ソードアートオンライン―死神の改心記―
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会合
最前線の午後四時は、多くのプレイヤーが帰路につき始める時間帯だ。
もちろん空はまだまだ明るいが、帰路--迷宮区の逆戻りからフィールドの走破まで、最短距離を急いだとしても軽く一時間半はかかるからだ。
一瞬で街まで戻れるマジックアイテム“転移結晶”もあるにはあるが、とてつもなく高価なうえ、使い捨てだ。
なので、必然的に夜の時間帯は、比較的安全な下層でのスキルの熟練度上げに費やすプレイヤーが多い。
俺もこの時間は五層下の町周辺で地道な作業をするのが日課である。
だが、人間というものは地雷と分かっていても刺激を求めるもので。いつも通りの日常がどれだけ幸せだとしてもその欲求には逆らえない。
つまり、これは人間の性なのだ。
うん、そう信じよう。
そんなわけで俺は黒ローブ二十体に囲まれていた。
ここは五十一層迷宮区の小部屋。目の前には宝箱。
きっとこの状況を作ったやつはバカだったんだろうなぁ、と俺は思う。
多分宝箱の誘惑に負けて、トラップに引っかかったんだろうなぁ、きっと。
「まぁ、二十体ならマシな方か」
SAOではこの手の宝箱にはトラップが仕掛けられていることが多い。
シーフ役のトラップ解除専門家がいれば話は別だが、一介のソロが手を出すにはなかなか敷居が高いのが現実だ。
最悪のアラームとラップなどをひいてしまうと、部屋いっぱいのモンスター、平均五十体を相手にしなければならないのだ。
それでも手を出したのは、リスクを上回る収入があるからである。
SAOの宝箱は種類が豊富だ。RPGでよくあるひと箱にひとアイテムの通常の宝箱や、あけるのに特定のスキルが必要なものなどだ。
そして今俺の目の前にあるのは、吸血鬼の棺桶か何かかい、と思うは度の大きさのアイテムである。
これは非常にレアなもので、このひと箱で攻略組の一週間の収入と同じくらいのアイテムが手に入るのだ。
ただし、バカをやると俺の今の状況になるわけだ。
「んじゃ、ま、生きるか死ぬかは運次第ってな。」
逃げるという選択肢はなかった。
いい加減この理不尽で希望のかけらもない世界には飽き飽きしていたし、何よりあれだけのことをしたくせにのうのうと生きているなど、奴らも許さないだろう。
とPはいえ、現実はそんなに簡単ではないが。
俺を生物的な欲求が生かすか、罪が自分自身の命を死神に差し出すか。
萱場明彦め、面倒なゲームを作りやがって。
軽い響きの言葉で心の奥底の感情を抑えつけ、迷いを振り払うように俺は地面をけった。
戦闘開始から二十分、まだ戦いは続いていた。
黒ローブは決して強い敵ではない。
俺一人出に十分間戦い続けられる程度、四十五秒に一体ペースだ。
だが――
「くそっ、わらわらと湧き出てきやがって!」
黒ローブの数は、相変わらず二十だった。
二十分間ノンストップで狩り続けているにもかかわらず、それと同じペースで増えているのだ。
この手のトラップは、ある意味アラームトラップよりもタチが悪い。
アラーム式は宝箱を壊せばモンスターは消滅する、という具体的な目標が見える。だが、このトラップは宝箱ごとに設定された数モンスターを倒さなければならないと、終わりが見えないのだ。
一度に相手をする数は少ないが、精神的にしんどい。
「ああもう!」
半ばやけくそ気味に叫んで距離をとる。
間髪入れずに迫ってくる死神に向け、重四連刀スキル、“斬座”を放つ。
高威力、広範囲と早い出が売りの便利スキルだ。
銀色のエフェクトをまとった刀が、一撃一撃に重量級の両手斧でも振るったような低い轟音を響かせて前方の死神たちに炸裂した。
とはいえ、二十体すべてをまきこめるようなスキルなど存在するはずもなく。
重めのスキルに多い、長めの硬直時間によって静止した俺を二十の黒ローブが寄ってたかってフルボッコ。
「むう……」
軽く書いたが、これはマズイ。
こうしている間にも俺のHPは四分の一を切っている。
「こうなりゃ、あれで……」
俺には奥の手があった。
といってもすごいスキルとかそういう話ではない。ただ単に戦い方の問題だ。
情報が命のSAO、あまり使いたくはないのだが。
「そうこう言ってられる状況じゃないっしょ」
言って、準備のために再度後ろに下がろうと後ろに跳んで、地面にたたきつけられた。
後ろから切られたと気づいたのは、クリティカルヒットでレッドゾーン――十パーセントにまで落ちた自分のHPバーを見てからだ。
「転移!」
この世界に来てから染みついた自身の無意識の生存本能に従い、手が勝手にポーチをあさり、転移結晶を使う。
だが、その結晶が光ることはなかった。
「結晶無効化空間かぁ……」
高難度のトラップにつくことの多い割とメジャーなトラップだ。
その効果で、即効効果のある結晶群が使えなくなるのは、正直ツライ。
HP回復ならぽーションもあるのだが、アレは時間をかけたちまちまとした回復しかできない。
さっさとポーションつかっときゃよかったな。
そんなことを考える間にも、俺の体に鎌が振り下ろされる。
ラスト数ドット。
風前のともしびの命の前に、俺は異様に落ち着いていた。
数々の罪を背負ったこの命とやっとおさらばできるのだ。
我ながら適当だなぁ、と思う。
さっきは結晶まで使って生きようとしてたくせに。
そして、運命の鎌は振り下ろされ――
石造りの地面に火花を散らした。
俺は地面を引きずられていた。
薄暗い小部屋に吹いたのは、一陣の蒼い風。
俺の首筋をつかんで引きずっているのは、筋力値が足りないからだろう。
その代わりの敏捷性で、おれのからだが一瞬で小部屋の隅に移動した。
見上げる俺の目に入ったのは、全身蒼の軽装。
美人というよりはかわいらしいというのであろう幼さの残る顔。
見たことが、あった。
新聞の写真で、だ。
攻略組としては少々異質な特性を持ち、なおかつ珍しい女性プレイヤー。
彼女は俺のポカンと開いた口に上位ポーションの小瓶を突っ込んで、にこりと笑った。
「ちょっと待ってて、なんとかしてくるから。」
それが俺と、{おせっかい}――ナギサの出会いだった。
後書き
そんなわけで、遅くなりました。
見てくださいよ。一話ぐらいで書いてた内容がこんなに膨れて。
そんなわけで感想とか待ってます!
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