やはり俺の青春ラブコメはまちがっているかも
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彼と彼女の出会いはきっと偶然ではない。
突然だがこの学校、総武高等学校は少し歪な作りをしている、言葉で表現するなら学校を上から見た形がカタカナのロのような形をしている。
そんな歪な形の校舎を俺と比企谷は平塚先生の先導の下、特別棟の方向に向かい中庭を足取り重く歩く
道中俺は平塚先生に聞こえない様にヒソヒソと比企谷に話し掛ける。
『なぁ比企谷、ぶっちゃけ嫌な予感しかしないんだが』
「先生は奉仕活動って言ってたが何するんだろうな?……ゴミ集積所の掃除とかか?」
『ゴミ集積所は逆方向だぞ、それにこの先は特別棟ぐらいしかないはずだが』
「特別棟か……ッ⁈」
特別棟という単語を聞き考えるようなそぶりをしながら辺りを見回した比企谷は急に表情を苦虫を噛み潰したような顔に変える。
やっと気づいたか…その気持ちよく分かるぞ比企谷…
そう俺達が現在いる場所は中庭である。
中庭とは、リア充の聖地である。
昼休みや放課後に友達と楽しく談笑し、ピクニック気分で昼食を取り、カップルはベンチで愛を語らう。
フンッ全く持って馬鹿馬鹿しい、あまりの馬鹿馬鹿しさに羨ましいとも何とも思わない。
俺と比企谷は一度足を止めリア充共をチラリと睨みつけると平塚先生を追い歩きだす。
『「リア充マジ砕け散れッ‼」』
どうやら俺と比企谷の思考は見事にシンクロしていたらしい。
同じタイミングで同じ事言うとか、真のぼっちの思考回路は皆大体同じらしい、某学園都市の欠陥電気さんの脳内ネットワークも真っ青である。
なにそれ、ぼっち最強じゃね?とかどうでもいい事を考えていたら、いつの間にか特別棟の廊下まで来ていたようだ。
平塚先生は様々な部活動室がある中でプレートに何も書いてないただの教室の戸の前で立ち止まる。
「着いたぞ」
ちょっとイイ笑顔で言う平塚先生に俺と比企谷は絶句しアイコンタクトで会話を行う。
……おい比企谷、この人まさか俺達にこの教室の片付けとかやらせるつもりじゃないか?
……バリバリの肉体労働だろこれ、ちょっとイイ笑顔で何言ってんの、えっ何この人鬼畜なの?ヒトラーもビックリだぞ。
……もし肉体労働じゃないんだとしても嫌な予感しかしない、あんなちょっとイイ笑顔をした人と関わると碌な事がない……ソースは俺。
……自虐ネタやめろ‼小学校の時、俺の上履きを隠しやがった苛めっ子のちょっとイイ笑顔を思い出しちゃうだろうが‼どうしよう、先生のあの笑顔が恐ろしい。
……フッ心配するな比企谷、体育の授業の度に鍛えられてきた俺の必殺技はこういう時の為に使うものだ‼
『平塚先生、俺…教室に入ると俺の中にいるもう一人の俺が出てきて、
誰彼構わず決闘を申し込んでしまうんです』
「君はどこぞの決闘者か‼」
『クッ俺の必殺技が通じないだとッ⁈今までこの技を受けた体育教師は可哀想な物を見るかの様な目で俺の願いを聞きいれてくれたのに‼ってか平塚先生、遊○王知ってるんですね』
「……休日自宅でやる事が無く暇でね、暇つぶしにいろいろな漫画やアニメを見ていたらハマってしまった、一時期はカードを集めてマイデッキを作っていたほどだ…」
大人の女性が休日に家で、1人で遊○王って…彼氏とか居ないんですか?とは口が裂けても言えない。
誰かッ⁈誰か早く貰ってあげて、じゃないと余りに可哀想すぎて俺が貰いたくなっちゃうから‼
「オホンッ、春夏も比企谷もここまできて悪足掻きはよせ、ほら入るぞ」
平塚先生はそう言うとガラガラーっと戸を開け、ズカズカと中に入って行く
ここまで来てしまった以上はしょうがないと俺と比企谷も平塚先生の後に続く
『先生、一体俺達は何をすれ…ッ⁈』
言葉を失うとはまさにこの事だと思った。
