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戦国異伝

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第百二十二話 蘭奢待その八

 その彼が言うのだった。
「我等も答えを出さねばならん」
「戦か和か」
「どちらにするかですな」
「左様、その通りじゃ」
 どちらかの選択だった。
「我等はどうするかな」
「しかしそれは」
「どうすべきかというと」
「難しい話ですが」
「どうにも」
「左様、それでじゃ」
 氏康の言葉は続く。
「北条も選ばねばならぬ」
「では殿はどうお考えですか」
「織田に対してどうすべきか」
「戦か和か」
「どちらにされますか」
「今は答えは出さぬ」
 これが氏康の選択だった。
「今はな」
「では数年後ですか」
「織田が動いた時に決められますか」
「その時に」
「その間に備える」
 ただ数年見ているだけではなかった、それで留まる氏康ではなかった。
 ここでだ、彼は己の家臣達に告げた。
「戦の用意をしておくぞ」
「戦ですか」
「和ではなく」
「無論和の備えもしておく」
 それも忘れないというのだ。
「しかしそれも戦の備えあってのことじゃ」
「それを織田に見せつつですか」
「和も用意されますか」
「そうじゃ、手ぶらで和を講じてもどうしようもない」
 これが氏康の考えだった。
「槍を持たぬ相手が槍を持っている相手に向かえるか」
「だからですか」
「それは」
「そうじゃ、備える」
 やはりそうするというのだ。
「領地の全ての城の城壁に石垣、堀を整え」
「そのうえで、ですな」
「さらに」
「その城がそれぞれ護り合う様にする」
 この考えも言うのだった。
「この小田原城を中心としてな」
「そして、ですか」
「そのうえで」
「鉄砲も揃えるぞ」
 今度はこれだった。
「揃えられる限りな」
「鉄砲もですか」
「それも」
「揃えられるものは揃える」
 やるからには徹底的にだというのだ。
「そうする、よいな」
「はい、では」
「鉄砲も」
「無論それも集める」
 鉄砲についても言う氏康だった、だがここで彼はその鉄砲についてふとこの男の名前も出したのだった。
「鉄砲といえば米沢の伊達だが」
「あの独眼龍ですか」
「伊達政宗ですな」
「あの者はただ鉄砲を集めているのではなかったな」
 言うのはこのことだった。
「奥州は馬の産地でもある、その馬も使い」
「鉄砲に馬」
「その組み合わせとは」
「騎馬隊に鉄砲を持たせておる様じゃ」
 伊達の鉄砲騎馬隊である。
「それを使うそうじゃな」
「鉄砲騎馬隊ですか」
「それで奥州を暴れ回っているのですか」
「その様じゃ。蘆名や最上も押されておるという」
「あの最上がですか」
「狐とさえ言われている最上義光が」
 これには二十八将達も驚きを隠せなかった、最上義光といえば奥州においてその悪辣なまでの奸智と見事な武勇で知られている者だからだ。  
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