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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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黄巾の章
  第3話 「俺たちは、勝つ」

 
前書き
ストックがつきそうです…… 

 




  ―― 盾二 side 冀州近郊 ――




 俺は、朱里と雛里に献策を指示する。
 その言葉に、嬉しそうに応える二人。

「盾二様、戦略目標は敵の壊滅、でよろしいのでしょうか?」

 朱里が尋ねてくる。
 ふむ、なるほど……俺の意思を確かめているのだな?

「違う。『損害を少なく、敵の補給物資を鹵獲する』だ。この際、まずは名より実を取る。現在の糧食はもって二十日前後。多少の資金はあるとはいえ、武器や装備はないに等しい」

 そう、俺たちの軍は『義勇軍』なのだ。一般の軍隊と違い、錬度も装備も最低レベルである。

「俺たち劉備軍は『仲間の被害を最小限に目的を果たす』ことを第一とする。ゆえに、まずは殲滅よりも事実上の勝利でいい」
「……わかりました。損害をできる限り少なく、となりますと……単純に敵を誘き出して一網打尽、という計はやめておきます」

 そういう朱里の言葉に、愛紗が首をかしげる。

「何故だ? 誘き寄せて一網打尽なら陣に篭られるより被害が少ないと思うが」
「いえ、誘き寄せるためには、えっと、その、誘き寄せる兵の損失が激しいからです」

 雛里のたどたどしい説明。
 ふむ……

「それでも篭られるよりはいいと思うのだが……」
「確かにそうですが、この場合は殲滅することが目的ではありません。まずは兵を削ることが肝要かと」

 朱里が、雛里の説明を引き継ぐ。
 なるほど。出血を強いるわけか。だが……

「確かに出血を強いて兵を減らすのはいい。だが、糧食に余裕がないのはさっきも話したとおりだ。時間はあまりかけられんぞ?」
「はい、ですのでこの計は――五日で終わらせます」

 そういった朱里の言葉に桃香たちがざわめく。
 ただ一人、俺はニヤリ、と笑っていた。




  ―― other side ――




「なんだと?」

 その男はこの近辺の黄巾党を任されている男だった。
 ここは街道の交差する地点であり、各地の黄巾党の仲間への物資の搬送や、情報の伝達などを主任務としている。

「ですから……こちらに向かって義勇軍が迫ってきていると」
「そんなのはわかってんだよ。その人数がどれくらいだって?」
「は、二千程度、と……」
「ばかばかしい」

 男はそういって呆れたようにため息をつく。

「こっちは一万もいるんだぞ? 二千程度でどうこうなるようなもんじゃねえだろうに。よほどの馬鹿が率いているんだろうぜ」

 男の嘲笑に、その場にいた仲間もギャハハ、と笑う。

「かまわん、四千程率いて潰して来い。たかが義勇軍、全軍出るまでもねえ」

 そういった男だった。
 しかし、半刻後――

「ああん? 戦う前に逃げ出した、だ?」
「はい、こちらが仕掛けようとすると、さっさと逃げていきました」
「は、腰抜けが! なにが義勇軍だ!」
「「まったくだ、ギャハハハ!」」

 男達はそう笑い、酒を飲みだす。

「おう、戦勝祝いだ、酒を出せ」
「は!」
「くく……おもしれえな、黄巾党は。官軍も役にたたねえ、義勇軍も腰抜け……こんなやつらに今まで俺たちは、税を納めてへいこら従っていたのかい」

 男は、自嘲気味にそういうと酒を煽った。
 だが、そう言った男達が酒を飲み、寝入った深夜――

 ジャーン、ジャーン、ジャーン!

「!? なんだあ!?」
「や、夜襲です!」

 見張りの男が飛び込んでくる。
 どこかが夜襲を仕掛けてきたらしい。

「ちい……敵の数は!?」
「そ、それが……たいまつの量を見るに二千程で」
「二千……昼間の義勇軍のやつらか。舐めたまねを……」
「いかがいたしますか!?」
「決まってんだろう、迎撃だ!」

 男が叫び、その場に転がっていまだ寝ている仲間を蹴っ飛ばした。

「おめえら、いつまで寝てやがんだ! 舐めた敵がきてんだよ! 起きやがれ!」

 男はそう言って、のろのろと起き出す仲間を忌々しげに見下ろす。

「おら! 半数は打って出て、半数は陣を守らせろ! 俺は出るぞ!」

 そういった男だったが……

「なにい! また逃げ出しただとう!」

 いざ、陣から打って出ようとした時になって相手がたいまつを消し、忽然(こつぜん)と姿を消した。

「ヤロウ……おちょくってやがんのか!」

 男は叫ぶが、敵が消えた以上はどうしようもない。

「くそっ……しかたねぇ。おまえら! 敵はまた来るかも知れねえ! 周囲に篝火をもっと炊いて、敵の奇襲に備えやがれ!

