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IS《インフィニット・ストラトス》~星を見ぬ者~

作者:白さん
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第二十五話『静かなる怒り』

着替えが済んだスウェンは直ぐに第二グラウンドに到着。一夏とシャルルは未だ来ておらず、その5分後にようやく


「遅い!」

「「すいません!」」


二人は千冬に頭を下げ列の端に並ぶ。一夏の近くには凰とセシリアがおり何か話してるようだが、スウェンの位置は一夏達の反対側の列の端、しかも一番後ろだ。会話は当然聞こえない。スウェンはそれよりも気にあり、ある方向へ視線を向けている。それは列の一番前に居る灰色のISスーツを纏う銀色に長髪の少女。

スウェンはその少女に視線を向けていると、一夏達の方から聞きなれた音が鳴り響く。またかとスウェンはため息を吐きそちらを向く。千冬の出席簿の一撃に頭を抑えているのはセシリアと凰。呆れた表情のまま列の前に千冬は立ち


「では、本日から格闘及び射撃を含む実践訓練を開始する」

「「「はい!」」」


2組も合同していることもあり普段よりも大きな返事が返ってくる。


「さて、まずは戦闘を実演してもらおう。凰! オルコット! 専用機持ちならすぐに始められるだろう。前に出ろ」


と名指しされたセシリアと凰だがあからさまにやる気のない様子だ。そんな二人に近づく千冬に、二人は出席簿がまた来ると身構えたが何かを小声で二人に告げている。


「やはりここはイギリス代表候補生。わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」

「実力の違いを見せるいい機会だよねー。専用機持ちの!」

「(ほう、急にやる気を見せたな。教師織斑はあの二人の扱い方を心得ているようだ)」


やる気に満ち溢れていた二人を見ながら内心そう呟くスウェン。


「それでお相手は? 鈴さんとの勝負でも構いませんが?」

「ふふん。それはこっちの台詞」

「慌てるなバカども。対戦相手は―――」


その時、何処からか風切り音聞こえる。それはどんどん大きくなっていきスウェンは空を見る。


「ああああ―――ッ!! どいてくださあ~~いっ!!」


上空から“ラファール・リヴァイブ”を見に纏った涙目の真那がまっすぐに一夏の方へ落ちてくる。


「のわああああ!!」


叫び声と共に凄まじい音がグラウンド内に響く。一夏の居た場所はクレータが出来ておりスウェンはそれを見て


「死んだな」

「ちょ! 何勝手に殺してんのよ!」


退避した鈴音が遠くに居たスウェンの言葉を逃さず聞いており、そうツッコむ。そして煙が晴れると白式を纏った一夏が同じく纏っている山田の上に馬乗りになっていた。どうみても一夏が山田を押し倒したようにしか見えない。鈴音は笑顔になり青筋を立て甲龍を展開し


「いぃちぃかぁーー!!」


両刃形態の双天牙月を一夏に投擲。あわや直撃と思われたが異なる銃声が一発ずつ鳴り、双天牙月の軌道を変え一夏への直撃を避けた。

一夏や鈴音はもちろん、その場にいたほぼ全員が唖然としている。射撃を行ったのは二名で、その一人が真那だった。何時もの穏やかな表情と打って変わり、何時もの雰囲気とはまるで違う。

そしてもう一人はノワールを展開したスウェンだ。両手に持たれたM8F-SB1“ビームライフルショーティー”による射撃と真那の射撃により双天牙月の軌道を変えたようだ。


「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。今くらいの射撃など造作もない」

「む、昔のことですよ。それに結局は代表候補生止まりでしたし」


雰囲気がいつもの真那に戻る。眼鏡を両手で戻すしぐさや少し照れくさそうにしている表情は生徒達の知る真那であった。千冬はスウェンの方を向き


「瞬時に展開して精密に射撃をするとは。大したものだ」

「いえ、先に射撃姿勢に入り銃弾を当てたのは教師山田でした。俺はまだまだです」

「フフッ、そうか……さて小娘共、いつまで惚けている。さっさと始めるぞ」

「え? あ、あの二対一で?」

「いや、さすがにそれは……」

「ふむ、それなら……カルバヤン、せっかくISを展開したんだ。ISチェックも兼ねて山田先生とタッグを組め」

「了解」


スウェンは真那の隣に移動する。


「では、はじめ!」


号令と同時にセシリアと鈴音が空へと昇る。その後にスウェン、山田も飛翔する。


「スウェンさんのIS随分と様変わりしましたわね」

「なんか黒くなってワルっぽい見た目ねー。まあ見掛け倒しじゃないといいんだけど!」

「期待に応えれるようにしよう。教師山田、よろしくお願いします」

「こ、こちらこそよろしくお願いします!」


少しどもってはいるが真那の表情は冷静。スウェンはショーティーのトリガーに指を掛け何度も回転させ、右腕は首下に、左腕は下方に向け独特な構えをとる。


「行きますわ!」


セシリアのその声と共にビットが射出され、それと同時に真那とスウェンは回避行動に移る。セシリアの標的は真那ではなくスウェン。ビットで執拗に攻撃をし


「いただき!」


鈴音も龍砲をスウェンに放つ。


「スウェン君!」


龍砲の射線上に真那が移動し、シールドを用いて龍砲の砲弾からスウェンを守る。


「大丈夫ですか?」

「はい、感謝します」


その時、スウェンはノワールストライカーに搭載されている“アンカーランチャー”を射出し、背後に位置していたビットに懸架。身体をそちらに引き寄せることによって上空からのセシリアの狙撃を回避した。


