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我が剣は愛する者の為に

作者:wawa
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鉄球を操る純粋無垢な少女

「って事があっただが、コイツを聞いてどう思う?」

「縁殿が悪いですな。
 初対面でそんな風に囁かれたら誰だって、印象を悪くするでしょうに。」

「はは、ですよねー。」

星の正論すぎる発言に俺は苦笑いを浮かべる。
城を出発して、行軍している最中に俺は桂花との出会いについて皆に簡単な説明した。
それをすることなったのは豪鬼の一言とある事が原因。

「縁殿。」

「ん?」

馬に乗ってぼんやりと景色を眺めている時に、豪鬼に声をかけられた。

「桂花が禍々しい殺意が籠った目で縁殿を見ていますよ。」

「うん、知ってる。」

さっきからザクザクと刺すような視線を背後から感じていた。
桂花だって事はすぐに分かった。
後ろを振り向いて確認したわけではない。
現状、睨み殺すような視線を送ってくるのは優華か、初対面の時に最悪の印象を植え付けてしまった桂花だけ。
優華は今は黎と会話(と言っても黎は竹簡で会話しているので、会話と言う表現があっているのか微妙だが)して幸せが溢れ出ている。
消去法で桂花であるのか確定だ。
ちなみに彼女の真名は俺達に預けている。
華琳が自分や春蘭、秋蘭はもちろん、俺達にも教えるように言った。
だが、桂花は俺に真名を預けるのを頑なに拒んだ。
同じ男である一刀や豪鬼には真名を呼ばれる事に不快感を露わにしながらも、拒絶はしなかった。
最初の五分で完全に嫌われたようだ。
極めつけには。

「どうして変態強姦男に真名を許さないといけないのよ!!」

衝撃的すぎる発言に3秒くらい水を打ったように静まり、その後胡蝶の爆笑が沈黙を破った。
誤解を招くような発言を言われ、すぐさまそうではないと否定したので大事にはならなかった。
華琳に言われ、俺も真名で呼ぶのを承諾はしたが今のように鋭い視線を向けられている。
その後にすぐに行軍し、星は桂花の言葉と向けられる視線の意味を尋ねた。
他の皆も気になっていたみたいで、桂花と出会った時の事を説明した。
案の定、俺が悪いと言われたが。

『いいな。
 私も縁様に耳元で囁かれたい。』

「私の黎にそんなことしたら、頭と胴体が見事に分裂するからね。」

「んな自殺行為、自分からする訳ねぇだろうが。」

「でも、話を聞いた限りだと縁が悪い。」

月火のはっきりとした発言を聞いて、少しだけ落ち込む。
今さら謝った所で意味はないだろうな。
何せ、俺ほどではないが一刀や豪鬼に対する態度も棘がある。

「せめて、視線だけでも何とかできないだろうか。」

「無理だろうさ。
 何せ、変態強姦男と呼ばれるくらいだからな。」

あの場面でも思い出したのか、胡蝶は笑いを噛み殺しながら言う。
果たして、彼女と友好な関係になれる日は来るのだろうか。
自分で言っておいてなんだが、多分来ないと思う。

「でも、どうして危険な橋を渡るような真似をしたんだ?」

一刀は一歩間違えてれば死ぬかも知れなかったのに、敢えてそんな方法を取った理由が分からないようだ。

「まぁ、軍師として志願できればこんな真似はしなかっただろうさ。」

「?」

俺の独り言ともいえる言葉に一刀は首を傾げる。
次の説明を黎が引き受けてくれた。

『武とは違って知は使えるかどうか判断するのが難しいの。』

「どうして?
 テストとかで判断すればよくね?」

『テスト?』

聞き慣れない単語に黎は小首をかしげる。
思わず使ってしまった横文字に反省しつつ、分かりやすいように言い換える。

「学力試験のようなものだよ。
 それを使えばある程度は分かるんじゃないの?」

『例え頭が良くても、戦場で活かせれるとは限らない。
 軍師は戦況を広い目で観察、一秒ごとに変貌する戦況を先読みして的確な指示を出す。
 知識だけでなく、自信と度胸も必要になる。
 下手に頭が良い人も戦場の血の匂いと気迫に萎えてしまって、正確な判断が下せないのが多いの。』

