DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章
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五章 混沌に導かれし者たち
5-18老人と若者
広場に着くと、ヒルタン老人の講義は、ちょうど終わったところだった。
「講義を聞けなかったのは、残念ですけど。今なら、声がかけられますね!」
「どこまでも、前向きだな」
「もちろんです!さあ、行きましょう!」
意気込むホフマンを先頭に、件の老人に近付く。
ホフマンが、老人に声をかける。
「すみません!ヒルタン老人ですよね!」
「なに?海に詳しい老人とは、儂のことかじゃと?」
声をかけられ、問い返す老人。
「……明らかに、そうは言ってないよね」
「……また、面倒くさそうな爺さんだな」
小声で話し合うミネアとマーニャ。
のんびりと見守るトルネコ。
成り行きを見つめる少女。
ホフマンが、明るく返す。
「はい!商売の神様のような方で、海にも詳しいのが、ヒルタン老人だと聞いてます!」
「莫迦者!儂は海のことだけじゃなく、世界のことに詳しいのじゃ!出直して参れ!」
「ええっ!?」
老人に一喝され、目を白黒させるホフマン。
「……やっぱ、面倒くせえジジイだったな」
「……出直してくるしか、ないかな」
また、小声で話し合うマーニャとミネア。
少女が進み出て、老人に問う。
「おじいさんは、世界のことに、詳しいの?」
「そう、言っておるじゃろう」
「それなら、海のことにも詳しい、のよね?」
「勿論じゃ」
「それなら、ホフマンさんは、間違ってないと、思う。」
「なんじゃと?」
「ユ、ユウさん!」
「ホフマンさんは、馬鹿じゃ、ない。」
少女を睨み付ける老人。
見つめ返す少女。
慌てるホフマン。
暫し、鋭い眼光で少女を見据えていた老人が、にやりと笑う。
「ほほう。其方、少しは骨がありそうじゃな。どうじゃ、儂の試験を、受けてみるか?」
(骨が、ある?……骨は、みんな、ある、よね。試験?……なんの?)
トルネコが明るく口を挟む。
「あらあら、ユウちゃん、すごいわねえ。ヒルタンさんの試験に受かれば、すごい地図がもらえるっていうし。受けてみたら、どうかしら。」
「……嬢ちゃんもだが。姐御も相当、大物だな」
「……今に、始まったことでもないけどね」
「そうなの。うん、わかった。受けてみる」
老人が、声を張り上げる。
「では、問題じゃ!商売において、一番大切なこと、とは何かな?」
「……?」
(一番、大切な、こと?……そんなの、決められるの?)
考える少女。
笑みを浮かべて、見つめる老人。
(わたしは、商売のことは、わからない。だから、わからないのかな。このおじいさんは、わかる、のかな。でも、一番なんて。やっぱり、ないんじゃ、ないかな)
考える少女。
笑いを収め、表情を変える老人。
「むむっ!天晴れ!何も言わない……。つまり、沈黙は金なりじゃ!」
「???」
(お客さんに、なにも言わなかったら。商売は、できないんじゃ、ないの?)
