とある星の力を使いし者
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第177話
学園都市・第二三学区。
航空・宇宙産業だけに特化した学科で、学園都市の主要な空港も全てこの第二三学区に集中している。
滑走路やロケットの発射場ばかりが並んでいるこの学区は、他とは違って背の高いビルが乱立しているイメージはない。
見渡す限り平面のアスファルトが続いていて、その所々に管制塔や試験場などの建物がポツポツと建っている感じだ。
「石と鉄でできた牧場みたいだな。」
電車を降りた上条は、ホームの向こうに広がる景色を眺めながらそう言った。
大覇星祭の時にオリアナ=トムソンと戦った場所でもあるが、あの時よりもさらに警備が厳重になっているような印象があった。
麻生が食材を買った地下デパートには上条もいた。
広すぎる店内で入れ違いになったりと出くわす事はなく、デパートを出てから親船に話しかけられ、公園に同行した。
と言うと聞こえはいいが、実際は拳銃と思わせるような物で無理矢理連れて行かれた。
あのままここまで来たので、上条の両手には買い物袋が握られている。
駅にあったコインロッカーを見つけ、中に入れていく。
研究者が多い為か、この街のコインロッカーは完全密封で、冷蔵や冷凍までオプションで備わっているのだが。
「・・・高っ。
一時間でこの値段は普通じゃねぇぞ!?」
「にゃー。
素直に買い物袋は捨てて、後日改めて安いスーパーで買い直した方が結果的に安上がりっぽいぜい。」
「冷蔵とかのオプションがついているんだ。
料金が高くなるのは当たり前だ。」
「うわっ!?」
突然、後ろから麻生の声が聞こえ、上条は驚きの声をあげながら後ろを振り返る。
土御門はそれほど驚いてはなく、いつも通りに返事を返す。
「荷物を置いてきたのかにゃー?」
「ああ、こいつみたいにコインロッカーに置いていたら金を無駄に消費するからな。」
「でも、食べ物を粗末にするのは何となく嫌なんだよな。」
捨てるという考えはないらしく、ぶつぶつ愚痴を言いながらコインロッカーに買い物袋を入れていく。
冷蔵オプションをつけたと同時に麻生がそのコインロッカーに触れる。
「?」
二秒ほど触れた後、麻生は言った。
「能力でハッキングした。
一回の使用だけ、どれだけ入れていようと無料になる。」
「・・・・・・・・・・・・・何か、優しくて怖い。」
「別に、戦っている最中に金の事が気になって集中できませんでした、とか言われても迷惑だからな。」
軽くそっぽを向きながらぶっきらぼうに言う麻生。
さすがに緊迫した状況になれば、そんな事を考える余裕は無くなる。
「どちらにしろ、お前は対価を要求しろ。
無償で働いて、正義の味方のように動いていたら、いつか足元を見られて利用されるぞ。
ギブアンドテイクだ。
無償で相手を助けるのは勇ましいが、その理念に溺死しないように注意しろ。
摩耗して絶望するぞ。」
「何にだよ。」
「自分にだ。」
目を伏せながら語る麻生の言葉は、どことなく重みを感じた。
この話題はこれで終わり、と暗示させるかのように話題を変える。
「飛行機はどこだ?」
「国際空港行きのバスに乗る。
そこに親船が用意してくれた飛行機がある。」