「わたくしのブルーティアーズを移動手段に!?」

「動きが読める……」


スウェンは鈴音の位置を確認し両手のショーティーを構えビームを連射する。真那もそれに合わせセシリアに射撃を行うが、セシリアは難なくかわす。

だがそれは真那の狙いであり、龍砲を展開した鈴の方に近づける為に誘導していたのだ。セシリアが鈴音に衝突しそうになるが寸前の所で止まる。

そこにスウェンが迫り二人は慌てて距離を離し、鈴音とセシリアの間を通り過ぎる。そしてスウェンは急停止し、両掌を二人に向けアンカーランチャーを撃ちセシリアの右側の非固定ユニットに、鈴音の左足にそれぞれ懸架する。


「なっ!?」

「何ですの!?」


二人が危険を感じた時はもう遅くスウェンはワイヤーを握り、前に向かって投げ飛ばしその勢いのままセシリアと鈴音は激突してしまい、真那はそれを逃さずスウェンの上に移動しグレネードを投擲。爆発が起こる。

煙の中からセシリアと鈴音が出てきてそのまま落下。本日二度目のクレーターをグラウンドに作り上げた。真那とスウェンはゆっくりと地上に降り立つ。


「さて、カルバヤン、山田先生の戦闘を見てどうだった」

「攻撃、防御、回避、そして先を見据えた戦い方。とても参考になるものでした」

「そ、そんな事ありませんよ~! スウェン君の戦い方も凄かったですし!」

「いえ、俺もまだまだという事です」

「カルバヤンをここまで言わせるほどだ。諸君にも教員の実力が理解できただろう。以後は敬意を持って接するように」


生徒にそう言い聞かせる千冬。一方クレーターの中でセシリアと鈴音が言い争いをしているが、それは放置する。


「では出席番号順に七つのグループに分かれて実習を行う。各グループのリーダーは専用機持ちがやれ」


その後の授業で三つのグループで黄色い声が上がったのはまた別の話である。





/※/




授業が終わり、教室へ向かっている一夏。丁度角を曲がったところにスウェンが居た。


「よう、スウェ―――」


声を掛けようとしたがそれを止め、身を隠す。何故ならスウェンの目の前にはあのドイツからやって来た少女、ラウラ・ボーデヴィッヒが居たからだ。


「お久しぶりです、隊長。お変わりないようで安心しました」

「ラウラ、俺はもう隊長ではない」

「私の中では、隊長は何時までも隊長です」

「……」


その時のラウラの表情は朝のHRで見せた冷たい表情ではなく、まるで兄を見るようなとても優しい表情をしていた。


「そういえば、俺の後任が決まったらしいな。誰だ? まさかシュハイク責任官では……」

「いえ、私です」

「!?……そうか、お前が部隊の隊長なら皆も納得―――」

「隊長」

「?」

「部隊にお戻りください」

「何?」


スウェンは少し表情を強張らせる。


「我がシュバルツェ・ハーゼには隊長が必要なのです! 部隊の皆もあなたの帰還を待ち望んでます! 隊長、部隊にお戻りを!」


そのラウラの言葉に、スウェンは暫しの沈黙。


「……ラウラ、俺はあの時重要な作戦の指揮を放棄し、身内を優先した。感情に流されるような俺はあの部隊の隊長に相応しくはない」

「そ、そんな事……」

「話は終わりか? もう少しで次の授業が始まる、遅れないようにお前も急げ」


踵を返しスウェンは背をラウラに向ける。


「……隊長、一つ質問よろしいでしょうか?」

「何だ?」

「何故織斑 一夏とあそこまで友好的なのですか? あの男こそ隊長が部隊を離れる原因……あの男という存在が居たから……!」

「ラウラ、あいつは関係ない。それにあいつが居なかったとしても、状況は然程変わりはしないだろう。お前が織斑にそのような考えを持つのは間違いだ」

「た、隊長……」


見せた事のないスウェンの怒りにラウラはたじろいでしまう。スウェンはそのまま歩き去っていき、ラウラはその背中をずっと見ていた。


「……盗み聞きとは感心しないな」

「!?」


気づかれているとは思いもしなかった一夏はゆっくりとラウラの前に姿を現す。


「……確かに、隊長の言う事に一理ある。だが、私は個人的に貴様の事が気に入らない」

「どういうことだよ」

「貴様、隊長の事を尊敬しているな?」

「!?」


一夏は驚いた表情を見せ、縦に首を振り肯定を示す。


「スウェンは頭も良くて、ISの技能だってかなり高いし、それに誰からでも認められてる。俺は何時からかスウェンを目標にしてた……スウェンのようになりたいって、俺は思ってる」


スウェンに対する考えを言葉にした一夏。ラウラは変わらず冷たい表情で


「……やはり、昔の私と同じ目だ。だからこそ気に入らん……一つ忠告しておく」

「?」

「貴様は所詮貴様でしかない、あの人のようになるなど到底無理な話だ。それに気づかないようであれば、貴様はその程度の人間という事だ」

「俺は……スウェンのようになれない……?」


ラウラは一夏を一瞥しその横を通り過ぎていく。残された一夏はラウラの言葉で言いようのない感覚で胸がいっぱいであった。それと同時に、自分がどれ程スウェンのことを知らなかったのか、どれ程遠い存在だったのか。改めて感じた一夏だった。 
 

 
後書き
原作とは違う理由で敵意むき出しのラウラ。彼女が一夏達にどんな影響あたえるのか……


14つのストライカーの案の中、3つを採用させていただきました。採用できなかった案も良かったのですが、またの機会という事でご了承ください。近日採用したストライカーを番外編で紹介していきます。 
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