「それらを証明するためにも、桂花の危険な橋を渡る行為はある意味で効果的だったという訳か。」

懇切丁寧な説明に一刀な何度も頷きながら納得する。
俺達が雑談をしていると春蘭がやってきて。

「お前達、華琳様がお呼びだ。」

「華琳が・・・理由は?」

一応、理由を聞いてみる。

「前方に何やら大人数の集団がいるらしい。」

なるほど、一応他の奴の意見を聞く為に、招集したというのか。
俺達が華琳の元に着くと、桂花や秋蘭もいた。
俺が来るとなると桂花はキッ、と睨んでくるが構っていても無駄なので無視する。

「ちょうど偵察部隊が帰ってきた所よ。
 報告しなさい。」

「行軍中の前方の集団は、数十人ほど。
 旗がないため所属は不明ですが、格好がまちまちな所から、どこかの山賊か盗賊かと思われます。」

これから討伐に向かう賊の集団の先行隊だろうか?
そうなると下手に手を出せば、砦にいる賊の部隊に連絡が入り対策を練られるかもしれない。
こっちの糧食は必要最低限だから、策を練られてしまえばそれだけ討伐するのに時間がかかるかもしれない。

「様子を見るべきかしら?」

俺と同じことを考えていたのか、華琳もひとまず様子を見るべきか俺達に聞く。

「もう一度偵察部隊を送って見るべきかと。」

『私もそう思う。
 偵察部隊の報告を聞いてからでも、遅くはない。』

桂花の意見に黎も同意する。

「夏候惇、関忠、偵察部隊を率いて様子を見てきてちょうだい。」

「おう。」

「了解。」

気になる事は自分の目で確かめる。
ちょうど自分から、部隊を率いて様子を見ようかと思っていたので、桂花の指示に従う。
さすがの彼女も戦場となると、私情は挟まないようだ。
それでも睨まれるが。

「縁、姉者の手綱をしっかりと握っておいてくれ。」

「おい、秋蘭。
 それだと私が敵だと分かったら、突っ込む大馬鹿者みたいな言い方ではないか。」

わざと言っているのか疑いたくなるくらいの自虐的な発言に誰も否定しない。

「まぁ、春蘭が天然の大馬鹿者であるのは、この場に居る全員分かっている事だから。」

「ひ、ひどいです、華琳様。」

「ふふ、ごめんごめん。
 さぁ、偵察の方は頼んだわよ。」

春蘭と俺は部隊を率いて、所属不明の部隊を確認しに行く。

「まったく、先行部隊の指揮など私一人で充分だというのに。」

どうも、さっきの皆の反応が気に入らないのか苛立った声をあげている。

「一人より二人の方が冷静に対処しやすい。
 何よりお前は猪のように突っ込みやすいから、桂花も心配になったんだろうな。」

単にそれもあるかもしれないが、俺を視界に入れたくなかったかもしれない。
もしそうだとしたら仲良くなるのはほぼ不可能だな。

「そんな愚か者のするような事を私がする訳ないだろう。」

「その言葉、忘れるなよ。」

と、俺達が話していると偵察に向かった兵士が帰ってきた。

「夏候惇さま、見えました!」

「ご苦労。」

兵士の後ろの方に視線をやるとそれらしき集団を発見した。
最初の報告では相手は行軍中と聞いたが、今は足を止めて一箇所に集まっている。
距離は少し離れているので内容までは聞き取れないが、何やら慌てたような騒いでいるような、そんな声が聞こえる。

