IS《インフィニット・ストラトス》~星を見ぬ者~
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第二十六話『一触即発』
「部隊の皆……か」
夕方、スウェンは自室に戻りラウラの言葉を思い出していた。
ラウラの事もあって、今日はスウェンにとって中々に多忙な日であった。やや疲れ気味のスウェンはベッドに身を倒そうとしたがドアからノックの音が聞こえ、そちらへ赴く。
「今開ける」
ドアを開けるとそこには千冬が立っていた。
「教師織斑? いったい何の用でしょうか」
「いや、少しお前に頼みたい事があってな」
「頼み……?」
スウェンがそう聞くと、千冬の後ろから大きなバッグを持ったシャルルが現れた。
「カルバヤン、デュノアの面倒を見てやれ。部屋は空いているだろう?」
「ええ……まあ」
誰も居ない部屋を横目で見てスウェンは言う。ほんの数日前、学園側で部屋の調整が済んだようで本音は別の部屋に移動をしたようだ。
「織斑にはこの事は言ってないのですか?」
「あいつは頼りにならん」
「……わかりました、引き受けます」
「なら決まりだ。カルバヤン、後は頼んだぞ」
シャルルは千冬に一礼した後部屋に入り、それを確認し千冬はドアを閉めた。
「これからよろしくね、カルバヤン君」
「スウェンで構わん」
「え? じゃ、じゃあ……スウェン?」
「それでいい。適当なところに座ってくれ」
そうスウェンに言われ、傍にあった椅子に腰をかけ荷物を置く。
「紅茶とコーヒー、どちらが良い」
「えっと、コーヒーもらっていい?」
「了解した」
手馴れた動作でメーカーからカップにコーヒを淹れ、シャルルの前のテーブルにカップを置く。
「熱いから気をつけろ」
「うん」
まずは一口。シャルルは表情を変え
「おいしいね、このコーヒー」
「舌に合うようで良かった、週の始めにドイツから取り寄せているものでな。俺は気に入ってる」
「へぇ~そうなんだ……そう言えばスウェンっていつも放課後にISの特訓してるって聞いたけど、そうなの?」
「ああ。少し前まで一人でしていたがここ最近は織斑としているな。誰かと訓練を重ねるのも悪くはない」
「僕も加わって良いかな? 専用機もあるしきっと役に立てると思うんだ」
「ほう、それは是非とも頼みたいものだ。篠ノ之達の教え方で織斑は到底理解はできない、かといって俺自身も人に教えるのはどうも苦手でな……デュノアが加わるなら大いに助かる」
「うん、任せて!」
/※/
「と言う訳だ、教えてもらう相手が増えてよかったな、織斑」
「お、おう……」
五日後の放課後、解放されたアリーナにスウェン達は居た。勿論、一夏の特訓のためだ。シャルルの姿はまだ見えない恐らく準備中なのだろう。
「早速だが、俺は先に訓練をさせてもらう」
グラウンドの中央にスウェンが立ち、目の前に『STNDBY』と文字が浮かぶ。
「……」
『GO』と次に浮かぶと、地上と空中に幾つものターゲットが現れ、スウェンはショーティーを構える。
腕をクロスさせ、ショーティーにより左右のターゲットを次々に撃ち抜いていき、背後を向く。ノワールストライカーのウィングの一部が稼動し“MAU-M3E4 2連装リニアガン”が現れ、空中のターゲットを狙い打つ。
ショーティーを腰に装着、ウィング外部にマウントされている二対の剣“MR-Q10フラガラッハ3ビームブレイド”を抜刀する。スウェンは空中へ行き、ターゲット目掛けて加速する。
「凄いんだね、スウェンって」
「シャルル?」
何時の間にか一夏の隣に居た、オレンジ色が基調となっているISを身に纏っているシャルル。
「ISに搭載されている武装を全て完璧に把握していて、それぞれを上手に使い分けてる。しかも敵がどう動くかを前提して攻撃と行動をしてる……あそこまで行くのはかなりの技量が必要だね」
「そんなに凄いのか……」
