やはり俺の青春ラブコメはまちがっているかも
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やはり雪ノ下 雪乃は怒っている。
キーンコーンカーンコーン
っと古ぼけたスピーカーからホームルームの終わりを告げるチャイムが教室に鳴り響く。
昨日、奉仕部なる意味の分からん部活に強制入部をさせられ。平塚先生には暴力を振るわれるわ、雪ノ下 雪乃という残念美少女には暴言を吐かれるわ。あれ?俺、傷つけられてばっかじゃね?
という衝撃的な出来事があったのだが、俺と比企谷の日常生活には何の変化も無かった。
……いやーやっぱりぼっちって最高だな‼人に気を使わなくていいし、あの残念美少女のような輩に暴言吐かれないし。もう俺一生ぼっちでいいや‼
やけに清々しい気持ちで帰り支度をしていたら。
「おい春夏、放課後になったがまさか部活行くのか?」
っと比企谷がアホな事を言い始める。
『なんで?行くわけねぇじゃん?俺は《権力には屈しない》を魂の教訓にしてるからな、さっさと帰宅するが。……比企谷は行かないのか?』
「いや、行かない。今日は《歯がない》の新刊の発売日だからな。本屋寄って帰るわ」
『新刊の発売日今日だったのか‼じゃあ俺も一緒に本屋行くわ』
「お前も好きだな《歯がない》」
『あの主人公やけに親近感わくんだよ、友達いない所とか……そんな事より早く行こうぜ、いつどこで平塚先生が襲いかかってくるか分からんからな』
「確かに。捕まればどんな目に遭うか……まぁ、捕まればだけどな」
比企谷はニヤリとした表情で平塚先生を小馬鹿にし、俺は早く《歯がない》の続きが読みたくてソワソワしながら早く教室から出ようと扉の方に歩く。
比企谷が教室の戸をガラガラっと開け廊下に出ようとした瞬間
「ったく、何が奉仕部だよ。逆に奉仕してほshそげぶッ?」
とある世界のツンツン頭の必殺技のような悲鳴をあげ倒れこむ。
比企谷を襲った人物を目にした瞬間俺はもう一つの扉へと走りだしていた。
『部活行ってきますッ‼さよなら』
すまん比企谷、君の犠牲は5分位忘れない‼
……ハッ平塚先生とわいえ仮にも女性だ、男子の脚力に勝てる筈がなヒデブッ⁈
『ばッ……馬鹿…な』
全力疾走していた俺の脇腹に平塚先生の右フックが突き刺さっていた。
「部室なら逆方向だぞ春夏?……あまり私の拳を煩わせるな」
『……拳はッ……確定かよ…』
「……この扱いは春夏だけのはずじゃ……」
おい比企谷、俺は好きで殴られてるわけじゃないんだぞ。
…男子2人を拳で黙らせるとか、平塚先生男らしすぎんだろ。
『さて、部活の時間だ」
平塚先生はそう言うと、右手で比企谷の首根っこを掴んで引きずると左手で俺の頭を脇の下あたりに抱え込み歩きながら思い出したかのように。
「あぁ、そうだ。今度から逃げたら雪ノ下との勝負は問答無用で君の不戦敗ということにしておこう。ついでにペナルティも科す。三年で卒業できると思うなよ」
目がマジだった。
かつかつとヒールで床を鳴らし歩く平塚先生と、引き摺られる比企谷と脇の下に抱え込まれている俺を遠くに居る男子生徒が羨ましそうに見てくる。
あっ、平塚先生のオッパイ柔らかいし、いい匂いがする。
しかしいつまでもこのままでいるわけにはいかない。なんせこれから連れてかれるのは、あの部室だ。
『あの、もう逃げないんで離してくれないですか?』
「そう寂しいことを言うな。私が一緒に行きたいのだよ」
ふっ、と平塚先生が優しげに微笑んだ。そのあまりのギャップに思わずドキドキした。
「それに今君達を離して万が一逃げられでもして、後で歯噛みするより、嫌々でも連行したほうが私の精神衛生上よろしいからな」
「理由が最悪ですね」
比企谷が引き摺られながらツッコム
「何を言うか。嫌で嫌で仕方ないが、君達を更正させるためにこうして付き合ってやっているのだぞ。美しい師弟愛というやつだ」
