ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~
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第五十話
リボー軍動く、この知らせをダーナ市長に行った所で信用される見込みは現物でも見せない限り難しいだろう。
そもそも取り次がれる事さえ疑問符が付くのだが、伝令を送った上で打ち合せ通りに俺たちは動きだす。
一通り主だった者達に指示を出したあと、不安そうに俺の袖を引いたのは誰あろうシルヴィアだ。
彼女がダーナに押しかけて以来、俺は努めて距離を置いた態度で彼女に接していた。
特別扱いしないと宣言したのだから。
「ねぇ、あたしはどうしたらいいの?」
「……」
「………嫌いになっちゃったの?」
自分は役に立てるからー!みたいなことをブリギッドに売り込んで来たんだから、行動で示してみろ!
……若かった頃、現実世界で暮らして居た頃の自分ならそう言ったかもしれない。
だが、彼女には彼女の想いがあるのもわかっている。
だから、少し考えてから彼女に告げた。
「戦闘は朝から晩まで、そして夜中の間もひっきりなしに続くって事は無い。だから、小休止があった時に怪我人の治療や食べ物を休憩中の戦士達に配ったり……でもな、ほんとは今すぐここから脱出して安全なグランベルまで逃げて欲しい。 伝令も飛ばす訳だから同道すればいいんだしね」
彼女の返事を待たずに俺は続けて
「……絶対に戦場まで出てきて杖使って治療とかに回ってはいけないよ。 これだけは本当に約束してほしい」
「うん!」
「それと、嫌いになんてなるわけないよ」
言葉だけは素直に了承してくれるけれど………いや、今は言うまい。
俺は望楼のうちの一つに向かった。
敵を目視出来たら思い切り鐘を鳴らして正門側に居るレイミアとその部下に知らせて門を閉じてもらい、城壁の上から射撃や投槍、投石なり行う予定だ。
正門に俺が配置に付かないのは、望楼への襲撃者にロプトの魔道士が居た時に備えてだ。
もちろん、こんな俺たちの動きはついぞ知らぬのが本来の望楼の見張り役なのは言うまでもない。
……目的地に到着してみると、暇そうな監視員が欠伸を噛み殺しながら腕をぐるぐると回したり腰をとんとんと叩いたりとすっかり緩んだ様子が見て取れた。
高いところからの眺めを楽しみたい、などと言って度々登らせてもらい、警戒心を薄れさせて来た相手だ。
今回も同じように声をかけようとしたところ……
望楼の上に突如現れたローブを纏った者、--恐らくロプトの魔道士--が杖を構えている様が見て取れた。
俺は急いで駆け上がったが……いつもと異なり重武装していたが為、最上部の見張り台に辿り着いた頃には、すでに血まみれで倒れた監視員と件のローブの者が血濡れた短剣を片手に待ちうけていた。
鎧を鳴らして駆け上がったからであろう、充分に体勢を整えていたこの者は俺に杖を向けると魔力をぶつけてきた。
どうやらクルト王太子ほどの魔力は無い相手で、本当に一瞬の軽い目眩程度しか感じなかった。
狭い見張り台では充分に扱え無いので、剣を抜くのももどかしく肩口から体当たりをかます。
何本か骨の折れたような音が聞こえるのも気に留めず、俺は魔道士の顔面を殴りつけた。
鼻の骨が折れ、勢い余って折れて飛び散った歯が床に転がり、涎と血とが混ざったものをぶちまけながら倒れたので、素早くローブを切り裂いて紐状にして腕を縛り上げ、それをもう一つ作ると丸めて口に突っ込んで舌を噛み切らないように対処した。
見張りの男は既に事切れており、仕方ないので本来の目的を果たそうと外を見やると、街のほんの近くまで迫って来る軍勢の様子が見てとれた。
思い切り半鐘を打ち鳴らし、その合間に
「敵襲ー!」
と、声の限りに叫んだ。
正門のほうが察知してくれるまでそれを続けようとしたが、異変を察知して駆けあがって来た衛兵と押し問答になった。
捕らえたロプトの魔道士を示し、懐からロプトの魔道書を取り上げて提示しても半信半疑だったが、迫りくる軍勢を見るよう促してようやく緊急事態を納得してくれた。