「よし。其方に、宝の地図を遣わそう。若い頃に手に入れたが、遂に記された秘密を解き明かすことが出来なかった……。受け取るが良い!」
「……ありがとう?」
混乱しながらも、差し出された地図を、受け取る少女。
「其方なら、その地図の秘密を、解き明かすことが出来るかも知れぬな。頑張るのじゃぞ!」
「……ありがとう」
首を捻りながら、仲間の元に戻る。
「すごいですね、ユウさん!」
「……よく。わからない。どういう、こと?」
「……さあ?」
「沈黙は金なりというのは、いつも黙っていれば良いということではなくて。黙るべきときを知ることが、大事だということです。雄弁は銀、沈黙は金とも言いますね」
「……そう。一番なんて、決められないものね。そういう、ことなのね。」
「なるほど!そういうことですか!さすが、ヒルタン老人!深いです!」
「そうか?いちいち、間違った方向に引っ掛けようとしやがってよ。面倒くせえだけじゃねえか」
「宝の地図ね。伝説の武器と、関係あるかしら。ヒルタンさんに聞いても、そこはわからないわねえ。この地図以外のお話を、少し聞いていこうかしら。」
「ぼくも、お話を聞いていきたいです!」
「オレは、パスだな。宿に戻ってるわ」
「僕も、いいかな。おふたりに、お任せします」
「わたしも、よくわからなそうだから。宿に、戻るね」
老人と話し始めるトルネコとホフマンを置いて、三人は宿に戻る。
宿に戻った三人は、疲れた様子で休憩所に座る、老婆に目を留める。
「なんだ?辛気くせえな」
「悩み事でも、あるのかな」
少女が、声をかける。
「おばあさん。どうしたの?」
老婆が、顔を上げる。
「おお、お嬢ちゃん。……なんでも、ないのじゃよ」
マーニャが口を挟む。
「なんでもねえってこたねえだろ。何度も溜め息吐いといてよ」
ミネアも口を添える。
「なにか、力になれることがあるかもしれませんし。話すだけでも、楽になれることもありますよ」
どこか虚ろだった老婆の視線が、続けて声をかけられるうちに定まり、改めて三人を見据える。
「そうじゃの。そこまで言って頂けるなら、お話ししましょうぞ。実は、共に旅する仲間が、重い病に臥せってしまったのですじゃ。わしらの主人、アリーナ王子様が、ひとりで薬を取りに行かれたが、心配で心配で……。」
「仲間が。病気。アリーナ、王子様。」
「……お主たちを、心あるお方とお見受けした!どうか、アリーナ王子を探し出し、手助けをしてやってもらえんじゃろうか?」
「アリーナ王子様ってえと、武術大会で優勝したって、あれか。サントハイムの。……手助け、要るか?」
「いくら強くても、ひとり旅ではなにがあるかわからないからね。それは、心配だろう」
「今のとこ、目先の目的はねえからな。行っても、いいか」
「そうだね。ユウは、どうしたいですか?」
「わたし。助けたい。」
ミネアの問いに、少女は迷い無く答える。
更に、問いを重ねるミネア。
「どうして?ユウが、私たちが、なんでも背負い込む必要は、ないのですよ」
「おい、ミネア。どうした、急に」
「仲間が、病気だったら。わたしも、助けたいって思うから。おばあさんも、アリーナ王子様も。同じだと、思う。助けられるなら、見捨てたくない。」
「ユウが、そうしたいのですね?必要では、なくても。」
「うん。」
「そういう話か。んじゃ、決まりだな」
「おお、ありがたい!では、このばあやめもお供しますぞ!」
「え?おばあさん、が?」
老婆の申し出に、戸惑う少女。
マーニャとミネアも続ける。
「仲間が病気なんだろ?別に、待ってていいぜ。オレらも、まだ他にいるからよ」
「王子様のお顔がわからないから、来てもらえれば助かることは、ありますが。無理はなさらないでください」
「なんの。仲間のことは、宿の者にでも頼んでおけば良いこと。どうせわしがおっても、何もできぬのです。ただ王子の帰りを待ち身を案じ、日々衰弱する仲間に手を拱いて、やきもきするのは疲れましたでな。これならば、追いかけたほうがマシというものです。わしも、サントハイムにこの人ありと謳われた魔法使い。王子のお顔を知らせる他にも、お役に立てましょうぞ」
「おばあさんは、強いの?」
「若い者には、まだまだ負けぬよ」
「王子様も、強いのよね。……なら。大丈夫、かな」
「では、よろしくお願いします」
