俺屍からネギま
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暗雲
京都 天橋立近郊
あれから幾年か経ち季節は冬から春になろうとしている今日この頃では、夜も遅くなった為にまだまだ肌寒い中、巨大な異形の鬼と戦う五人の討伐隊がいた。
巨大な異形の鬼の名前は“牛鬼”
西日本で広く名の知れる妖怪で主に海岸沿いに出現し、頭が牛で首から下は鬼の胴体を持っているとされている。
しかしながら、見た目以上に恐ろしいのはその内面である。非常に残忍・獰猛な性格で、毒を吐き、人を食い殺すことを好み、人々を襲い恐れられている……そして今も討伐隊と激戦を繰り広げている。
「くそっなんて奴だ!俺たち五人がかりでも倒せないとは…」
「並の牛鬼じゃねーな、妖力も強さも半端ない…良くもまぁ御先祖はあいつを封印したもんだ。」
「落ち着いてる場合か!俺らだけじゃ無理だ、本山には連絡したのか!?」
「さっき連絡したわ!気を使って急いでも一時間近く掛かるわ。それまで私達で食い止め無いとね…
全く日本三景を牛鬼に壊されました何て本山に報告出来ないわ。援軍が来るまでの辛抱よ!」
「ああ!しかし何だって封印が解けちまったんだ?」
「大方観光客だろ?意味深な祠に興味本位で行ったら封印解いちゃいましたってトコだろーが!?…ってやばい!こりゃホントにやばいぞ?」
「ギャハハハーー!二百年振りの外なんだ暴れさせてもらうぞ!先ずはお前らを喰って、後から来る奴も喰ってたらこの町の連中を喰らい付くしてやる!!おりゃーーー!」
「かはっ!」
「きゃぁーー!」
二百年振りの外と言う事で鬱憤を晴らそうと暴れて周囲の木々や地形も破壊していた牛鬼が移動させない様に周囲を囲っていた術師二人を攻撃した。
「大丈夫か!?」
「えっええ何とか…」
「あの野郎、もう許さねーぞ!!」
「無茶するな!あいつを倒すのは俺たちでは無理だし、封印術に長けた者が居ない以上…増援を待つしかない!!」
「くそっこのままヤられるしかねーのか!?」
「何だ他愛もない…最近の術師はこんなものか?祖先がないてるぞ、ギャハギャハギャハ!!」
「調子に乗りおってからに〜」」
「堪えよ、もう少し待てば増援が…「あと三十分はあんだろーが!!どーすんだ!?」…っく、うヤバイ!」
「死ねーーー!」
牛鬼は追詰められていた術師らを攻撃しようとしたその時……
南方より黄色い光が見えたかと思えば、
サッアァァァーーーーーーーーザザッザ
高速で近づいた黄色い閃光は牛鬼と術師の間で勢い良く止まり、その黄色い閃光の正体が少年とその少年から発せられた気と魔力であった。
「かぁぁぁーーーーーーっつ!!」
少年と認識出来たと同時に少年は特大の殺気と気力と声を発し、今にも攻撃しようとしていた牛鬼の動きを止めると同時に恐怖した。
先程まで傍若無人に暴れていた牛鬼が少年の殺気を受けて微動だにしなくなる程の恐怖を感じていた。
牛鬼も、周囲にいた討伐隊も、唯一人の少年に目を奪われていたが討伐隊のメンバーの顔に喜々とした表情を浮かべた。
「若ー来てくれたんですか!?」
「皆!若だ…御陵の若様が来てくれたぞー!
