東方守勢録
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第十話
「よかった……時間帯が時間帯だから……誰もでなかったらどうしようかと……」
俊司はそう言って、安堵の溜息を漏らしていた。
「よかったじゃないですよ!!どれだけ……心配したかと……」
妖夢は興奮しきってしまったのか、深夜だというのに大声をだしていた。
「ごめん……」
「……いえ……ご無事でなによりです……俊司さん」
「ああ……ありがとう」
「……はい」
妖夢は軽く返事を返すと、携帯を耳からはずし鈴仙に渡した。
「もしもし俊司さん!?」
「ああ、鈴仙か。体調はどうだ?」
「まだ万全ではありませんが、前よりかはマシになりました。すいません、迷惑かけて」
「いいや、それはこっちの台詞だよ。ごめんな」
「いいんですよ……それより、捕まっていたのでは?」
「ああ、訳は後で話すから……それより、今いるのは二人だけか?」
「はい」
「そうか……いや、こっちは暗すぎて動けなくってさ……場所がわからないし……なんとかならないかなって」
「なるほど……ちょっと待っててください」
鈴仙は一度携帯をおろすと、妖夢に事情を話した。二人は自分たちでは何もできないと判断し、とりあえず誰かに意見を聞こうと行動を始めた。
だが、時刻は深夜。ほとんどの人は眠りについており、かといって起こすわけにはいかない。二人はどうすべきかと悩んでいた。
そのときだった。
「あ~! ちょっと二人とも~?」
そういいながら声をかけてきたのは幽々子だった。
「幽々子様!」
「まったく……深夜なのに大声なんてだすから……起きちゃったじゃないの~」
「すっすいません……って、それどころじゃないんですよ!!」
「? 一体何があったのよ~?」
「とりあえず……これを」
鈴仙はそう言って幽々子に携帯を差し出した。
「携帯?」
「はい。通話状態ですので、とりあえず出てもらってもいいですか?」
「いいけど……」
幽々子は不思議に思いながらも携帯を耳に当てた。
「もしもし?どちら様ですかぁ?」
「あ……幽々子さんですか!?」
幽々子は声を聞いた瞬間に目を見開いて驚いていた。
「しゅ……俊司君!? どっ……どうして!?」
「すいません、あとできちんと説明しますので、少し聞いてもらえませんか?」
俊司はそういうと、さっき鈴仙に言ったことと同じことを幽々子に伝えた。
「なるほど……ちょっと待っててもらえるかしら?」
「はい、お願いします」
「じゃあいったん切るわね」
「あ……はい」
幽々子はそれだけを告げると、携帯を閉じた。
「二人とも、とりあえず紫とにとりちゃんを呼んできてもらえるかしら」
「はい!」
妖夢と鈴仙は大急ぎで二人を起こしに行った。
数分後
妖夢達にたたき起こされた紫とにとりは、理由を告げられるとすぐに幽々子のもとに向かった。
「幽々子!」
「あら、案外はやかったのね~?」
「そんなこと言ってる場合じゃないわ。ほんとに俊司君から連絡があったの!?」
「ええ。私も二人から聞いてびっくりしたわ。で、問題は俊司君たちをどうやって助けるか」
「だから……私を呼んだんだね」
にとりはすべてを悟ったのか、そうつぶやいていた。
「そういうことよ。できるかしら?」
「たぶん……とりあえず、その携帯を貸してもらえますか?」
「ええ」
にとりは携帯を受け取ると、すぐさま装置に差し込んで操作をはじめた。
しかし、前回俊司の携帯の場所を特定したときは、2分もかかることなく特定したが、今回は5分たっても特定できずにいた。
「……ちょっと……時間かかるかもしれない……」
「どうして?」
「電波が悪いんだ。向こうのいる場所が悪いのか……こっちの電波が弱いのか……わからない。最悪場所が特定できないかもしれない」
「そんな……」
「でも、何とかしてみせる!」
にとりはあせる心を押さえ込みながら、必死に装置を動かし続ける。10秒20秒が何分にも思えるくらい、あたりには緊張感があふれていた。
それから何分経っただろう、にとりは突然手を止めて溜息をついていた。
「……どう……なの?」
「なんとか……場所はでたよ……」
そう言ってにとりは画面を見せる。そこには、再思の道周辺の地図と、ひとつの赤い点が浮かび上がっていた。
「ここね」
「うん。でも……確実とは言い切れないよ」
「かまわないわ。行きましょう」
そう言って紫はスキマを展開させた。
再思の道周辺
「大丈夫でしょうか……」
「こっちの電波は1だから……なんとか場所を特定できるといいけど……」
