真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾
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黄巾の章
第2話 「愛紗の目が紅く光っているのだ……」
前書き
やっとペースが戻ってきました。
この章から独自ルートに入っていきます。
そりゃもうご都合主義のごとく、いろいろと未来人の知識を使いますよ。
まあ、それが実るのは拠点を得てからになるでしょうが……
まあ、原作の蜀ルートご都合主義だらけだからなぁ
―― 盾二 side 冀州近郊 ――
北平を出発し、南下しながら黄巾党の情報を集める。
俺たちの兵は六千程度。
いくら一騎当千の愛紗や鈴々がいたとて、大軍はリスクが大きい。
だが、それでも名声と募兵のためにも、勝ったという事実がいる。
だからこそ、敵を選んで勝ち、それを喧伝してさらに兵を募り、糧食も融資してもらう。
それには細作を放ちつつ、各邑や街で情報収集と義勇軍を知らしめる必要がある。
「という方針だけど。どう思うかな?」
「はわわ……すごいです」
「あわわ……私たちと同じことを」
そう。
俺の前には、孔明と鳳統がいる。
北平を出発して数日。
俺は二人を傍に置きつつも戦いには参加させないことにした。
「さて、君たちがいろんなことを勉強してきたのは聞いた。孫子、呉子、六韜、三略、司馬法……その他は省くとして。あと、経済に民政書などなど……だったね」
「はい」
今は夜――夜営の天幕の中。
ここで地図と情報の書かれた竹簡を元に、二人に問いかけている。
二人は正式に参加できなかったことへの不満があったのだろう。
話しがある――その言葉にすぐに飛んできた。
だから話してやったのだ。これからのことを。
そして聞くのだ、これから。
彼女達の……覚悟を。
「まあ、俺も勉強したことあるからわかるよ。あれを読んで、理解しただけでもすごいということは。ただね……」
「ただ……なんでしょう?」
「物事の中で一番怖いこと。それは……机上の空論」
「きじょうの……くうろん」
俺の言葉に顔を見合わせる二人。
やはりこの頃にはまだ、この諺は生まれてないか?
「机上の空論ってのは、頭の中だけで実際には通用しない論理や方法のこと。経験と置き換えても良い」
「……つまり、私たちには経験が足りない、と?」
「そういうことだ。君たちは勉強をしてきた。でもそれを実践で生かしたことはない。ちがうかい?」
「……そのとおりです」
俺の言葉に鳳統が項垂れる。
まあ、しょうがないかな。
「確かに人の英知を勉強してきて、それを生かそうと思う志は立派だと思う。でも、経験もなしに人を率いて戦う……君たちはその意味を正しく理解しているのかい?」
「……わかりません。どういう意味でしょう?」
孔明が、困惑気味に俺に尋ねる。
この世界に生まれ、この世界の現状を知っているとはいえ……彼女達はまだ知らない。
”戦場”というものを。
「自分の指図一つで敵が、そして味方が死ぬ。君たちは見たことあるのかい? 人が殺し、殺され、地面に倒れ、腐り、骨になって地に帰る。そんな姿を」
「…………(ブルブル)」
想像したのだろう。
二人とも青い顔で、ブルブルと震えながら首を振る。
「そんな出来事が自分の命令で行われる。相手には家族もいる、友人もいる……幼い子供や身重の妻だっていたかもしれない。そんな人が自分の命令で死に……ある日、その家族が君を指差して言う。『アンタの命令で私の大事な人が死んだのだ』と」
俺のその言葉に、立っていられなくなったのだろう。
鳳統がフラッ、とバランスを崩して倒れかける。
「雛里ちゃん!」
「おっと」
俺はその背中を支えて、腕に抱く。
「わかるかい? そのつらさが。わかるかい? その悔しさが。それが指揮をする、ということなんだ」
俺はさらに話を続ける。
ひどいことを言っている、そう思うが……これが真実だ。
「君たちは、軍師として義勇軍に参加しようとしたのだろう?」
「……はい」
「自分達の知識ならば、義勇軍を導ける、そう思った?」
「……はい」
やっぱりそうか……なら言わなきゃならんな。
「今のうちに言っておこう……戦場を舐めるなよっ、小娘どもっ!」
「「!!」」
俺の言葉に――二人が固まった。
「戦うということ……死ぬということは格好良いことなんかじゃあない! 人を傷つけ、傷つけられて、次の瞬間には意思も、志も、なにもかもが塵芥に変わる……それが戦場だ!」
「「…………」」
「戦って意思を示す? そんなものは権力者側の言い分だ! 兵士は、民は、命を代償に、その権力者側の言い分を認めさせられる駒になる……それを行おうとしていたのがお前達だ!」
「わ、わたっ」
「……ひっく」
「権力者は等しく加害者だ。そして悪しき存在だ! その真理をわからず漫然と人を導く? 笑わせるな! 知識なんか、書さえあれば誰でも知ることができる。自分は戦いもせず、ただ人を戦場に送る人間をなんというか知っているか? それは軍師ではない、扇動家というのだ!」
「「ゥッ……ヒック……」」
「自分が死ぬ覚悟もなく、罵倒される覚悟もない、そんな人間が戦場を語るな! 軍師など名乗るな! 語っていいのは死ぬ覚悟と、それでも生きる意思があるものだけだ! それがないなら、戦う人間全てに対する侮辱と知れ!」
「「う、あああああああああああっ!」」
二人が号泣しだす。
うん、俺、悪者です。
「……ごめんな」
そう一言だけ言って、二人を抱きしめる。
二人は俺の服――AMスーツを握り締め、大声で泣く。
信じられるか? 孔明と鳳統が、俺の胸で泣いているんだぜ?
