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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第178話

 
前書き
また、間を開けて申し訳ないです。

依頼された小説の手直しが予想以上に時間がかかりました。
でも、できたのでこちらに力を注げます! 

 
がぼっ、という水っぽい音が聞こえた。
上条は自分の口から漏れる音だというのに気づいて、面を喰らう。
水位は結構な深さで、泳ぎは苦手ではないが衣服を着ているのと、パラシュートの大きな布が身体に絡まったという要素が重なり浮く事ができない。
混乱し、必死に水をかく。
しかし、水を吸ったパラシュートは重く、どれだけ上に行こうとしても進むどころか、逆に沈んでいるように思える。
突然、川に入ったので体内に残っている酸素の量も多くはなく、次第に苦しくなってくる。
そんな上条を麻生は上の方から見ていた。
川に入って、すぐにパラシュートのリュックを外したのですぐに川から脱出できた。
上条は一向に上がってこないのを見て、潜るって見れば必死の形相で全身の筋肉を使い、水中から出ようとしている。
混乱しているのか、パラシュートを外すという考えまで頭が回らないらしい。
おそらく、麻生の姿が見えれば多少は冷静さを取り戻すかもしれないが、水面から太陽の光が差し込んだ影響で麻生の姿を捉えられない。
内心でため息を吐きながら、上条の所まで潜る。
能力を使い、水流を操れれば簡単に助けられるのだが上条の右手が水中に触れているので、水流は操れない。
水でなくても応用さえすれば助けられるが、それはそれで面倒なので自力で助けるという選択に至った。
傍まで潜ると、ようやく麻生の姿を確認する事ができた上条は安堵したのか、強張っていた身体から少しずつ力が抜けていく。
暗く、沈んでいく恐怖を一人で感じていたが、麻生が来てそれが薄れたのだろう。
それでも苦しい事に変わりはない。
麻生はリュックを外すのは後回しにして先に水中から出るのを優先した。
水面に向かって視線を向けた瞬間、それは大量の気泡と共に破られた。
白い空気のカーテンから白く細い腕が伸び、上条の腕を掴む。
どうやら、近くを通っていた誰かが助けに来てくれたのだと麻生は判断した。
そのまま二人掛かりで上条を引き上げ、水面を割る。

「がっは!!
 ごほっごほっ!」

「手間かけさせやがって。」

悪態を吐く麻生の言葉を聞きつつ、上条は恋しかった酸素を吸い込む。

「岸に向かいます。
 そのまま力を抜いてくださ」

と、少女の声が聞こえ、麻生は少女に視線を向ける。
ちょうど少女も麻生の方に視線を向けていたので、ぶつかり言葉を切った。
少女には見覚えがあった。
天草式所属の五和だ。
五和の方もまさか麻生だと思っていなかったのか、唖然とした表情を浮かべている。
当の上条は呼吸するので精一杯なのか、五和であることに気づいていない。

「言いたい事はあるかもしれないが、とりあえず岸まで行くぞ。」

「は、はい!」

少し顔を赤くしながら、協力して岸まで泳いで行った。
底の浅い河原まで近づくと、上条はそこで尻餅をついた。
麻生は気怠そうに肩を落としながら、濡れた髪をかき上げる。
衣服は元より、パラシュートの布地が水を吸ったせいで、やたら身体が重たく感じる。
リュックを外そうと手を伸ばそうとして、それよりも早く五和の手が伸びた。
若干悪戦苦闘しながらも、バチン、という大きな音と共に、固定具から解放され、絡みつくパラシュートから逃れる事ができた。
ゆっくりと立ち上がり、上条は状況を確かめる。
陽は高いので今はお昼すぎぐらい、周りには人の姿が見えない。
デモや抗議活動の影響で外出を控えているのかもしれない。
そうして上条は少女を見る。
服装はピンク色のタンクトップに、膝上ぐらいまでの長さのパンツ。
肩まである黒い髪に、二重まぶたが特徴的な顔立ちで、全体的にほっそりとしたシルエットの女の子。
その少女の顔に上条は見覚えがあった。