「何かと戦っているようだな。」

そうだな、と同意の言葉を言おうとした瞬間。
集まっていた集団から何かが飛んでいく。
それも一つではなく複数。
眼を凝らして、飛んで行ったもの確認すると。

「あれって人か?
 人が宙に舞いあがっている!?」

一体あそこで何が起こっているんだ?
俺は春蘭に足を止めて様子を見るか?、と提案しようとして春蘭の方を見る。
だが、そこに春蘭の姿がない。

「・・・・・・」

一応、俺は近くにいる兵士に確認を取る。

「春蘭は?」

「夏候惇さまなら、関忠様が何か考え事をなさっている間に目の前の集団に向かって行きましたが・・・」

「あの馬鹿野郎が!!
 さっき言った事をもう忘れたのか!!」

声を荒げた所で春蘭は戻ってこない。
十中八九、春蘭はあの集団、おそらくこれから討伐する予定である賊の先行部隊な筈だと気付く。
そうすれば剣を抜き、叩き切るに決まっている。
春蘭の猛攻を見た賊は本体と合流しようとすると予想される。
討伐の対象である賊の集団は、今どこに本陣を構えているのか不明。
だったら、撤退する奴らを泳がせて本陣の場所を教えて貰うのが一番効率がいい。
それも春蘭が全滅させてしまったら意味がない。
俺は偵察部隊に撤退する賊の追跡任務を言い渡し、春蘭を追いかける。
集団に近づくと、馬鹿でかい鉄球を持った一人の少女と剣を構えた春蘭が賊と戦っていた。
身なりからして賊であるのは間違いない。
先程、賊を上空を舞った原因はおそらく少女の鉄球を受けたのが原因だろう。
少女は肩で息しているのを見る限り、一人で戦っていたのが分かる。
とりあえず、俺は馬を足場にして少女の後ろから斬りかかろうとする賊の首元を狙って、跳び蹴りをかます。

「あぶぁ!?」

骨が折れる感触を感じ、賊は吹き飛ぶ。

「えっ?」

俺の登場に少女は目を丸くする。

「くそ、逃げろ!」

俺と春蘭、そして後ろに見える偵察部隊を確認した賊の一人が逃げ出す。
すると、それに釣られて他の賊も逃げ出していく。

「待て!
 一人残らず叩き切ってくれるわ!!」

「あい待った。」

「んな!?」

なりふり構わず突っ込もうとする春蘭の長い髪を掴む。
前に行こうとして後ろ髪を掴まれてしまい出鼻を挫かれ、こちらを睨んでくる。

「どうして止める!」

「お前にはツッコミたい事が山ほどあるが、ともかく落ち着け。
 あいつらを全滅させてもいいが、あいつらはこれから討伐する賊の集団の一部隊だ。
 後ろからこっそりつけて、奴らに敵の本陣まで案内してもらおう。」

「ふむ・・・・・そうだな。
 誰か」

「既に指示は出した。
 どこかの愚か者が何も考えずに跳び出すからな。」

「その愚か者とは私の事か?」

「そう言ったつもりだが?」

「貴様、よもや私を愚か者と称するか!!」

「テメェの頭は鶏以下か!!
 さっき言った事を思い出してみろ!!」

「そんな些細な事を一々覚えていられるか!」

俺と春蘭が討論なのかよく分からないのをしていると。

「・・・・あ、あの。」

おずおずと少女はこちらの顔色を窺いながら話しかけてきた。
言い合いしている俺達に話しかけずらいのだと分かった俺は、春蘭の件は後で問い詰める事にして、少女を気に掛ける。

「大丈夫か?
 見た所怪我はないようだが。」

「はい!
 おかげで助かりました!
 ありがとうございます!!」

「それは何よりだ。
 しかし、なぜこんな所で一人で戦っているのだ?」

俺との口喧嘩を止め、春蘭は気になった事を聞く。
少女は理由を説明しようとした時に、後ろから本陣がやってきた。

「うん?
 追いついたか。
 華琳、こっちだ。」

「っ!」

「縁、謎の集団と戦闘があったと聞いたのだけれど、どうなったの?」

賊の追跡の任務を言い渡した時に、ついでに本陣にも報告するように指示しておいた。

「春蘭と俺とこの子と戦って、逃げたよ。
 今は奴らを追跡して、本陣まで案内してもらっている。」

「さすがね。」

「あ、あなたは・・・」

華琳に報告していると、少女は険しい表情のまま華琳に視線を向けている。
どことなく敵意が籠っているのは気のせいだろうか?

「お兄さんたち、国の軍隊?」

「そうだが。」

答えた瞬間、鉄球が俺に向かって振り下ろされた。
突然の少女の攻撃に驚いたが、理性よりも早く本能が身体を動かし刀で鉄球の軌道を逸らす。
が、あの小さい少女の身体とは思えないくらいの力を感じた。
鉄球と言う重量武器も相まって、逸らしただけで軽く手が痺れている。
なるほど。
確かに直撃を喰らえば、人間なんて簡単に宙を舞うな。
少女の突然の行動に皆は驚愕の表情を浮かべている。

「何のつもりだ?」

軽く殺気を込めた声で少女に問い掛ける。
敵意を剥き出しにし、牙を剥きながら訴える。

「国の軍隊なんか信用できるか!
 税金ばっかりとって、ボク達の村を守ってくれなかったくせに!」

少女は何度も鉄球を振り回しながら、不満をぶつけてくる。
どうやら、華琳に助けを求めた役人は俺が思っている以上に職務怠慢な奴らしい。
この分だと、我が身可愛さに華琳に全てを任せ、街を捨てて逃げているかもしれないな。
真面に受けず、その力をいなし逸らしていく。