(一刀が見たらどう言うだろうか……いじめんなよ、とか言われそうだ)
思わず苦笑して、二人をしっかり抱きしめた。
―― 鳳統 side ――
私と朱里(孔明)ちゃんは泣いていました。
私たちはとんでもないことをするところだった。
ちょっと勉強して、水鏡先生に天才だとか百年に一人、いえ、二人の逸材だ、と言われ、調子に乗っていたんです。
私たちは何でもできる、例えこの乱れた世の中をも救える。
そう本心から思っていました。
天の御遣い――北郷盾二さんの話を聞くまでは。
「……ごめんな」
北郷さんが私たちを抱きしめながら謝ってきます。
ちがいます。悪いのは私たちです。
私たちがそんな覚悟もなく、ただ声をあげ、注意を惹き、自分達の知識を示せば……きっと私たちを重用するはず。
そう考えて、あのとき声を上げたんです。
でも、それは浅慮な考えでした。
「ヒック……ヒック……」
私たちは……何もわかっていなかったんです。
私たちの策が成ること……それは誰かの命を奪うことだって意味。
私たちの策が破れること……それは仲間の命を失う事だって意味。
私たちの言葉一つで……何人、何十、何百、何千、そして何万という命が失われていくという意味を。
そしてその……家族や仲間や恋人に、生涯恨まれるのだということを。
「……怖いかい?」
北郷さんの優しい声が聞こえます。
さっきまでの恐ろしい、まるで泰山府君の怒号のようだった怒りの声。
それが今は優しいお兄さんの声になっています。
「ヒック……はい」
「うっく……はい」
私と朱里ちゃんが答えます。
きっと朱里ちゃんも泣きながら、頭の中ではいろいろ考えています。
後悔、悔恨、焦燥、そして……恐怖。
「その怖さを忘れちゃいけない。それは命を預かる怖さだ。それを忘れたとき、命令するものはただの外道となる」
北郷さんの言葉に、私の頭は二つの意思が働いています。
一つは感情、もう一つは……打算。
感情では北郷さんの言葉は、深く心に染みました。
今までの慢心を打ち砕き、優しく包み込んでくれるその暖かさ。
でも、もう一つの心が、私自身を嫌悪させます。
それは……こんな状況でも、私は軍師として世に出ることを諦めていないという打算です。
その為にはどうすればいいか……頭の隅でどうしたら関心が買えるか、そのことを考えています。
そして、その浅ましさを感情の心がさらに自分を情けなく思わせ……
「ヒック……あああああああああっ!」
また、私を泣かせてしまうのでした。
―― 孔明 side ――
雛里ちゃんがまた泣き出しました。
でもさっきまでの恐怖による泣き方ではありません。
きっと自分の心の醜さを……こんなときでも軍師として頭の中で打算が働いてしまう自分を嫌悪したのでしょう。
雛里ちゃんは優しい子、そして清純な子だから、それに耐えられなかったんだと思います。
でも……私は雛里ちゃんよりたぶん、心が汚いから。
だから、汚れ役は私の役目です。
「ひっく……ほんごう、さん」
「……なにかな?」
「……私たちは、っく、それでも」
「……うん」
「ひっく……それでも(ぐしぐし)」
涙が邪魔です。服が汚れますけど気にしてられません。
「ズズッ……それでも! 私たちは、たとえ罵倒されても、軍師を目指します! だって! だって、それが私のできる、ただ一つのことですから!」
私は叫びます。
ここが勝負だと思いました。
ここで、北郷さんに認めてもらえなければたぶん……二度と立ち上がれない。
私たちの意志も、志も、きっと、どこのどの陣営にいったとしても。
ここで北郷さんを認めさせられないで、なにかを成すなんて、絶対にできっこない!