 そういった男は、憎々しげに敵が消えた方角にある闇を睨んでいた。




  ―― 朱里 side ――




「おはようございます、盾二様」
「ああ、おはよう。昨日の陽動はどうだった?」
「はい、大成功です」

 私がえへん、と胸を反らせると、盾二様は私の頭を撫でてくれました。

「よくやったね。お疲れ様」
「えへへ……」
「いいなあ、朱里ちゃん……」

 隣にいる雛里ちゃんが、羨ましそうに指をくわえています。

「ははは、今日の陽動も成功したら雛里も撫でてあげよう」
「が、頑張りましゅ!」

 あ、雛里ちゃんの目に炎が見えた。

「これを三日繰り返して……あとは予定通り、だね?」
「はい。第一の本番は三日目と四日目になります。特に三日目の仕掛けが肝要かと」
「まあ、そこは俺と鈴々に任せてもらおうか。せいぜい派手にやるさ」
「ですけど……本当にご自愛くださいね?」
「わかっているよ。君たちに命の大切さを説いた俺が、早々に死んだら洒落にならないしね」

 盾二様が、屈託のない笑顔でそうおっしゃる。
 はわわ。顔が紅くなります。

「じょ、盾二様……お、おき、お気をつけて、くだしゃい、ね」
「はは、雛里。俺の、この服のことは昨日見せたろ? 心配いらないよ」
「そ、それでみょ、心配になりましゅ!」
「ああ……ありがとうな」

 盾二様は、そういって雛里ちゃんの頭を撫でだす。
 ああ、ずるい。

「わ、私も心配してましゅ!」
「あ、ああ……ありがと」

 えへへ、私も撫でてもらっちゃった。

「……なんだこれ」

 盾二様の呟きが、頭の上から聞こえてきました。




  ―― other side ――




 くそっ! くそっ、くそ、くそ、くそ、くそっがぁあ!

「毎晩毎晩、昼と夜とでチラチラ、チラチラ……うぜえ蝿だな、こんちくしょうがぁ!」

 夕陽が陣を染める頃、男はそう叫び、近くにあった槍を蹴り壊した。
 こちらの陣に攻撃を仕掛けるそぶりを見せつつ、こちらが討って出ようとすると、さっさと退却してしまう。
 にもかかわらず、日に二度、多いときは五度もやってきて、こちらが攻める様子を見せれば退却する。
 そんな状態が、一昨日、昨日、そして今日と続いている。

「……いかがしましょう。皆、毎日の夜襲に夜も眠れませんが」
「けっ……どうせ仕掛ける度胸もねぇやつらだ! 今日の夜に敵が姿を見せても放っておけ! どうせ攻めてきやしねぇ!」
「しかし、万が一……」
「じゃあ、テメエが指揮を取れ! 俺は寝る! いいな!」

 男はそういって自分の天幕へと戻っていった。
 だが、その深夜――

「ほ、報告! 敵が、敵が――」
「やかましい、俺は寝てんだ! 殺すぞ!」
「違います! 敵が……本当に攻めてきました!」
「……! なんだとぉ!」

 男が飛び起きて外に出る。
 そこは火矢が飛び交い、柵が壊され、侵入してきた敵に仲間が殺されていた。

「……どういうことだ!」

 男は横にいた伝令の胸倉をつかむ。

「は、はい。おっしゃられたとおり、今日の夜襲もたいまつが姿だけ見せて、しばらくして消えました。だから、問題なしと判断したのですが……いつのまにか敵が傍まで迫っていて、外で陣を張っていた仲間がどんどん殺されていったんです!」
「くっ……舐めたまねを!」
「敵はそのままこちらの陣へ侵入し、柵を壊して回っています。こちらは統制が取れず、やむをえずお起こした次第……」
「この、馬鹿がっ! 何でもっと早く起こさねぇ!」
「し、しかし、指揮は私が取れと――」
「それで手に負えなくなったから俺に任せるだと! ふざけんじゃねぇ!」

