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東方守勢録

作者:ユーミー
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第九話

数分たっても、一同は動こうとはしなかった。

自分たちを助け、間違いを正そうと必死に行動した少女が犠牲になった。仲間になったのは一瞬だったとはいえ、彼らにとっては痛手となっていた。

なんともいえない雰囲気が彼らを包んでいた。


「……だめだな……俺」


そんな中、一人の少年がそうつぶやいて立ち上がった。


「俊司君……」

「行きましょう。俺達にはまだ……やるべきことがあります。せっかく助けてもらったんだから……ちゃんとしないと、失礼ですよね?」


そう言って俊司は笑った。

一番つらいのは俊司のはずだ。ずっと前からお互いのことをよく知っていて、よき理解者でもあった幼馴染を、自分の不注意のせいで亡くしてしまった。彼の心の傷は深いに違いなかった。

だが、俊司はこれ以上悲しもうとはしていなかった。今やるべきことを考え、残してくれた道しるべをたどるために……


「そうね……行きましょう」

「そうだな。悲しむのは……あの子にも失礼かもしれないな」

「ありがとうございます。じゃあ、その前に……」


俊司は何を思ったのか、眠ったままの少女に近寄る。


「借りる……いや、もらうからな。由莉香……」


そういって、俊司は彼女の肩についてあったナイフと、握られていたハンドガンとそのマガジン、あと、ポケットにあった彼女の携帯を取り出した。


「持って行くんですか?」

「はい。武器がないですし……まあ、遺品みたいなもんです」

「そうですか……」

「はい。じゃあ行きましょうか」


俊司の合図で一同は動き始める。それぞれ新しい決意を固めて、残された道しるべを歩いていた。


(じゃあな……由莉香)


俊司は心の中でそう言った。










数十分後

一同はようやく森を抜けていた。あたりはまだ暗くどこにいるかはわからなかったが、ずいぶんと歩いていたのは確かだった。


「やっと抜けたか……」

「暗くてなにも見えませんね……」

「はうう」

「ん? どうした橙、怖いのか?」

「いっいえ! 大丈夫です!」


と言ったものの、橙のあしは若干震えていた。


「さて、どうしましょうか……」

「場所がわからないなら……動きようがないものね」

「そうですね……」


周りが見えない状態で歩くのはかなり危険だった。もし、革命軍がいるとなればなおさらだった。

軍の装備を持っていれば、ナイトビジョンなどの夜戦で活躍するものも持っているはずだ。そうなれば狙撃される可能性もあがる。

夜が明けるまで動かないほうがいいかもしれないが、まだ基地から離れきったわけではないため、ここにとどまるのも安全とは言い切れなかった。


「どうすべきか……あっ……もしかして……」


俊司は何かを思い出したかのように、ポケットからあるものを取り出した。


「それ……あの子の……」

「あっ……懐かしいなぁ……携帯電話」

「はい。もしかしたらこれで……紫達と連絡が取れるかも知れません」

「ほんとか!?」

「はい。確実ではありませんが……」

「……それは……どうして?」


咲夜がそう問いかけると、俊司はわかりやすいように説明をはじめた。


「俺の携帯と文が持っていた携帯は、おそらくですがにとりが改造を加えていたと思います。ほんとうなら、電波を受信する施設が必要になるので使えないんですよ」

「確かに……ここなら圏外ですよね」

「はい。ですが、改造をほどこされているのなら、どうやってその電波を受信できてるのかが疑問になりまして……仮説を立てたんです」

「仮説?」

「電波を直接受信するようになっていたら……と思いまして」


ようするに、俊司は特別な施設がなくても、互いに電波を受信できるようになっているかもしれないと言うのだ。だが、それだけでは連絡を取ることはできない。

俊司はさらに詳しく説明していった。


「それだけじゃなくて、携帯自体がその施設の代わりを果たしている。もしくは、にとりがそれと同等の装置を作成していれば…つながる可能性があります」

「なるほど……だから確実じゃないのね?」

「そういうことです。もしだめだったら……この携帯に圏外の文字が書かれてるはずです」


そう言って俊司は恐る恐る携帯を開く。

その瞬間、俊司から安堵のため息が漏れた。


「どうだったの?」

「奇跡的に……一本たってます」

「おお! それは奇跡的ですね!」


携帯を知っている早苗だけが反応していた。


「えっと……それはどういうこと?」

「つながる……と思います」


俊司は苦笑いをしながらそう言った。


















同時刻 永遠亭


「……眠れない」


この日、妖夢はなかなか寝付けなかったのか、中庭で風に当たっていた。

昼間は幽々子の指導で立ち回りの強化など、修行を行っている。そのためか、疲労がたまってしまい、修行を終えてから眠ることが多かった。夜になって寝付けないのはそのためだろう。

他の人達はよく眠っているのか、明かりがついた部屋はまったくなかった。もちろん、万が一にそなえておきている人もいるが、ずっと外を歩いているわけではない。

静寂に包まれながら、妖夢は一人思い悩んでいた。


「俊司さん……無事なんでしょうか……」

「どうでしょうかね?」

「はうっ!?」


突然後ろから声をかけられ、妖夢は思わず飛び上がってしまった。

恐る恐る振り返ると、そこには苦笑いをした月の兎が立っていた。


「鈴仙さん……脅かさないでくださいよ」

「すいません。当番でもないのに起きてらしたので、どうなさったのかと」


そう言いながら、鈴仙は妖夢の隣に座った。


「無事だと……いいですね」

「そうですね。ですが、レミリアさんも捕まっただけだとおっしゃってましたし……早く助け出しに行きたいんですが……紫様もまだわからないとおっしゃってましたし……」


そう言って二人は同時に溜息をついていた。


「なんか……奇跡でも起きませんかね?」

「そうですね……」


二人は冗談半分でそんなことを言いながら笑う。

そんなときだった。


「ん……何か聞こえませんか?」

「え……そういえば……」


近くで電子音のようなものがかすかに聞こえていた。だがあたりを見渡しても何もない。

不振に思った二人はおそらく部屋の中だろうと考え、探索を始めた。



数分後


「ここは……」


ある程度探し終えた二人は、音が聞こえてくる部屋の前に立っていた。


「俊司さんの……部屋ですね」

「……行きましょう」


そう言って二人はふすまを開く。

すると、目の前にあった机の上に、光を放ちながら音を出す物体が目に入った。


「これ……俊司さんの携帯ですよね」

「そうですね」


妖夢は俊司の携帯を手に取ると、画面を見る。そこには通話と書かれた文字と、いくつかの数字が並んでいた。


「通話? でも……おかしいなぁ」


通話ができるのは文が持っている携帯だけのはずだった。

妖夢は改造された携帯の仕組みをにとり少しだけ教えてもらっていたが、これ以外に携帯が存在しない限りには、通話はかかってこないとのことだった。

だが、目の前の画面には通話の文字が書かれている。


「文さんが寝ぼけてかけてるんですかね?」

「どうですかね……とりあえず……出てみますね」


にとりに話を聞いたときに操作方法も軽く教えてもらっていた妖夢は、少し不安になりながらも通話のボタンを押した。


「……もしもし」


恐る恐る声を出す妖夢。

その数秒後、彼女は自分の耳を疑った。


「その声は……妖夢か!?」

「えっ……俊司……さん? 俊司さん!?」 
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