「…………」
北郷さんは黙っています。
その目はつぶったまま。
眉を寄せているわけでも、眉間にしわが寄っているわけでもありません。
ただ、目を閉じ――そして開きました。
「……後悔しない?」
「っ! しま」
「しません!」
!?
私が叫ぼうとした瞬間、雛里ちゃんが顔を上げて叫びました。
そう、やっぱり雛里ちゃんも同じだった。
私たちの志は、こんなことで倒れるほど柔じゃないんです!
「そっか……」
盾二さんは優しい目のまま、ポン、と私たちの頭に手を置きました。
「なら……ひとつだけ、俺に誓ってほしいことがある」
「……なんですか?」
私が覚悟を決めて、北郷さんの言葉を待ちます。
例えどんな言葉でも、私の、私たちの心は折れません!
「……命を粗末にしないこと。自分も、他人も。それを俺に誓えるかい?」
優しい瞳。慈愛の眼差し。
そう言った北郷さんが……私達には、とても眩しくて。
ああ……この人こそが。
私と雛里ちゃんは、その場に膝で立ち、盾二さんに臣下の礼を執りました。
「我が名は、姓は諸葛、名は亮、字は孔明……真名は朱里と申します。私は貴方に従い、この命尽き果てるまで……終生の忠誠を誓います!」
「我が名は、姓は鳳、名は統、字は士元……真名は雛里と申します。私も貴方に従い、この命尽き果てるまで……終生の忠誠を誓います!」
私たちは、その日━━生涯の主君を得た。
―― 関羽 side ――
ご主人様の天幕から、孔明や鳳統の泣き声が聞こえた次の日。
「いや、愛紗。人聞き悪い言い方はやめてくれ」
「なんのことでしょう?」
「……まあいい」
そういってご主人様は、翌朝になって桃香様や私、そして鈴々がいる前で、孔明と鳳統が正式に仲間になったことをお伝えなされた。
「そういうわけだ。彼女達は俺が面倒見るよ」
「うーん……じゃあ二人は、ご主人様に仕えるってこと?」
「いや、それは……」
「「はい、そうです!」」
「おい」
桃香様の言葉に否定しかけるご主人様を、二人が遮って答える。
「いや、俺はあくまで桃香に力を貸しているんであって、桃香がここの主みたいなものなんだから……」
「いいえ、私たちは劉備様のお仲間にはなるつもりです。でも、私たちが真にお仕えするのは盾二様です」
「私たちは盾二様が桃香様にお仕えするので、桃香様のお仲間になります。でも、盾二様のご命令を優先します」
「お、おい、二人とも……」
ご主人様の言葉に孔明と鳳統がしれっと答える。
ふむ……これは。
「ゴシュジンサマ?」
「やめて、よして、その目はダメだから! 怖いんだからやめてくださいおねがいしますアイシャサン」
ソンナニ、こほん。
そんなに怖く睨んだ覚えはないのですが。
「愛紗の目が紅く光っているのだ……」
鈴々? おかしなことを言うな。
ワタシのドコが捕食者の目だとイウノダ
「こ、怖い……」
「ま、負けません!」
何を言うのか、この幼女ども。
「え、えーと……桃香さん? とりあえずそういうことなんですが……いい?」
「え? もちろんだよ!」
は?