無造作に椅子と机が積み上げられた教室の窓際に、椅子に座り本を読む少女が居た、本を読んでいるだけ、ただそれだけなのに俺にはその姿がとても神秘的に見えた。
腰の辺りまである綺麗な黒髪、未だ嘗て見た事がないと思える程整った端正な顔立ち、彼女の一挙一動がとても美しく見える。
「あ……」
あの比企谷でさえ彼女の余りの神秘的な雰囲気に魅入られていた。
そんな俺達をよそに平塚先生は彼女が居る事を確認すると、本を読む彼女に話し掛ける。
「やぁ、雪ノ下失礼するよ」
「平塚先生入る時はノックを、とお願いした筈ですが?」
雪ノ下と呼ばれた少女は突然の来訪者に気づくと、読んでいた本に栞を挟み顔を上げその整った顔で平塚先生を見る。
「ノックをしても君は返事をした試しがないじゃないか」
「返事をする前に先生が入ってくるんです」
平塚先生の言葉に雪ノ下は不満げな視線を送った後、チラリと平塚先生の後ろにいる俺達を冷えた視線で見てくる。
「それで、そこに居るぬぼーっとした人達は?」
『ちょっと待て、ぬぼーっとしてるってなんだ⁈何気に傷付いちゃうだろうが⁈』
「あら?事実を言ったまでだけなのだけども?もしかして気にしていたのかしら?」
こんの女ッ‼
数秒前までこの子マジ可愛いなぁ、ここまで可愛いと性格も可愛いんだろうなぁー。とか考えてデレデレしていた自分をぶん殴ってやりたい。
「彼は比企谷、君と話していたのが春夏、入部希望者だ。
ほら君達、挨拶ぐらいしたらどうだ?」
平塚先生に促され俺と比企谷は渋々自己紹介を始める
『2年F組、春夏秋人』
「同じく2年F組、比企谷 八幡です」
『「っておい⁈入部とか何だよ‼」』
またもや俺と比企谷の思考はシンクロしたらしい、
入部ってなんでだよ‼つかここ何の部活なの⁈
「君達にはペナルティとしてここでの部活動を命じる。異論反論抗議質問口答えは認めない。しばらく頭を冷やせ、反省しろ」
「グッ……」
比企谷は平塚先生の余りの迫力に思わず反論の言葉を飲み込んでしまったらしい。
『平塚先生、基本的人権が守られてないんですけど』
「黙れ春夏、あんなふざけた作文を書く人間に人権などない」
えっなにそれ、凄くコワイ
っと平塚先生のぶっ飛んだ発言に恐怖していると
「というわけで、先程の会話を聞いていれば分かるだろうが彼等はなかなか根性が腐っている。そのせいでいつも孤独な哀れな生き物だ」
せめて人間って言って下さい。
「人との付き合い方を教えてやれば少しはまともな人間になるだろう、彼等をおいてやってくれるか?彼等の孤独体質の更生が私の依頼だ」
平塚先生が雪ノ下に向き直って言うと、雪ノ下は面倒くさそうに
「それなら、先生が殴るなり蹴るなりして躾ればいいと思いますが?」
……なんて恐ろしい女なんだ、躾るって…俺達は犬か何かかッ⁈
「出来るならそうしたいが最近は少々うるさくてね、肉体への暴力は許されないんだよ」
……あれ?この人さっき思いっきり殴ってましたよね?人体の急所を割と本気で殴ってましたよね⁈
「残念ですが、お断りします。そこの男達の下卑た目を見ていると身の危険を感じるので」
雪ノ下は両手で胸元を隠しながらこっちを睨みつける、
お前の慎ましすぎる胸など見ていない……すみません嘘です、少しは見ていました。
心の中で反省していると比企谷が慌てた様に
「偏見だ‼高二男子がいつも卑猥な事を考えているわけでわない」
『そうだそうだ‼』
「…でわ、他に何を考えているのかしら?」
『「…せ…世界平和とか?」』
「……」
どうやら雪ノ下は俺達を全く信用していないらしい。
そんな俺達の様子を見兼ねたのか平塚先生が
「安心したまえ、雪ノ下。その男達は目と根性が腐っているがリスクリターンと自己保身に関してわなかなかのものだ、刑事罰に当たるような事はけっしてしない。彼等の小悪党ぶりは信用していい」
