東方守勢録
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第十一話
「絶対に無駄にはしません。ちゃんと解決して……あいつを安心させてやります」
「……そう」
俊司は覚悟を決めていたようだったが、その瞳の奥には微かに悲しみの感情が見え隠れしていた。
「あと、由莉香のおかげで気づけたことがあります」
「気づけたこと?」
「はい……俺の能力の欠点です」
「俊司君の能力……ああ、あれね。あれに欠点が?」
「はい……現に由莉香が死んだのは、その欠点をつかれてしまったからなんです」
そう言うと、俊司はクルトから告げられた自身の能力の欠点を簡潔に話し始めた。
幽々子達はその話を興味深く聞いていたが、その表情は真剣というよりかは、危機に面したときの表情に近かった。
「つまり……打開策がなくなったら死ぬってこと?」
「はい。おそらく向こう側も対策を練ってくると思います」
「なるほどね……」
「紫の言ってたとおりだよ……過信し過ぎないほうがいいって」
「そうね。まあ、常識的に気づいてなくても回避できたら、チートのようなものだもの」
「ああ。これからもっと用心しないといけなくなるな……」
俊司の表情は少し暗くなっていた。おそらく今後の不安と恐怖が芽生えていたのだろう。
紫はそんな俊司を励ますかのようにしゃべり始めた。
「……今は思い悩まなくてもいいわ。帰ってこれた……それで十分よ。ゆっくり休みなさい」
「……はい」
「さてと、帰りましょうか」
紫は軽く笑みを見せると、すぐさまスキマを展開させる。一同は何もしゃべることなく、スキマの中に入っていくのであった。
永遠亭
「おかしいですね……」
まだ夜が明けていないというのに、文は中庭に立っていた。
「なにやら騒がしいなと感じたのですが……誰も騒いでいませんし……」
「あれ? 天狗じゃねえか」
一人考え込んでいた文に声をかけたのは妹紅だった。
「妹紅さんですか。もしかしてあなたも?」
「ということは天狗もか。なんか騒がしかったからさ……目が覚めちまったもんで」
そういいながら、壁にもたれかかる妹紅。どうやら二人とも目的は同じだったようだ。
「で?いったい何があったんだ?」
「それが何もないんですよ。誰かおきてるわけでもないですし……しいて言うなら、この時間帯の警備担当がいないくらいでしょうか?」
「警備担当……鈴仙か。もしかして……あいつらが侵入してきたとか!?」
「いえ、それはないかと……もしあったなら、あれだけ大事にはならないはずです」
「それもそうか……」
考えれば考えるほど、なぞが深まっていくだけだった。
そうこうしていると、徐々に光が二人を包み始める。竹林のすきまから、朝日が見え隠れしていた。
「夜明けか……」
妹紅がそうつぶやいたときだった。
空間がねじれる音がしたかと思うと、二人の目の前にスキマが展開された。
「あれ?スキマが……」
「どうやら……これが原因だったんじゃないか?」
「そうですね」
「あら? 二人ともおきてたの?」
そう言いながら出てきたのは紫だった。
「はい。なんか騒がしかったので」
「あらあらごめんなさいね? みんな興奮してたみだいだし」
「興奮っていったいなにがあって……!?」
妹紅は突然しゃべるのをやめてしまった。それだけじゃない。文までもが言葉を失っているようだった。
そんな二人を見ながら、紫は少し笑っていた。
「ああ、文と妹紅か」
「俊司……さん?」
「おまっ……どうして……脱出してきたのか!?」
「まあ、そんなところかな?」
そんなことを言いながら少年は笑っていた。
二人は何をしゃべっていいかわからずただただ驚いていたが、少年が笑うのを見て自然と笑みがこぼれていた。
「あはは……さすが俊司さんですね。それに……脱出したのは一人だけじゃないみたいで?」
「ああ。俺を含めて5人だな」
「ぷっ……たいしたやつだなお前は」
「そんなことないよ。あーあ疲れた……ちょっと寝てきます」
「ええ。いってらっしゃい」
「あとでなにがあったか教えてくださいね!」
「ああ」
俊司は振り返らずに手を振ると、そのまま自室へと向かっていった。
