戦国異伝
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第百二十二話 蘭奢待その九
その最上さえ押している、それを聞いてだった。
「伊達政宗、まだ若い筈ですが」
「そこまでの者ですか」
「その様じゃ」
こう言う氏康だった。
「鉄砲騎馬隊に水際立った采配に戦ぶりでな」
「奥州を席巻しておりますか」
「では奥州は」
「奥州だけではない」
氏康は言う。
「あの者、どうやら相当な野心家じゃな」
「奥州を手に入れてまだ満足しませぬか」
「そうなるとやはり目指すは」
「この地ですか」
「関東、そして天下じゃ」
氏康は既に見抜いていた、政宗の隻眼は天下を見据えていることを。
それで今も言うのだ。
「天下を狙っておるな」
「織田や武田と同じく」
「それをですか」
「わしは天下までは望んではおらぬ」
氏康が目指すのは関東の制覇だ、しかしそれ以上のものはなのだ。
「安芸の毛利は山陽と山陰じゃ」
「そして上杉は、ですな」
「あの者は」
「上杉謙信は義よ」
それの為に戦う者だというのだ。
「あ奴が戦うのはあくまでそれの為」
「やはり天下を目指してはいない」
「そうですな」
「あの者は我等とはまた違う」
天下もその地も欲してはいないというのだ。
「義、それを見ているだけじゃ」
「まさに毘沙門天の化身」
「降魔の者ですな」
「あの者はまさに軍神」
それに他ならないというのだ。
「その見ている者は我等とは違う」
「それぞれ見ているものは違い」
「そして伊達政宗は」
「天下よ」
その隻眼で見ているものはそれだというのだ。
「天下を見ているが為にここに来る」
「この関東にも」
「そして小田原にも」
「織田だけではない」
北条の敵になりそうな者は、というのだ。
「武田や上杉も厄介だがな」
「あの独眼龍もですか」
「水色の衣や鎧を着ている者達が」
「おそらくあの者はわしにも劣らぬ」
政宗の資質、氏康はそれも見ていた。
「無論わしも負けてはおらぬがな。ただじゃ」
「ただ?」
「ただといいますと」
「伊達政宗は確かに強い」
このことは否定出来ない、伊達に奥州を席巻している訳ではない。
「しかしわしには御主達がいる」
「我等がですか」
「うむ、北条二十八将よ」
武田の二十四将、上杉の二十五将と比肩すると言われている。近頃ではここに徳川家の十六将が入る場合もある。
「わしには御主達がおる、しかし」
「しかしですか」
「伊達政宗には」
「あの者には片倉小十郎と伊達成実に何人かの頼れる家臣達はおる」
伊達にも人がいない訳ではない、これも確かだ。
だが北条二十八将に比肩するだけの数はいるか、それはというと。
「しかし御主達程はおらぬ」
「だからこそ伊達には負けぬ」
「そうなるのですな」
「そうじゃ、伊達に負ける道理はない」
やはりそうだというのだ。
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