「褒められている様で何一つ褒められてねぇ‼違うでしょ?リスクリターンの計算とか自己保身とかではなく、常識的な判断が出来ると言って下さい‼」
『そこまで言われる俺達って……』
「小悪党……なるほど…」
『それで納得しちゃうのかよッ⁈』
雪ノ下は俺達が小悪党という事で納得したのか、うんうんと頷くと
「まぁ、先生の依頼であれば無碍には出来ませんし……承りました」
雪ノ下がほんっとうに嫌そうな顔でそう言うと平塚先生は満足げに微笑む
「そうかそうか、では後は頼むぞ雪ノ下」
とだけいい平塚先生はそのまま帰ってしまった。
ぽつんと取り残される俺と比企谷。
……なにこのラブコメ展開⁈
しかし、過去何度もこの様な展開に遭遇し高度に訓練された俺達は今更このようなラブコメ罠に引っかかりはしない。雪ノ下も仮にも女子である以上、リア充イケメン(笑)にのみ興味を示し、清くない男女交際をする輩のはず。
…つまり全世界の非モテ男の敵である。
取り敢えず俺と比企谷は雪ノ下を威嚇してみる事にした。
『「がるるるるッ‼」』
俺達が一生懸命、威嚇していると雪ノ下はまるで汚物でも見るかのような目で
「…はぁ、そんな所で気持ち悪い声をだしてないで座ったら」
『ヒッ⁈す…すみません』
「ぇ⁈あ、はい」
な…何なのアイツ、人殺しの様な目で睨みつけてきたんですけど‼
俺と比企谷は心底ビビりつつ椅子に座る。
雪ノ下は俺達が椅子に座るのを確認するとまた本を読みだした。
…こいつ黙ってればすげー可愛いのにな。
っと雪ノ下をじぃーと眺めていたら、俺の視線が不愉快なのか。
「何か?」
と不機嫌な顔で尋ねてくる。
『ん?悪い、どうしたものかと思ってね』
「何が?」
雪ノ下の疑問に答えたのは意外にも比企谷だった。
「俺達、何の説明も貰ってないんだよ。そもそもここ何部なんだ?」
比企谷の問い掛けに雪ノ下は、目をスゥッと細め読んでいた本をパタンッと閉じる。
「そうね、ならゲームでもしましょうか」
「は?ゲーム?」
『何のゲームだ?』
「ここが何の部活か当てるゲーム、さてここは何部でしょう?』
美少女とゲームとかもはやエロ要素しかないが、生憎と雪ノ下は外見こそ完璧美少女だが内面が悪魔超人だからなぁ。
っと割と本気で残念がっていると、比企谷がその中身が空っぽの頭で必死に考えているのか
「他に部員とかいるのか?」
と真面目に問い掛ける。
「居ないわ、私1人だけよ」
ちょっと待て、1人だけで部活って設立できるのか⁈もしそうなら俺は《リア充殲滅戦線》略称R・S・Sを設立するぞ‼
勇敢なるぼっちよここに集まれッ‼的な
比企谷は部員が1人と言う雪ノ下の言葉から答えを導きだしたのかドヤ顔で
「文芸部だろ?」
「へぇ、その心は?」
「特殊な環境、機器を必要とせず1人で活動でき部費を必要としない。それにお前さっきから本を読んでいたからな、文芸部意外ありえない」
『そっか文芸部か‼比企谷、なかなかの推理だな…ん?俺達文芸部なんて入って何するんだ?』
俺が比企谷の推理を絶讃し、文芸部で何をするのか疑問に思っていたら雪ノ下は鼻で笑いながら俺達を小馬鹿にした表情で
「フッ、はずれ」
「……」
『……こんの女…』
こいつ本当に性格悪いな、マジで外見と中身が一致してないんだけど。
比企谷なんか余りにイラッとしたのか無言だぞッ‼
『じゃあ、何部なんだよ?』
どうにかして怒りを抑えながら尋ねると
「今、私がこうしている事が最大のヒントよ」
と雪ノ下はどうにも要領を得ないヒントをだしてくる。
ヒントと言われても全然分からん、やっぱり文芸部じゃね?と半ば投げやりになりつつ考えていると。
「……降参だ、さっぱり分からん。春夏も降参だろ?」
『あぁ、悔しいが』
比企谷が降参し、俺も続いて降参する。
つーか、こんな意味の分からないヒントなんてヒントって言えなくね?ノーヒントで正解を導きだせとかマジ無理ゲーだからね‼
