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DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章

作者:あさつき
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五章 混沌に導かれし者たち
  5-17商人の町へ

 港町の二日目の夜が明けて朝を迎え、今日も少女とホフマンは(たん)(れん)(はげ)む。

 それぞれのペースで走り込みを終え、軽く素振りをして慣らしてから、打ち合いを始める。

 最初は昨日と同じ、ゆっくりとした速度で始め、ホフマンの動きを見て、少女が徐々(じょじょ)に速度を上げていく。
 ホフマンは汗だくになりながらも、丁寧な動きでついていく。

 もう少しで通常の戦闘速度に届こうというところで、少女が終了を告げる。

「今日は、ここまで。」
「えっ。いや、もう少しやりませんか?」
「動きが、荒くなってた。疲れてるし、まだ、ついていけてないから。これ以上やるのは、よくない。まだ動けるなら、もう一度、()()りで確認したほうが、いいし。今日は、船で出発だから。無理しないほうが、いい。」
「……そうですね。わかりました!今日は、ここまでにします!今日も、ありがとうございました!また明日、よろしくお願いします!」
「うん。また、明日ね。」

 少女も念のため早めに鍛練を切り上げ、ふたりで(うまや)に寄ってパトリシアの手入れをし、それぞれ部屋に引き上げる。

 身支度を整えて食堂に下りると、兄弟と、トルネコが先に座っていた。

「おはよう、みんな。トルネコも、戻ってたのね」
「おはよう、ユウちゃん。マーニャさんが、早くに迎えに来てくれてね。キメラの翼で戻ろうかと思ってたから、助かったわ。」
「ミネアに、叩き起こされてな。今日は出発前に、嬢ちゃんに魔力を使わせるわけにもいかねえし。さっさと行ってきた」
「時間を言ってませんでしたからね。先に確認だけして、後で改めて迎えに行くよう頼んだのですが。そのまま一緒に戻って来られるとは、思いませんでした」
「あまりのんびりも、していられませんからね。主人も早起きして、みなさんの分のお弁当も、持たせてくれましたから。準備は、万端(ばんたん)ですわ!」
「そう言えば、昨日も言ってましたけど。ご主人は、料理もできるんですね!仕事もできて、家のこともできるなんて、万能ですね!ますます、憧れるなあ!」
「万能ということは、ないのですけれど。惚気(のろけ)けるようだけど、ほんとに、よくできた人で。料理も、得意なんですのよ。お弁当は、楽しみにして頂いて大丈夫ですわ!」
「わざわざ、すみません」
「いいんですのよ。あの人も好きでやってますし、あたしもお役に立てた気がして、助かりますから。」


 朝食を終え、宿を引き払い馬車を引き連れて港に向かい、船に乗り込む。

 仮初(かりそ)めの船出を経験した一行は手際(てぎわ)良く準備を進め、冒険者仕様(しよう)の、大きくありながらも機能的で、しかも美しい船は、いよいよ(おお)海原(うなばら)に乗り出す。

「さあ!南に行きましょう!南のミントスの町には、海に詳しいお年寄りがいて、すごい地図を持っているって話ですのよ!」

 トルネコが高らかに宣言し、(かじ)を切る。

 晴れ渡り()み切った青空の(した)、深い紺碧(こんぺき)に輝く水面を滑り、船は南に針路(しんろ)を取り、海を()く。



 陸には陸の、海には海の、魔物がいる。
 前衛(ぜんえい)が攻撃するならある程度引き付ける必要があるが、大量の魔物に甲板(かんぱん)に乗り込んで来られては、船が難破(なんぱ)するまでのことは無いだろうとは言え、派手な攻撃呪文が使い(づら)くなり、苦戦を(まぬが)れない。

