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翡翠のエンヴレイム

作者:北御門綴
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第二話「目覚める力」

 
前書き

 

 
 燃え盛る化け物、だが奴にだって化け物としてのプライドはあるのだろう、焼ける痛みをモノともしない風に装い翠とアケミに襲いかかる。
 アケミは溜まったイライラを吐き出すようにため息をつくと身体の向きを変えて迫りくる拳に短剣の切っ先を向けた、短剣の周囲に桜の花びらが集まり一つの炎の刃を形成、短剣の刃の倍はあるその炎の刃は化け物の拳に突き刺さると内部で爆発、そのまま内部から化け物の肉を焼いた。

「アッバッギョォオオオオ!!!」

 言葉に言い表せない悲鳴を上げる化け物、腕からもくもくと煙があがる。
 アケミは耳に響く化け物の悲鳴に顔を歪めると短剣を振りかざし、燃え盛るソレを振り下ろそうとした。その瞬間。

 甲高い音と共に塀に大きな穴のようなものが現れた、物凄い風と共にその穴から何かが姿を現した。
 今もだえ苦しんでいる化け物と同じ容姿、同じ外見の化け物は身体を捻らせ馬鹿でかい口を開き、叫びながら彼女に襲いかかった。

「もう一匹!?なんで……」

 小回りの利く短剣を素早くそちらの方向に向け先ほどと同じように炎の刃を形成する、だがそれを遮るかのように片腕を失った化け物が彼女に突進。
 軽い華奢な彼女の体はその倍はある化け物によって簡単に吹き飛ばされてしまった。

「ッ!!」

 勢いよく吹き飛ぶアケミ、翠は後退していた為巻き添えを喰らう事は無かったが、ピンチには変わりなかった。




 翡翠のエンヴレイム 第二話「目覚める力」――。



 
 名前も知らない少女が訳も分からない化け物に突進されて、視界から消えた。
 本当に訳が分からなかったけど、右方向から聞こえる激突音がこれを本当に起きている事なんだと、そう実感させた。
「僕は……」

 死ぬのだろうか、死亡理由が特撮モノの撮影に巻き込まれて、ってそれじゃあ全国のオナゴンジャーを楽しみにしている子供たちに申し訳が無い。
 だから、いや、それが理由ではないんだろうけども――。

「僕はッ……」

 戦う術を、幾千年より昔から存在する太古の力。男と女の交わりによって誕生したその力を、その力の結晶の名を、僕は無意識の内に叫んでいた。

 生きる為に――。

「紋章・解放(リエン・エンヴレイム)ッッ!!!」

 左手を胸の前に移動させ手の甲を化け物に向ける。
 解放の言葉は外界に振動として放たれ、世界が、僕の肉体が、その振動を浴びる。


 紋章は現れた。


―――――。


 手の甲に浮かび上がったその紋章は彼女のモノと同じ紋章だった、だけど色は無く真っ白で目が痛くなるくらいそれは光っていた。
 そこで彼は不思議に思った、化け物が襲ってこないのだ、何故だかはわからない、手の甲の光が視界を遮っているからだ。
 彼女は前方より放たれる大量の力によって目を覚ます。どうやら衝撃によって気を失っていたようだ。

「こ……れは……、解放……?あいつ、紋章の解放を行ったのね……よっし……!!」


 紋章の力を肉体に流し込む、こうすることで肉体の痛みが緩和して動けるようになる。
 彼女は肉体の自由を取り戻すとコンクリートの地面を蹴り、翠が放つ光の壁を突き抜けて、光によって身動きを封じられている化け物に炎の刃を浴びせた。
 炎の刃は化け物の皮膚を絶ち、そのまま肉を焼き切っていく。

「はぁあぁあああッ!!!」

 刃が地面に突き刺さる、肉体を裂かれた化け物はこの世界に存在出来なくなって、黒い粒子に分解され消滅。
 彼女はすぐさま黒い粒子の先に見えるもう一匹の化け物に跳びかかった。

 その速度は常人の目では追いつけない程だった。
 
 高速の速度を纏う彼女が炎の刃が届く範囲まで来た、化け物は蓄積されたダメージによって既に満身創痍、彼女の接近に対応できる程の力は残されていなかった。
 そうなればもう、彼女を阻むモノは何もない。



 そこから繰り出された“一閃”はとても美しいものだった――。




「ふう」


 黒い粒子が漂う中、一人の少女は息をつく。
 その光景は幻想的で、彼は目を奪われた。


 だけど彼女はそんな彼を見るなり表情を変え短剣の柄を強く握りしめる。

「あんた」

 ドスのきいた低い声が前方から聞こえる、女の子が出せる声じゃあないでしょう、と突っ込みを入れたくなるくらい、ソレは低かった。
「は、はい」
「なんで聖魂紋章の解放が出来る訳?しッかもバインドまで、それに闍魂領域に介入出来るレベルって、あんた本当に覚醒前のド素人?」
 良くわからない単語がぽんぽんアケミから放たれる、翠は苦笑いしながらそれに答えた。
「いや、違うと思います」
「じゃあなんで?説明しなさい役立たず」
「!?何でそこまでいわれなき「い・い・か・ら、説明なさい」

 容赦ない彼女の攻撃に翠は渋々、適当に理由を作って答えた。

「……死にたくなかったんで無我夢中で、やってみたらできちゃいました」


「……」
「……あはは」

 静寂がその場を支配した後、服が擦れる音が小さくなり、翠は逸らしていた視線を元の位置に戻すと、そこには。
 短剣の刃が彼の首元を捉えていた。
 ひんやりと冷たい感触が首を伝って全身に広がる、半端じゃない寒気が翠を襲うのであった。
「ッッひぃぃいいぃぃ!?本当だって!!」
「覚醒前のド・素人がやってみて出来たら苦労しないのよ!わかる!?あんたのせいでせっかくの休日がパーよ!あんな力があるならアーノルドもほっとけっての!!!もぉ!」
「……、何か……すんません」
 謝ったのに脛を蹴られる翠、アケミは行くわよ!と言いズンズンと住宅街の道を進んでいくのであった。

「ってて……!!行くってどこに!?」
「セイントハウンドよ!!」

 翠は脛を抑え一本足でぴょこぴょこ跳びながら彼女の後に続く。
 ふと、このボロボロになった塀とかはほっといていいのかな、と後ろを振り返る翠。

「あれ?」

 だけどそこにはボロボロになった塀などなく、瓦礫一つ無いいつもと変わらない住宅街の道があった。
 それに先ほどまでいなかったはずの人達が何食わぬ顔でそこらへんを歩いているのだ。

 首をかしげる翠、なぁんだ今のは夢だったんだ、と胸を撫で下ろす翠、だがそんな彼を現実に連れ戻すかのように彼女の罵声が響いた。

「早くしなさい!!」
「はぇっ!?はっ、はーい!!!」

 
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