ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~
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第四十九話
レイミアは自分の傭兵隊を一気に動かさず、小分けにしてダーナとリボーへと送り、俺たち一行はありふれた旅行者とその護衛のような一団を形成し、ヴェルトマーを経由して旅程をこなしている。
砂漠近くの小さな町で先遣隊が保障する砂漠横断のガイドを雇う事ができた。
十二聖戦士ゆかりの地であるダーナへの観光はこのような平時であれば普通に行われているようで、日本人で言うならお伊勢参りなどの感覚なのだろう。
俺たちの辿るルートは砂ばかりのまさに砂漠というものでは無く、岩や砂礫が支配する不毛の荒野と言うべきものだった。
このルートは北トラキアとグランベルの貿易にも使われており、狭間にある大きな中継点であるダーナへと大きな富をもたらしており、前者の意味での砂漠はリボーから海岸線をひたすら南へ向かった辺り一帯と、フィノーラ方面に存在する大砂漠のことを意味している。
ここでリボーやフィノーラを始め、この辺りの地域についての知識を振り返ってみようと思う。
リボーはユグドラル大陸の東北部に存在するイザーク王国を形成する分家の一つが支配する都市であり、我が北トラキア諸都市一つに比肩する規模と推測している。
イザーク王国は十二聖戦士の一人、剣聖の呼び名が名高いオードが祖となり開かれた王朝だ。
北に行くほど開発が遅れており、国土のうち南方にあるソファラ、リボー、そして国名と同じくする王都イザークの三都市は文明国の都市と称され得るとグランベル側の資料にもある。
フィノーラはイード砂漠の中継都市の一つで、主にシレジア方面への玄関口であるリューベック市とグランベルとを繋ぐ役割を果たしている。
ユグドラル大陸を空から俯瞰するならば、ダーナは砂漠の南東に位置し、フィノーラは砂漠の北の国とを繋ぐとおおまかに思っておけばいいだろう。
ガイドの言う事に従い、点在する小規模な中継地点を経て目的地であるダーナ砦へと辿り着いたころには既にグラン暦757年に達する直前であり、襲撃事件が起きたのが何月であったのかまでは知らない俺にとっては気が気では無いくらいであった。
もし、ダーナが襲撃された後であるなら被災住民を一人でも多く救い、マナナン王がわずかな供とやってきたなら身柄を奪い取るか、そもそも虜囚の目に遭わせないようにするかなどを考え、適宜レイミアと打ち合せをし、状況毎の対策を練って行った。
十二聖戦士の奇跡の賜物なり聖遺物と言われるものは大陸の随所に見られるが、ここダーナ市で見た目にもはっきりと示されるのは、街の中心にこんこんと湧き続ける泉と、何か所にも存在する井戸であろう。
市民はもちろん旅人にも自由に使う事が許されており、こんな砂漠の真ん中で潤沢に水を使える贅沢を贅沢と感じずに過ごすことが出来るが、泉や井戸を汚すような不心得者が居た場合に課される刑罰は当然重い。
世襲の市長はこれに使用料なり税を課してその場限りの財を得るよりも、街の発展でもたらされる税収にこそ価値があると見たのではないだろうか。
その見通しは当たったようで、賑やかで活気のある街ぶりは街の周囲に豊かな自然に恵まれたミレトスやターラなど他の大きな交易都市に見劣りするものでは無いことを、両都市を実際に目にした俺が思うくらいだ。
とはいえ、過去の軍事拠点としての趣きは街の至るところに残っており、かつては敵の襲来をいち早く見つけては市民に危険を知らせた望楼、街をぐるっと囲む城壁上に工夫された切り出しや、耐久性を増す為に築かれた円筒状の各塔などがそれを物語っている。
ただ、長いこと戦から遠のいていることもあり補修や点検を要するような場所の多くが後回しにされており一抹どころでは無い不安があった。
街を実際に歩いて街の地形を体で覚えさせ、アジトに戻っては図面を少しずつ書きあげていく、歩きながら書いていたら街の衛兵に咎められる危険性が充分予見されるからだ。
その作業を続け、ある程度満足行く物が出来る迄には二週間以上の時間を要した。
また、街をかつて囲んでいた空掘の一部が崩れて低くなっていたり埋められていたりなど、平和でゆったりした暮らしの代償に、防衛上の措置が軽んじられていることを考えさせられてしまう。
今のところ一番気を付けなければならないと思っているのが敵勢力があらかじめ潜入しており、リボーの軍勢が攻め入って来た時に誘因することだ。