「パスポートは必要ないのか?」
「馬鹿かお前は。」
その言葉に上条はむっ、と眉を寄せ、麻生は言葉を続ける。
「俺達は旅行しに行く訳じゃない。
統括理事会の一人である親船すら秘密裏に行動したんだ。
これがばれたら国際的非難どころの騒ぎじゃない。
最悪、学園都市の。」
「ストップだ、キョウやん。」
有無の言わせない威圧感の籠った声で土御門は麻生の言葉を遮る。
それを聞いた麻生はそうだったな、と言葉をこぼし納得して。
「ともかく、パスポートの一つや二つ気にするな。」
「ちょっと待て。
さっき言いかけたのは何だよ。
学園都市の、の続き。」
「バスが来たぜい。
さっさと向かうぞ。」
上条の問い掛けに二人は耳を傾けず、バスに乗り込む。
納得のいかない表情を浮かべ、どこか置いてけぼり感を感じながら、上条も後に続く。
学園都市の闇。
そんな言葉を聞いたら、上条は誰の静止も聞かずに動き出すに決まっている。
上条を巻き込ませるわけにはいかないと思った土御門は、麻生の言葉を遮ったのだ。
当然、遮った意味を理解した麻生もそれ以上の事を口にはしなかった。
第二三学区は基本的に徒歩の移動ではなく、規定のバスを利用する事になる。
滑走路だらけで建物のない第二三学区は、とにかく道がまっすぐだ。
速度制限もかなり甘いらしく、道路標識は時速一〇〇キロまでオーケーと書かれている。
その地平線の向こうから、入道雲のような白い水蒸気が噴き上がるのが見えた。
地響きに似た低い音が、震動となってガラスをビリビリと震わせる。
麻生は顎を手で支えながら、窓の外を漠然と見つめながら隣にいる土御門と上条の会話の内容が耳に入る。
どうやら震わせた原因はたった今、ロケットが発射されたらしい。
それからインデックスを家に置いてきてしまったなど、どうでもいい話だったので話に入る事なく、滑走路と航空機しか見えない退屈な風景を見続けた。
「ところで、俺達はどこへ行くんだ?」
「フランス。」
「ヨーロッパか、また遠いな。
飛行機の往復だけで、一〇時間くらい持っていかれそうだな。」
「いや、一時間ちょっとで着くにゃー。」
「は?」
いきなりの謎の発言に、上条は思わず聞き返した。
説明するのが面倒なのか、空港のターミナルビルからやや外れた所にある、滑走路の方を指差した。
そこには全長数十メートルクラスの大型旅客機がいくつか並んで停められている。
「ほら、あれに乗るからにゃー。」
「おい、嘘だろ。」
半分絶句しながら、土御門に確認する。
あの飛行機には、一回だけ乗った事がある。
「あれ、だよな。
確かヴェネツィアから日本に帰ってくるときに利用した。」
「何だかそうらしいにゃー。
オレは『アドリア海の女王』事件にはあんまり関わっていないから詳しくは知らないけど。」
「時速七〇〇〇キロぐらい出るヤツ。」
はっはっはっ、と土御門は笑いながら、隣にいる麻生に意見を求めるように言う。
「何事も速い方が良いだろ。
なっ、キョウやん?」
「あ?
まぁ、早いに越したことはない。」
「嘘だろ!
恭介も経験してるじゃねぇのか!?
あれ乗った時のG半端じゃないんだぞ!!」
「んなのもん数分も乗っていれば慣れた。」
「一言で済ませれるレベルじゃねぇから!!
えっ・・・マジで乗るの?