『これが愛なの⁈こんなんが愛なら愛なんていらねぇよ‼』
「君達はまったく捻くれているなぁ…捻くれすぎて秘孔が逆の位置にあるんじゃないか?聖帝十字陵とか作るなよ?」
この人こんなんだから結婚できないんじゃ……。
「もう少し素直なほうが可愛げがあるぞ。世の中を斜めに見ていても楽しくないだろうに」
「楽しいだけが世の中じゃないですよ。楽しきゃいいって価値観だけで世界が成立してたら全米が泣くような映画は作られないでしょ?悲劇に快楽を見出すこともあるわけだし」
『それに人の不幸は蜜の味と、良く言うじゃないですか。結局人間なんて生き物は自分以外の人間の不幸に快楽を見出すような醜い生き物なんですよ』
「今の発言などまさに典型的だな。斜に構えているのは若者によくある事だが、君達のそれはもう病気の域だな。高校二年特有疾患、やはり君達は《高二病》だな」
とても素敵な笑顔で病気扱いされた。
『なんですか、その中二病が可愛く思えるような不愉快な病気は』
「君達はマンガやアニメは好きかね?」
説明を求めた俺を無視し平塚先生は自分勝手に話題を振ってくる。
「まぁ嫌いじゃないですけどね」
『わりと好きです』
「なぜ好きかね?」
『そう聞かれると難しいですね。……比企谷は?』
「俺に振るなよ……そりゃまぁ…日本の文化の一形態ですし、世界に誇れるポップカルチャーとして認知されてますからそれを認めないのも不自然なことでしょう。市場も大きくなってるから経済面でも無視しちゃいけない」
『説明なげぇよ‼お前マンガとアニメ好きすぎるでしょ‼』
「ち…違うんだからな、決してインターネットで調べてなんてないんだからな‼」
『そのセリフ女の子なら萌えるけど男のお前がやっても気持ち悪いだけだからな』
比企谷のツンデレにげんなりしていると平塚先生はうんうんと頷きながら更に質問してくる。
「ふむ。では、一般文芸はどうだ?東野圭吾や伊坂幸太郎は好きかね?」
『難しい本は読まないんでわかりません‼』
「ドヤ顔で言うことじゃないだろ……読んじゃいますけど、正直売れる前の作品のほうがすきですね」
「好きなライトノベルレーベルはどこだね?」
『ガガガですね』
「講談社BOXです。…さっきから何の尋問ですか?」
「ふむ……君達は本当に悪い意味で期待を裏切らないな。立派な高二病だな」
平塚先生は呆れた様子で見てくる。
……なんかすごい悪い事した気分になるな……
「そんな高二病の君達から見て、雪ノ下 雪乃はどう映る?」
『人を虐める事に快楽を感じる冷徹女』
「嫌な奴」
即答だった。
「そうか」
平塚先生は何がおかしいのか苦笑している。
「非常に優秀な生徒ではあるんだが……まぁ、持つ者は持つ者でそれなりの苦悩があるのだよ。けれど、とても優しい子だ」
どこがですか?俺、昨日暴言吐かれた記憶しかないんですけど。心をナイフで刺すどころかマシンガンで撃ち抜かれたんですけど。
「きっと彼女もやはりどこか病気なんだろうな。優しくて往々にして正しい。だが世の中が優しくなくて正しくないからな。さぞ生きづらかろう」
『そんな事ないでしょう、アイツ笑顔で思わず泣きたくなる位の暴言吐く奴ですよ?生きづらいとかそんな事ないと思いますけど』
「あいつが優しくて正しいかは置いとくにしても、世の中についちゃ概ね同意ですね」
昨日の出来事を思い出すだけで思わず泣きたくなってくる。
「……そう言えば雪ノ下があんなに生き生きしているのは初めてみたな。特に春夏と話してる時は楽しそうな顔をしていた」
『どこをどう見たらそう思えるんですか?あれ明らかに嗜虐的な笑顔ですよね⁈』
「君からみた雪ノ下はそうかもな。でも私から見た雪ノ下は本当に生き生きとしていたよ」
そう楽しげに笑って平塚先生は相変わらず右手で比企谷を引きずり左手で俺の頭を脇の下あたりに抱えこんでいる。この格闘技じみた技もマンガの影響なんだろうか?