「若様ありがとうございます!」
「若様が来てくれたンなら百人力ですよ!」
そう閃光の如く現れた少年は、初めて鬼と戦った時よりもやや幼さが抜け、関西呪術協会ではスッカリ若様と言う名前が定着した御陵 陣 である。
あの初陣より陣は多くの実戦を経て、十歳の少年でありながら多くの仲間達から絶大な信頼を得るに至り、関西呪術協会内部からは御陵の麒麟児、御陵の若様と称され一目をおかれている。そして関東魔法協会からは、多くの功績を上げても鬼の血が流れる御陵一族として‘西の小鬼’と侮蔑の表現として揶揄されている。
「遅くなったな……次期に治癒術師の増援も来るだろう…ケガしている奴らは下がっていろ。こいつの相手は俺がする。」
「しかしそれでは…」
「やめとけ!負傷している俺たちが居ても邪魔なだけだ…悔しいが下がろう。」
「ええ…若、御無理はしないで下さい。…増援は来るのですから、武運を祈ります。」
「「「御武運を!」」」
討伐隊の面々は陣の武運を祈ると後方に下がっていった。
「おぅ!…任しとけ。さてと、お前が牛鬼か?」
「そう言うお前は御陵か?…いや、聞かんでもお前の顔を見りゃ分かる。額にあんのは朱点童子の呪いの跡だろ…」
「分かるか…まぁ二百年以上前の妖ってんなら知ってるか。どうだい先祖は強かったかい?」
「ふ今のお前じゃ、奴らの足元にも及ばんよ。あの鬼の血も時代と共に薄まったか、伝説も弱くなったな…先祖も泣いておろうて。」
「かかかっそうかいそうかい、そんなに強いんか?会ってみたかったなぁ〜……………けどな…血が薄まっただなんて…弱くなっただ何て……本気で思ってんのかこの野郎!!!」
「な、、、何、だと…………」
先程よりも段違いな気を放出させると牛鬼はかつて見た伝説の片鱗を確かに感じたその一瞬…ザシュッ…牛鬼は真っ二つに分かれた。
「ナヌッ…………」
「散々暴れ回ったみたいだがココまでだ…あばよ。」
「……やっやりましたね!若!」
「流石は若様です!」
「俺らが散々苦しんだ牛鬼を……」
「我らよりも早く来て、牛鬼をも倒すとは流石はです。若様!」
「つーかこんな早く終わるなら下がってなくても良かったんじゃ?」
「いや勝負こそ一瞬だったが彼奴は強かった…今ので終わらなかったら長くなっていた可能性もあったからな…。」
陣は牛鬼に止めを刺すと下がっていた討伐隊が増援部隊と共に戻って来ると周りで話し出したが、ひと段落した所で陣が重傷者が居ない事を確認する。
「皆無事だな……よしっ帰っぞ!」
「「「「「はいっ!」」」」」
こうして本山に帰還した討伐隊は皆から労いの言葉をかけられれると共に治療を受けさせられるが、陣だけは勝手に出陣した事を哲心に絞られ牛鬼討伐時以上の疲労を受け逃げる様にして出て行った。
「はあぁぁぁーーー疲れたー。勝手に出ちまったのは悪かったケド…買ったんやからあんなに説教せんでもええやんか。」
哲心の説教から何とか逃げて来た陣は本山中腹にある休憩所で休んでいた。
そこに三人の人影が近づいて来た。
「聞いたでぇ〜陣はん、勝手に出陣して哲心はんに大目玉喰らったって。無茶し過ぎやで!」
「まぁまぁ、陣はんらしいやないか鶴子ちゃん。」
「しかも牛鬼を討ったって聞きました!さすが若様ですぅ! 」
「おいおい鶴子〜説教なら親父に散々食らったって…んな怒るなやぁ。しかし…千草と刀子は久しぶりやな。」
「お久しぶりどす〜今日は鶴子や刀子ちゃんと共に長とパジャマパーティーなんどす。」
「お久しぶりです若様!さっきまで皆でお話ししてたんですけど…牛鬼復活の知らせが入ったので長は警戒体制を敷く為に出て行ってしまったので……目が覚めてしまいずっと起きてたんです〜。」
怒りながら勝手に出陣した陣を咎める鶴子、そんな鶴子を宥めている同年の少女は尼ヶ崎 千草…関西呪術協会幹部に名を連ね召喚術の大家と称えられている呪術名門・尼ヶ崎家の一人娘である。
そして二人よりも言葉使いが丁寧であるが幼さのある可愛らしい少女は葛葉 刀子…京都神鳴流・青山宗家の分家である葛葉家の人間で若くしてその才能を認められており鶴子と共に鍛練を行っている。鶴子の紹介で陣らと交流が行われて以来、四人は良くつるんで交流を深めている。
「……パジャマパーティーってお前ら俺は知らねーぞ?」
「何言うてるん?女の子同士でするんですから当たり前や……」
「陣はん、ホンマは木乃実様とパジャマパーティーしたかったんじゃないんどすか?」