「春夏君、比企谷君……女の子と話したのは何年ぶり?」
「……そう、あれは確か……」
どうやら比企谷は違う世界にトリップしたようだ。
それより年単位で聞いてくるとか、雪ノ下が俺達をどういうふうに見ているのかが分かった気がする。
『年単位で聞くなよッ⁈俺なんか平塚先生と毎日話しているんだからな⁈』
「どうやら、春夏君の残念な頭では私の言葉の意味が分からないようね。ごめんなさい、あなたの残念な頭を理解出来ていなかった私が悪かったわ」
『お前…今凄い爽やかな笑顔で凄い暴言吐いてる事に気付いてる?余りに自然に暴言を吐くもんだから一瞬マジで俺に謝ってんのかと勘違いしちゃったからな‼』
「あなたに分かりやすく言うと、同年代の女の子と話したのは何年ぶりか、という事よ」
『あくまで俺達が年単位で女の子と話していないと断定してるんだな……でも残念でしたー、小町ちゃんって言う可愛い女の子としょっちゅう会話してるから』
俺の言葉を聞いた雪ノ下は驚愕したかのように目を見開く。
あれ?そんなに驚かれると本気で傷つくんだけど…
「おま……俺の可愛い妹は絶対にお前何かにやらんからな‼」
さっきまでトリップしてた癖に小町ちゃんの話になった瞬間、現実に帰還するとかシスコンめッ‼
見ろ、雪ノ下が驚愕から一転、可哀想なものを見るかのように俺を見てくるじゃねーか‼
『……何ですか?お兄さん』
「お前に兄呼ばわりされる筋合いは無い」
『え?でも小町ちゃんが「秋人君がどうしてもって言うならお嫁さんになってあげても良いよ」って三年位前に言ってたけど』
「その笑えない冗談はやめろ、マジで不安になっちゃうだろうが‼」
そんなやり取りを見ていた雪ノ下はイイ笑顔で俺を見て、一言。
「あなた、知り合いの妹に欲情して脅迫までしてそんな事言わせるとは、人間のクズね」
何故か雪ノ下の中では、俺が知り合いの妹に迫るクズ野郎という事になってるらしい。
……すみません雪ノ下さん、ちゃんと話し聞いてました?俺、脅迫した覚えが無いんですけど。お前ただ俺に悪口言いたいだけだよね⁈だって凄くイイ笑顔だもん。
「おい雪ノ下、何もそこまで言わなくても」
『…………兄さん』
「そのネタはもうやめろ、そしてさり気なく《お兄さん》から《兄さん》に親密度をレベルアップさせるな」
ちぇッ、比企谷に庇って貰って感動してさり気なく小町ちゃんを頂こうとしたら気づかれたか。
雪ノ下は俺を罵ってスッキリしたのか綺麗な笑顔を浮かべ、
「持つ者が持たざる者に慈悲の心を持ってこれを与える、人はそれをボランティアと呼ぶの。途上国にはODAをホームレスには炊き出しをモテない男子には女子との会話を、困っている人に救いの手を。
それがこの部の活動よ」
いつの間にか雪ノ下は立ち上がり、俺達を見下ろす形になっていた。
「ようこそ、奉仕部へ。歓迎するわ、比企谷君それとクズ夏君」
『ヒドイッ‼何、お前俺に恨みでもあるの?もしそうなら全力で謝るからもっと優しくして下さい、心がくだけそうです』
「別にないのだけど」
『デフォでその扱いなの⁈』
とても歓迎している様な態度ではないし、ヒドイ言われようだった。
俺が驚愕の真実に驚いていると、比企谷が考える様に腕を組みながら。
「つまり困ってる人の手助けをするって事か?」
「えぇ、そう思ってくれて構わないわ。平塚先生曰く、優れた人間は憐れな者を救う義務がある、のだそうよ。頼まれた以上、責任は果たすわ、あなた達の問題を矯正してあげる。ほらさっきのヒントは的確だったでしょ?」
『おい、そのちょっとイイ笑顔で俺を見るんじゃねぇ‼何か?俺モテないですけど何かッ?』
「あら?別に春夏君がモテないとは一言も言ってないのだけど?やはり自分がモテないという自覚があるのね」