俺はあまり・・というかかなり・・・いや、絶対お勧めしないぞ!」
「はいはい、グダグダ文句言わずに。
時間は待ってくれないにゃー。」
上条は最後まで文句をつけたが、土御門は文句を一切聞き入れず取り合ってもくれない。
麻生も喚く上条を鬱陶しいそうな顔をしながら、三人は業務用の扉や通路を潜り抜け、一般的なゲートを使わずに超音速旅客機に向かった。
「C文書。
それが今回のカギとなる霊装の名前だにゃー。」
広い機内に、土御門の言葉が響く。
超音速旅客機のサイズは、一般的な大型旅客機より一回り大きい。
乗務員を除けばそれをたった三人で利用しているのだから、『寂しい』というニュアンスが入るほど広々と感じてしまう。
どうせ三人しか使わないのだからと、麻生と上条と土御門は一番高級なファーストクラスのど真ん中を陣取っていた。
箱詰めのようなエコノミーとは違い、足を伸ばしてもスペースが余るぐらいの余裕があった。
土御門の言葉を聞いて、麻生もC文書について語る。
「確かC文書の効力は『ローマ教皇の発言が全て「正しい情報」になる』だったか。」
「ご名答。
さすがはキョウやんだぜい。
正式名称はDocument of Constantine。
初期の十字教はローマ帝国から」
「土御門、そんな説明をしても当麻が理解できるわけがない。
できたとしてもそんな情報は必要ない。
簡潔に重要な事を話せばいいさ。」
二人の会話はいつもの友人同士で喋っているように聞こえるかもしれないが違う。
完全に二人とも普通の高校生と言う領分を逸脱していた。
麻生の言葉を聞いて、少しだけ考えた土御門はそれでもいいか、と一言置いて話を続ける。
「キョウやんの言うとおり、簡潔に説明するぜい。
さっき言った通り、C文書の効力は『ローマ教皇の発言が全て「正しい情報」になる』。
ただ世界中の人間に効くのかと聞かれればそうでもなく、『ローマ正教にとっての「正しさ」なんてどうでも良い』と思っている人間や、『たとえ間違っていても俺は構わない』と思っている連中までは操れない。
けど、通じればローマ教皇がどんな無茶な発言をしても、何の根拠もなくそう信じてしまう。」
「C文書が作られた時代もかなり前。
権力者の威厳を保つために作られた霊装だろう。
威厳がガタつけば、それだけ国が荒れる。」
淡々とした口調でC文書について説明していく二人。
ある程度説明した所で、土御門は隣に座っている上条に視線を向けて。
「聞いているかにゃ、カミやん?」
「おごごごごごごごごごごごごごぶぶぶぶっ!!」
土御門の問いかけに、何も答えられない上条。
時速七〇〇〇キロ。
それが生み出す強大なGで、上条の内臓は思い切り圧迫され、まともに言葉を出せるような状況ではない。
逆に一度しか乗っていないのに、平然と喋る事ができる麻生が異常に見えて仕方がない。
「聞いているぽいから話を進めるぜい。」
「うぼが!」
「返事が気持ち悪すぎるだろ。」
麻生の感想に一言文句を言いたかったが、今はGに耐えるので精一杯だ。
「ローマ正教はこれを使って、『学園都市は敵だ』とか情報を『正しい』ものだと信じさせようとした。
だが、学園都市はあまりにも世界に名が知れ渡っている。
良い意味でも悪い意味でも。
結果、人々の先入観と霊装の力がぶつかり合い、不安定なデモが発生したんだ。」
「C文書は万能の霊装に聞こえるかもしれないが、欠点もあるぜい。
一度『正しい』と設定した事柄は。同じC文書を使っても消すのは難しい。
誰にでも扱えるわけではないし、場所だって特定されるにゃー。
本来ならバチカンの中心部に据え置き、地脈を使って、一気に世界中へ命令を飛ばすって訳だ。」
二人の口から説明される情報を聞いて、上条は疑問に思った事を必死になって口にする。
「なっ、何故、フランス?
C文書は、バチカンじゃ、ないと、使えない、んじゃ・・・」
「ん? そうそう、それはだな。」
「そ、それに、解除できない、のなら、俺達が動いても意味が、ないんじゃあ・・・・」
「ええとだにゃー、それを説明するにはどっから話せば良いんだっけ?」
土御門が言いかけた時、機内のスピーカーと柔らかい電子音が聞こえてきた。
さらに続けて、合成音声のように整えられた女性のアナウンスが流れる。
外国語なのだが、単純に英語とも思えない。
それを聞いた土御門は渋い顔つきになる。
「そろそろ時間が無くなってきたみたいだにゃー。
カミやん、本当に大丈夫か。
辛かったら深呼吸してみろ。」
言われるがまま、ゆっくりと深呼吸する。
やっている内に気分が良くなった気がした。
しかし、実際の顔色は悪いのか土御門は上条の顔色を窺った時に表情を曇らせた。
「こりゃ一度吐ちまった方が楽になるんじゃねーの?
