IS《インフィニット・ストラトス》~星を見ぬ者~
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第二十七話『偽る者優しき者』
第ニ格納庫にて、スウェンは腕を組ながらスタンドポジションのストライクEの前に立っていた。スウェンは以前からストライクのメンテナンス等を第二格納庫で行っている。
現在、スウェンは何をしているのかというと
「どうしたものか……」
ストライクEの背後にはチェーンに吊り下げられたガンバレルストライカーがあった。先日の訓練を通じ、アンカーの発射角の問題は調整で改善されたが、問題はガンバレルストライカーだ。
束の改造によりソードとランチャーが装備できないというのは本人の口から語られ、現在装備できるように改修を行っていると思われる。だがガンバレルに関しては何も言っておらず、いざ訓練をしようとしたがガンバレルのストライクEの接続に不具合が生じ、装備すら出来ていない状況にある。
そのためスウェンは装備できるように作業をしているのだが、如何せん作業が進まない。スウェンはいつぞやの作業を思い出しながら、コンソールに打ち込む。そして出続けるエラーの表示。
「ちっ……」
舌を打ち、不意に後ろを向く。何時も作業をしていれば居る彼女、簪が今日に限って居ない。もし彼女が居ればもしかしたらと可能性を見出すが、居ないのであればと思いと頼りっぱなしは良くはないという思いが浮かび、コンソールを閉じ作業を止める。そしてスウェンは一つ、気になる事を思い浮かべる。
それはシャルルの事だ。スウェンは以前、箒の言葉の中にあったシャルルの父が社長であるデュノア社について調べていた事がある。その過程でデュノア社の社長には愛人の娘が居るという情報を僅かな手がかりから見つける事ができた。
デュノア社の社長に息子がいるという経歴は見当たらなかった。恐らく愛人の娘というのはシャルルなのではないかとスウェンは推測する。だが何の為に娘を態々男装までさせてIS学園に入学させたのか? それはスウェンにとって自ずと答えが出てしまう事であった。
だが確証は無い。それをシャルルに追求して彼、もしくは彼女を傷つけてしまったら取り返しのつかない事になる。スウェンは深く考えるのを止め今の現実に目を向ける。
「……そういえばボディソープが切れていたな、買っておくか」
/※/
ボディソープを買うため購買へ向かうスウェン。途中の角を曲がる。
「しかし何が原因だ……」
スウェンは何が原因かを考えながら歩き続ける。
「スウェン」
「回路の問題は無い筈だ……」
「ちょっと、スウェン」
「やはりプログラムの問題か……」
「スウェン!」
「?」
何度も声を掛けられたスウェンはようやく気づきそちらを向くと鈴音が立っていた。
「凰……か。どうした?」
「どうしたじゃないわよ、何度も呼びかけてんのに無視してると思って近づいてみれば、辛気臭そうな表情してたし。大丈夫なの?」
「大丈夫だ、少し考え事をしていた」
「そう、ならいいんだけど……あんまり心配させないでよね、あんたは一応友達なんだから」
そっぽを向きながら言う鈴音。
彼女が素直ではないというのはスウェンも十分にわかっている。鈴音は本当にスウェンの事を心配しているのだろう。
「ありがとう、凰」
「別に礼を言う事じゃないと思うんだけど……まあいいや、ところでスウェンは何してたの?」
「ボディソープが切れていてな、買い足しに行くところだった」
「なら一本余ってるからあげるわよ」
手にぶら下げた袋を前に出しながら鈴音言う。
「良いのか?」
「部屋にまだ結構あったの忘れてて買っちゃったから、無駄にするよりはましかなって。感謝しなさいよね」
鈴音はスウェンにボディーソープの入った袋を渡し、一歩下がって
「前負けた借り、近いうちに必ず返すから待ってなさいよね!」
「ああ、リベンジなら何時でも受け付けよう」
「じゃあね」と鈴音はスウェンの横を軽い足取りで歩いていった。
「友達か……悪くないものだな。しかし……」
そう呟くとスウェンは自室へと足を運ぶのであった。
/※/
「……ん?」
自室に戻ると、部屋は電気が付いていなく洗面所の向こうからシャワーの音が聞こえる。シャルルがシャワーに入っていると思い、脱衣所にボディソープを置く事にしたスウェンはドアノブに手をかけ、そのまま開ける。すると向こう側からも同じ音が聞こえたが、スウェンは気づかずそのままドアを全開に開けてしまった。
「デュノア、ボディソープが切れてい……」
「ス、スウェ……ン?」
その光景を目にして固まってしまい思考も止まってしまった。目の前にいるのは顔、髪の色声は間違いなくシャルルだ。だがスウェンは思わずそちらに視線を移してしまった。男性とは違う、明らかに女性であるとわかる身体の一部へ。
「……」
スウェンは静かにドアを閉め、頭を抑える。
「……よし、落ち着いた」