正門が閉じられるのを目にした俺は望楼を駆け下り、一度アジトへと向かった。
半鐘が激しく打ち鳴らされているのを頓着せずにのんびりしている大勢の市民の姿に平和慣れしてしまった人々の危機意識の欠如を感じてしまう。
大混乱になり身動きが取れないよりはマシかもしれないと言い聞かせ帰り着いた俺は、盾と愛用の槍、それに投槍を数本携えて正門のほうへと急いだ。
正門では、潜入していたリボー側の工作員との戦いがあったようで、いまだ片づけられていない死体とともに血なまぐさい臭いが立ち込めていた。
ここではどうやら衛兵との協力体制が出来ているようでレイミアの手腕に感心する。
俺の姿を認めた彼女がやってきて
「敵さんは攻め手が潰されたようで、壁の向こうでごちゃごちゃ怒鳴ってるけどどうしたもんかねぇ」
「……う~ん、知らずに交易や観光でダーナに向かってきた人たちを捕らえて、助けて欲しければ開門しろって言ってくるかなぁ」
「交易都市だし、商人見捨てたってなっちゃあその後の商売に響くさね」
「敵を退けるだけなら、俺達には知ったこっちゃ無いって見殺しにするのが常道だろうけれど……」
口ごもって続きをぼかす俺の言いたいことをわかってくれている彼女は、こんな状況にそぐわない柔らかな笑みを浮かべて
「それが出来ない甘ちゃんだから放っておけないのさ」
言葉を口にした後すぐに、任せておきな!と、改めた表情で物語る。
「打って出るのを何回かやることになったら覚悟して欲しい、今はとりあえず挨拶してくるよ」
「ん、行っといで」
近所の駄菓子屋へ遣いにでもやるような口ぶりで彼女は言うと、俺のことなどすっぱり頭から消えたように部下に指示を出したり衛兵の部隊長と協議を始めていた。
城壁の内側から壁上に登って行く階段側にはいつぞやの弓兵が居て目礼をし合う。
彼は弓箭隊を任されたようで、周りには思い思いの弓や弩を携えた者達が控えていた。
登り切った俺は壁の外側にひしめく客人達に声をかけた。
「何をトチ狂って攻め寄せてきたんだ?招かざる客人達よ、ここは交易の街だ! 疾く去ねぃ! 蛮族どもめ!」
この挑発に、敵側の幾人かが弓に手を掛け、きりきりと俺へと狙いを定めた。
それを制するように現れた大男が手をかざすと、構えた弓を真下に下ろすが狙った視線はそのままだ。
「……涜神の輩どもよ! 銭集めに心奪われ、まことの神をないがしろとする愚か者どもよ! 我々はここに宣言する。 まことの神の正義と恩寵をこの世に実現する先駆けとならんことを! もし、悔い改めるならば城門を開き、我々への帰依を身を以って示すがいい。 さすれば我々と共に王道楽土を目指す資格を与える用意がある!」
おそらくは敵の指導者、リボーの族長トレントその人だろう。
言ってる内容を考えるに、ロプト教に洗脳されていると思われた。
「馬鹿者どもめ! 神様ってのは己の心の中にあるちっぽけな良心みたいなもんで、他人にとやかく言ったり押し付けたりするもんじゃねーんだよ! 悪いこたぁ言わんからとっととお前らの国に帰りな!」
「……あの者を射殺せ!」
その言葉と共に再び弓を掲げた敵兵が容赦なく俺に射かけてきた。
直射された矢は城壁により弾かれるが、弧を描いて打ち込まれたものは盾を頭上に掲げて防いだ。
弓を持たぬ多くの敵は石礫を城壁に投げつけるが……固い壁に阻まれ、意味を為すことは無かった。
「弁舌で正しきを証明できず! 他人の物を力づくで奪い取ろうとする! だからお前らは蛮族なんだよ!」
俺がそう挑発すると、ろくな攻城兵器も持たぬ彼らは怒りを露わに固く閉じられた城門に殺到し、あふれた者は肩車を組んで城壁に乗り掛かってきた。
……満を持して現れたこちらの弓箭隊は城壁に現れるや否や、敵側の弓兵に集中砲火を浴びせ射殺すと、城壁の下に群がる敵兵を次々と射抜き、矢を気にする必要の無くなった俺は、城壁に乗り掛かってきた敵兵を槍で突き殺し、落下した死体は新たな犠牲者を生産した。
こちらの反撃で少なくない犠牲を出した敵側は、体勢を整える為に一度城壁から離れた。
