ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~
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第四十八話
……バーハラに辿りついてからは目の回るような忙しさが連日続いた。
士官学校のほうは除籍処分もあるかと思っていたが、そこはコネパワーで回避され(特にクルト王太子の働きかけは相当なものだったと思う)補習と追試を組んでもらうことになり、卒業間近までそれは続くことになるようだ。
そんな訳で行動の自由に大きな制限がかかってしまい、ダーナ砦防衛戦に関しては大まかなこと以外はレイミアに丸投げに近い形になってしまったが、あれこれ俺が口を出すよりいいのかも知れない。
復学してからというもの、まずは以前のような生活サイクルへ戻ることに務めることにした。
早起きしての鍛練を続けてはいたが、久々に相手を得てのものは張り合いもあり、その後の授業にしても同じである。
放課後は主に座学の補習を受けていたが、ついでに成績の奮わない候補生も受けさせられており、俺のせいだと逆恨みを受けたりもしたが……
半年に一度、そして俺たちの年次では最後になる個人戦技試験が行われ、そこでいつも通り負けなしだったこともあり、座学での評価を多少補填する形として卒業の見通しは立った。
士官なのだから兵隊率いてナンボではあるが、自ら矢面に立って兵士の士気を上げるというのも一つの手段である訳だが……周りからの俺の評価はきっと猪武者に違いあるまい。
いや、猪なら高速移動も可能なわけだから"鈍亀"って辺りかもしれないね!
どうにかこうにか卒業まで漕ぎつけた俺は、謝恩会にて久々にクルト王太子やエーディンさんと再会した。
こちらからは会いに行くのは難しいが、クロード神父やレイミア、それにシルヴィアはちょくちょく会いに来てくれているとはいえ、彼女らは久しぶりだ。
「一別以来ですね、ミュアハさん。 ご卒業おめでとうございます」
彼女は今回も接待役の一人として任命されたようで、シャンパンだろうか? 注がれたグラスを俺に渡してくれたので口をつけた。
「それもこれも、エーディンさんを始め皆さんのおかげです。 あの時は本当にありがとうございました」
すると噴き出したエーディンさんを見て……あ!、もしかして!
「人が悪いなぁ、ブリギッドさんでしたか」
「……正解、これはなかなか面白い遊びかと思ったけど、あたしの事知ってる人がそもそも少ないものね、面倒ごとをエーディンに押し付けられたみたいなものだわ」
苦笑いした彼女はグラスをとると一口で呷った。
「いい飲みっぷりですね」
「あっちじゃこんな上等な酒なんてありついた試しは無かったし、騙されてよかったかもね」
一通り笑いあった後、彼女は表情を改めて少し俺との距離を縮めると声を潜め
「それでね、ダーナ行き、あたしも付き合わせてもらう」
「いや、そんな訳には。 命のやりとりに行くのであって観光じゃぁ無いんですよ」
「だからこそよ、私とエーディンの恩人のあんたに報いたい。それに許可を求めてるんじゃないよ!もう決めたんだし、それにさ、一人でも戦える者が欲しいんじゃないの? 狭い意味であんたの兵隊って全然居ないじゃない。 そりゃレイミアはあんたの言う事は聞くだろうけど、意見が対立したら彼女の兵隊は全部彼女に付くでしょ」
エーディンさんなら決してしないような鋭く危険さをも内包した笑みで彼女はそう告げた。
「それは仰る通りですが、危険すぎます。お考え直していただけませんか?」
「……あたしは十二聖戦士直系って最近ようやくわかったものだから、ご先祖さんのゆかりのあるダーナ砦に巡礼に行く。 そこでたまたま恩人に会ったら協力するってのが人の道ってものかな。ミュアハ王子が滞在している間はあたしもそれに付き合うつもり」
「……ふー、参りました。 でもなるべく遮蔽物に隠れて狙撃に専念するような形で頼みますよ」