 身軽で、自身が攻撃呪文を使うマーニャが、見張り台に立つ。

「この程度の高さなら、すぐ降りられっからな。見てねえもんを言われるより、自分で見て()ったほうが早え」
「そう。疲れたら、代わるね」
「おう」
「日射しが強いですから。ユウは、日焼け止めを塗っておいてくださいね。ひどいと、火傷(やけど)のようになりますから」
「うん、わかった」
「オレも、一応塗っとくか。白い嬢ちゃんと違って、そうひどいことにはならねえだろうが。見た目が資本(しほん)だからな」
「ぼくだと、防具を着けて登り()りするのは、()()()りそうです。やろうとしても、かえってご迷惑になりそうですね。下で、力仕事でもしてたほうがいいですね」
「ホフマンさんは完全に前衛ですから、それがいいですね。ふたりが見張りにつけないときは、私がつきましょう。ふたりほど身軽には動けませんが、真っ先に前線(ぜんせん)に出る必要はないですから」
「あたしは、ちょっと登り降りはむずかしそうねえ。できなくは、ないだろうけれど。」
「姐御は、舵があるだろ」
「そうねえ。ずっとついてる必要はないけれど、(ほう)ってもおけないものね。みなさん、悪いけど、見張りはお願いしますね。」
「っと、来やがった。南西から、五体だ。全部吹っ飛ばすほどでも、ねえか。とりあえず撃つが、来たら頼むぜ!」

 マーニャが見張り台から、ほとんど飛び降りるようにしてロープを伝って降り、まだ遠い魔物の集団に初級の爆発魔法、イオを放ち、体力を削る。
 少女とホフマンに、舵を固定して離れたトルネコの前衛組と、物理攻撃にも参加するミネアが、それぞれの武器と盾を構えて待ち構える。

 魔物の群れが、甲板に(あし)をかけ、乗り込もうとしてきたところを、先制(せんせい)して斬り付ける。
 既に魔法で体力を削られていた魔物たちは、()えなく倒れる。

 倒れた魔物から、戦利品を回収する。

「あんまり多けりゃ、悠長(ゆうちょう)にやってられねえが。大体(だいたい)、こんな感じだな」
「そうだね。戦利品は取っておきたいけど、あまり船を荒らされたくもないし。兄さんにある程度削ってもらって、引き付けてすぐ倒すのが、よさそうだ。十分強くなって、(わずら)わしいだけになったら、聖水を使ってみてもいいね」
「お、そういや。嬢ちゃんが覚えた魔法、トヘロスとか言ったか。そうなりゃ、あれが使えるな」
「トヘロス?聞いたことないな」
「聖水の効果がある魔法なんだとよ」
「少し、違うけど。聖水は、弱い魔物が近付けないように、するんだけど。トヘロスは、近付いてくる自分よりも弱い魔物を、地中に封じ込めるの。海なら、海の底になるの、かな?いまは、どっちでも、あまり変わらないけど。わたしが強くなれば、トヘロスのほうが、いいかも」
「そうですね。初めて聞く呪文ですが、聖水だと少しの量を船に振りかけても()()は薄そうですし、海に()く意味もないし。今のままでも、魔法として使えるなら、そちらのほうがよさそうですね」
「うん。必要になったら、使うね」

 マーニャは見張り台に、トルネコは舵取りに戻り、他三人は、いつでも必要な作業や戦いに出られるよう備えつつ、休憩を取る。

 魔物の大群に襲われるようなことは無く、順調に航海を続けて、南の大陸が見えてくる。

 見張り台につくマーニャの誘導を受け、上陸に都合が良く、停泊(ていはく)する船が目立ちすぎない()()に進む。

「コナンベリーでは、こちらの大陸からも輸入してるということでしたけど。整備された港があるわけでは、ないんですね」
「そう言えば、そうねえ。海に詳しいお年寄りがいるっていうお話だから、それくらいあっても、よさそうだけれど。」
「取り引き先のひとつで、交通の(かなめ)というわけではないからですかね」
「そうねえ。維持するにも、採算(さいさん)が合わないのかもしれないわね。」


 トルネコの指示の(もと)、上陸の作業を(とどこお)りなく終え、船の防犯処置も済ませた一行は、新たな大陸に()()つ。

「さあ、こちらですわ!まいりましょう!」
「やけに、自信有りげだな。地図もねえのによ」
「元商人の勘というのかしら。町とか、洞窟とか、なにかありそうな方角は、わかるのよ。」
「聞いたことがあります!熟練の商人が身に付ける技能で、タカの目というそうです。やはり、トルネコさんはすごいですね!」
「あら、そうなの?知らなかったわ。」
「ええっ!?知らずに覚えるとか、そんなこともあるんですか!?」
「これがそうだって言うなら、そうなんでしょうねえ。」
「……他にも、忍び足とか、宝のにおいとか。口笛が、あるそうなんですけど」
「あら、なにかしら、それ。口笛は、吹けばいいのかしらね。」