貴族のように腕を組んで俺を見下ろす雪ノ下に一言言ってやらねばなるまい。
『ッ……この…自分で言うのもなんだが俺はそこそこモテるはずなんだぞ‼優しいし、運動神経も抜群だし顔だっていい方だ、勉強が苦手なのと友達と彼女が皆無なのを除けばかなり高スペックなんだ‼』
「最後に致命的な欠陥が複数あったのだけど……自分の容姿について自信満々に語るなんて、変な人。もはや死んで欲しいわ」
『うっせ、冷徹女』
笑顔で「死んで欲しいわ」とか言うとかなんて女だ、外見は美少女なのに性格がひどすぎるだろ。笑顔で暴言吐くとか……俺じゃなきゃ泣いちゃうからな。
「ふぅん。私が見た所によると、どうやらあなた達が独りぼっちなのってその腐った根性や捻くれた感性が原因みたいね」
「腐ってて悪かったな」
『グッ…否定できないのが悲しい』
雪ノ下はグッと握り拳に力を入れて熱弁する。
「まずは居た堪れない立場のあなた達に居場所を作ってあげましょう。知ってる?居場所があるだけで、星となって燃え尽きるような悲惨な最後を迎えずに済むのよ」
『?なんの話だ?』
「《よだかの星》かよ、マニアックすぎんだろ」
「……驚いた、宮沢賢治なんて普通以下の男子高校生が読むとは思わなかったわ」
「今、サラリと劣等扱いしたな?」
『ちょっと待て‼今の話しが分からなかった俺は普通以下なのか⁈』
「ごめんなさい、言いすぎたわ。人間以下というのが正しいわね」
『良く言い過ぎたという意味か⁈人間以下ってどういう事だコラ‼』
「おい、俺の現国の成績は学年三位なんだぞ⁈」
……こいつ失礼にも程があるぞ、初対面の相手を劣等種扱いするなんて、俺には某金ピカの英雄王くらいしか心あたりがないぞ。
「ハッたかが三位程度でいい気になるなんて程度が低いわね、だいたい一科目の試験の点数如きで頭脳の明晰さを立証しようなんて恥ずかしくないの?」
「グッ言わせておけば⁈」
比企谷は雪ノ下の氷のように冷たい視線に射抜かれ怯む
「《よだかの星》と言えば春夏君にぴったりよね……よだかの容姿とか」
『何と無くお前が俺の容姿を悪く言ってるのはわかるから⁈どうせならはっきりと言ってくれます?遠回しに言われると余計に辛くなるから‼』
「そんな事言えないわ、真実は時に人を傷つけるから」
『思いっきり言ってんじゃねぇかッ⁈』
すると雪ノ下はやけに真剣な顔で俺を見つめると
「真実から目を背けてはいけないわ。現実を、鏡を見て」
『ヒドイッ‼…クッ俺の顔立ちは整ってるって、やけに悟った表情で小町ちゃんが言ってたんだからな‼』
「春夏、いちいち会話の引き合いに俺の妹を出すな」
さすが小町ちゃん見る目があるな。それに比べこの学校の女子は。
……ケッ
雪ノ下は頭痛でもするかのようにこめかみをおさえ。
「あなた馬鹿なの?美的感覚なんてただの主観よ?つまり、この場においては私の言う事だけが正しいのよ?」
『クソッ滅茶苦茶な理論なのに筋が通っている気がする』
「いや、通ってないから⁈騙されるな春夏‼」
雪ノ下はそう言うと右手で髪を撫で上げ、達成感に満ちた表情を浮かべにこやかに微笑むと。
「さて、これで人との対話シュミレーションは完了ね、私のような女の子と会話出来れば大抵の人間とは会話できるはずよ、これからはこの思い出を胸に1人でも強く生きていけるわね」
「解決法が斜め上すぎんだろ……」
「でも、それじゃ先生の依頼を解決できてない。もっと根本てきな所を何とかしないと………例えばあなた達が学校やめるとか?」
「それは、解決じゃない‼」
『……』
この子マジ鬼畜なんだけど、一体何なの⁈俺達が何かしたの⁈なんでいちいち人の心を笑顔で抉るような事言うんだよッ‼
それからは耳が痛くなるような静寂だった、その静寂を破るようにドアを荒々しく無遠慮に引く音が響いた。
「雪ノ下、邪魔するぞ」
「ノックを…」