俺の右頬に柔らかいオッパイがフニフニッと当たっている。
……ふぅ。こんなに頭を締め付けられていては抜け出せないな、悔しいが仕方ない…………ヤバッ鼻血でそう。
オッパイは凄く柔らかいということを今日学びました。
奉仕部の部室の前までくるとさすがに逃げる心配がなくなったのか、平塚先生はようやく解放してくれた。それでも去り際にちらちらと視線を送ってくる、別れがたいとか名残おしいとかではなく「逃げたらわかってんだろうな、あァン」という殺意だけがビシビシと伝わってくる。
「はぁ。……」
比企谷が溜め息を吐きながら扉を開けようと手を掛けるが、しかしどうにも気が重いのかなかなから開かない。
『いちいち気にすんなよ比企谷。俺なんか昨日、殺人鬼のような目で叩き潰してあげるっていわれたんだぜ‼』
「………それ笑顔で話す前に警察行ったほうがいいだろ…」
っと俺の言葉を聞き、すかさずツッコミをいれてくる。やがて決心がついたのか比企谷はこの世の終わりのような顔でガラガラーと扉を開き何故か会釈しながら入室する。
……なに会釈なんかしてんだアイツ?
つーかどうしよう。俺昨日、雪ノ下に死刑宣告じみた事いわれたんだった。すげぇ顔合わせづらいんだけど……帰ろうかな……でも今帰ったら雪ノ下に恐れをなして逃げたみたいだよな…ヨシッ昨日の事は忘れました。って感じでさりげなく行くか!
え?勝負?なにそれオイシイノ?
俺はさりげなく入室する事にした。
『こんちわー』
俺と比企谷が入室すると雪ノ下は昨日とまったく同じ場所で静かにまた本を読んでいた。
俺達に気づいたのか一瞬チラッと此方に視線を向けるが何も言わずにまた読者を開始する。
「この距離でシカトかよ…」
『…本当に性格悪いなアイツ……』
俺達の呟きが聞こえたのか雪ノ下は苛立たしそうに本をパタンッと閉じ、俺達に氷の様な視線を向けてくる。
「あら、居たの?ごめんなさい。貴方達の余りの存在感の無さに私とした事が貴方達がいる事に気づかなかったわ」
「……コンニチハ」
『……お前、第一声から暴言とか酷くないか?なんなの俺達がお前に何かしたの⁈』
第一声から暴言だった。余りに自然に毒を吐くものだから思わず軽く泣きたくなってくる。
「えっ?貴方誰かしら?きやすく話しかけないで」
『おい、その素で俺の事が分からないフリやめろ‼わりと本気で傷つくから』
嫌みに耐えかねて、表情を歪めると雪ノ下はニッコリと微笑んだ。
「こんにちは。もう来ないのかと思ったわ」
『俺も来るつもりはなかったんだが、いろいろと事情があったからな』
「べ、別にっ!逃げたら負けだから来ただけだよっ!か、勘違いするなよなっ‼」
だから男のお前がツンデレしても気持ち悪いだけだから、全然萌えないから。
「あれだけこっぴどく言われたら普通は二度と来ないと思うんだけど……マゾヒスト?」
「ちげぇよ……」
『お前、酷い事言ったっていう自覚があるのな』
「安心していいわ春夏君。あそこまで言うのは人間以下の貴方だけだから」
ニッコリ笑顔で「貴方だけだから」というセリフに不覚にもドキドキしてしまった。
しかし内容は全然ドキドキできないが……
『さり気なく人間以下扱いしたな⁉俺だってもうこの部活くるつもりなかったわッ‼』