例えば前述の望楼に付いている見張り兵……いまや兵では無いようだが、を殺すなり行動不能なりにさせて敵軍襲来を知らせないようにし、この街の正門を閉じようとする衛兵を同じように邪魔してしまい、無傷で軍勢を街の中に侵入させてしまえば取り返しがつかないだろう。
そんなことに思いを馳せていると
「どうしたんだい? 難しい顔して考え込んじまって」
アジトの外に何個もある水瓶からひんやりした水を俺の為に汲んできたレイミアはそう言うと、ここまで書きあげて問題点も記した街の図面を覗きこんだ。
このアジトは正門から離れているものの一軒家で、街の外壁に近く、いざという時の為に地下道を少しずつ掘っている。
これは夜中などに小規模の人数で夜襲をかけたり、要人を脱出させる為だ。
併設してある小屋や納屋に掘り出した土を詰め、庭を上げ底のようにしてその上に草花を生やしてカモフラージュしてはいるが、これ以上の土の置き場所は考えねばならないな……
「う~ん、ダーナに入る時の身元確認みたいなのが杜撰だったから工作員みたいなの入り放題だなって思ってさ」
「なるほどね、要所に割く人数をそれぞれ一人二人増やしてみるかい?」
「それだけの余裕あるかな? まぁ、ブリギッドさんが合流間に合えばもう十人くらいは増えると思うけど」
せっかく汲んで来てくれた水を飲んで彼女に礼を言うと、少し嬉しそうな表情を見せてくれた。
つられて俺も笑顔になり
「いろいろと下見がてら、なんか食べに行かないか?」
「そうだね、目釘も折れちまったしねぇ」
最低限の武器だけ携えて彼女と街を散策しながら屋台で串焼きになった肉だの、小麦粉かなにかの生地に肉やキノコ、玉葱なんかを挟んで焼いたもの、新鮮な生野菜は無い代わりに酢で漬けたり、塩漬けにされてからき出しされた野菜を使った料理は豊富で、長期滞在してもやっていけそうだ。
食べ歩いていただけで無く、あの望楼には何人配置すればいいとか、俺やレイミアのように黒髪黒目の人間が居たらそれとなく様子を見ていたのは……これはイザーク人かもしれないからだ。
ついでに武器屋の品揃えを良く見ておき、防具屋にはこの前発注しておいた盾と、金属製の胸当てや肩当ての進捗具合を確認した。
レイミアは愛用している大剣の拵え換装と刃砥ぎを頼んでおり、今は在マディノ時のように短めの剣を二本腰に差した剣士然としている。
二人で歩いているとからかって声をかけてきたりする輩も居るが、その時々で姉弟だとか坊っちゃんと護衛だのとアドリブで関係を変えて遊びながらダーナの街を散策し、アジトへと帰り着いた。
それから二週間ほど過ぎた日の午後、ブリギッド達がやってきたのだが……
「えへっ、ブリギッドさんに付いてきちゃった!」
「えへっ……じゃ無いだろう。 すぐに帰るんだ!」
なんと、シルヴィアがこの一行に紛れてやってきたのだ……
「ブリギッドさんもブリギッドさんでしょう、何故連れてきたんです」
「仕方無いだろう、せがまれたものだから」
「遊びに来た訳じゃ無いんですよ、いずれ戦場になるんですから」
「いいじゃない、この子役に立つよ」
「そういう問題じゃ無いでしょう!」
俺だけが一人怒っていて、周りの皆は危機感が全く無い。
……ったく、何考えてるんだよみんなして。
「来ちまったもんはしょうがないだろ? それともお前、一人で歩いて帰らすつもりかい?」
「レイミアまでそんな事言って!、何かあったらどうするんだよ!」
「そんときゃアタシが命張ってでもなんとかするよ!」
「……そこまで言うならもう知らない。……シルヴィア、特別扱いしないからな。それと、クロード神父に仔細書いた手紙出すんだぞ」
「うんー!」
……実際のところ、内通の恐れを持たずに信頼を置ける相手は一人でも多く欲しい、だからと言って、絶対危険になるここに留まらせていい訳が無い。
その日のうちに俺もクロード神父に手紙を書いた。
内容はシルヴィアを迎えに来る人間を送って欲しいと……
その日のうちからシルヴィアは多くの味方を作ってしまい、俺は処置無しになってしまった。
彼女とべったりな訳じゃ無いので知る由も無かったが、いつの間に兵種変更したのか杖を使うようになっていた。
戦力としても役に立つだろうし、雑用も文句言わずにやってくれる……
だからと言って、戦わせていい訳が無い。
俺はクロード神父が寄越してくれるだろう迎えの使者を一日千秋の思いで待ちわびていた……
だが、その願いが叶う前に事態は動いた。
潜入中のベオウルフが、息も絶え絶えでリボー軍動くの知らせを持って帰ってきたからだ……
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