「ふむ。わしは、サントハイム王室顧問にして王子の教育係、ブライと申す者。よろしく、お頼み申す。わしはひとまず、宿の者に仲間のことを頼んで来ますゆえ。詳しい話は、また後程」
「うん。よろしくね、ブライ、さん」
「後でな、ばあさん」
ブライは立ち去り、入れ替わるようにトルネコとホフマンが戻ってくる。
ミネアが、声をかける。
「おふたりとも。次の目的が、決まりました」
「あら、そうなの。どこに行くのかしら。」
「同行される方ができまして。その方のお話待ちですね」
「そう。もう遅いし、あたしたちも少し疲れているし。すぐに出るということは、ないわよね。お話は夕食を取りながら、ということになるかしら。」
「そうですね」
「では、夕食の前に。ぼくは、パトリシアを見てきます」
「わたしも、行く」
ホフマンと少女は、厩に移動する。
既に宿の者によって手入れは為されているが、それぞれパトリシアを梳かし始める。
ホフマンは考え込んでいる様子で、口数は少ない。
少女が、問いかける。
「あの、ホフマンさん。聞いても、いい?」
「……な、なんですか?ぼくで、わかることなら。もちろんです!」
「もう、起こってしまったことで。もう、どうしようもないって、わかっても。どうしても、受け入れられないの。ホフマンさんは、どうして、受け入れられたの?」
「……ぼくの場合は。はっきり、ぼくにも責任があることですから。ユウさんの場合とは、少し違いますね。ユウさんが背負っている運命は、ユウさんが望んだものでは、ないですから」
「……それは。そう、なんだけど」
「ぼくも、仕方がなかったと、単純に割り切れたわけではないんです。ぼくにも責任のあることだから、きちんと背負って生きていこうと。そう、決めただけで」
「そう。決めれば、いいのかな」
「……うーん。ユウさんがそうしたいなら、口を出せるようなことではないんですけど。あまり背負い込むのも、どうでしょうか」
「どうして?」
「直接、お話をしたわけではないので、たぶんですけど。ユウさんを守ったみなさんは、そんなことは望んでないんじゃないかな、と。ミネアさんにマーニャさん、トルネコさんも、あまりユウさんに色んなものを背負わせたいとは、思っていないでしょうし。もちろん、ぼくも。」
「わたしが、背負ってしまったら。みんな、悲しい、かな」
「それは、そうでしょうね。ただ、ユウさんがどうしたいのかも、大事なことですから。難しいですね」
「わたしが。どう、したいか」
「それと、ぼくの場合は。あの宝石を見た時に、色んなこだわりが、洗い流されたようで。短い時間で吹っ切れたのは、そのせいもあるかもしれません」
「あの、宝石。信じる心、ね」
「ユウさんにも効果があれば、いいのかもしれませんけど。ぼくと違って、なにかを疑ってるわけではないですからね。それも難しいかなあ」
「……疑えば、いいかな」
「いや、それはやめましょうよ。ぼくが、怒られます」
「どうして?」
「いや……そもそも、なにを疑うつもりなんですか?」
「……なにも、ないね?」
「でしょう。やっぱり、それはやめましょう」
「うん。そうね」
パトリシアの手入れを終え、手を洗い、食堂に向かう。
顔を揃えた一行に、改めてブライが自己紹介する。
「先程、そちらのお三方には申しましたが。サントハイム王室顧問にして、アリーナ王子の教育係。魔法使いの、ブライと申す。この度は、病に臥せる仲間のため、薬を取りに行かれた王子のため、お力添え頂けるとのこと、誠に忝い。どうぞ宜しく、お頼み申す」
「あらまあ。そんなお話でしたのね。ご病気なんて大変ですわね、お察ししますわ。それなら、パデキアを取りに行くことになるのかしら。」
「よくご存じですの。ところで、お名前は、なんと仰るのか」
「あらやだ、ごめんなさい。まずは、自己紹介ですわね。あたしは、エンドールの武器屋の妻、主婦のトルネコといいますの。万病に効くという薬草、パデキアのお話は、今日、町で聞きましたのよ。ソレッタに、あるそうですわね。」
「トルネコ殿ですな。お噂は、かねがね。その通り、王子はソレッタに、パデキアを取りに行かれたのです」
「では、私たちも自己紹介を。占い師のミネアといいます。回復と補助の魔法と、武器を少し使えます。どうぞよろしくお願いします」
「ミネア殿ですな。回復魔法の使い手とは、助かりますな。臥せっておる仲間が、我らの使い手でしたゆえ」