「ちっ違うわ!千草、何でそこで木乃実さんの名前が出てくるんだよ!」
「!?……」
千草の言葉に顔を紅くし照れながらも反応する陣を見て皆が『あぁ〜図星か。』と笑っているが、鶴子だけは陣を睨んでいる。
「若様…木乃実様には詠春様と言う人がいるんですから諦めて下さいね。」
「刀子、お前もか………(……ンなことは分かってるんだよ、ばかやろー…)」
年少の刀子からの言葉に陣はがく然とするものの、陣は皆に背を向けて呟いた言葉は誰にも聞こえない小さい言葉であったが……
「…ほら、陣はんウチらがおるんやから…なっ?」
何と無く陣の思っていた事や寂しさが分かったのであろう鶴子は陣の背中に手を当てて優しく諭す様に声をかける。
「あぁありがとな…鶴子」
鶴子の優しさが分かったのか陣は礼を言うと皆で休憩所の椅子に座り、気持ちを切り替えて話しをしだす。
「そういやぁー詠春さんって修行の旅に出るって聞いたけどホントか?」
「ん、ああそうなんよ。詠春はんが木乃実さんと婚約したのを良く思っていない連中が多くてな……木乃実さんの婚約者として相応しい漢になるゆーてな〜。」
「そうなんですか?しかしその為の後ろ盾として青山宗家に養子として入ったんやないの?」
「まあな〜ケド…お父様が後ろに居るから表立って言う人は居ないんやけど、影でコソコソと詠春はんが聞こえる位には言ってたんよ。お父様は気にするな言うてたんやけど…詠春はんはもう我慢出来なくなったみたいでな、旅に出る言うて聞かんのよ…ハァ」
「…大変何ですね。」
「まぁ木乃実さんや冬凰さんに直で物言える何てそうは居ないからな、必然的に詠春さんがそう言うやっかみを受けるんだろーな。実力は充分にあるのにな、精神的にブレやすいとこあんだよなー詠春さんって。」
「まぁな〜気持ちは分からんでも無いんやけど…来月から亜細亜や欧州に行くっちゅー話しやで。」
「何だ海外行くのか?詠春さんの事だから女には手出さないだろーが……欧州か、彼処は魔法使い達の本拠地みたいなトコだろう大丈夫か?アッチ側はかなりきな臭いって話しだぜ。」
「ウチもそこが心配何や…流石の詠春はんも魔法使いらの厄介事に首突っ込まないやろーけどなぁ。欧州何て話しが出たのはもしかしたらぬらりひょんのせいかも知れんな。」
「おいおい、麻帆良のぬらりひょんと連絡とってんのか!?冬凰さんだけじゃなくて幹部連、実の娘の木乃実さんだってぬらりひょんを嫌ってんだぞ?」
「表立ってはしてへんよ、時折影でコソコソしとるからな…まぁ詠春はんにとっては義父になるんやし 無下には出来ないんやろーな……ハァァ」
ちょいちょい
「「ん?」」
陣と鶴子が二人で話し込んでいると先程から二人の話しを黙って聞いていた千草が隣にいた鶴子の袖を引っ張ると陣と鶴子が千草に顔を向ける。
こっちこっち
「……zzz…zzz……」
千草が自身の肩に寄り添って寝ている刀子を指差す。
「「「ふっ…」」」
刀子がヨダレを垂らしながら寝ている刀子を見ると三人は顔を見合わせて笑いあう。
「もうすぐ明方だしな…俺が背負うよ、お前らも寝ろ。」
「せやな、行こっか…陣はん、一緒に寝るか?」
「何言ってんだ…たくっ、帰ったらまた親父の説教聞かないといけないんだからな、ハァ…」
鶴子が冗談目かして陣に聞くが、陣はこれからまた向かい合うであろう哲心の怒った表情を思い出し溜息をつく。
「「ふふふっ」」
鶴子と千草は再び顔を見合わせて笑いあう。
「さてと行くか…」
「「ええ」」
そして彼等は家路へ戻る……眠たそうな足取りで彼等は今を歩く…………それが明るい未来である事を祈って
この一月後
青山 詠春は武者修行の旅に出る…
さらに三ヶ月後 1981年 御陵 陣 10歳
魔法世界にてヘラス帝国とメセンブリーナ連合の「大分烈戦争」が開戦する。
ナギ・スプリングフィールドと言う十三歳の少年が率いる紅き翼がメセンブリーナ連合の側に付く。
その中に京都神鳴流と言われる東洋の剣術を使う日本人が居た事が確認される。
後にその日本人が、関西呪術協会の長・近衛 木乃実の婚約者であり関西呪術協会の名門・京都神鳴流の青山宗家の養子であると確認される。
確認の後、メセンブリーナ連合は関東魔法協会・近衛 近右衛門を通して関西呪術協会に徴兵を打診…いや、強制的徴兵を命ずる。
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