「確か、天草式の五和だっけ?」

「あ、はい。
 ご無沙汰しています。」

ペコリ、と可愛らしく頭を下げる。
本来、天草式のメンバーはロンドンで生活している。
なのにフランスにいる理由は一つしかない。

「お前もC文書の一件でフランスに来たのか。」

「どっ、どうしてその事を知っているのですか!?
 確かに私達はC文書について調査を行っています。
 私達天草式がようやく探り当てた糸口をそんな簡単に。
 さすが、麻生さんです!
 元女教皇(プリエステス)様を無傷で勝利したお方ですね!」

間違っていないのだが、熱い視線を浴びて身体がむず痒くなってきた麻生。
純粋な眼差しには慣れていないのかもしれない。
実際には土御門から教えて貰った情報なのだが、教えたら説明が長くなりそうなのでしなかった。

「で、でも、驚きました。
 突然、空からパラシュートで降りてきたのですから。
 何があったのですか?」

「土御門と一緒に学園都市からここまでやってきたんだ。
 空港とかに降りたら危険だから、途中下車のノリで空からパラシュートで・・・・」

あの時の恐怖を思い出したのか、軽く身震いしながら顔を青くして上条は語る。

「ツチミカド、さん・・・ですか。」

「知り合いだ。
 そっち関連のな。」

麻生の補足的説明を聞いて、ある程度五和は納得した。
そっち関連、つまり魔術側の人間であるということ、麻生の知り合いということで合点がいった。

「てか、建宮とかはここにいるのか?」

麻生は軽く見回して、他の天草式のメンバーの姿が見えないを確認して尋ねる。

「建宮さんを含む、戦闘メンバー五二名。
 総員でフランス国内の主要都市を洗っています。
 イギリス清教の要請で、フランス内の地脈や地形の魔術的価値を調べていたところです。
 私はアビニョンを担当していて。」

五和の話を聞きながら、ここがアビニョンであること。
そして、敵地である事を上条は確認した。
敵地、というのを意識すると少しだけ神経が鋭くなるのを感じる。
説明を続けていた五和だが、ハッと何かを思い出した。

「あ、あの、話を続ける前に荷物を取ってきても良いですか?」

「荷物?」

「橋の上に置いてきちゃったままなので。
 い、一応、盗られる心配もありますので。」

橋、というのは近くにある、半分ぐらいで崩れてしまっているアーチ状の石橋の事だろう。
どうやら五和はあそこから川に飛び込んできたようだ。
そこでようやくある事に気づいた上条は視線を逸らしながら言う。

「その荷物にさ、五和の着替えって入っているのか?」

「え?
 ま、まぁ、天草式は隠密行動に特化した宗派ですから。」

いきなりの質問にややキョトンとしながらも、そう説明する五和の表情はどこか誇らしげだ。

「洗剤用の荷物のほとんどはホテルに置いていますけど、尾行や逃走の為に、手荷物の中にもそういったものを一式用意しています。
 今の所、使う機会はありませんけどね。」

「そっか、それは良かった。」

まだキョトンとした顔を浮かべている五和は、上条の言葉の真意に気づいていない。
助けを求めるように上条は麻生に目を向けるが、彼も気づいているのか完全に背を向けて川を眺めている。
コイツ、丸投げしやがったな、と悪態を吐きながら、視線を外しつつ指で指し示す。
その指の先を辿っていくと、自分の胸元を指しているのが分かる。
川の水で濡れたため、色々と透けた挙げ句に布地が張り付いて全体のシルエットまで浮かび上がってしまっている、ピンク色のタンクトップを。
自分の状態に気づいた五和は顔を真っ赤にしながら、腕を交差して胸元を隠す。

「す、すぐに着替えていきます!!」

目を伏せながら、全力で石橋の方へ走って行く。
思い人である麻生にも見られたことが相当恥ずかしかったようだ。
実の所、上条はちょっと、いやかなり恐れていた。
インデックスや美琴のように噛み付いたり、電撃の槍を飛ばしてくるというエキセントリックな体験をしている上条は、もしかしたら五和も、と懸念していた。
しかし、五和はかなり良心的な人格の様で胸を撫で下ろす。
と、上条もある事を思い出したのか、麻生の方まで駆け寄り胸ぐらを掴んだ。