 早速(さっそく)、試そうとするトルネコを、ホフマンが慌てて止める。

「待ってください!商人の口笛は、魔物を呼ぶ特技なんです!」
「あらまあ、そうなの。なんの役に立つのかしら、それ。」
「……なんでしょうね?」
「魔物と積極的に戦って、経験やお金を稼ぎたいときには、役に立ちますね」
「そうか!さすが、ミネアさん!」
「そうねえ。商人には、あんまり必要そうもないけれど。みなさんと一緒なら、お役に立てることもありそうね。そのうち、試してみましょう。」
「そうですね。それは今度にして、まずは町を目指しましょう」
「五人でぞろぞろ歩くのか?やりづらそうだな」
「そうだね。ひとりくらい、馬車で待機してたほうがいいかな」
「なら、ホフマンだな」
「ええっ?どうしてですか?」
「姐御には、先導してもらわねえといけねえし。オレらの今んとこの目的は、嬢ちゃんを育てることだからな。(ほう)っといて、オレらが休むわけにもいかねえ。馬車の操作も外で引くより、乗って手綱(たづな)を取るのがやりやすいだろ」
「……そうですね。わかりました。みなさん、すみませんが、外のことはお願いします」
「うん。馬車を、よろしくね」
「はい!任せてください!」
「兄さんが……!なんだか、まともなことを……!」
「おい。どういう意味だ」
「早く、行こう」
「そうね!では今度こそ、まいりましょう!」


 トルネコの先導で、町を目指して南下(なんか)する。

 戦闘時には、馬車のホフマンに代わり、トルネコが(たて)(やく)として、前に出る。
 技術面ではホフマンに劣るが、体力と力に(すぐ)れるトルネコは、魔物の攻撃も動じず受け止める。

 トルネコが攻撃を防ぐ間に少女が素早く攻撃を仕掛け、トルネコも合間(あいま)を見て加勢する。
 魔法は使わないものの、兄弟も攻撃に参加し、(なん)なく敵を退(しりぞ)ける。

「姐御が入って()もねえが。手慣れたもんだな」
「うまい連携(れんけい)だね」
「ユウちゃんが、合わせてくれてるのね。あたしは目の前のことで手一杯なんですけれど、なんだか、うまく噛み合うのよ。」
「トルネコも、戦い慣れてるから。動きが読めるし、合わせやすい」
「簡単に言うな」
「ユウは、すごいですね」
「ううん。まだまだ、弱い」
「力も、順調に付いてきてますし。技術は元々あるし、強くなってますよ。」
「うん。旅の経験って、すごいのね。……もっと、早く」
「ユウ。あなたを旅に出さなかったのは、村のみなさんの判断です。そうするのが一番いいと、みなさんが思ったのです。」

 少女の言葉をミネアが(さえぎ)り、マーニャとトルネコも同意する。

「だな。力だけつけりゃいいってもんじゃねえんだ。嬢ちゃんみてえなガキは、もっと親にでも甘えてていい時期なんだからな。」
「そうよ!子供は、守られてて、いいのよ!ユウちゃんは、きっといつか、あたしたちなんか問題にならないくらい、強くなるのだろうけれど。それでも、全部を()()う必要なんて、ないのよ。」
「……そう、なの、かな」
「そうです」
「そうだ」
「そうよ!」

 それでも、もしも。
 もっと早く、旅に出ていたら。

 そうしたら、村はあんなことにはならなくて。
 自分が、勇者が死んだことにはならなくて。
 旅に出た自分には追手(おって)がかかり、もっと危険な旅になっていたかもしれない。
 それでも、みんなは、死ななかったかもしれない。

 でも、もう。
 起きてしまったこと。
 終わってしまった、こと。

(……(なげ)いても。みんなは、戻ってこない)

「……そう、なの、よね」

 それは、わかっても。
 村のみんなの、今ここにいるみんなの。
 大人たちの心配を素直に()()れるには、起こった出来事が重すぎた。
 自分の行動ひとつで、なんとかできた可能性が、見えてしまうから。
 全ては、自分のために――それが世界のためだとは言え――起こったことだから。

 それでも、過去は(くつがえ)らない。

「そう、ね。」

 覆らない過去を、(なげ)く姿を見せて。
 目の前の人たちまで、悲しませることは無い。
 世界にとっては救いとなる存在だったとしても、近くにいれば逆に不幸を(もたら)すかもしれない、自分を。
 実際に、(もたら)してしまった、自分を。
 心配してくれる、一緒にいてくれる、優しい人たちを、悲しませたくは無い。

