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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第176話

美琴と別れた麻生は予定通り、デパートの地下で今夜の夕食のメニューと足りない材料を頭に浮かべながら、食品コーナーなど見て回り買い込んでいく。
その量は多く、二つ買い物袋がパンパンになりかなり重い。
麻生を含めた四人分の食事を考えないといけないのを考え、重いため息を吐く。
ここに、打ち止め(ラストオーダー)が居れば毎日メニューを変えなくなると考えると、うんざりとした気持ちになる。
愛穂や制理や桔梗の精神状態も安定したように見えるので、一旦寮に戻ろうかなと考えつつデパートを出る。
重たい買い物袋を持ちながらマンションに向かって歩いていると、一組の男女の通行人の話し声がすれ違い様に聞こえた。

「戦争って本当に起こるのかな?」

「さぁな。
 大げさに捉えすぎじゃね?」

そんな話し声が聞こえ、思わず麻生は足を止めて空を見上げる。
見上げた空には飛行船が飛んでいて、お腹の大画面(エキシビジヨン)がニュースを流していた。
アメリカやロシアの抗議デモのニュースを見て、険しい表情を浮かべる。
これがローマ正教だけなら麻生はそれほど気にしない。
だが、ダゴン秘密教団、奴らも今回の事件の裏にいるのは九月三〇日で明らかになった。
奴らは愛穂達を傷つけただけでなく、麻生の事について重要な事を知っている。

(あの時、バルドに脳を干渉された時から記憶がない。
 気がつけば病院の前に倒れていたと医者は言っていた。)

桔梗や制理にあの時に麻生が何をしていたのか聞いても、表情を曇らせるだけで何も答えてくれなかった。
これは一度だけではない。
オッレルスと戦い、彼の魔術を受けた所までは覚えているのだがそれ以降の記憶はない。
目が覚めればコンテナ集合地帯に倒れていたのだが、周囲の戦闘の爪痕は何事もなかったかのように修復されていて、身体の怪我も治っていた。
何かが自分の中にいる。
そう思うと不気味で不快に感じた。
この身体は自分の物だ。
他の誰かに所有権を渡すつもりはない。
自分の能力や身体、何よりダゴン秘密教団の事を知るには彼らに関わる他以外知る方法はない。
今まで何の手がかりがなかったのに、彼らと戦うだけで見てくるものもあった。
同時に謎が増えていくのだが、何も分からないよりは断然に良い。
今回のデモ活動は、ほとんどはローマ正教が裏を引いている可能性が高い。
そして、ローマ正教が裏で退いているのならダゴン秘密教団も一枚噛んでいる可能性もある。
面倒な事件には関わりたくないが、今回は別。
争いの中心に自分の謎の答えがあるのなら、そこに向かって進むまでだ。

(ともかく、戻ってご飯の準備だな。
 早くしないと愛穂が凝った物を作れとか言いそうだし。)

彼の料理の腕前を知っているからか、いろんな料理を作ってくれとリクエストが最近大きくなってきた。
このリクエストは無理難題ではなく、工夫すれば作れてしまう料理ばかり。
今夜もリクエストをされるかもしれない。
今からうんざりしたような気持ちになり、視線を飛行船から前に戻し歩く。

「キョウや~ん!」

しばらく歩いていると土御門の声が後ろから聞こえた。
振り返るとこちらに向かって軽く手を振りながら駆けつけてくる土御門の姿が見えた。

「探したぜい。
 今は暇かにゃ~?」

「俺の手に持っている袋を見て分からないか?」

買い物袋を持ち上げて、暇ではない事をアピールする。
それを見て土御門はふむふむ、と頷いて。

「暇ってことでいいんだなにゃー。」

「お前の眼はガラス玉が入っているのか?
 暇じゃない。
 これから帰ってご飯を作らないといけな」

「んにゃー、そうも言ってられないから」

笑顔を浮かべて、右手を腰に回す。
そこから取り出したのは黒光りする金属の塊。
全長、わずか一五センチほどの物体。
拳銃だ。
右手に持った拳銃の銃口を麻生の眉間に照準を合わせる。
周りを確認すると人影はない。
魔術の発動を感じなかった所を考えると、単純に人の手で人工的に人を払ったのだろう。
再び視線を戻すと依然と土御門は友人に向けるような親しみの笑みを浮かべている。

「俺に何の用だ?」

少しトーンを落とし、軽く殺気をぶつけながら問い掛ける。

「説明は歩きながらするぜい」

「歩きながらということは、大きな事件なのか?」

「世界規模で起こっているデモ活動。
 今回、協力してほしいのはそれの鎮静化だ。」

デモ活動という単語にピクリ、と反応を示す。
土御門も後は歩いて説明するつもりなのか、拳銃をしまい踵を返す。

(今日はご飯、作れそうにないな)

