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ソードアート・オンライン~ニ人目の双剣使い~

作者:蕾姫
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二度目の決意

詩乃が彼女となり、めっきり寒くなってきた十ニ月の初めの朝

クリスマスを詩乃とどうやって過ごそうかと考えながらパンにバターを塗っているとリビングの扉が壊れそうな勢いで開くと直葉が入ってきた

寝呆け眼でパンにノロノロと手を伸ばしていた和人はびっくりしてパンを掴み損ない、床に落としてしまう

「おはよう、直葉。朝から元気なことだな」

「うう……ごめんなさい……」

パンを拾うために机の下に潜った和人を尻目に俺は少々非難を混ぜた言葉を直葉に浴びせた
直葉はその混ぜられた意図に気付いて急激に元気をなくす

「で……なんの用だ?」

「そうだった……大変なの!」

しかし、急いでいた理由を思い出したのか急激に元気を取り戻すと机をバン!

それに反応した和人が机に頭をゴン!

「っ~~~!?」

「お、お兄ちゃん!?」

和人は頭を押さえ、声無き声を上げた

「……和人、無事か?」

「多分コブができたかも……」

「なら、大丈夫。それで話は戻るが、直葉はそんなにあわてて何の用だ?」

和人に向けていた視線を切ると俺は机の下を覗いている直葉に視線を向ける
直葉はさっきより落ち着いた様子で椅子に座ると口を開いた

「実はね。エクスキャリバーが見つかったみたいなの」

「へぇー……」

「な、なんだって……っ!?」

再び和人は机に頭をぶつけて悶え苦しむ。口を押さえていることから恐らく舌を噛んだんだろうな
……学習能力のないやつめ

「なんで燐君はそんなに落ち着いてるの?」

「ほうだぞ、ふぃん」

俺の反応が気に入らなかったようで直葉と和人が口を揃えて問いただしてくる

「まだ見つかっただけなんだろ? あの運営のことだ。最強の武器には恐らく最強の門番を用意しているだろうさ」

「それもほうか……」

和人はもう入手されてしまったものと思い込んでいたらしい。興奮して浮かした腰を椅子に戻し、パンを取った

「でも、場所が解っちゃったんだし……うかうかしてると他の人たちに取られちゃうかも」

「まあ……そうかもな」

「じゃあ、こうしちゃいられないじゃないか!」

パンに謎物質を塗っていた和人は、その手を休めると勢いよく言った

「……メンバーを集めようにも忙しいんじゃないか?」

「……とりあえず片っ端から当たってみれば四人くらいすぐだろ。あ、燐はシノンに連絡よろしく!」

「俺と直葉は強制なのかよ……まあ、いいけどな」

相変わらず猪突猛進っぷりを発揮する和人
クエストに付き合うのはいいが許可くらいはとれよ……
俺は一つため息をつくと、手に持っていたパンを一口かじった

あわただしく部屋から出ていった和人を見送り、直葉と朝食を取り終わった俺は自室に戻ると充電器に差し込んであったスマホを手に取って詩乃に電話をかけた

「もしもし」

「もしもし、燐?こんなに朝早くから何の用なの?」

「端的に言えばクエストへのお誘い、かな。今日は暇か?」

「うん、予定はないけど……」

「よし、じゃあ昼過ぎ辺りにALO内のいつものところでいいか?」

「うん、わかった。じゃあ、またその時に」

詩乃との約束を取り付け、和人へと報告しようと廊下を歩いているときにふと気付いた

「そういえば、俺のアバターって今インプ領の宿屋じゃなかったっけ?」

前回ログアウトしたときは確かそこだった気がする
いつもの場所は新生アインクラッドの第ニ十三層にあるから……ちょっと遠い

「よう、燐。シノンからはよい返事はもらえたか?」

「まあな。今日の午後にお前らのログハウスで計画を煮詰めようと言っておいた」