「それでも来るのって……ストーカー?」
『違う‼何で俺がお前に好意を抱いている事が前提なんだ⁈』
「違うの?」
この女……しれっと小首を捻ってキョトンとした表情で言いやがった。
……畜生……ちょっと可愛いじゃねぇか。
「おい雪ノ下、その自身過剰にはさすがの俺でも引くぞ」
「そう、てっきり私の事が好きなのかと思ったわ」
比企谷の言葉に雪ノ下は別段以外そうな表情もせず普段と同じ冷たい表情で言う。確かに平塚先生の言った通り雪ノ下はこの学校一の美少女だろう。その事に疑いの余地はない。
しかし雪ノ下のこの自身家ぶりは異常だ
「お前どう育ったらそういう思考になるの?毎日が誕生日だったの?恋人がサンタクロースだったの?」
雪ノ下の余りに度のすぎだ自身家ぶりにこいつ絶対後で痛い目みるぞ。更正するなら今の内だな、と俺の中の優しさがざわめきだす。…さて慎重に言葉を選ばなくてわ。
『雪ノ下。お前のその自身家ぶりは異常だ、腕のいい精神科医を紹介してやる』
「春夏君。少しは歯に衣着せたほうが身のためよ?」
雪ノ下はウフフと微笑みながら俺のほうを見るが、目がまったく笑っていない。
あれ?言葉の選択を間違えたかな?雪ノ下さんが殺人鬼の目で睨みつけてくるぞッ⁈
「まぁ、人類の最底辺の春夏君や比企谷君から見れば異常に映るのかもしれないけど、私にとっては至極当然当たり前の考え方よ。経験則というやつね」
雪ノ下はふふんと自慢気に胸を反らす。そんな小さなオッパイで胸を反らすな、片腹痛いよ?
『おいコラ、人類の最底辺ってどういう事だっ!ぼっちは人類の最底辺だと言いたいのか⁈』
「なん…だと‼お前、全世界のぼっちに謝れ‼」
「……貴方達こそ謝るべきでわ?貴方達と同列扱いされている人達が可哀想だわ」
『なぁ、比企谷。……もう俺泣いてもいいよね?今まで超頑張って耐えてきたよね?』
「まて春夏早まるな、高二男子が女子に悪口言われて号泣したら今までのトラウマが可愛く思える程のトラウマが刻まれるぞ」
『……グスンッ』
「……貴方達、私の近くで呼吸しないでくれるかしら」
『「鬼かッ‼お前ッ⁈」』
酷すぎるだろこいつ、なんで神様はこんな奴に俺達を引き合わせたの馬鹿なの?死ぬの?
「それにしても、経験則か……」
これ以上辛い事を言われる前に比企谷は話題を無理矢理変える。
経験則か…まぁこいつの容姿ならその手の色恋沙汰もしょっちゅうあったんだろうと納得できる。
『そりゃ随分と楽しそうな学校生活だな』
おれの溜め息交じりの言葉に雪ノ下がピクッと反応する。
「え、えぇ。そうね。端的に言って過不足の無い実に平穏な学校生活を送ってきたわ」
そういうわりには雪ノ下は何故か視線をあさっての方向に向けている。おかげで顎から首にかけてのなだらかなラインが綺麗だなと変態のような思考に至る。
ん?待てよ。こんな上から目線ナチュラル見下し女に正常な人間関係が構築できると思わないが……聞いて見るか。
『お前……友達いないだろ?』
その問い掛けに雪ノ下はふいっと視線を逸らした。
「…そ、そうね。まずどこからどこまでが友達なのか定義してもらってもいいかしら」
「あ、もういいわ。そのセリフは友達いない奴のセリフだわ……ソースは俺」