ため息を吐いて、麻生もその後について行く。
ついさっきまで関わろうと思っていた事件が勝手に舞い込んできた。

「キョウやんは世界中で起こっているデモ活動をどう思う?」

どこを目指して歩いているのか分からないが、隣に立って土御門の質問に答える。

「ニュースを見て聞いた限りでは、学園都市とローマ正教の抗争の延長線上に見える。
 だが、少し引っ掛かる所もある。
 学園都市は科学のトップ、ローマ正教も宗教として見てもトップに位置する。
 これらがぶつかり合えば確かに世界規模の抗争になるかもしれないが、あんな風にデモ抗議を起こるまで市民に影響を与えるくらい大きいとは言えない。」

「そこまで見えているのなら説明は簡単だぜい。
 率直に言うとこのデモは魔道書の力によって誘発されたものだ。」

「魔道書・・・それを持ち出すとはローマ正教も必死だな。」

呆れるような口調で麻生は吐き捨てる。

「これは裏で続く科学と魔術の抗争だぜい。
 さらにデモを起こすだけが目的じゃない。
 ローマ正教はデモをきっかけに、学園都市側の経済を崩すつもりでいる。
 ローマ正教徒二〇億人いると言われているが、キョウやんは本当に二〇億人いると思うかにゃ?」

「そんなの嘘に決まっている。」

もし本当に二〇億人ものローマ正教徒が居れば、学園都市は勝てる筈がない。
圧倒的な物量の差、経済、どれをとってもたった二三〇万人しかいない学園都市では歯が立たない。
なのに、ローマ正教はその人脈を使わず魔道書なんて回りくどいやり方をしてきた。
これが意味するのは、魔導書という強力な道具を頼らざるを得ないくらいローマ正教も追い詰められている事になる。

「ローマ正教の十字架を身につけたり、聖書を携え、日曜日に教会に出かける人を集めれば二〇億人はいくかもしれないが、実際に魔術を使ったり本当にローマ正教の利益の為に動くのはその半分にも満たない。
 下手をすれば聖書を携える中で、科学側の人間もいる可能性だってある。」

「むしろ、そっちの方が多いぜい。
 実際問題、二〇億人集まればかなり強力になるが、自分達の為に人を殺せなど言ってもそれに賛同する人も少ない。
 だからこそ、魔導書を使って人の心を誘導して、出来る限りローマ正教側に引き込みたいのさ。」

「兵器を生産、維持、活用には莫大な金が要る。
 もし二〇億人もの人を確保されれば、戦わずして学園都市は白旗を上げざるを得ない状況に追い込まれる。」

「そうなればバランスは崩壊。
 戦争を起こそうと集めていた資金は自分達の懐に入り、煩わしい科学は衰退の一途を辿る。
 科学という明確なモノが無くなれば、人は宗教に目をつける。
 そうなると後は流れに身を任せるだけで問題ない。
 統括理事会はそれを危惧している。
 手をこまねいていればそれだけ相手は力をつけ、表立って行動を示せば戦争の引き金になる。」

「だからこそ、俺やお前のような人材を派遣して事態を収拾する、か。」

大よその経緯と流れを理解した麻生は一息吐く。
これまで数多くの事件の解決に助力した麻生は、統括理事会から見れば都合の良い便利屋に見えたのだろう。
利用されているのが見え見えだったが、こちらも今回の一件には用があったのでそれに乗る事にする。
何より。
このデモが続けば学園都市の生活に影響を与える。
最終的には愛穂や桔梗や制理にも影響を及ぼす。
そうなる前に片をつけるつもりだったので、どちらかというと好都合だ。

「いいぜ、乗った。」

「そう言ってくれると助かるぜい。
 これから近くの公園でもう一人人材を確保して、それから空港に向かう。」

「もう一人って。」

嫌な予感が頭に過ぎり、土御門はニヤリ、と意地悪い笑みを浮かべて。

「キョウやんもよく知る人物だぜい。」

公園に着き、ある一つのベンチには予想通り上条当麻と穏やかな雰囲気を纏った初老の女性が座っていた。
見慣れない女性の顔に土御門に聞くと、あれは統括理事会の一人、親船最中という女性らしい。
親船と言えば、麻生の通っている学校にも同じ名前の教師がいる。
親子なのだろうか?
いや、もし親子なら人質に捕られたりとかなり危険な事に巻き込まれたりするので、おそらく名前が同じなのだろうと適当に考える。
ともかく、統括理事会自ら依頼するとなると、上層部はかなり焦っているようだ。
土御門は麻生にここで待っているように言って、二人に近づく。
二、三言話をして、ズボンのベルトからあの拳銃を取り出す。
銃口は親船に合わせる。
上条は一連の行動を信じられないような目で見ている。
引き金を迷うことなく引き、バン!!と乾いた銃声が小さな公園に響き渡る。
親船最中は笑っていた。
笑いながら、身体が揺らぎベンチから土の地面へと崩れ落ちた。
土御門の顔に表情はない。
銃をしまい、地面に落ちた薬莢を拾い上げ、ポケットに入れる。
淡々と機械のように正確に行動する彼を見て、上条は吼えながら土御門のシャツを掴みあげた。

