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北ウィング

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第三章

 アパート、一緒に住んでいたそこにいても一人だった。勿論職場にも彼はいない。私はそうした意味では一人だった。
 その孤独にいてだ。私は耐えられなくなって。
 お酒ばかり飲む様になった。とにかく毎晩飲んだ。
 すると同僚達にだ。心配する顔でこう言われた。
「気持ちはわかるけれど」
「それでもね」
「お酒を飲み過ぎたら駄目よ」
「身体に悪いわよ」
「それはわかってるけれど」 
 それでもだと。私は疲れた顔で答えた。
「今はね」
「今は?」
「お酒飲むしかないの?」
「どうしても」
「ええ」
 その通りだと答える。
「今はね」
「ううん、よくないわね」
「危険な兆候ね」
「お酒に溺れるっていうのはね」
「よくないわよ」
「本当に心にも身体にもよくないわよ」
 お酒が身体に悪いことは私も知っている。それで依存症になって心にも悪いことも。私は全部わかっていた。
 けれどそれでもだった。今は。
 飲まないではいられなかった。一人で過ごす夜に耐えられなかった。
 その私にだ。皆は言ってくる。
「お酒は程々」
「節度を弁えないとね」
「あんた三年どころか一年で身体壊すわよ」
「下手したら死ぬわよ」
「死ぬって」
 私はその疲れた顔で皆に応えた。実は最近毎日二日酔いだ。
「そこまで酷いの?今の私」
「目に見えてね」
「相当酷いわよ」
「ただお酒飲んでるだけじゃないでしょ」
「かなり強いお酒をがぶ飲むしてるわね」
「ええ、実はね」
 そうだとだ。私も答える。
「ウォッカとか飲んでるわ。毎日ボトル一本ね」
「ウォッカを一日一本って」
「幾ら何でも飲み過ぎよ」
「あれは普通のお酒じゃないじゃない」
「もう劇薬よ」
「元々お酒は強いのよ」 
 私は言い訳としてこう言った。
「だからね」
「だからも何もないわよ」
「ウォッカ一日一本は飲み過ぎ」
「冗談抜きですぐに身体壊すわよ」
「肝硬変になるわよ」
「けれどね」
 私はまだ言い訳をした。せずにいられなかった。
「仕方ないのよ」
「お酒飲むしかない?」
「そう言うの?」
「そうよ。とにかくね」
 まだ言った。自分で言い訳を。
「飲まないではいられないから」
「けれどそれでもよ」
「お酒は飲み過ぎないこと」
「本当に死ぬわよ」
「何とかしないと」
「何とかっていっても」
 私はまだ言った。お酒のせいじゃなくどうしても言わずにいられなかった。
「三年も一人で待たないといけないのよ」
「三年ね。長いわね」
「中学か高校入ってそれで卒業するから」
「それだけの間一人でいるってね」
「辛いのはわかるけれど」
「じゃあどうすればいいのよ」
 私はたまりかねた口調で皆に言い返した。お酒を飲むなと言われたらその代わりに何をすればいいかと尋ねた。 
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