ソースって、比企谷悲しい事言うなよ。お前のソースって事は俺のソースでもあるって事だぞ…
『まぁ、お前に友達いないのは何故か納得できるからいいけどな』
「ちょっと待ちなさい。いないだなんて言ってないでしょう?もし仮にいないとしてそれで何か不利益が生じるわけではないわ」
『はいはい、そうですね』
ジト目でこちらを見る雪ノ下の言葉をさらりと受け流す。
何この子、少し必死なのがちょっと可愛いんだけど。
っと少し心の中でデレデレしていたら比企谷が不思議そうな表情で
「っつーか、お前人に好かれる癖して友達いないとかどういうことだよ」
比企谷が言うと雪ノ下はむっとする。それから不機嫌そうに視線を外して口を開いた。
「……貴方達にはわからないわよ、きっと」
心無しか頬を膨らませて、そっぽを向く雪ノ下。
……だからちょっと可愛いからその表情やめろ。
『まぁ。俺、人に好かれた事ないからな。お前の気持ちなんか分からん』
「……」
雪ノ下は一瞬だけ俺の方を見たが、すぐに顔を正面に戻して目を瞑った。
そんな雪ノ下を見た比企谷が
「好きで一人でいるのに勝手に憐れまれるのもイラっとするもんだよな。わかるわかる‼」
「なぜ貴方達程度と同類扱いされているのかしら……。非常に腹立たしいのだけれど」
そういい髪を掻き上げ苛立たしそうに睨みつける雪ノ下。
「まぁ、貴方達と私では程度は違うけれど、好きで一人でいる、という部分には少なからず共感はあるわ。ちょっと癪だけれど」
雪ノ下は最後にそう付けたし自嘲気味に微笑んだ。
「程度が違うってどういう意味だ…。独りぼっちにかけては俺達一家言ある。ぼっちマイスターと言われてもいいくらいだ‼」
『そうだぞ雪ノ下。ぼっちにかけては比企谷と俺の右に出るものはいない、むしろお前程度がぼっちを語るとか片腹痛いよ?』
「何なのかしら……、その悲壮感漂う頼り甲斐は……」
雪ノ下は驚愕に満ちた顔で俺達を見る。その表情を引き出した事に俺達は勝ち誇ったように言う。
「人に好かれる癖にぼっちを名乗るとかぼっちの風上にも置けねぇな」
『比企谷の言うとおりだ。ぼっちってのはな人に好かれないからぼっちなんだよ!ぼっちの癖に人に好かれるなんて奴はなぼっちって言わないんだ…』
だが雪ノ下は、フッとバカにしくさった表情で笑った。
「短絡的な発想ね。脊髄反射だけで生きているのかしら。人に好かれるということがどういうことか理解している?……あぁ、そういう経験が無いのよね。こちらの配慮が足りなかったわ。ごめんなさい」
「配慮するなら最後までしろよ…」
やはり雪ノ下は嫌な奴だった。
『で、人に好かれるのがなんだって?』
俺が問うと雪ノ下は少しばかり考えるようにして瞳を閉じ、うんと小さく咳払いをし口を開く。
「人に好かれた事がない貴方達には少し嫌な話になるかもしれないけど」
『……そう言われるとすげぇ悲しいからもっとオブラートに言葉を包んで言ってくれ…』
「嫌よ。何故私が貴方に気をつかわなければならないの?」
『ねぇ、お前やっぱり俺の事嫌いだよね⁈凄い笑顔でそんな事言われると凄い辛いんだからなッ‼』
そう言うと、雪ノ下はすぅっと小さく深呼吸した。
こんなにナチュラルに毒を吐ける雪ノ下はある意味凄いと思うのは俺がおかしいのだろうか?