伝令があり、市長が俺に用があると言うことなので見張りには警戒を厳重に、事があったらすぐに使いを寄越すよう伝えて市庁舎へと足を向けた。
市長の応接室に通されると、そこには既にレイミアが居た。
促されるまま席に着くと、この街の有力者と思われる者達は口ぐちに質問を浴びせてきたのだが……
「……まずは、自己紹介いたします。 それがしはレンスター第二王子ミュアハ、昨年迄グランベル士官学校で学んでおりましたがそれを修め、故郷への帰り道にこのダーナに寄ったところ先程の騒ぎに巻き込まれたのです。……こちらは我が婚約者にして護衛役を務めるレイミア」
一瞬だけぎょっとした表情でレイミアは俺を見たが、すぐにそれを消しそれ以上の態度を現しはしない。
このお歴々は俺の身分の詮索はそれ以上は進めないが、信用したのだろうか? 王族への詐称は罪に問われることではあるが、そんな者はこの世の中掃いて捨てるほど居るだろうに……
「して、ミュアハどの、敵はいったい何奴です? 追い払う事はできそうですか? あぁ、そして何故
にあなたは軍隊を街中に留めておいでなのです?……いや、咎めている訳ではありませんぞ」
「順を追ってご説明いたします。 まず、敵の所属は今のところ不明ですが、訛りや外見の特徴的にイザーク人の可能性が高いと思います」
俺は提供された飲み物で口の中を湿すと
「この堅固な城壁に拠っていれば敵を退ける事は出来なくは無いと思いますが………打って出て殲滅を計るということは困難を伴うでしょう。 兵を無断で潜ませていたのは心苦しいところでしたが、これには事情があって……」
「ほぅほぅ」
「故郷への帰還の途上、軽く病にかかりましてここダーナで養生させていただいておりましたが、その間に街の方々に大変良くしていただいたもので立ち去るのが名残惜しくなりまして」
「……そういう訳で殿下を連れ戻すように仰せ仕いまして護衛を連れてこの街を訪れたのですが、一度こうと決めたらなかなか意見を変えてくれない方なので兵共々、殿下のお気が変わるまでと滞在していたという次第です」
レイミアは俺の言い逃れに上手く乗ってくれた。
後で何を奢ればいいだろうか!
「なるほど。 バーハラからミュアハどのを守ってきた護衛に加えて、婚約者どのがここまでの道中に必要な護衛を連れていたのでまとまった軍のようになってしまったと」
「ご察しの通りでございます」
「いやいや、なんの、おかげでこうして街の皆が助かりました。 ……恩を受けておきながら誠に勝手な申し出となりますが、あとは我が街の守備隊に任せてはいただけませんかな?」
「……市長様のお立場上、その要請は当然の事と存じますし我らも従わねばなりますまい」
「市長! 我が街の守備隊だけで防ぎきれるとお思いか?」
「それについては商工会のほうからも殿下に助力を要請したほうが良いと思います」
「しかし、この街はこの街の者で守らねばなるまい、そこに拠って立たねば、ダーナ人の面目が立たぬ!」
街の関係者同士で議論が紛糾してしまい、収拾がつかなくなってしまったので、決まったら連絡を寄越すように、それまで俺たちは状況に合わせて臨機応変に対処すると一方的に宣言し辞去した。
市庁舎から外に出て速足で城門のほうへ向かって行くとシルヴィアが駈けてきてバスケットに入った飲食物を俺とレイミアに渡してくれた。
礼を言って受け取ると、彼女はもと来た道を戻ろうとしたが……
いつぞやヴェルダンで出会った謎の占い師が目の前に居た。
「ごきげんよう皆さま方。 言った通りにまた会えたでしょう?」
彼女は妖しげな笑みを浮かべてシルヴィアのほうを見て頷くと、俺にも同じ動作をして
「……占ったこと、守りなさいね」
そう言葉を残して、一瞬にして姿を消してしまった……
気が付くとレイミアだけが俺とシルヴィアの数メートル前を歩いていて、こちらを振り返った。
「お前たち、ぼーっと立ち止まってどうしたんだい?」
シルヴィアと顔を見合わせ、慌てて彼女に追いついた……
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