「土御門ォォおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

掴まれてもサングラス越しの瞳に変化はなく、上条は反射的に拳を作り全力で彼の頬を殴る。
拳に人を殴った特有の鈍い痛みを感じる。
地面に崩れ、尻餅をつく土御門の表情はそれでも変わらない。
それを見た上条は歯を食いしばり、もう一度殴ろうとして。

「止めておけ。」

いつの間にか上条の後ろに移動した麻生に止められた。

「恭介・・・」

ここに居るとは思わなかった上条は目を見開きながら、彼の名前を呟く。
買い物袋を地面に置き、親船の容体を確かめる。

「急所は外れている。
 適切に処置すれば命に別状はない。
 この距離と土御門の腕を考えるに、わざと外したな。」

能力で創った道具で、止血処置だけを施す。
彼の治療を見て、親船は力ない笑みを浮かべる。

「来て・・・くださったのですね。」

「あんたの行動と土御門の行動を見る限り、統括理事会は今回のデモ抗議にそれほど関心はないみたいだな。」

最初は焦っていると思っていた麻生だが、親船と土御門の行動を見て違うと気付いた。
考えてみればそうだ。
統括理事会が焦っていたら、土御門や上条や麻生のような学生に依頼するだろうか?
絶対にしない。
彼らに任せた所で確実に作戦を遂行させるとは限らない。
もっと確実な手段を用いる筈だ。

「彼らは、戦争の激化と・・・・ローマ正教を代表する、もう一つの宗教という名の科学サイドの徹底的な破壊を、望んでいます。」

腹を撃たれた痛みに耐えながら、弱々しい口調で語る。
科学サイド。
他の統括理事会はどうだが知らないが、親船は魔術の存在を知らないようだ。

「戦争の激化など・・・・そんな馬鹿げた事は、止めなければ、なりません。」

浅い呼吸で息をする親船の言葉には誰かを守ると言う意思を感じた。
この学園都市に住む学生、そして彼女の家族。
戦争が激化すれば巻き込まれるのは必然だ。
たった一人で、彼女は立ち上がったのだ。
『制裁』に恐れる事無く、大事な者を守る為に。

「しゃべるな。」

土御門は冷たく言い放つが、どこか優しさが籠っているようにも聞こえた。

「彼は、嫌だと言いました。
 これは私自身が、無理を言って頼んだ事です。
 だから、彼を責めないで。」

「もうしゃべるな。」

再度冷たく言い放つ。
麻生は携帯を取り出し、救急車に連絡を入れ、土御門は意識を失いかけている親船に言う。

「後はこっちでやる。
 俺から言える事は一つだけ。
 安心しろ、お前はそれだけを覚えていればいい。」

「俺からも一言。」

携帯を閉じて、ポケットに入れた麻生はしゃがんで親船の眼を見て告げる。

「戦争の激化なんて俺達がさせない。
 俺にも守る者があるからな。」

短く告げた言葉を聞いて、親船は笑顔を深くして瞼を閉じた。

「今すぐ動けるか、カミやん。」

「分かっているよ。」

歯を食いしばり地面に倒れている馬鹿な女を睨みながら。

「俺を動かすために、それだけのために、わざわざこんな大それたお膳立てをしたんだろ、ふざけやがって。
 回りくどいにもほどがあるだろ、こんなの。」

「これからどうする?」

「第二三学区へ向かうぞ。
 航空機の用意がある。
 今夜限り、親船最中の力を使って準備させたものだ。
 そいつを無駄にさせるつもりはない。」

「俺は少し寄る所がある。
 何、遅刻はしない。」

一瞬、眉をひそめる土御門だが言い合っている時間はない。
小さく頷いてから、上条と土御門は児童公園の外へ出て、第二三学区に向かう。
麻生は能力を使って高速移動し、愛穂のマンションへ向かう。
エレベータに乗る事なく、一気に一三階まで上昇する。
リビングには誰もいなかったが、居ても困るだけなので窓ガラスの鍵を能力で開場して中に入る。
手に持った買い物袋をテーブルの上に置き、メモ帳に伝言を書き、再び窓から外へ飛び出した。
その数秒後に、玄関の扉が開かれ愛穂と制理と桔梗が帰ってきた。
リビングのテーブルの上には食材などが詰められている買い物袋に、一枚のメモ。
愛穂はそれを手に取って内容に目を通す。

『今日は返ってくるのが遅くなる。
 悪いが夕飯は自分達で作ってくれ。』

閉めたはずの窓は開いていて、そこから風が入ってきてカーテンをなびかせている。

「恭介・・・・」

麻生が出て行ったであろう窓を見つめながら、愛穂は静かに彼の名前を呟くのだった。 
 

 
後書き
四月中旬と言っておきながら、五月に投稿し始めた作者が帰ってきたよ!
本当に申し訳ないor2

依頼されていた小説に予想以上に手間取ってしまいました。
ですが、それも一旦落着き、投稿を再開しました!
出来る限り投稿していくので今後ともよろしくお願いします。
もちろん、もう一つの方も再開します! 
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