 男は、伝令を袈裟懸けに斬り殺した。

「おめえら! ぐだぐだ慌ててんじゃねぇ! どうせ二千程度じゃこっちを全部殺せねぇんだ! 剣を取って戦え! 数で押し込みゃ、いくらでも勝てるだろうが!」

 男の声を他の伝令が伝え、統制を取り戻していく。
 だが、その頃には奇襲してきた敵は目的を終え、すでに陣から撤退した後だった。

「くっ……どこまで人をおちょくりゃ気が済むんだ、アイツらぁ!」

 男が八つ当たり気味に、焼け焦げた柵の残骸を蹴り飛ばす。

「ほ、報告します! 被害は死人二千、負傷千五百、兵で戦える状態にあるのはおよそ四千です」
「……数があわねぇぞ。てめえ、頭にウジでも沸いたか?」
「は、それが……三千ほどいたほかの兵は……逃げ出しました」
「ちぃ、腰抜けがあ!」
「それと、ご覧の通り、柵や天幕などが火矢にて燃やされ……陣としての機能が失われています。幸い、糧食や物資などは無事ですが……」
「……やつらは」
「敵は姿を消しました……ですが、見張りが途中まで追跡し、敵の本陣らしき場所を見つけたようです!」
「ほほう……やつらの本陣ね。なるほど……なら、いっちょやり返してやるか」

 男はニヤリと獰猛に笑うと、剣を抜いた。

「てめえら! やつらの本拠地がわかった! やられたらやり返す! 殺された仲間の分も含めて、奴らを殺し尽くすぞ!」
「「「オオッ!」」」

 男の声に、殺気の満ちた声が合唱した。




  ―― 鳳統 side ――




「そろそろだな」

 薄い霧が立ち込める、夜襲明けの朝。
 盾二様と私は、本陣に構えたこの渓谷の出口で向かっているであろう、敵の全兵を待ち構えています。

「多少薄いが霧とは運がいい。それで仕掛けは、ばっちり?」
「(ばっちり?)はい、敵が渓谷の入り口に入ったら別働隊が岩を落として退路をふさぎます。その上から兵が矢と落石で攻撃。こちらへ向かってきたら……」
「あれでおしまい、か。我ながら悪辣なことで」

 盾二様はそう自嘲しますが、私はぶんぶん、と首を振ります。

「そんなことありません。とてもすごいと思います。私たちの策に修正を加えて、あれだけの策を編み出すなんて……盾二様は、私たちよりも軍略に優れておいでです」
「それはお世辞だよ……俺は君たちよりもいろんな戦術書を読んで、実際に経験した戦法を使っているに過ぎない。君たちと違うのは経験の差だけさ」
「……それが、私たちに足りなかったもの、ですね」
「そう、だからよく見ておくんだ。俺と君たちが考え、実行した策で敵がどう傷つき、どう死んでいくのかを」
「……」
「見届けろ。人が自分の手で死んでいくという罪を。そしてそれを忘れず、自分の志という我侭のために散っていく人たちの怨嗟と想いを自分の胸に刻むんだ」
「……はい」
「怨嗟も罵倒も一身に背負って……それでも力のない、戦えない民の代わりならば、勝利の他には選ぶ道など何もない。だから……」

 盾二様が、前方を指差しました。
 そこには昨夜の奇襲で怒り心頭となっている黄巾党が迫っていました。

「俺たちは、勝つ」
「はい!」




  ―― other side ――




「敵本陣を渓谷出口にて見つけました! 敵は、こちらが来たことに気づいた様子はありません!」
「けっけっけ……まさか自分達が攻撃されるなんて夢にも思ってねぇんだな」

 男は下卑た笑いで剣を舐める。
 現在、動ける兵は四千弱。
 四日前の実に半数以下まで減ってはいた。
 しかし、それでも相手は二千。
 倍の数で攻めれば、二千程度など、殺し尽くしてお釣りがくる。

「よぉし……てめえら! これから俺たちを舐めきった奴らを殺して、殺して、殺しまくれ! 目を刳り貫き、耳を削ぎ、鼻をもいで周辺の各邑に送りつけてやれ! 俺たちを見縊ったやつらを殺し尽くすぞ!」
「「「オオオッ!」」」

 男の声に、仲間の殺気が膨れ上がる。
 その時だった。
 突如、轟音と共に地面が揺れる。

「なっ、地震かっ!?」
「ち、ちがいます、後方を!」

 男の言葉に伝令が。背後の渓谷の入り口を指差す。
 そこには、渓谷の崖の上から落とされたであろう岩が、入り口を見事に塞いでいた。

「な……これは!」
「にゃーははははははっ!」

 男の逡巡(しゅんじゅん)した声に、高笑いが響き渡る。

「だれだ!」
「鈴々は張飛というのだ! お前達、悪者をやっつけるためにここに誘い出したのだ!」

 崖の上に立つチビの少女が高らかに叫んだ。

「ヤロウ! てめえか、こないだから舐めた真似しまくってたやつは!」
「ヤロウじゃないのだ、メロウ……でもなくて、鈴々は女なのだ! それに考えたのは鈴々じゃなくて、お兄ちゃんなのだ!」
「お兄ちゃん? あれだそいつは!」
「それは……」
「我らが主の一人、天の御遣いである、北郷盾二様だ!」

