北ウィング
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二章
そうしながらだ。私は呟いた。
「どうしようかしら」
「どうしようっていってもな」
「待つしかないのね」
「そうしてくれるか?」
頼み込む顔でだ。彼は私に言ってきた。
「三年な」
「それだけね」
「ああ、三年待っていてくれよ」
「そして三年経てば」
「一緒になろうな」
結婚、彼からこの言葉を出してきた。
「俺が戻って来た時にな」
「わかったわ。けれどね」
「長いよな、三年なんてな」
「ええ。気が遠くなる位に」
「俺もそう思うよ。何だよって思うさ」
「それでもなのね」
「ああ、行くしかないからな」
仕事だ。それならだった。
彼も私も今は離れるしかなかった。程なくして彼は日本からフィンランドに旅立った。私はその彼の後姿を空港で見送った。
それから一人になった。最初の一週間からだった。
寂しくて仕方がなかった。それで仕事の合間にも同僚達にこう漏らした。
「アメリカとかアジアだとね」
「まだいいっていうのね」
「会えるっていうのね」
「ええ。それでもね」
だが、だと。お茶を飲みながらぼやく。
「フィンランドよ。遠いでしょ」
「滅茶苦茶遠いわよね」
「もう気が遠くなる位ね」
「ちょっと言われてもぴんとこない位」
「そこまで遠いわよね」
同僚達も言う。このことは。
「しかもフィンランドって寒いわよね」
「物凄い北にあるから」
「オーロラだって出るらしいし」
「一歩間違えると凍死する位よね」
「ええ、そうらしいわね」
私もこのことは聞いていた。とくにかくフィンランドは寒い国だと。幾ら聞いても聞き足りない位聞いていた。
そのフィンランドにいる彼のことを想って。綿者溜息と共に言った。
「どうしようかしら」
「だから。三年でしょ」
「三年待てばね」
「それで彼帰ってくるのよね」
「そうよね」
「三年もあるのよ」
溜息が止まらない。
「どうしろっていうのよ」
「まあね。それはね」
「我慢するしかないけれど」
「三年、確かに長いけれどね」
「それでもね」
「本当に長いわね」
ぼやく言葉は止まらない。
「三年ね。物凄く長いわ」
「けれどここは堪えてね」
「彼待ちましょう」
「そうするしかないから」
「ええ、そうね」
自分に言い聞かせた。今は。
「そうするしかないから」
「じゃあ今日は三年後を前借りして飲みましょう」
「ビアホール行きましょう」
「そこで派手にビールとソーセージで乾杯」
「そうしましょう」
皆こう言ってくれて私を慰めてくれる。このことはとても嬉しかった。
けれど三年だ。三年もある。このことがとても辛かった。
耐えられないかも。どうしてもそんな気持ちになる。それでだった。
私jは辛い一人の日々を過ごしていた。一日千秋とはこのことだった。
ページ上へ戻る