「任せておきなさい!」
「じゃあ、もう一杯……おっと、エーディンさんを慕ってるかわいい子がいるので紹介させてください」
こちらのほうを時々ちらちら見ているアゼルを焦らした格好になるが彼女と引き合わせた。
「お久しぶりです、一度お会いしたきりなので覚えてらっしゃらないかも知れませんが、ヴェルトマーのアゼルです」
「……アゼル公子ですね。 よろしくお願いします」
「ボク達の為に今日はありがとうございます」
「とんでもない、公子はとてもご聡明そうですわね。 それに比べてうちの弟のアンドレイときたら、日がな一日トンボとりだのカトンボなどと子供っぽくて、少しは公子を見習うよう申しつけねばなりませんわ」
「ふふふ、アンドレイ公子は甘えられる姉上がおられてお幸せなことでしょう」
「アゼル公子にも、頼りになる立派な兄君が居られるでしょう。でも、そうですわね。もうアルヴィス公をお支えなされる側なのかもしれませんね」
……うーむ、アゼルがずいぶん落ち着いているな。
緊張して真っ赤になってもじもじしてしまうかと思ったのだが! ネタばらしをそろそろしたほうがいいかも知れないので彼女に目配せをした。
「アゼル~、実はこちらの方はエーディン公女の姉上でブリギッド公女」
「うんー、なんかエーディン様の姉上が戻られたって話には聞いていたんだ。なんか雰囲気が少し違うものだからそうかも知れないって思ってたよ」
おお、気が付いていたとは!
「まだ名乗ってなかったしね。 ブリギッドです、公子さま」
「改めてよろしくです」
「こちらこそ」
その後レックスの姿を見かけたのでブリギッドとアゼルはそのままに、彼の方へと向かった。
「……よォ、お前は国に帰っちまうのか?」
「いや、一度ダーナに行ってからこっちに戻ってきて、それから帰ろうかなってね。 まぁ、ダーナからそのまま帰ってもいいだろうけど、やり残したこともあるからなぁ」
「やり残したこと片づけてから行きゃいいんじゃないか?」
「ん? 俺と別れるのが寂しいって?」
「んな訳あるかー!」
そんな風にじゃれているとクルト王太子がやってきた。
うん、あの時となんか状況が被っているな。
「二人ともおめでとう。 ……ミュアハ王子、主席で卒業させてやれなくて迷惑をかけたな」
「いやいや、殿下のおかげをもちまして卒業の機会をいただけました。 ……それに」
「それに?」
「またスピーチの大役を仰せ仕る名目にもなりませんので、願ったりと申すところで」
互いに苦笑いをしてグラスを一杯傾けると、彼は俺たちの肩を叩いて別の輪の中に入っていった。
「ずいぶん王太子と親しいみたいだな」
「んー? そうか?」
「俺は畏れ多くてブルっちまうよ、あのひとにはさ」
肩をすくめて身震いするレックスを見て俺は笑った。
小突かれたりしながらも、いい縁が出来た、士官学校に来て良かったなって思った。
国元へ手紙を送り、ここで世話になった人たちにお礼と再会を願う挨拶を済ませた。
シルヴィアにはダーナでの仕事が終わったら、必ず会いに来ると伝えた。
きっと彼女は連れて行けとせがむだろうと思ったが、俺の無事を願うと言ってくれた。
ブリギッドは一度ユングヴィへ戻り、海賊時代の仲間を連れて現地で合流する運びだ。
アゼルとレックスと拳を軽く合わせ、別れの挨拶とした。
この日、初顔合わせとなったレイミアとも互いに打ち解けた様子で、二人とも傭兵ってモノとその生き方ってやつに興味津津だったようだ。
シルヴィアと軽く抱擁すると冷やかされたが、そんなの気にしちゃーいない。
彼らに見送られながら、俺とレイミア、それに彼女の部下が一路向かうのは奇跡と伝説が伝承される地、ダーナである……
--6章おわり--
後書き
実際のところ、ワープもリターンもリワープでも飛ばせない主人公は鈍亀どころか置物ですねw
それに比べてアーダンさんは優秀すぎる!
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