IS〈インフィニット・ストラトス〉駆け抜ける者
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第12話
遂に、遂にやって来てしまった、ボーデヴィッヒとの約束の時。
はっきり言って、逃げたくて仕方無いが、逃げたらどんな事態になるか計り知れないので、意を決して歩を進めている。
それはいいのだが…、
「なあ一夏君よ?」
「何かな智春君?」
「どうして無関係なゼロ達が着いてきてるのかな~?」
「どうしてだろうな?」
そうです。何をとち狂ったか、ゼロとガールフレンド達が一緒なんです。
「今後の為に見学したい」
「同じく」
「師匠の戦いは全部見る必要あり!」
「面白そ~だから~」
上から、ゼロ、宮間さん、シエル嬢、のほほんさん。シエル嬢、俺は師匠じゃない。
「ま、いいや。後で文句は聞かないからな」
楽しそうに歩くゼロ達に嘆息し、歩き続ける。
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アリーナでは、織斑先生とボーデヴィッヒが待っていた。
「無関係のグランツ達まで来るとは…」
呆れて額に手をやる織斑先生。本当に迷惑かけて申し訳無い。
「女好きと三下が雁首揃えて物見遊山か?」
明らかに小馬鹿にした態度のボーデヴィッヒと、憤るゼロ達。
このまま争わせるのも一興ではあるが、本題を優先させたい。
「ボーデヴィッヒ、挑発の相手が違う。ゼロ達はまた今度正式な機会で、叩けばいい」
「ククッ、そうだな。今は、貴様で楽しむとしよう」
「ラウラ、やり過ぎるなよ」
「善処はします、教官」
待ちきれない様子で織斑先生の忠告をおざなりに返すと、一足早くピットに入っていってしまった。
未だ怒り心頭のゼロ達と、宥めようとする一夏を見ながら、織斑先生が口を開いた。
「丹下、ラウラはお前に興味を持った」
「はい」
「先日の竜胆との一戦での、なりふりかまわない、戦い方に感じたのだろう」
「…何を?」
「それはラウラに聞け。奴は強い。油断するなよ?」
ふと織斑先生の顔を見てみれば、いかにも面白がっている表情をしていた。
「皆他人事だからって…、頑張りますよ、ったく!」
モヤモヤした気分でピットに行き、準備を整える。
ボーデヴィッヒは代表候補生。今までより一段上の相手だろう。
しかし、俺も一夏達代表候補生相手に訓練を積んだ、そう簡単に負ける気はない。
確認を終え、ステージに出る。
舞台は、整おうとしている。
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「中々悪くないな、丹下智春!」
「光栄だよ、ラウラ・ボーデヴィッヒ!」
レールカノンと収束弾が激突、周囲に轟音と振動をもたらす。
観客席で見ている一夏達は、その戦いを目に焼き付けている。
ラウラのレールカノンが火を吹き開幕し、速度で優位に立つ智春が上から弾幕を張った。
6つのワイヤーブレードが弾幕をかき消し、レーザー手刀で切りかかるラウラを、待ち構えていた智春がエネルギーを纏った蹴りで叩き落とす。
そして、先程の流れにたどり着く。
目まぐるしく動く二人を、観客が必死で追っていた。
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「この【シュヴァルツェア・レーゲン】の前では貴様も無力だ、丹下智春!!」
「抜かせっ!やってみなけりゃ分からんだろうが!!」
先程より収束率を上げた収束弾を撃ち放つ。
空気を裂き、ボーデヴィッヒを襲うはずの一撃は、空中で『静止』した。
付き出されたボーデヴィッヒの右手の前に、収束弾は少しも動かない。
「無駄だ、停止結界の前ではな」
余裕綽々でボーデヴィッヒは立っている。止まるなら、止まっても困らない攻撃をする!!
背後のスラスターを全開にし、加えて瞬間加速。弾丸より速く、ボーデヴィッヒに突撃する。
「己が攻撃を見て尚、接近するとはな」
期待外れ、と言わんばかりに右手を出すボーデヴィッヒ。その『強さ』が俺の狙いなんだよ!
左手を付き出し、エネルギーの幕を発生させる。俺を停止させるはずの結界は、俺の前に発生した幕を止めてしまった。その止まった幕を叩き割り、ボーデヴィッヒに肉薄する!