一度冷静になり椅子に座る。それと同時にシャルルが脱衣所から出てくる。シャルルの格好は何時ものジャージであるが、身体のラインがある程度わかるそのジャージでもシャルルが女性であるという事実を鮮明に告げている。シャルルはベッドに腰をかけると。
「えっと……驚いてる……訳でもなさそうだね」
「ああ、デュノアが女である可能性は今までの行動、そして経歴を見て非常に高かった」
「じゃあ、何で追求しなかったの?」
「憶測で物を言うのは嫌いでな」
「ふふっ……スウェンらしいや」
「デュノアが何故男装をしてまでこの学園に入ったのか……それは男である俺や一夏と接触しやすかった“男”である必要があった」
「……」
「そして、お前の目的は……俺のストライクだろう?」
シャルルはその言葉に驚いた表情を見せるが、直ぐに苦笑へかわり
「何でもお見通しかぁ……やっぱりスウェンは凄い」
スウェンは腕を組み
「デュノア社については色々調べた。現在デュノア社はドイツのとある科学者と共同している。フランスはその科学者の作成したシステムを再現しようとしたが、技術力がドイツよりも圧倒的に劣っていたため、システムの再現に難航。そこでオリジナルのシステム……ストライカーシステムを搭載しているストライクのデータを収集するのが目的……違うか?」
「……うん、そうだよ。僕はストライクのデータを収集するために、父に男装することを命じられて今こうしてここにいる。因みにね僕のISの“ラファール・リヴァイルカスタムⅡ”はデュノア社がなんとか作り上げた試作版のストライカーシステムを搭載しているんだ。模造品って言われても仕方ないよね」
天井を見上げ、シャルルは軽いため息をしたあとスウェンの方を向き
「もう……ここまでかな。スウェンにはバレちゃってたみたいだし、きっと僕は本国へ呼び戻されるだろうね。父の会社も今のままにはいかないだろうけど、僕には関係ないかな」
「………」
スウェンは黙ったまま、シャルルの言葉に耳を傾ける。
「なんか話したら楽になったよ。最後まで聞いてくれてありがとう。それと……ごめんね、今まで嘘ついて」
「……俺は幼いときテロで両親を失った」
「え?」
突然の言葉にシャルルは口を閉ざす。スウェンは俯いたまま
「それから俺は施設に入れられ、親の温もりをまともに受けずに育った。親の声がどうだったのかも覚えていない、親の性格がどのようだったのかも覚えていない。辛うじて覚えているのは顔くらいだ」
「スウェン……」
「そんな俺でも……」
スウェンは一息置き
「親というのはどの様であるべきかは分かる。親というのは子を思い、共に歩んでいくものだ。子の自由を奪って良い権利等……夢を奪って良い権利等……どこにも存在しない」
「それでも僕に権利なんて……」
「ならお前は良いのか?このまま本国へ戻されても」
「良いわけがない!!」
ベッドから立ち上がり、叫ぶシャルル。
「一夏達とも仲良くなってきたのに……ようやく……スウェンが自分のことを話してくれるようになったのに……本国に戻るなんて嫌だ……“私”は……学園に居たい!」
涙を流しその場へ座り込んでしまうシャルル。スウェンはシャルルと同じ目線へしゃがみ
「お前の本心をようやく聞けた。安心しろ、俺は他の人間にお前の事は言う心算はない。それにお前には時間がある」
「時間……?」
「IS学園の特記事項第二一、『本学園における生徒はその在学中において、ありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意が無い場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』これによって、お前には三年間という時間が与えられた。これからどうするかゆっくりと考えろ。頼りないかもしれないが……俺も協力する」
「スウェン……ありがとう。けど……何で僕の事を……ずっとスウェンに嘘ついてたのに」
「友人を助けるのに、理由が必要か?」
「え……」
スウェンは立ち上がり
「友人というのは支えあうものだ。デュノア、一人では何も出来ない事もある。何時でも俺を……友人を頼れ」
「う、うん!」
スウェンの事を見つめながら、シャルルは笑顔になりながら頷く。
「ところでデュノア、夕食はとったか?」
「まだだけど……」
「なら一緒に食堂へ行こう」
そう言いスウェンは手を差し伸べ、シャルルはその手を握り立ち上がる。
「俺は外で待っている、準備が出来たら来てくれ」
「わかった」
スウェンは食堂へ向かう為にドアへ歩く。
「本当にありがとう……スウェン」
シャルルは一夏の言っていた事が本当であったと思いスウェンに触れた右手を優しく左手で包んだのであった。
後書き
次回、漆黒狂乱。お楽しみに!
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