「悪い悪い。まぁ気にせず続けてくれ。様子を見に寄っただけだから」
睨む雪ノ下に鷹揚に微笑むと平塚先生は壁に寄り掛かった。
そして俺達3人を見ると、
「仲がよさそうで結構」
どこをどう見たらそうなる‼
「よし‼春夏も比企谷もこの調子で捻くれた根性の矯正に努めたまえ。では私は戻る」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」
平塚先生を引き止めようとした比企谷がその手を掴んだ瞬間。
グイッ、ギリギリ
「いたっ‼いたたたたたっ⁈ギブッ‼ギブギブッ‼」
比企谷の腕が一切の無駄な動き無く、綺麗に極められていた。
「なんだ比企谷か。不用意に私の後ろに立つな。しっかり技をかけてしまうだろ」
『あんたはどこぞのゴ○ゴかっ‼しっかり技かけるなよ‼』
「あーいてててて、何ですか更正って、まるで俺達が非行少年みたいじゃないですか?だいたいここ、なんすか?」
比企谷が問い掛けると平塚先生は「ふむっ」と顎に手をやり思案顔で
「雪ノ下は君達に説明してなかったか?この部の目的は端的に言ってしまえば、自己変革を促し悩みを解決する事だ。私が変革が必要だと思った生徒はここに導くことにしている。言うならば精神と時の部屋だと思って貰えればいい。
それとも少女革命ウテナのほうがわかりやすかったか?」
『いえ、余計分かりにくいし例えで年齢gあべしッ‼』
ドサッ‼
またもやノーモーションで人体の急所である水月に拳を叩きこんできた。余りに急な攻撃にどこぞの三下のような悲鳴をあげ膝を着いてしまった。
「……何か言ったか春夏?」
『グフッ……何でもないです』
平塚先生の人殺しのように冷ややかな視線で射抜かれ俺は小声で喋るしか出来なかった。
「春夏、お前いつか死ぬんじゃないか?」
比企谷、そう思うなら助けてくれ。
「はぁ、雪ノ下。どうやら春夏と比企谷の更正にてこずっているようだな?」
「本人達が問題点を自覚していないせいです」
先生の苦い顔に雪ノ下は冷然と答える。
……なんだこの嫌な感じ、つか何で他人に俺の更正やらなんやら言われなきゃならんのだ。
比企谷も俺と同じ考えだったのか控えめな声で。
「あのーさっきから俺達の更正だの改革だの少女改革だの好き勝手盛り上がってくれてますけど、別に求めてないんすけど…」
比企谷がそう言うと平塚先生は小首を傾げる。
「ふむ?」
「……何を言っているの?あなた達は変わらないと社会的にまずいレベルよ?」
雪ノ下は「何言ってるのこいつ?」みたいな目で比企谷を見ると。
「傍からみればあなた達の人間性は余人に比べて著しく劣っていると思うのだけれど。そんな自分を変えたいと思わないの?向上心が皆無なのかしら?」
「そうじゃねぇよ。……なんだ………その…」
『もういい比企谷、この先は俺が言ってやる』
「……春夏」
言葉に詰まって自分の言いたい事が上手く言えない比企谷に変わって俺が喋る事にした。
『つまりだな、変われだの変わるだの他人に俺の《自分》を語られたくないんだよ、だいたい人に言われたくらいで変わる《自分》なわけねぇだろ。そもそも自己ってのはだな……』
「自分を客観視できないだけでしょう」
『あァ?』
よほど俺の言った事が気に食わないのか不機嫌な顔で言葉を遮ってきた。
「あなたのそれはただ逃げているだけ。変わらなければ前には進めないわ」
雪ノ下は俺の苛立ちのこもった声に臆する事なくバッサリと斬って捨てた。
『チッ逃げて何がいけないんだよ。変われ変われるだのアホみたいに言いやがって。変わるなんてのは結局、現状からの逃げでしかねぇんだよ‼逃げてるのは一体どっちだよ。本当に逃げてないなら変わらないでそこで踏ん張るんだよ、どうして今の自分や過去の自分を肯定してやれない‼』
「でも……それじゃあ悩みは解決しないし、誰も救われないじゃない」
