ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~
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ALO編
episode2 思い出の行方3
「助かったぜ、ホントにな……」
一人きりになった空間で、俺は安堵の溜め息をついた。
モモカから聞いた預り倉庫……結構にバカ高い値段だそうだが……のあるテントへと向かいながら、その場所を教えてくれたモモカのことを思う。彼女はまだ何か言いたげではあったが、「今日はもう落ちる」という嘘で誤魔化して別れ、こっそりと一人街を歩いていた。
俺のストレージに眠るものの数々に、無言で想いを馳せながら。
(あれは……なんなんだろうな……)
街に来る途中、俺はモモカとの出会いのせいでうやむやになっていたステータス欄の確認を精緻に行っており、その過程で当然ストレージ欄も開いてその中身を確認していた。SAOからの謎の引き継ぎ現象……ステータス画面に見られたそれが、アイテムの欄にもあるのではないかという疑いを、いや、期待を持って、だ。
まあその可能性は裏切られた。ただし、半分だけ。
中にあったのは、俺には読めない……というか、文字化けしたアイテム群だった。この状況であれば間違いなく、「あの世界」から引き継がれてきたアイテムデータが破損した結果だろう。恐らくステータスはこちらの世界との互換性があったのだが、アイテムはそうではなかった、という塩梅か。残念と言えば残念だが、しかしこれに落ち込んでばかりはいられない。
あの世界からの引き継ぎ。
壊れているとはいえ、あの世界で手に入れたモノたち。
常識で考えれば、破損データなどはすぐに捨てるべきだろう。GMに見つかったら厄介だし、それでなくてもこの手のゲーム、そのうち自動で修復されるかもしれない。最悪、破損データが新たな、そして致命的な破損をもたらす可能性だってあるのだ。
しかし俺は、それらのアイテム達をどうしても捨てることが出来なかった。
勿論、例え大事に取っていたとしてもエラー検出プログラムに引っかかってしまえばそこですぐに消去されてしまうことに変わりは無いのだが、それでも俺自身の手で「消去」の文字を押すことは出来なかった。
どうして捨てられるだろう。
『攻略組』への俺の、行商人としての協力を可能にしてくれた、《ブレイバー・バック》。
『冒険合奏団』の面々と成し遂げた、数々の戦利品達。
最後のその瞬間まで俺を守り続けてくれた、《フレア・ガントレット》。
俺に、仇打ちと最後の戦いへと赴けるだけの力を与えてくれた、《カタストロフ》。
エギルが願掛けにくれた遺品、《フラッシュフレア》。
俺を支え続けてくれた、数々のアイテム達を。
そして何より。
あのアイテム軍の中には、「あの結晶」があるかも知れないのだから。
◆
「あっぶねえ……」
預り倉庫は確かに普通のゲームに比較してバカ高く、並大抵の金額では手が出ない額だった。しかし有難いことに俺のストレージに表示されたユルド……あの世界では、「コル」と呼ばれていた通貨は、掃いて捨てても一向に構わんようなレベルの桁を表示していたので、なんの問題もなくストレージぶんくらいの倉庫を借り受けられた。
(にしても、こんなに金あったかな、俺)
最初俺はこの桁が不思議だった。
俺が最後に持っていたSAOでの金額は確か、七十五層攻略戦の直前にエギルが今までの滞納分として渡してくれたものだったはずだ。それは確かに巨額ではあったものの、それでも今の俺の所持ユルドから見ればおよそ半分ほどにしかならないはず。
なぜこんなに増えているのか。
というか、この数字は一体どこから来たのか。
一向に覚えのないその数字とにらみ合い、そして。
「……もしかしたら、アイツらか?」
考え抜いて、ある一つの可能性に思い至った。
(俺が、ギルドリーダーだったんだよな……)
ギルド、『冒険合奏団』。
かつて俺の最愛の人が創り、率いてきたそのギルドは、あの事件以降もシステム的には消滅したわけではなかった。彼女の除名のあとは、名目上サブリーダーとして登録されていた俺が持ちあがりでリーダーになったはずで、その俺がギルド解散の操作をしていないからだ。
全く気付かなかったが、日頃の俺の雀の涙程の稼ぎからもギルドへの上納金が引かれていて金庫へと溜まっていき……それがギルドの貯金として溜められていたというわけだ。
そしてこの桁違いの額、勿論俺だけが稼いだものではない。
と、いうことは。
(どんだけ稼いだんだよ、あの二人……)
思わず苦笑いをする。
脳裏に浮かぶ、二人の顔。いつも体育会系の元気のいい笑顔の男と、何を考えているのか分からない無表情の美少女。あの二人は一体、何を考えてここまでの金を稼いだのか。俺が使いもせずにただただ溜めこむだけだった資金を、どんな気持ちで納めていたのだろうか。ギルド、『冒険合奏団』の一員であり続けてたのだろうか。
苦笑するしかない。
(また会ったら、二人にはなんか礼をしねーとな…)
ともかく。
そのおかげで俺は、バカ高い倉庫も自由に使うことが出来て。
大切な思い出を、しっかりと……一時的とはいえ……とっておくことができたのだった。
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