「ごめんね。わたしは、大丈夫。もう、行こう」

 無意識に(なげ)きを押し込めて、少女は微笑む。
 それがかえって痛々(いたいた)しさを()すことにも、気付かずに。

「ユウ……」
「ユウ、ちゃん……」
「……行こうぜ。こんなとこで、話し込むようなことでも、ねえだろ」
「……そうだね。すぐに、飲み込めるわけも、ないね」
「……そうね。それじゃ、行きましょう!」
「うん。行こう」


 魔物を退(しりぞ)けながらさらに進み、ミントスの町に到着した。

 商人志望のホフマンが盛り上がる。

「ここが!商売の神様と言われる、ヒルタン老人のいる、ミントスですね!」
「そうね。海に詳しいお年寄りの、ヒルタンさんね。」
「どこにいるんでしょう!早く、お話を聞いてみたいですね!」
「そうねえ。伝説の武器のことも、なにかご存じかもしれないものね。」
「まずは、宿を取りましょうか。少し早いですが、他に行くには遅いですし、馬車を連れていては動きにくいですから」
「そうですね!ここの宿も、ヒルタン老人の持ち物だそうですから!楽しみです!」
「あの、でけえ宿がそうか?相当、貯め込んでそうだな」
「きれいな、宿屋さんね。あそこに、泊まるのね」


 宿に部屋を取り、馬車を預けて、改めて町に出る。

「さすが、行き届いてましたね!応対(おうたい)にも、部屋にも。どこを見ても、(すき)がありませんでした!早く、ヒルタン老人にお会いしたいなあ!」
「ヒルタンさんのことも、気になりますが。店が閉まる前に、先に見に行ってもいいですか?ここには、(てつ)(かぶと)があるという話ですから」
「もちろんです!先に用事を済ませてもらったほうが、落ち着いてお話もできますし!」


 宿で聞いた商店街を訪れ、防具屋を(のぞ)く。

「ミネアさんは、鉄兜を買うのね。あたしも、買っておこうかしら。」
「そう言えば。トルネコさんは、()帽子(ぼうし)のままでしたね。お渡しした(きん)髪飾(かみかざ)りは、どうされたんですか?」
「きれいだし、いいものなんですけれど。あれを(かぶ)って戦うかと思うと、なんだか落ち着かなくて。あたしも力だけはあるから、ちょっとくらい重くても、しっかり(おお)ってくれるようなのが、いいのよ。」
「……トルネコは、使わない、の?」
「おい、姐御」
「ミネアさんのお話だと、まだお仲間は増えるのよね?次にお仲間になる(かた)のために、あれは取っておいたらどうかしら。」
「そうですね。装備は、自分に合うものが一番ですからね。(おっしゃ)るとおり、無駄にはきっと、ならないでしょう」
「あとは……(はがね)(よろい)があるのね。ユウちゃんがもっと育てば、こういうのもいいでしょうけれど。まだ、早いかしらね。」
「うん。まだ、これでいい」
「じゃあ、鉄兜をふたつ。ご主人、あたしとこちらのお兄さんに、お願いしますわ。」
「いつの間にか、姐御が財布握ってんのかよ」
「僕が管理するより、良さそうだからね。色んな意味で」
「……ちっ……」


 武器屋を、覗く。

「あら。破邪(はじゃ)(つるぎ)を、置いてるのね。」
「トルネコの(けん)と、同じね。破邪の剣っていうのね」
「そうなのよ。出歩くあたしに、夫が買ってくれた、思い出の剣なの。」
「そうなの。大事な、剣なのね。」
「そうなのよ。威力もあるし、ずいぶん助けられたわ。ユウちゃんにも、いいかもしれないわね。」
(はがね)(つるぎ)よりも、すごく強いの?」
「そうねえ。ギラの魔法の効果があるから、あたしみたいに魔法が使えない人のひとり旅だと、かなり役に立つのだけれど。ユウちゃんは魔法が使えるし、マーニャさんもいるし。単純に武器として見たら、鋼の剣より、少し強いくらいかしらね。」
「それじゃ、いい。使い慣れたし、これも大事な剣だから。」
「そう。それじゃ、また今度。もっと強い武器があったらに、しましょうね。」
「うん」


 買い物を終え、ヒルタン老人が講義をしているという広場に向かう。 
 

 
後書き
 若者を待ち受ける、老人。
 若者を案じる、老人。

 次回、『5-18老人と若者』。
 7/24(水)午前5:00更新。 
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