考を切り替える。

「作戦通り、適当にいなして下がる。
 全軍、無理はするな。
 引き付けるだけにしろ。」

応っ!、という頼もしい声が兵士から発せられる。
彼らも俺の指揮が先頭で指示を出すのを認めてくれた。
隊列もないもない本当に突っ込んでくる盗賊団を俺達は受け止め、出鼻を挫いた。





「報告、曹操様の本体、後退しました!」

「ほう、予想以上に後退が速いな。」

「まさか、華琳様に何かあったのか!?」

「黎、今すぐ駆けつけるから待っててね!!」

報告を聞いた星が意外そうに声をあげ、春蘭と優華は単騎で本陣に向かおうとする。
寸での所で、春蘭は秋蘭に。
優華は月火に首根っこを掴まれ、動きを封じられる。

「姉者、落ち着け。」

「優華も落ち着きなさい。
 縁達が居るんだから、万が一もないでしょう。」

「離せ、月火!
 私には聞こえる。
 泣いて私を呼ぶ黎の叫びが!!」

暴走状態に入っている優華を見て、月火は肩を落としながらため息を吐く。
本陣から離れる前に縁から、しっかり見ておくように頼まれたが、これは予想以上に骨が折れそうだ。

「心配しなくても、あれを見ればいい。
 本陣の隊列が一切乱れていない。
 黎も無事なはずだ。」

星は本陣を指さして言うと、それを見て納得したのか少しだけ落ち着きを取り戻す。
月火は優華を宥めてくれた星に視線で礼を告げる。

「だが、さすがは賊だな。
 あれでは暴徒の群れだな。」

「あれなら、作戦も必要ないだろうに。」

「作戦があった方が楽できて、被害も少ない。
 良い事尽くめだと思わないか。」

星の言葉に春蘭と秋蘭は同意する。

「てか、もう行っていいよね?
 てか、行く!」

「だぁ!
 落ち着きなさい!
 今から行ってもあまり混乱しないでしょう!」

「優華よ、もうちょっと落ち着け。
 そんな頭に血が上って突っ込めば、作戦も何もないだろうに。」

春蘭の発言に星と秋蘭と月火は黙って彼女を見つめる。

「ど、どうした?」

「いや、今の言葉をある人に聞かせてあげたくてな。」

含みのある秋蘭の言葉の意味を理解できないのか、春蘭は小首を傾げる。
間違いなく縁がこの場に居れば、さっきの発言にツッコミを入れていただろう。
現に三人は心の中でツッコミを入れた。
そして、敵の殿が見えた所で。

「よっしゃああああああああああ!!
 殿発見!!
 黎、待っててね、今からお姉ちゃんが駆け付けるからぁぁぁ!!」

「華琳様、華憐様!!
 春蘭が今行きますぞぉぉ!!」

殿が見えたので月火も手を離し、春蘭も優華の気に当てられのか一気に暴走状態になり部隊を率いて、後方から奇襲を駆けに行く。

「似た者同士だな、あの二人は。」

星が言うと、残りの二人もうんうん、と同意する。
三人も部隊を率いて、賊に奇襲を駆けに行く。

「夏候淵隊、撃ち方用意!」

「混乱に呑み込まれるな!
 平時の訓練を思い出し、暴徒の群れを叩く!!」

「敵中央に向けて、一斉射撃!」

「では、行くぞ!!
 総員、突撃!!」

秋蘭、星、月火の号令を合図に奇襲部隊は咆哮を上げ、突撃する。




「後方の崖から、夏候惇様の旗と龐徳様の旗と矢の雨を確認。
 さらに後方から趙雲様、太史慈様、夏候淵様の旗も確認しました。」

「あの二人は本当に特定の人物になると猪になるな。」

頭を抱える俺を見て、豪鬼も渋い顔をしている。

「ま、まぁ、奇襲は成功しているのですし良しとしましょう。」

「だな、胡蝶。」

「言われなくてもこっちは滾っているわよ!
 さぁ、雑魚は雑魚なりに最低限、私を楽しませてね!!」

直後に華琳の反転するよう命令が聞こえる。

「さぁ、行くぞ!
 賊どもに我らの力を示してやれ!!」 
 

 
後書き
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