「そういえば集合時間と場所を言うのを忘れてたな……」

「バカかおまえは……まあ、いいか。それで誰がくることになったんだ?」

和人が重要なことを言い忘れていたことに呆れつつ、今回のメンバーについて尋ねた

「俺と明日奈とお前とシノンとスグとクラインとリズだったかな?」

「了解した。場所と時間を伝えておけよ。俺はちょっとアバターを移動させないといけないからな」

「おう、じゃあまた後でな」

和人と別れ、自室に入った俺はパソコンを立ち上げるとALOの公式サイトの掲示板に目を通す
案の定というかなんというかキャリバーの話題で一色だった
キャリバー関連のクエストを見つけたパーティーはキャリバー獲得のためにメンバーを募っている最中らしい
内容は氷の世界の異形種を一定数狩ること
種別はスロータークエストか……

確か北欧神話に似たような話があったな
後で調べておこう

心のメモ帳に記し、パソコンの電源を落とす
そしてアミュスフィアを被ると意識をALOの世界へ飛ばした








††††








俺が目を覚ましたのはインプ領の宿屋の一室だ
薄暗いインプ領の例にも漏れず、この部屋も薄暗いが暗視を持つ闇妖精である俺は普段通り行動できる
ベッドから起き上がり大きく伸びをしてから装備を確認した

「さてと……とりあえずアルンまで行くかな」

地図を確認すると浮遊城アインクラッドは現在アルン上空を飛行中らしい
飛行時間の制限はないものの、長時間の飛行は避けたいので、直接アインクラッドには飛ばず、アルンで一休みしてから行くことにした

部屋を出てインプ領の主住区をぶらぶらと歩く
目指すは東門

「あの……少しいいかな?」

「ん? なんか用か?」

門を出ようとしたところで呼び止められた
そちらに目線を向けると紫色の髪を揺らし、腰に初期装備と思わしき片手剣を下げた少女がいた

「この世界で名前を刻めるようなところってある?」

「名前を刻む?」

名前を刻むといえば新生アインクラッド第一層にある石碑だろうか
デスゲームだったときにはプレイヤーすべての名前が刻まれ、死亡した場合は死因とともに名前に横線が引かれる
恐怖の対象であったそれは、今はアインクラッドの階層ボスを倒した者の名前が刻まれるようなものになっている

「名前を刻むと言えば新生アインクラッドにある石碑かな。階層ボスを倒した者たちの名前が刻まれているはずだ」

俺の名前もあったりする
明日奈の暴走に付き合わされたいつもの面々が交代でチームマスターやってたから、全員刻まれている

「新生アインクラッド? どうやって行くの?」

「飛んでいくんだよ。今はアルンの上空にある」

「そうなんだ。ありがとう! とりあえずアルンに行ってみるね!」

「ちょっと待て」

「ぶっ?!」

そう言って東門からフィールドに翅を広げて文字通り飛び出そうとする
しかし、初期装備(耐久値的な意味で)でアルンへは行けないだろう
トレインをすれば別だろうが(敏捷があれば)そんな非マナー行為を容認するのは論外だ
よって、そんな理由からインプの女性プレイヤーを引き止めるために服を掴もうとした
……のだが、予想以上に速く服ではなく足首を掴んでしまい、結果として俺の腕を基点に回転モーメントが発生。地面に愉快な声とともにキスを捧げることと相成った

「ひ、酷くない?!」

「君が速いのが悪い」

まさか、俺の速度とほぼ同等の速さが出せるとは思わなかった

「それでボクに何の用?」

「その装備でアルンにまで行く気か?」

「うん、ちょっと見てくるだけだよ?」

「アルンまでの道のりは厳しいぞ? 途中のモンスターはトレインするにしても、かなりVR歴が長いことが絶対条件だ」

元々の才能があった場合は別だが、敢えて言わない
このプレイヤーはどこかちぐはぐなのだ
初心者装備とアバターの動きのギャップ、動き方……どこかマリオネットのような……

