カンピオーネ!5人”の”神殺し
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第二部
病院にて
「・・・何なのよ。」
サルデーニャ島に存在する、病院。その一室で、椅子に座るエリカは呟いた。
この病院は、裏の関係者専門の病院である。魔術師であろうが、魔人であろうが区別なく診察する。【聖魔王】名護屋河鈴蘭の功績によって、人間と魔人の壁は薄くなってはいるが、依然として存在する。人間とは圧倒的に身体能力が違う魔人が普通の病院で診察などすると大変な騒ぎになるので、こういう病院は不可欠なのだ。今では、一つの国に一箇所はこういう病院が存在する。
「この私が・・・何も出来なかったなんて。」
彼女は、見舞い人用の小さな椅子に腰掛け、ベットで眠っている人物に目を向けた。
草薙護堂である。
彼は、酷い状態であった。体中が包帯で巻かれていて、まるでミイラのようだ。この包帯は、治癒術式を掘り込んである特別性で、患部に巻いておくだけで効果が期待出来る優れものなのだが・・・ここまで酷い状態では、焼け石に水といったところだろう。むしろ、『何故生きているのかが分からない』とさえ医者に言われた程なのだ。
「・・・・・・貴方は、何者なの?」
医者は、恐らく彼は魔術関係者ではないと言っていた。彼の体からは、裏の関係者特有の『匂い』がしなかったそうだ。どうやら、肩に傷があるようだが、これは恐らく、スポーツか何かの負傷だろう、と結論が出ていた。
「もし、本当に貴方が一般人なら・・・何故貴方は、神の前に立ちはだかる事が出来たの?」
(私は、あんなに無様に気絶してしまったのに。敵がどんな神なのか、姿すら確認できず、ただの一撃で気を失ってしまったのに!)
エリカの胸中は、荒れ狂っていた。彼女は、自他共に認める才女だ。才能の塊であり、そしてその才能に胡座をかかず、常に努力してきた努力家でもある。実力は十分で、自信もあった。例え神が相手であろうと、隙あらば封印くらいはしてみせるとさえ考えていた。実際に封印などしてしまえば、サルバトーレ卿の怒りを買ってしまうだろうから、封印するというのは冗談にしても、それが出来るだけの実力を持っていると考えていたのだ。
(それが・・・それなのに・・・・・・!)
一撃。一撃だ。何をされたのかすら分からなかった。いくら護堂が死にかけていたからといって、それに気を取られて不意を突かれたのだ。完全に、彼女の失態であった。もし、そのまつろわぬ神に害意があったのなら、今頃エリカはこの世にいないだろう。魔術師として。裏の世界に関わる人間として、戦闘中に一番やってはいけないことをしてしまったのだ。
「なのに、何故貴方は立ち上がったの?立ち上がる事が出来たの!?」
彼女が目覚めた時、既に魔術関係者が集まって、地域封鎖や情報規制の処理を行ってくれていた。病院の手配もしてくれていた。周囲の建物は吹き飛ばされ、コンクリートや鉄は溶けて、海には沢山の生物の死骸が浮かんでいた。・・・それはまさに、地獄のような光景。
だが、彼女の目を引いたのは、その中のどれでもない、たった一つの光景だった。
「確かにあの時、貴方は気を失っていた筈よ。いいえ、それどころか、死んでいても可笑しくない状態だった!動けるような体じゃなかったでしょ!?・・・それなのに・・・・・・。」
両手を広げて。二本の足で、シッカリと大地を踏みしめて。彼の背後で泣き崩れていた銀髪の少女を守るように、彼は立っていたのだ。立ちながら、気絶していた。血は殆ど流れていなかった。何故なら、全身が焼け爛れていたから。神経や血管も焼かれているのが、一目見て分かる。死ぬ一歩手前、そんな状態だった。
(貴方は、何なのよ・・・!)
その姿を見て、彼女の胸がズキンと傷んだ。今までに感じたことのない感覚。原因不明のその痛みが、彼女を襲ったのだ。
泣き崩れていた少女に聞くと、彼は、神の前に立ち塞がったのだという。少女を守るために。意識すらもない状態で、彼は彼女を守ったのだと。
「何が、貴方をそこまでさせるのよ・・・。」
不甲斐ない自分への苛立ちと、理解できない人間へ対する混乱。彼女は、先程出会ったばかりの護堂の顔を、泣きながら見つめるしか出来なかった。
ボッ!
周りを観察出来る精神状態ではない彼女には、彼の枕元に置かれている古い石版が、薄く光を放っている事に気がつく事が出来なかった。
後書き
短いけど投稿します。
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