「私って昔から可愛かったから、近づいて来る男子はたいてい私に好意を寄せてきたわ」
『……』
「……グフッ」
余りの衝撃的な発言に比企谷が呻き声をあげる。
「小学校高学年くらいかしら。それ以来ずっと…」
そう言う雪ノ下の表情は先ほどまでと違ってやや陰鬱なものだった。
学校に通い始めて苦節10年。異性からの好意にさらされなかった俺には異性からの好意に晒される雪ノ下の気持ちはわからない。
「まぁ、嫌われまくるより、いくらかいいだろ。甘えだ甘え」
比企谷は嫌な思い出が脳裏をよぎったのか、どこか遠くを見るような目をしてそんな事を口走っていた。
「別に、人に好かれたいだなんて思ったことはないのだけれど」
そう言った後にほんの僅かばかり言葉を付け足した。
「もしくは、本当に、誰からも好かれるならそれも良かったかもしれないわね」
『ん?どういう意味だ?』
消え入りそうな声で呟かれたので思わず聞き返すと雪ノ下は真剣な表情で俺に向き直った。
「貴方の友達で、常に女子に人気のある人がいたらどう思う?」
『考えるまでもない。俺に友達なんていないし』
余りにも力強く、男らしい俺の言葉にすかさず比企谷がツッコミをいれてくる。
「凄いかっこいい声で言ってるが、言ってる内容は唯の友達いないぼっちだからな」
「………一瞬、かっこいいことを言ったのかと勘違いしたわ」
頭痛でもするかのように雪ノ下はこめかみの辺りにそっと手を添える。
「仮の話として、答えてくれればいいわ」
『もちろん殺すよ?』
我ながら見事なまでの即答だった。
俺が本気だせば靴箱に呪いの手紙を入れるとか、上履きに画鋲いれたり呪いの儀式をやるなんて余裕でできるよ?……マジで…
「さすが春夏、清々しいまでの即答だな」
「ほら、排除しようとするじゃない?理性のない獣と同じ、いえそれこそ禽獣にも劣る……。私がいた学校もそういう人達が多くいたわ。そういった行為でしか自身の存在意義を確かめられない哀れな人達だったのでしょうけど」
雪ノ下はハンッと鼻で笑った。
きっと雪ノ下は常に周囲の人間の中心にいて、だからこそ四方八方敵だらけだったのだろう。そんな存在がどんな目に遭うかなんて十年学校に通いその人間の周囲にすら入れなかった俺でも分かる。
「小学校の頃、六十回ほど上履きを隠された事があるのだけど、うち五十回は同級生の女子にやられたわ」
『その女子やることが陰湿だろ…』
「後の十回は?」
「男子が隠したのが三回。教師が買い取ったのが二回。犬に隠されたのが五回よ」
「犬率たけぇよ‼」
『いや比企谷、つっこむ所そこじゃないだろ…なんだよ教師が買い取ったって。そんな変態が教師やっててもいいのかよ⁈』
それは想像を超えていた。
「おかげで私は毎日上履きを持って帰ったし、リコーダーも持って帰るはめになったわ」
うんざりした顔で語る雪ノ下に不覚にも同情してしまった。
『大変だったんだな』
「えぇ、大変よ。私可愛いから」
そう自嘲気味に笑う雪ノ下を見ると今度はさほどイラっとしなかった。
「でも、それも仕方がないと思うわ。人はみな完璧ではないから。弱くて、心が醜くて、すぐに嫉妬し蹴落とそうとする。不思議なことに優れた人間ほど生きづらいのよ、この世界は。そんなのおかしいじゃない。だから変えるのよ、人ごと、世界を」
ドライアイスのような目で語る雪ノ下はきっと本気なんだろう。
「努力の方向性があさってにぶっ飛びすぎだろ…」
『比企谷、こいつあれだぜ、世界を変えるためなら笑顔で核ミサイルぶっ放すぐらいのぶっ飛び加減だぜ‼』
「……それシャレにならないだろ」
「そうかしら?それでも貴方達のようにぐだぐだ乾いて果てるより随分とマシだと思うけれど。貴方達の……そうやって弱さを肯定してしまう部分、嫌いだわ」
そう言って雪ノ下はふいっと窓の外に目をやった。
きっと雪ノ下は持つ者ゆえの苦悩を抱えているのだろう、それを隠して周囲に合わせて上手くやることは雪ノ下には難しくないのだろう。だけど雪ノ下はそれをしない、自分に絶対に嘘をつかない。
その姿勢は俺に似ていると思った。昨日救われるべき人を全て救いたいと言った雪ノ下と、誰かを救うためなら救われるべき人すら犠牲にし、一を捨て九を救おうとする俺。その過程は違えど誰かを救いたいという本質は同じだと思った。
……なら俺と彼女は
『なぁ、雪ノ下。俺と友達』
「ごめんなさい。気持ち悪いわ、死んでくれないかしら?」
『……うぅ…グスンッ』
「お前本当に容赦ないな…春夏がマジ泣きしてるだろうが…」
雪ノ下は心底気持ち悪かったのか「なぜ生きてるの?」みたいな冷たい目で見てくる。
ですよねー、秋人なんとなく分かってた…グスンッ
後書き
次回 由比ヶ浜 結依の悩み相談
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