「それなら大丈夫だよ。ボクはこう見えてVR歴は長いから!」

「ふうん……最低でも四年くらいはいるらしいが本当に大丈夫か?」

もちろん嘘だ
四年なんてアミュスフィアは疎かナーヴギアさえ発売されていない

俺がそう言うと彼女は顔色を明るくし、元気よく口を開けた

「なら大丈夫だね! ボクはもう四年以上もVRをやっているから!」

かかった。これまた見事に誘導尋問にひっかかってくれた

「なるほど……。それで目的は石碑に名は刻むこと、だったよね?」

「うん、そうだよ?」

ナーヴギアさえ発売されていない時期からVRを使う方法はざっと考えて四つくらいある

一つ目、この少女が自衛隊もしくは警察組織の人間だった場合。VRは元はといえば軍事のために作られた
そのテストプレイヤーとしてVRを使っていたならこのVR歴の長さも頷ける
しかし……どう見たってそんな荒事をするような性格には見えない

二つ目、開発時期のモニターをしていた場合
これもあり得ない。モニターは政府関係者がやっていただろうし、そこから一つ目の理由のために不可だ

三つ目、医療用のVR機器、メディキュボイトを使っていた場合
これならマリオネットの様な動きも説明がつく

四つ目、目の前の彼女がペテン師の場合
……仮にも巨大企業の跡取り息子として、英才教育を受けた俺を騙せるようなペテン師なんてほとんどいないだろうが

ざっとこのくらいかな
先程の石碑に刻むという言葉から察するに三つ目の可能性が非常に高い

名を刻む。言い換えれば足跡を残す
足跡を残したいと思うのは余程自己顕示欲が強いか、あるいは……最後に有終の美を飾りたいか

まあ……彼女がメディキュボイトの被験者でターミナルケアを受けてるってことは確かだな

「なら、俺が連れていこうか?」

自分でも知らないうちにそんな言葉が漏れていた

「え……そんなの悪いよ……」

「どうせアルンまで行こうとしていたからな。問題ない」

「んー……じゃあお願いします! ボクはユウキ。よろしくね」

ユウキ……名前の響きからして俺や明日奈と同じ人種か……(本名をそのままキャラネームにしているという意味で)

「俺はリンだ。少しの間だがよろしく頼む」

満面の笑顔を浮かべたユウキと握手をして、パーティー申請を送る
ユウキとパーティーを組み門を出たところで自身の行動の理由に気が付いた

―――ユウキは詩乃とどこか似ているんだ―――

容姿や性格は全く似ていない。それこそ正反対と言っていい
しかし
笑顔に潜む拒絶
目線に混ざる憧憬
動きに絡む絶望
笑い声に溶け込む達観

詩乃が氷の中に隠していたのと同じように、ユウキもまた陽の中の影のように様々な負の感情を閉じ込めている

「全く……俺はすべてを救えるヒーローじゃないぞ?」

「リン、なんか言った?」

「いや、何でもない」

それじゃ、詩乃のときと同じようにヒーローの真似事でもしてみましょうかね

ったく、柄にもない 
 

 
後書き
さてさて、キャリバー編が始まりましたよ!

……え?マザロザ編なんじゃないかって?

いやいや、まだまだです
策略家のリン君が色々と根回しをしたり、強は……お話をしたり……そんな感じになります

スリーピングナイツの他の面々はとりあえず蚊帳の外
後々に全員集合するのでシウネーファンの方はお待ちくださいw

え、原作無視?はて、なんのことやら……?

……スリーピングナイツのメンバーがALOに来たのっていつ何でしょうか?
描写がないので勝手に設定します
キャリバー編の二日前にコンバートしてきて、マザーズロザリオ編が本格的に始まるのが、その一、ニヶ月後ということにします

……後から謎の設定が出てきても知らないです
どうせほとんどの作品が原作設定を無視しているので気にしないです

つまり……ルークよろしく

ルーク「俺は悪くねぇ!!」

では、今回はこの辺で
感想その他よろしくお願いします
ではでは 
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