「テメェ、後ろから蹴りやがって死ぬかと思ったぞ!!」

かなり根に持っているらしく今にも殴りかかりそうな剣幕で言う。
そんな上条を見て、鬱陶しいそうな顔をしながら答える。

「あのまま強硬手段に出なかったら、フランスを通り越していたかもしれないだろ。
 親船が用意した飛行機だ。
 無駄には出来なかったはずだ。」

親船の名前を出されて、怯む。

「そ、それでももうちょっとやり方が・・・」

「時間がなかったんだ。
 それくらい了承しろ。」

「それくらい、って言葉で片付けられないほどのモノを体験したんだけどな。」

ため息を吐きながら、五和が戻ってくるまで待つ。
一〇分くらいして、肩に大きめのバッグを背負い、服を着替えた五和が戻ってきた。

「お、お待たせしました。」

まだ顔を少しだけ赤くしながら、二人は五和の服に眼をやる。
彼女の服装は、アイスクリームのような薄い緑色のブラウスに、ふくらはぎが見える程度の長さの、焦げ茶色のパンツ。
ブラウスの生地は太陽にかざすと透けてしまいそうなほど薄い。
五和はそれを、ボタンで留めるのではなく、おへその上辺りで布地を強引に縛っている。
裸の上半身の上から、直接。
下には何も着ていない為か、胸の谷間が妙に強調されているような気がする。
上条はギョッとした顔つき、麻生は苦笑いを浮かべながら。

「五和さん?」

「お前・・・」

「しっ、仕方がなかったんです!
 元々、タンクトップの上から羽織る事で服装の印象を変えるためのアイテムだったんですから!
 何も言わないでください何も言わないでください!」

羽織るようなのか、よく見るとブラウスにはボタンがない。
前で縛る以外に留める方法はない。
彼女自身、今ある手持ちだけでは無理がある事は承知していたのだろう。
二人の何とも言えない視線を受けて身を縮こませてしまった。

「んで、これからどうする?」

あまり服に関して話を進めると、五和がひどい事になりそうなので、さりげなく麻生がフォローを入れる。
それに心を打たれながらも、五和は話に乗っかる。

「ツチミカドさんの事はよく分かりませんけど、お二人もC文書を回収しに来たのなら、その方と合流するまで行動を共にしませんか?」

「フランス語も分からないし、パスポートもないし、俺達としてはありが」

「俺はフランス語、話せるぞ。」

「・・・・・・・・嘘だろ?」

「いや、何で嘘つく必要がある。」

信じられないような表情を浮かべる上条。
どうも、同じ高校に通い、馬鹿という括りに入っていると思っていたが、蓋を開ければ学力の差がありすぎて妙な敗北感に打ちひしがれる。
ネガティブな雰囲気を出しながら、首を垂れる上条を見て戸惑いながらも話を続ける。

「と、とりあえずは一緒に行動する形でいいですか?」

「ああ、問題ない。」

「では、落ち着いて座れる場所に移動しましょうか。
 色々と話をする必要があるみたいですし。」

五和の提案を受け、上条は自分の格好を見下ろして。

「思いっきりずぶ濡れなんだけど。
 せめて、顔や服についている泥を拭いたい。」

「そっ、それならですね。
 わ、わたっ、私おしぼり持ってますから」

五和が言い終わる前に、上条の頭にバサッとタオルが被せられる。
びっくりして上条が振り返ると、大きな犬と一緒に河原を散歩していた白人のおじいさんが振り向きもしないで、『返さなくて良いよ』とでも言いたげに面倒臭そうに片手を振っている。
頭に乗っかったタオルを手で取りながら。

「はぁ、親切な人っているんだなぁ。」

滅多触れる事のない、人の優しさに感動している上条に鞄から出したおしぼりが宙を彷徨う。
しかし、五和の本番はこれからだ。
同じく濡れているであろう麻生におしぼりを渡そうと視線を向けて、気づいた。
麻生の服や髪が全く濡れていない。
それどころか泥すらついていない。

「あ、麻生さん、服が・・・・」

怪訝そうに尋ねる五和を見て、麻生は答える。

「濡れた服が張り付いて気持ち悪いからな。
 勿体ないが能力を使用して乾かした。
 泥もその時に掃ったよ。
 うん?
 どうした、五和?」

「い、いえ、なんでもないです。」

肩を落としながら手に持っているおしぼりを鞄に戻す。

「そろそろ向かうか。
 五和、道案内を頼む。」

「ま、任せて下さい!」

意気消沈した五和だったが、麻生に頼られすぐに元気を取り戻し、街に向かって三人は足を運ぶ。 
 

 
後書き
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