ほらほらカミやん、案内するからこっち来いこっち。」
土御門はそう言いながらシートベルトを外して席を立つ。
旅客機が飛んでいる最中にシートベルトを外して席を立つのはよろしくなった気がする、と頭の中で朦朧と考えながらでも、土御門は気分を良くしてくれようとしているのでのろのろとシートベルト外して席を立つ。
麻生も同じように外して上条の後に続く。
通路を歩き、扉を開け、細い通路を歩き、頭がぶつかりそうなほど低いハッチを潜り抜け、金属が剥き出しで何やら周囲から轟々と音のする所まで歩いて行った。
どこにいるのか分からない上条は小首を傾げながらも着いて行く。
土御門は上条と麻生にリュックサックのような物を渡す。
「はいこれ付けて。」
「?
土御門、これって一体・・・」
「大丈夫大丈夫。」
何が大丈夫なのかさっぱりだが、麻生は何も言わずにリュックサックを付けているのでとりあえず上条も習って付ける。
土御門もすでにリュックサックのベルトを身体に巻いている。
傍から見て、リュックサックの両肩やお腹や胸にベルトを固定されいる方式の、何やらやたらゴツい仕組みだ。
見よう見まねで固定器具を留めていく。
「よし、二人ともオッケーだにゃー。」
壁についている缶詰の蓋くらいの大きなボタンに掌を叩きつけ。
「じゃ、思う存分吐いちゃおうぜーい!!」
ごうん、と何やら妙な音が聞こえてきた。
何かの太いポンプが動いているのだと判断した瞬間、ガバッと唐突に機体の壁が大きく開き、その向こうに青空が見えた。
状況が掴めず目が点になった上条だが、強烈な烈風が機内に吹き荒れ、あっという間に全てが機体の外へ放り出されそうになる。
「つっ、つつつつつつ土御門ォーッ!?」
慌てて機内の壁の突起に両手をかけたが、何秒保つかも分からない。
轟々と風が流れる中、土御門はニヤニヤと笑いながら。
「さあカミやん、準備は終わったから思う存分吐いちゃうにゃー。」
「吐いちゃうにゃーじゃねぇよどうなってんだ!!」
「馬鹿正直にフランス空港に着陸しちゃったらローマ正教のクソ野郎どもにバレちゃうにゃー。
あくまで隠密。
忍者の如く、極力見つからないようにしないとだぜい。」
「アホかテメェは!!
機体の速度とか考えろ!
時速七〇〇〇キロオーバーで」
不満を並べな気が済まないと言った調子で、上条は引き剥がされないように必死に両手に力を込めながら文句を垂れる。
そこに悪魔のような、無慈悲な声が聞こえた。
「さっさと行け。」
「えっ・・・」
上条に向かってそれほど強くはないが蹴りが飛んできた。
蹴った犯人は麻生恭介である事を確認したと同時に、上条の身体は青空の元に投げ出され、絶叫が空に響き渡る。
「ぎゃああああああああああああああああああッ!!」
手足をばたつかせながら上条は下へ下へと落ちていく。
それを土御門と麻生は見つめながら。
「んじゃ、カミやんの事を頼むぜい。」
「やっぱりそうなるよな。」
「この身体じゃ、守り切れるか心配だしな。
一人の方が動きやすい。
連絡があったらこちらからかける。」
「まぁいいさ、あいつのお守りは慣れている。」
皮肉な言葉を残して、麻生は躊躇うことなく空へ身を投げ出す。
そのまま全身を使って能力を使わずに、風や空気抵抗を利用して上条の真上に移動し維持する。
リュックサックにはパラシュートが入っていて、一定の高度になると自動で開く設定になっている。
何とか無事に着陸は出来ると思ったが、地面に目を向けて、思わず顔が引きつった。
着陸するところは一〇〇メートル以上の川幅を誇るローヌ川のど真ん中だったからだ。
(あいつのお守りは何かと不幸が付きまとうな。)
つくづくそう思いながら、二人は川に着水した。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています
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