『誰もそんな事頼んでねぇだろうが‼自分の価値観を人に無理矢理押し付けるなよ‼』
「例えそうだとしても、救われるべき人が救われないのはおかしいじゃない‼……」
『ッ……』
救われるべき人が救われないと鬼気迫る雪ノ下の怒った表情に俺は何も言えなくなってしまった。
《救う》なんて普通の高校生が言う言葉ではない、一体何が雪ノ下をああまで駆り立てるのか想像もつかなかった。
「二人とも落ち着きたまえ」
険悪だった空気を和らげたのは平塚先生の落ち着いた声音だった。
「面白い展開になってきたな、私はこういう展開が大好きなんだ、少年漫画っぽくていいじゃないか」
この険悪な空気の中で平塚先生だけテンションが上がっていた。
「古来より互いの正義がぶつかり合った時は勝負で雌雄を決するのが少年漫画の習わしだ」
「いや、ここ現実なんですけど」
比企谷の冷静なツッコミもなんのその、平塚先生は高らかな笑い声をあげ声高に宣言した。
「それではこうしよう。これから君達の下に悩める子羊を導く。彼らを君達なりに救ってみたまえ。そしてお互いの正しさを存分に証明するがいい。どちらが人に奉仕できるか⁈ガンダムファイト・レディー・ゴー‼」
「嫌です」
『Gガンは世代じゃないしな』
雪ノ下は即答、その視線はさっきまで俺に向けていたのと同質の冷たさがある。
「くっ、ロボトルファイトのほうが良かったか⁈」
「いや、そういう問題じゃねぇだろ…」
「先生。年甲斐もなくはしゃぐのはやめてください。ひどくみっともないです」
雪ノ下。容赦ねぇな、平塚先生傷ついてんぞ。
「と、とにかくっ‼自らの正義を証明するのは己の行動のみ‼勝負しろと言ったら勝負しろ‼君達に拒否権はない」
「横暴すぎる…」
比企谷の言ってる事はもっともだ、この人ただの子供だろ。大人なのはオッパイだけだ。
「死力を尽くして戦う為に、君達にもメリットを用意しよう。勝った方が負けた方になんでも命令できる、というのはどうだ?」
『「なんでもッ⁈」』
俺達の喜びに満ちた声を聞いた雪ノ下はガタンッと椅子を倒し5m程後ずさる。
「この男達が相手だと貞操の危険を感じるのでお断りします」
『ハッ、お前のまな板のような胸には欲情などするか。平塚先生クラスにまでレベルアップしてから出直してくるんだな』
「な⁈春夏バカか‼なにお前雪ノ下を煽るようなこと言って」
「……こ…のッ……」
「さしもの雪ノ下と言えど恐れるものがあるか…そんなに負けるのが怖いかね?」
意地悪そうな顔でいう平塚先生に雪ノ下は怒りで歪んだ表情で
「……いいでしょう。その安い挑発に乗るのは癪ですが、受けて立ちます。ついでにあの男のことも処理して差し上げましょう」
あれ?雪ノ下さんがすごい笑顔でこっちを見てくるぞ⁈なんか死亡フラグがたった気がする。
…処理って何されるのかな…
「決まりだな‼」
ニヤリと平塚先生は笑い雪ノ下の視線を受け流す。
「あれ?俺の意思は…」
「君と春夏はセットだ」
「そうですか……」
「勝負の裁定は私が下す。基準はもちろん私の独断と偏見だ。適当に、適切に妥当に頑張りたまえ」
それだけ言うと平塚先生は教室を後にした。
残されたのは、俺と何故か落ち込む比企谷と不機嫌そうな表情をした雪ノ下だけ、やがて下校のチャイムが鳴り帰り支度を済ませ廊下に出ようとした雪ノ下が俺に向かって一言、
「勝負の事だけど、手加減なんてしないわ。全力で叩き潰してあげるから覚悟しなさい」
っと人殺しのように冷たい目で死刑宣告し帰りの挨拶も無く教室から出て行った。
『なぁ比企谷』
「あん?」
『明日、土下座したら雪ノ下許してくれるかな?』
「いや、無理だろ…」
ですよねー。
後書き
次回、やはり雪ノ下 雪乃はおこっている。
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