「だから、一人で戦っていたのか。」

「そうだよ。
 ボクが村で一番強いから、ボクが皆を守らないといけないんだ!
 盗人からも、お前達役人からも!!」

どうする?
今の少女は頭に血が上っている。
力は相当なものだが、攻撃の軌道が単純で既に見切っている。
ここで無力化させて話を言い聞かせるか?
華琳達をここを統治する奴と勘違いしているみたいだし。
その時だった。

「二人ともそこまでよ!」

凛とした鋭い声が間に入ってきた。

「えっ?」

「二人とも剣を収めなさい!
 縁もそこの少女も!」

「は、はい!」

華琳の気迫に当てられ、言うとおりに鉄球を地面に置く。
かなり重いのか置いただけで、地面にめり込んでいく。
直撃すれば氣で強化していても、骨が数本は折れるだろうな。

「縁、この子の名前は?」

「まだ聞いていない。」

「許緒と言います。」

萎縮したのか、許緒と名乗る少女は自分の名前を告げる。
村では華琳のような威圧的な人はいなかったのか、完全に空気を呑まれている。
名前を聞いた華琳は許緒の眼を真っ直ぐに見つめて。

「許緒、ごめんなさい。」

頭を下げた。
その光景に誰もが息を呑んだ。

「あ、あの・・・」

「名乗るのが遅れたわね。
 私は曹操。
 山の向こうの陳留で刺氏をしているわ。」

「山の向こう・・・?
 あ・・それじゃあ!?
 ご、ごめんなさい!!」

華琳の名前を聞いて、許緒はすぐさま頭を下げた。
悪い事をして怒られた子供のように、少し脅えながらも謝罪の言葉を口にした。

「山向こうの街の噂は聞いています!
 向こうの刺氏さまはすごく立派な人で、悪いこともしないし、税金も安くなったし、盗賊も少なくなったって。
 そんな人に、ボク・・・ボク!」

自分の勘違いである事が分かった許緒は自分を責めている。
そんな少女に華琳は優しい口調で話す。

「構わないわ。
 この国が腐敗しているのは、刺氏たる私が一番知っている。
 官職と聞いて許緒が憤るのも無理はないわ。」

「で、でも・・・」

「だから、許緒。
 あなたの勇気と力、この曹操に貸してもらえないかしら?」

「え・・・ボクの力を?」

一瞬、横目で俺の眼を見てから。

「私はいずれ大陸の王となるわ。」

堂々と同じではあるが違う王を目指す俺の前でそう告げた。

「けれど、今の私は小さく少なすぎる。
 だから、村の為に振るったあなたの勇気と力を私に貸して欲しい。
 あなたの村や、他の村、この国の人々は平和に暮らせるような国を作る為に王になる。」

「この国の王に・・・」

「曹操様!
 偵察の兵士の報告によると、敵の本陣はすぐ近くとのこと!」

先程放った偵察の部隊の報告を聞いた、桂花が報告する。

「分かったわ。
 許緒、まずはあなたの村を脅かしている盗賊団を根絶やしにする。
 それまでの間だけでも良いから、力を貸してもらえないかしら?」

「はい、それならいくらでも!」

「では、春蘭、秋蘭の元にひとまず下に付けるわ。
 何か分からない事があれば、彼女達に聞きなさい。」

「はい、それとお兄さん。」

目を伏せながら許緒は俺に話しかけてきた。

「何だ?」

「さっきは、ごめんなさい。」

ぺこり、と頭を下げるのを見て俺は軽く笑みを浮かべながら。

「気にするな。
 それだけ村の皆が大事だったって事だろう。
 良い事だ、大切にしろよ。」

「うん!
 ありがとう!」

「では、行軍を再開するわ!
 総員、騎乗!」

掛け声と共に、俺達は馬に騎乗する。
すると、星と月火が俺の傍にやってきてニヤリ、と含みのある笑みを浮かべて言った。

「負けられませんね、縁殿。」

「そうよね、あんな風に真正面から宣戦布告されたのだからね。」

二人の言いたい事は分かっている。
元より負けるつもりはない。
俺には俺の王道がある。
しかし、今は華琳の傭兵。
きっちりと仕事はさせてもらう。 
 

 
後書き
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