「オレは、マーニャ。芸人だ。ミネアの奴は、弟だ。独学だからばあさんほどではねえだろうが、攻撃魔法が得意だ。よろしくな」
「マーニャ殿ですな。ふむ……かなりの素質の持ち主とお見受けする。わしとは、適性のある系統が違うようじゃの。相手によって、使い分けができますの」
「わたしは、ユウ。わたしも、回復と攻撃の魔法が少し、使えるけど。みんなほど得意じゃないし、まだ魔力が少ないから。剣で、戦ってます。よろしく、お願いします」
「ユウちゃん、じゃの。攻撃の魔法とは……僧侶や神官のものでは、無いようじゃの。それでいて、回復の魔法も使え、剣も振れるとは。類い稀なる素質じゃの」
自己紹介が続く中、黙り込み、考え込んでいたホフマンが、意を決したように口を開く。
「ぼくは、砂漠の宿屋の息子、ホフマンといいます。ぼくは、……みなさん。突然、こんな場で言い出すのは、どうかと思うんですが。ぼくは、いずれは親父の跡を継ぎ、立派な宿屋になるのが夢でした。ぼくは、ここミントスで、ヒルタン老人の下で修業を積んでみたい。ですから……勝手なお願いとは、わかっています。どうか、ここで、みなさんとお別れさせてください!」
「おお。いいんじゃねえか」
「ええっ!?」
決意を込めた言葉に、軽く返され、ホフマンが動揺する。
「ず、ずいぶん、軽いですね!ありがたいですけど、それはそれで寂しいような」
「元々、いつまでって約束でもなかったからな。最後まで連れてけねえこたあ判り切ってるし、今がそうだってんなら、いいんじゃねえか」
「もちろん、寂しくはなりますが。トルネコさんに、とりあえずとはいえブライさんも加わって、戦力は充実してきましたから。今なら、ホフマンさんが抜けても、そう痛手にはなりませんし。頃合いとしては、ちょうどいいかもしれません」
「ヒルタンさんとお話ししたときから、ずっと考え込んでたものね。そうじゃないかと、思ってたわ。」
「……ずっと一緒には、いられないものね。ホフマンさんの、したいようにするのが、いいと思う」
「ユウさん……」
「ホフマンさん。短い間だったけど。今まで、ありがとう。」
「こちらこそ……みなさん、本当に、ありがとうございます!」
「おお。頑張れよ」
「頑張ってくださいね」
「目標が見付かって、よかったわね。頑張ってね、ホフマンさん。」
「はい!頑張ります!」
「ふむ。ホフマン殿は、一行を離れられると。この宿屋で、修業されるのですかな?」
「はい!その、つもりです!」
「ならば、臥せる仲間のことを。仲間の神官、クリフトは女性ですゆえ、直接面倒をみられることは、無いでしょうが。気にかけて頂くよう、どうかお願い致しますぞ」
「はい!お任せください!」
少女が、思い出したように言う。
「これでお別れなら、訓練も、もうおしまいね?」
「あの。もうご一緒できないのに、勝手だとは思うんですが。よければ、明日もう一度だけ、稽古をつけてもらえませんか?」
「うん。また明日、って、約束したものね。それじゃ、また、明日。」
「はい!また、明日!よろしくお願いします!」
「パトリシアとも、お別れなのね」
「いいえ!みなさんがよければ、連れて行ってやってください!」
「でも。大事な子なのに。」
「ぼくは、ここで修業する以上、しばらくどこにも連れ出してやれなくなりますから。他人に任せるにも、誰にでもというわけにはいきませんし。ユウさんたちなら、安心です!どうか、パトリシアをよろしくお願いします!」
「ほんとに、いいの?」
「はい!ユウさんに、お願いしたいんです!」
「うん。わかった。ちゃんと、面倒みるね。ありがとう」
「旅の仲間はまだ増えますし、馬車を使えるのは助かりますね。ホフマンさん、ありがとうございます」
「いいえ!みなさんに使ってもらえるなら、ぼくもパトリシアも鼻が高いですから!」
ブライが、話を仕切り直す。
「では、今晩はゆっくり骨を休めて頂くとして。明日は、早く発ちたいのですが、皆さん、宜しいですかな?」
「ええ。あまり遅くなっては、王子様に追いつけなくなりますし、お仲間のご容体も心配ですからね。そうしましょう」
後書き
永遠のものではない、別れと出会い。
老婆の憂いを晴らすため、一行は町を発つ。
次回、『5-19魔女の憂慮』。
7/27(土)午前5:00更新。
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