一夏は空中でターゲットを破壊していくスウェンを見る。
真下に位置していたターゲットに向けてスウェンは踵からアンカーを発射し懸架、そのまま空中で回転し、その勢いのまま斜め前方に投げ飛ばしそこにあるターゲットに激突させ全てのターゲットを破壊し終えた。スウェンは地上へ降りる。
「デュノア、来ていたのか」
「うん、前の戦闘の時も見ていたけど流石だね、スウェンは。アンカーの様な武装をよくあそこまで使いこなせるよ」
「いや、発射角が3度ずれた。ターゲットなら直撃したが、相手がISならば当たるかどうかも怪しい。まだ訓練を重ねる必要があるな」
「一夏もこれくらい言える様に頑張らないとね」
「うぐっ!……が、頑張るよ」
「さて、シャルル、後は任せる。俺はアンカーの調整をしなければならないのでな」
「了解、任せてね」
スウェンはノワールを待機状態にし、アリーナの出口の方へ歩いていった。その時、アリーナがざわつく。
「ねえ、ちょっとアレ……」
「ウソっ、ドイツの第三世代型だ」
「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど……」
一夏達も注目の的の方へと目を向ける。そこにはISを展開しているラウラ・ボーデヴィッヒが腕を組んで立っていた。ラウラからオープン・チャネルで声が飛んでくる。
「織斑 一夏」
「……何だよ」
「私と戦え。同じ人を尊敬するもの同士、どちらの意思が強いかここで決めてやろうではないか」
黒きIS“シュバルツェア・レーゲン”の左肩に装備された大型の砲台を一夏に向ける。
「……嫌だ。お前だってわかるだろ、こんな事で戦ってもあいつは絶対に望まないって」
「……貴様に何がわかる……あの人の事を!」
「!?」
砲口が火を噴いた。一夏のISは戦闘状態にはなっておらず、高速で飛来するそれはまさにぶつかろうとしたとき。
「いきなり撃ってくるなんて、ドイツの人は随分と沸点が低いんだね!」
「ほう……」
間一髪でシャルルは一夏の前に立ち、シールドで弾丸を弾き同時に両腕にアサルトライフルを展開、銃口をラウラへと向ける。
「ふふふ……」
「何が可笑しいの?」
「そのIS……成る程、所詮は模倣品か。どれだけ量産型が良くても技術力が低くては再現も難しいという事か」
「……!? まさか……」
「気づいたようだな、ならば見せてやろう……実物の力を!」
「くっ!」
シャルルとラウラはトリガーを引こうとしたが、互いの顔に緑の閃光が掠る。
「っ!?」
「ス、スウェン!?」
シャルとラウラの中間の位置に、ショーティーの銃口を二人に向けているスウェンが居た。
「何やら騒ぎがあると思って来てみたら、お前等か……双方銃を収めろ、教師が来るぞ」
「う、うん……」
普段とは違う声のスウェンに、シャルルはアサルトライフルを下ろす。だが、ラウラはまだ砲台をシャルルに向けていた。
「ラウラ、下ろせ」
「……隊長がそう仰るなら」
渋々了承したラウラは、レーゲンの戦闘状態を解除して、一夏とシャルルを睨んだ後アリーナゲートへと去っていく。
「……大丈夫か?」
「うん。一夏は?」
「あ、ああ。助かったよ」
シャルルはいつもの人懐っこい顔で一夏の顔を覗き込む。スウェンは再びノワールを待機状態にし、軽いため息を吐き
「二人とも、あまりラウラを悪く思わないでくれ。本来ならば自分から戦闘を仕掛けるような奴ではない、それだけは覚えておいてくれ」
そう言い残し、スウェンはアリーナから立ち去っていった。
「ラウラ……か」
「……」
ラウラの名を呟く一夏、一方のシャルルはスウェンの背中をずっと見ていたのであった。
後書き
この作品のラウラは千冬にはあまり尊敬していません。あくまでも尊敬対象はスウェン一筋です。
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