「なるほど……これはしかたないですね」
「だな」
そんな少年を見ながら、二人は安堵の表情を浮かべていた。
数時間後
仮眠を取る感覚で眠りについた俊司だったが、よほど疲れていたのか熟睡していた。
当然、目を覚ましたら時刻はすでに昼過ぎとなっていた。
「……疲れてたのか……まあ、しかたないか」
そんなことをいいながら軽く身支度をすると、自室から出る俊司。すると、タイミングよく誰かが俊司のそばに近寄ってきた。
「やあ、お帰り俊司君」
「あ、悠斗さん。お久しぶりです」
声をかけてきたのは悠斗だった。彼は俊司の顔をまじまじと見ると、少し安心したのか軽い笑みを浮かべていた。
「さすが、熟睡してただけあって疲れの色なしだね」
「あはは……」
「……聞いたよ。由莉香ちゃん……なくなったんだって?」
悠斗は少しさびしそうな顔をしながらそういった。俊司はなにも言わずに首を縦にふる。悠斗はどこか懐かしそうにしながら話を続けた。
「彼女、軍でも人気者だったからな……残念だ」
「案外割り切れるんですね……悠斗さん」
「同僚の死は何度も見てきた……それゆえの話だよ。で? とうの君はどうなんだい?」
「今は悲しむつもりはありません。彼女に対して失礼ですから」
「そうか……若いのにたいしたもんだよ」
「悠斗さんもまだまだでしょうに」
「ははっ」
二人とも冗談を言いながら笑いあっていた。そうこうしていると、悠斗の背後から一人の女性が姿を現した。
「あ、悠斗さんお茶入りましたよ」
「ああ、ありがとうございます」
「いえいえ。ご無沙汰してます俊司さん」
「お元気そうですね雛さん」
そういうと、雛は笑いながらはいと返事をかえしていた。
「そうだ。俊司君も一緒にどうだい?」
「あー……お気持ちはありがいたいのですが……まだやることがあるんで」
「そうか……じゃあまた今度」
「はい。失礼します」
俊司はそういってその場を離れた。
「俊司さん元気そうでしたね」
「まあ……表面はね」
「えっ?」
「これからどうするかは……あの子しだいかな」
「はあ……」
「さて、行こうか雛さん」
「はい」
二人は少年の後ろ姿を見ながらそんなことを言っていた。
数十分後
俊司は皆に迷惑をかけたこともあってか、それぞれの部屋を訪れていった。各自の反応はさまざまだったが、別に誰も怒っていたわけでもなく、むしろ帰ってくるのが当たり前のような反応ばかりであった。
だが、口ではそんなことを言いながらも本心は違うようで、ところどころでぼろがでていた。そんな気持ちをひしひしと感じながら、俊司は再び覚悟を決めていた。
一通り回った後、俊司は竹林の中で修行をしている少女を訪れていた。
「妖夢」
「あ……俊司さん」
少女は声をかけられると、刀を鞘に戻し笑みを返してきた。
「よっぽど疲れてたんですね……ゆっくり休めましたか?」
「まあな。まだ節々が痛いけど……気にはしてないよ」
「そうですか。ところでなぜここに?」
「んー……ただなんとなくかな」
俊司はそういいながら、近くにあったちょうどいいサイズの岩に腰をかけた。
「なんとなくですか?」
「まあね」
「そうですか……」
妖夢はどことなく不満そうにしていた。
「ところで、普段ここで練習してたのか?」
「はい。いつもなら幽々子様もいらっしゃるんですが、今日は私一人ですね」
「そうなんだ……じゃあ」
俊司はふと立ち上がると、腰に添えていたナイフをぬきとった。
「手合わせ願えますか?」
「えっ!? でも……まだナイフしか持ってないんですよね?」
脱出した際に俊司のハンドガンは壊れていた。由莉香が使用していたハンドガンを使うなら、当然弾が必要だしスペルカードを使うと壊れる可能性が高い。
「ああ。でも、前に言ったよな?今度、近距離戦闘の練習もしようって」
「はい……じゃあ、今それを?」
「まあね。あとちょっと体がなまってるからちょうどいいかなって」
「……わかりました。ですが、手加減なしでいきますよ!」
「おう。よろしく頼む!」
こうして二人は、ひたすら特訓を続けた。
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