俊司たちはそんなことを言いながら、ひたすら連絡を待ち続けた。
「まだ周りが見えていたらな……行動できるのに……」
「しかたないわ。もう少し待ちましょう」
そう言った時だった。
何か空間がねじれるような音が鳴り響き、俊司たちの目の前に見覚えのあるスキマが現れた。
「これは……紫様の……」
「ということは……」
一同は固唾を呑んでそのときを待ち続ける。
その数秒後、白髪をした少女が勢いよくスキマから飛び出してきた。
「妖夢!」
「俊司さん!!」
少女は俊司を見つけると、喜びのあまりわれを忘れて俊司に抱きついた。
「よ……妖夢?」
「よかった……ほんとに……よかった……」
余程心配していたのか、妖夢は無意識に俊司を強くだきしめていた。俊司は突然過ぎて戸惑いながらも、妖夢の気持ちをひしひしと感じ取っていた。
「……ごめんな」
「ほんと……心配させるんだから」
俊司が妖夢の頭をポンポンと叩いていると、紫が話しかけてきた。
「紫……わるい」
「あやまらなくてもいいのよ。あなたのおかげで他の人が助かってるんだから」
「……ありがとう」
「紫様……」
「!?」
紫は話しかけられた瞬間、自分の耳を疑っていた。
恐る恐る後ろを振り向くと、そこには見覚えのある二人の式が、申し訳なさそうな顔をしたまま立っていた。
「藍……橙……」
「ご無事だったんですね……紫様……」
藍はそう言って安堵の表情を浮かべていた。
だが、紫は急に表情をこわばらせると、ゆっくりと藍のもとに歩み寄った。
「ゆ……紫……様?」
「……」
紫はなにもしゃべろうとはしなかったが、
「っ!?」
思いっきり藍の頬をビンタした。
「なにがご無事だったんですねよ!! あれだけ勝手なことをしておいて、挙句の果てに捕まっては……どれだけ心配したの思ってるの!?」
「……」
「紫しゃま……」
「もし死んでたらどうするの!? 捕まってから変なことされてたらどうするの!? ちゃんと自分の身のことも考えなさいよ!!」
「……すいません……でした」
藍はそう言うと、深々と頭を下げていた。
よかれと思ってやっていたことでも、心配をかけてしまったことは事実だった。ましてや、一歩間違えれば自分と橙二人の命を失うこともありえた。紫に怒られるのは当たり前だと、藍は思っていた。
「顔をあげなさい」
「……」
藍は何も言わずに顔を上げる。
「!?」
その瞬間、紫はそっと藍を抱きしめた。
「無事でよかったわ……藍」
「紫様……」
「でも、これからはきちんと考えて行動しなさい。あなたは式でも……大切な仲間よ」
「……はい」
藍は小さな声で返事を返すと、軽く涙を流していた。
「ほほえましいわね~」
「あはは」
その光景を俊司たちは温かい目で見ていた。
「さて、脱出したのは俊司君と藍・橙。そしてメイドさんと守矢の巫女さんね?」
「はい。あの……永遠亭の時は……その……」
「みんな気にしてないわ。仕方なかったのでしょう?」
「……はい。すいませんでした」
早苗はそう言って軽く頭を下げた。
「いいわよ別に。これからまたよろしくね」
「はい!」
「すいません。お嬢様はいまどちらに?」
「吸血鬼さん達なら、いまは一緒に行動してるわ。かなり窮屈になったけどね」
幽々子の返答を聞いて、咲夜は安心していたのか少し溜息をもらしていた。
「さて、どうやってここまでこれたのかしら?」
「はい。由莉香が……助けてくれたんです」
「あら、あの子が?」
「はい……説明しますね」
俊司はとりあえずここに至るまでのことを簡潔に話した。革命軍がここに来た本当の理由・なぜ由莉香が俊司達を助けようとしたのか・道中何がおこっていたのか、話せるだけ話していた。
「そうだったの……でも……その子は?」
「……」
俊司は一瞬言うのをためらってしまった。
それを見た幽々子は何かを悟ったのか、すぐさまフォローをし始めていた。
「い……言わなくてもいいわ! 別に無理してまで……」
「いや、いいです。ちゃんとしゃべりますよ」
一度間を開けてから、俊司はしゃべり始めた。
「……由莉香は死にました」
「!?」
俊司の一言に、妖夢達は驚きを隠せずにいた。幽々子はやっぱりかと言わんばかりに、ハァと溜息をついていた。
「俺が……悪かったんです。罠に気付かなかったから……かばって……」
「……」
「なんとか助けようとはしましたが……彼女がこうしてほしいって言ったんです。だから……彼女の意見を尊重しました」
俊司はまた泣きそうになっていた自分をこらえて、軽く笑っていた。
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