カンピオーネ!5人”の”神殺し
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神器
「・・・今、なんて言ったの・・・?」
病院の廊下で、【赤銅黒十字】に所属する霊視の力を持つ魔女とエリカが小声で話していた。一応、他人に声が聞こえないように魔術を使用しているが、それでも、この話の内容を聞かれると、とても厄介なことになるのは自明だった。エリカが聞かされた話は、それ程に衝撃的だったのだ。
「神器です。神具では有りません。・・・アレは、神器です。」
「まさか・・・!?唯の日本の男子高校生なんでしょ!?何でそんな人間が、神器なんて持っているのよ!?」
何故か、アレだけの爆発でも燃えないで残っていた護堂のリュック。その中に入っていたパスポートから、護堂の名前と経歴を洗い出した【赤銅黒十字】。この短時間でこれだけの行動が出来るというのも、大魔術結社ならではである。
この調査によって、護堂は魔術などの裏の世界とは何の関係もない一般人で、正確には、この春休みが終わった後から高校生活が始まる高校一年生だということが判明していた。
「神器なんて・・・神具の数倍珍しい代物じゃない。神々しか使用出来ない神具とは違って、素質さえ有れば、例え人間でも魔人でも使用出来る、神代の兵器。何でそんな物を彼が・・・。」
「最近では、【神殿教団】がオークションにかけた”ミドガルズオルム”が有名ですね。結局、落札した魔術結社では扱える人間がいなくて、家宝として倉庫の肥やしになっているようですが。」
今では大分大人しくなった(!?)が、カンピオーネとなった直後の【聖魔王】名護屋河鈴蘭の暴走ぶりは、かなりヤバかったと言われている。詳しい経緯は日本側が徹底的に隠蔽してしまったので不明だが、噂では、日本全ての、悪名高い暴力団組織と闇金が消滅したのだとか。全て【伊織魔殺商会】の傘下へと吸収されて、日本の裏の社会がかなり混乱したとも言われている。
そして、四人ものカンピオーネを生む直接の原因となった【神殿教会】改め【神殿教団】は、彼らの行動の後始末を世界から押し付けられていた。自業自得だが、それに伴う資金の流出が酷すぎて、一時は借金地獄へと叩き落とされたのだ。・・・しかも、【神殿教団】が借金出来るような裏の金融機関は、鈴蘭が脅していた為、彼らに金を貸すような真似はしなかった。結局、彼らがどこから借金したかと言えば・・・【伊織魔殺商会】である。
【伊織魔殺商会】の引き起こした事件の後始末をするのに、【伊織魔殺商会】から借金をする。・・・これ程の悪循環があるだろうか?利子は十日に一割。十分違法な金利なのだが、彼らに文句など言える訳もなく。踏み倒そうにも、敵がカンピオーネなのだ、踏み倒せる訳もなく。
哀れ、【神殿教団】は家具や装飾品だけでなく、”エンジェル・ストレージ”や”ミドガルズオルム”までも売り払って、やっとのことで借金を返し終えたということだ。流石のエリカも、これには同情する。
ここで重要なのは、世界屈指の魔術結社であった【神殿教団】でさえも、売り払った神器は僅かに一つだということだ。儀式用の神具などは数十点も売りに出たというのに。
これは、神具というのは、神々が使う武器や道具全ての事を指すが、神器というのは波長さえ合えば、神々や人間、魔人の区別なく使えるということに起因する。つまり、態々自分以外の為に強力な武器類などを造る、物好きな神々など、そうそういないということである。
その為、神器という物は、非常に貴重で高価だ。人間でも使える神々の兵器なのだから、当然である。そんな物を、何故護堂が持っていたのか、非常に気になっているエリカであった。
「・・・でも、それが本当に神器なら、私たちにもチャンスはあるわ。どんな能力を持っているのかは知らないけど、それを使えば、まつろわぬ神を追い払う事が出来るかも・・・。」
「無理です。」
エリカの独白に、彼女は水を差した。考えを一刀両断されたエリカはムッとしながらも、理由を尋ねる。
「何故?」
「別に、エリカ様の実力の問題では有りません。あの神器は既に、使い手を決めてしまっています。」
「なっ・・・!?自分で使い手を選ぶ神器・・・!?」
エリカが驚くのも無理はない。神器の中には、自分で使い手を選ぶ物がある。・・・が、それは本当に極僅かであり、それらは総じて、能力が非常に強い。今現在判明しているのは、カンピオーネ【魔眼王】長谷部翔希の持つ”黒の剣”くらいである。それほどのレア物が、何故こんな場所に存在しているのか?
「一体・・・誰なの?認められたのは?」
「分かっているんでしょう?・・・彼、ですよ。」
「・・・。」
草薙護堂。【魔界】からやってきた、一般的な高校生・・・の筈の男だ。だが・・・
「まつろわぬ神の前に立ちはだかり、神器に認められるような人間が、唯の一般人だなんて・・・。【魔界】では普通なのかしら?」
「そんな事はない・・・と思いたいですが・・・。」
ないとは思うが、完全に否定することは出来ない。何せ、前代未聞の『カンピオーネ四人同時爆誕』をしてしまっている国なのだから。魔窟と言っても差し支えない国だ。もしかしたら、コレが日本の現在の『当たり前』なのかもしれないと、彼女たちは背筋が寒くなった。
「・・・と、ところで、どんな能力かは分かっているのかしら?」
無理やり話題を変更するエリカ。
「そ、そうですね。・・・これを見てください。」
そう言って彼女が取り出したのは、護堂の傷口を写した写真だった。
「見てください。・・・完全に死滅した筈の細胞が、ユックリと再生しているんです。」
全身の皮膚が焼けた筈の護堂の体が、包帯越しにでも分かる程に発光している。傷口が、まるで蠢くかのように、黒い何かによって覆われていく様子も映し出されていた。
「再生能力・・・かしら?」
「いえ、多分コレは、副産物のような能力だと思います。この神器の本当の能力は、全く違う物だと、霊視では感じました。・・・ただ、私の能力ではコレが限界でした。」
「そう。・・・有難う。」
「いえ・・・。」
報告は終わったと、去っていく魔女の姿を見ながら、エリカは溜息を吐いた。窓を見ると、既に綺麗な星空が見える時間へと変わっていた。
彼女は、護堂の病室へと入り、彼のベットの近くにある椅子へと座り、
「御免なさい。私には、これしか出来ないわ。」
そう言って、どれほどの効果があるかは分からないが、回復魔術を使用する。
・・・彼女たちにとって、人生で一番長いと感じた一日が、終を迎えようとしていた。
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