「と、桃香様?」
「愛紗ちゃんも、なんでそんなに怒ってるの?」
桃香様は、にっこりと笑っておられる。
いや、別に怒ってなどいるつもりは微塵もありません。
ええ、ありませんとも。
「ご主人様に仕えるってことは、私たちの仲間になるってことだよね? だったら歓迎するよ!」
「よ、よろしいのですか? 二人は桃香様でなくご主人様自身に仕える、とおっしゃっているのですよ?」
「だから?」
きょとん、とした顔で尋ねてくる。
「ご主人様に仕えるのは当然じゃない。だって私もご主人様をご主人様と思って一緒にいるんだもん。全然問題ないよ?」
「いやいやいやいや、いや! ちょっとまってくれ。桃香、俺は君に力を貸しているつもりだといったぞ!」
ご主人様が慌てて声を上げる。
しかし、桃香様はニッコリ、と笑顔で……
「うん、だから私がご主人様になってもらったんじゃない」
「いや、だから……俺は力を貸しているの! 主体は桃香なの! 俺はただの御輿!」
「違うよ? ご主人様だよ?」
「だぁからぁぁぁぁっっ!」
いかん。桃香様の頑固状態が発動している。
こうなっては止め様がない。
「あきらめるのだ。白蓮のお姉ちゃんも言ってたけど、この状態のお姉ちゃんは何を言っても無駄なのだ」
「鈴々……とほほ」
ああ、ご主人様が陥落した。
それを孔明と鳳統がよしよしと……マテ、ナ ニ ヲ シ テ イ ル
「と、とりあえず……二人は仲間になったということで! あ、それと対外的には劉備軍にするからね! いいね!」
「もう、しょうがないなぁ。ご主人様のテレ屋さん♪」
「(ぼそぼそ)……にげちゃだめだ、にげちゃだめだ」
ご主人様が後ろを向いてしゃがみこみ、ぶつぶつと何かをおっしゃっている。
その頭を再び孔明と鳳統が……ナニヲ、シ
「じゃあじゃあ! 二人とも私の真名を預けるね。私は桃香。よろしくね」
「鈴々は鈴々っていうのだ!」
桃香様と鈴々が真名を名乗り、ちらっと私に視線を向ける。
う……ここで預けねば、私が狭量ということになってしまうではないか。
二人にはともかく……ご主人様には思われたくはない。
「……愛紗だ」
渋々、といった想いで真名を預ける。
「ありがとうございます! 私は朱里といいます!」
「わ、わたしは、雛、里です……」
孔明――朱里は喜んで、鳳統――雛里はもじもじとして、それぞれ真名を名乗る。
やれやれ……仕方ない。
「では、ご主人様……そろそろ元に戻ってください。これからどうするか決めませんと」
「あ、ああ。そうだった……」
私の言葉に、ようやくご主人様が立ち上がる。
「で、これからどうしますか?」
「ああ、そのことなんだけど……」
そうしてご主人様は、先日から決めていたという行動指針を皆に伝えた。
ちなみに朱里と雛里は昨日の夜に聞いていたらしい。
「ということで、昨日のうちに細作は放ってある。そろそろ戻るから、その情報を元に――」
「伝令!」
そこに放っていたと細作と思われる兵が走ってきた。
その情報とは、この先二十里(十km)先の街道に黄巾党の陣があるとのこと。
その数、一万。
「一万かあ……ふむ」
「数の上では圧倒的不利……ですが。どうされますか?」
「うーん……六千対一万か。数の上でなら、どうとでもできそうだけど……被害は減らしたいね」
さすがご主人様。
兵数で負けている状況でもなんとかできる、とおっしゃる。
しかし、そう言いつつも、チラッと朱里と雛里を見た。
「二人とも、初仕事だ……損害をできるだけ少なく勝利する献策を、俺に示せ」
「「御意!」」
ご主人様の言葉に、二人の軍師は声を揃えた。
後書き
なにがご都合主義って、徐州からいきなり益州にいくってのがご都合主義の最たるものですね。
とある方がおっしゃってましたが、恋姫の蜀ルートの民衆大移動は、コーディネイターでもできやしない、だそうです。
誰がって? 民衆がって意味です。
考えてもみてください。
史実では”新野から江陵”にいくつもりだったんですよ?
だから民衆をつれて移動したのです。
それでも追いつかれてちりぢりになったんです。
それがなんで徐州から……中国の北東にある州から南西の州への移動ということです。
青森の最北端から本州最西端の山口の端まで歩くのと同義です。
それを老人や女子供がいて31日前後? それも休みなく?
訓練された兵ならともかく、一般人が一日何km歩けると思っているんでしょうね。
レッドクリフみればわかると思いますが、馬や馬車なんて普通は使えませんよ。
しかも家財道具が満載された荷車を引いたりして……そのうえ長坂の戦い?
漢中にある桟道という日本じゃ考えられない難所(筆者は写真とニュースを見て絶対歩きたくないと思いました)を抜けて諷陵まで……
そうか、だからあのゲームで地図やら勢力図やら出さなかったんだな。
大陸図だけにしたのは、めちゃくちゃな設定を隠すため、と。
本当にどういう計算してるんでしょうね^^;
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