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カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
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エリカ、見る

「う・・・うぅん・・・。」

(何・・・?眩しいわね)

 エリカは、目蓋に差し込む強い光によって目を覚ました。

「・・・って、あれ!?寝ちゃってた!?」

 恐らく、あの時まつろわぬ神が出現したのは、エリカの魔術に惹かれたのだと彼女は推察していた。正確には、彼女の愛剣『クオレ・ディ・レオーネ』に惹かれたのだろう。アレは、かなり高位の魔剣なので、周囲に撒き散らす呪力も多い。今この近辺に出現しているまつろわぬ神は複数居て、お互いに争っているらしいので、敵を発見したと勘違いしたのだろう、というのが、彼女が出した結論であった。

 つまり、護堂たちがこんな状況に陥ったのは、結果的にエリカのせいだということになる。死んでいないのが不思議な程の、ヘタをすれば、一生目覚めないかもしれない程の重症を負ってしまった彼。それに深い罪悪感を抱いた彼女は、せめてもの償いとして、治癒効果のある魔術を使い続けていたのだが・・・。

 やはり、身体的、精神的に疲労が溜まっていたのだろう。そもそも、まつろわぬ神と遭遇して、五体満足で生存している事が既に奇跡なのだ。天才魔術師とは言え、初めて神の威圧感をその身に受けた彼女の消耗は計り知れない。そのせいで、何時の間にか彼女は、護堂のベットにもたれ掛かって寝てしまっていたらしい。

 元々エリカは、朝に弱い。寝ぼけた頭でそこまで考えついた彼女は、今が何時なのかを知ろうとして・・・目の前の光景に言葉を失った。

「・・・・・・・・・っ!!!」

 部屋に満ちていた光は、朝日などでは無かった。窓の外には、満天の星空が今も広がっている。

 緑、黄色、紫・・・様々な色の光を、あの石版型の神器が放っていたのである。そして、全身を包帯に巻かれていた筈の護堂は、何故かほぼ全裸であった。

「・・・っ!」

 言葉にならない悲鳴。貴族のように生活してきたエリカには、自分と同い年の男性の裸体は刺激が強すぎた。

 護堂は、未だに気を失って寝ているだけだ。別に彼自体が包帯を取り払った訳ではない。ただ、神器から放たれる膨大な呪力に耐え切れなかった包帯が、自己崩壊しただけの話だ。弾け飛んだ包帯は、部屋の彼方此方に散らばっている。あの包帯は、元々待機中に含まれる呪力を吸収して、半永久的に治癒能力が発動するように術式が組まれている。その為、今神器から放たれる莫大な量の呪力を受け止めきれなかったのだろう。神代の代物と、現代の魔術師が作った代物、どちらが優れているかなど、考えるまでもない。

「傷が・・・治っている・・・!?」

 護堂の鍛え上げられた肉体。それが今、エリカの目の前にあった。そう、全身火傷で、皮膚などホンの少ししか残っていなかった筈の彼の肉体が、ほぼ全快の状態まで復元されていたのである!

「・・・どうして、今になってこれ程の力を・・・!?」

 先程話した【赤銅黒十字】所属の魔女は、『傷を治す力は、ただの副産物である』と言った。その時は確かに、この石版型神器はボンヤリとした光しか纏っていなかったし、非常にユッタリとした速度でしか護堂の体は修復されて居なかったハズなのだ。なのに何故、エリカがたった数時間寝ていただけで、ここまで状況が変わるものなのか?

 廊下も騒がしくなってきている。この病院にいる人間は、全員が魔術に関係する人間だ。これほどの呪力が放たれれば、気が付かない人間などいないだろう。

「マズイわね・・・!」

 この病院は、完全中立地帯だ。この病院内では、敵も味方も存在しない。因縁の相手を見つけたからといって、手を出すようなことがあってはならない。もし、この鉄の掟を破ったら最後、世界でその人間が利用出来る医療施設は無くなってしまうのだ。そして、常に刺客に狙われ続ける事になる。なにせ、【聖魔王】直々に取り決めたことなので、何人たりとも破る事は許されないのだ。

 これ程の呪力を撒き散らしていては、戦闘行為をしていると勘違いされても仕方がない。今すぐ誤解を解かなければ、世界に草薙護堂とエリカ・ブランデッリの居場所は無くなってしまうだろう。

「本当は、秘密にしたかったんだけど・・・!」

 神器というものは、途轍もなく貴重だ。欲する人間は、いくらでも居る。そんな人間が、護堂の持つ神器の存在を知ったらどうするだろう?

 ・・・彼を殺してでも奪い取ろうとする者は、間違いなく出てくるだろう。交渉で手に入れようとする者もいるだろうが、生憎、この石版型の神器は護堂専用だ。例え護堂から手に入れたとしても、彼らが使う事は出来ない。

 そして、それに気がつかれたら御仕舞である。表の世界の住人である護堂を、自分たちの世界(裏の世界)へと引き摺りこもうとするだろう。どんな手を使ってでも。

 エリカは、現在の護堂の境遇に責任を感じているからこそ、彼が神器を持っているということを秘密にしておきたかった。

「・・・でも、それも無理ね。」

 既に、扉の前に武装したこの病院の職員が待機している。これ程圧倒的な呪力を撒き散らすなど、まつろわぬ神やそれに準ずるナニカしか考えられない事を考えると、それも仕方がないだろう。今、エリカが出て行って、『危険はない』と訴えたところで、信じてもらえる訳がない。『ならば、この呪力の原因は何か?』と問い詰められるだろう。

「・・・ゴメン、なさいね。でも、必ず守って見せるから。」

 そう呟いたエリカは、静かに椅子から立ち上がると、悠然と扉に向かって歩き始めようとした・・・のだが、

「・・・・・・一体、ここは何処だ?」

 その一言で、動きを止めた。

「き、気がついたの!?」

 その声が響いた途端、石版からの呪力の放出が止まった。余りにも呆気ない終わりに病室前の人間は呆然とし、そしてエリカは護堂に向き直った・・・が、

「き・・・キャアアアアアアアアアアア!?」

「え、うお!?何だ!?」

 彼女が見たのは、護堂の下半身。先程までは、シーツに隠れて見えていなかった彼のアレを見てしまい、顔を真っ赤にして叫んでしまったのだ。そして、その叫びに釣られて続々と病室に流れ込む人間たち。ベットを取り囲まれ、様々な武器を突きつけられた護堂が言えたのは、たった一言だけだった。

「・・・・・・何でさ。」
 
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