「よう、ボーデヴィッヒ。あんたに近付くのに、これだけかかったよ」
あらかじめチャージしておいた、右手が輝く。
「止められるなら、止まる一つを犠牲にするのみ!受けてみろ!」
ボーデヴィッヒの腹部に拳を叩き込み、チャージされた収束弾を放つ。
が、拳のインパクトの瞬間に後ろに飛ばれ、収束弾も停止結界で止められた。
「今のは、少しだけヒヤリとしたぞ」
「へっ、今にその顔焦らせてやるさ!」
お互い不敵に笑い、動く。撃つ、避ける、撃つ、避ける。絶え間無く攻守が入れ替わる。
ステージ中央上空で互いの手刀とエネルギー刃がぶつかり合い、後退りしながら着地。
「接近戦なら分があると踏んだが…!」
「それも違った、か。面白い…!」
少しの停止の後、再び高速戦闘が再開される。
お互い命中は、まだ、無い。
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一夏達は息を呑む。ラウラと智春の、止まらない攻防に。
「ラウラの停止結界を考えれば、丹下の戦法は妥当だが、決め手に欠ける。ラウラも、結界で止めたいが丹下を止められない。どう転がるか、見物ではあるが、な」
目を細める千冬。
「流石は師匠…、流石は師匠…!」
始まってからずっと同じことを呟くシエル。
「俺だって…!俺達だって…!」
智春の成長に刺激されるゼロ。
彼等の視線は自然と熱くなり、戦う二人に注がれる。
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「良いぞ、丹下智春!予想以上だ!」
鍔迫り合いになりながら、ボーデヴィッヒが歓喜の声を上げる。
「ここにいるのは、意識が甘く、危機感がなく、ISをファッションかなにかと勘違いしている奴等ばかり!そんな場所で教官が指導しているなど我慢できなかったが…、」
「だが?何だ?」
「貴様は違った!!勝利の為の非情さを、貴様は有していた!」
鍔迫り合いの中、ボーデヴィッヒは続ける。
「貴様を叩いてこそ、私の正しさは証明される!」
「正しさ!?それはなんだ!」
ボーデヴィッヒに蹴りを入れ、中距離の撃ち合いになる。
「教官はドイツで教鞭をとった方が良いということだ!」
発射されたレールカノンをエネルギーの幕で反らしながら、眉を潜める。
「こんな意味の無い場所で無意味な時を過ごすより余程…、「言いたいことはそれだけか」何?」
持論を展開したボーデヴィッヒを、冷たく遮る。織斑先生を尊敬するのは自由だ。だが、その在り方まで言及することは、世界中の誰にも許されない。
ハイパーモードを起動する。機体の色が黄金に変わり、角が開く。
「示してやるぞ、ラウラ・ボーデヴィッヒ!織斑先生の指導に効果がある事を。この学園で教えることの意味を!」
全身から黄金のエネルギーを放出し、ボーデヴィッヒ目掛けて突っ込む。
「噂のハイパーモードとやらも、停止結界は破れはしない!」
一直線に駆ける黄金のエネルギーを、ボーデヴィッヒは停止させ、手刀で叩き切った。
「こ、この手応え…!貴様、まさか…!?」
「まさかさ。『俺の形のエネルギー波』、なんて、予測出来なかったろ?」
そう、ボーデヴィッヒが止めて切ったのは、エネルギーの塊。停止させる直前、纏ったエネルギーを放出し、その後ろに隠れたのだ。
今のボーデヴィッヒは、攻撃後で体勢を直す時間はない。俺の勝ちだ…!
まさに決着が付かんとしたその時、アリーナ全体に大きな衝撃が走った。
熱源感知、所属不明のISを確認、ロックされています。
ヴァンガードのセンサーからの警告の直後、粉塵の中から、レールカノンの弾丸が飛んできた。
ボーデヴィッヒから離れるように下がり、ボーデヴィッヒも逃げた。
『丹下、ラウラ!今すぐ中止して退避しろ!緊急事態だ!』
いつになく焦りの見える織斑先生から通信が入った。曰く、アリーナのシールドをぶち抜いて侵入した困ったちゃんが、よりによって俺達の戦いの最中にやって来たらしい。はた迷惑な…!
「だってさ。納得いかないが、下がるしかないか?」
「それはこちらの台詞だ。先程の貴様の攻撃などあしらえていたからな。勝ちをみすみす逃すほど口惜しいものはない」
「あん?」
「ほほう?」
ボーデヴィッヒと睨み合う。負け惜しみとは、代表候補生も堕ちたものだな!
「不満なら続けて良いんだぞ?」
「泣きを見るのは貴様なのだから、大人しく引けばいいのではないか?」
…………ふぅ。
「やるのか眼帯ぃ!!」
「上等だ貴様ぁ!!」
言い合っている最中にも煙の向こうから攻撃は続いている。お互い回避しながら口喧嘩しているのだ。
『何をやっている!?早く引き上げ…!』
「良いこと思い付いた。あの煙の向こうの邪魔者仕留めた方が勝ちでどうよ?」
「丁度同じ提案をしようとしたところだ」
悪い笑みだなボーデヴィッヒさんよ。ま、俺も相当邪悪な笑みしてるの自覚してるし、お互い様か。
そして、煙が晴れて出てきたのは、
左右反転装備の、白いISを使役する、ボーデヴィッヒさんがって、はい!?
「どう言うことなのよ、コレ!?」
「私に聞くな!」
これは夢か!?ボーデヴィッヒと戦っていたら、ボーデヴィッヒが乱入してきて…!?駄目だ、ワケわかんなくなった。
「まあ要するに…、仕留めちゃえば良いってことで!」
何か白いボーデヴィッヒが怯えてるような感じがするが、気のせいだな。何せ乱入する気概があるくらいなのだから!
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