 反対の崖の上から、黒髪の美人がそう叫んだ。

「お主らのような人の皮をかぶった獣は、殺し尽くしても飽き足らぬ! だが、寛大な主は『今ならば』降参すれば命だけは助けてやるとのこと! 潔く縛につけば良し! さもなくば一兵足りとて容赦はせぬ!」
「ざけんな! たかだか二千程度の義勇軍がでかい口を叩きやがって! お前ら、渓谷を抜けて回り込むぞ!」

 男はそう叫んで渓谷の出口へと向かう。

「愚かな……朱里、予定通りでいいのだな?」
「はい、上から落石と矢を放って追い立ててください。狙いはつけなくてかまいません」
「わかった。鈴々! 桃香様! そちらもよろしいですね!」
「わかったのだ!」
「了解だよ! 兵士のみなさん、やっちゃってください!」
「「「応っ!」」」

 その言葉と同時に、崖の上から落石と大量の矢が降り注いでくる。

「ぐげっ!」
「ぎゃっ!」

 後続していた黄巾党の一部が、その攻撃を受けて命を落としていく。

「ちぃ! 急げ! 出口はもうすぐだ!」
「伝令! 前方に敵本陣! しかし、兵はおらず、黒ずくめ男が一人と少女が一人だけです!」
「ふん! 左右に全兵力を分けたのだ。おそらくただの伝令役だろう! かまうな、突進する!」

 男がそう叫び、さらに前に出ようとする。
 と――出口にいた男がニヤリ、と笑った、気がした。

「!?」

 ゾクッとした悪寒と共に、男が足を止める。
 しかし後続の仲間はその男を追い越して前方へと迫った。その瞬間――

「「なっ!?」」

 ずぼっ、とめり込む音と共に前方の地面が落ち込んだ。
 そして上に乗っていた仲間と共に、穴の中へと落ちていく。

「落とし穴だと!?」

 その穴が開いた場所から亀裂が走り、今まで無事だったこちらのほうまで崩落していく。

「さ、さがれ、さがらねぇと落ちるぞ!」

 男が崩れる足場から逃げ出しながら下がる。
 それは、大きさが実に十丈(約三十三m)、深さが二丈弱(約七m)にも及ぶ大きな落とし穴だった。
 ご丁寧に、穴の中ほどまできたら全体が落ちるように布と縄で細工してある。
 それが渓谷の崖ギリギリまで広がり、完全に前方への侵入を遮断した。
 しかも――

「ぎゃああああああっ!」
「ぐげっ……」

 穴の中には尖った竹が埋められている。
 落ちた数十人の仲間達は、即死した者、運悪く生き延びてもがき苦しんでいる者、助かったものの、上に登ろうとして転げ落ち、竹に刺し殺されるなど様々だ。

「ちい……」

 男は、その細工に顔を青ざめ、後ずさりする。
 だが、穴の反対側にいる、黒ずくめの男は笑みを湛えたままだった。

「本当は下に仕掛けた竹槍に糞尿を塗って、一時的に助かっても破傷風にして殺すのだが……まあ、今回はそこまでする必要もないのでね」

 そういって右手を挙げると、左右の渓谷の陰に隠れていたであろう兵たちが現れる。

「まあ、もう手の打ち様がないだろう? 上からは岩と矢、前方には跳び越せない大穴。そして後方は遮断……諦めて死んでおけ」

 そういった男が再度手を振り上げて、下ろそうとした。

「ま、まて!」

 頭目らしい男の声に、黒ずくめの男の手が止まる。

「こ、降参する! さっき上で叫んでいた女が言ってたよな、降参すれば命だけは助けるって! だから降参する!」

 男の言葉に、しばし動きが止まる黒ずくめの男。
 だが――

「……だが、その時降参しなかったのだろう? 寝ぼけたことを言うな。チャンスの女神は一度しか手を差し伸べてはくれないもんだ」

 そういった男の右手が振り下ろされる。
 頭目らしき男は、全身に矢を浴びてその場で崩れ落ちた。



 
 
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