ソードアートオンライン―死神の改心記―
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
プロローグ
光る斬撃が俺の肩を削る。
現実なら100パーセント行動府不能になるであろう一撃だが、この世界に痛みという概念はない。
俺のHPバーが半分―黄色に入る。
バックステップで距離をとる俺の視界に映るのは黒いローブに身を包む、死神。その手には鈍く光る鎌。
そう、ここはゲームの中なのである。
〝ソードアートオンライン”―SAO―それがこのゲームの名だ。
人類はついにフルダイブ技術を完成させた。
この次世代ゲームSAOは、その技術をいち早く取り入れた、“ナーブギア”というハードによって実現したMMORPGだ。
“ナーブギア”は頭に装着することで体と脳を行き来する電気信号を遮断し、実際にゲームの中に飛び込んで遊ぶことのできるまさに夢のようなハードである。そして、“ソードアートオンライン”は世界初のフルダイブによる大規模オンラインRPG。
初回スロット一万本はあっという間に売り切れた。2,3日の徹夜などザラ、かくいう俺も4日も並んで手に入れた重度のネットゲーマーなのだが。
なんにせよ、SAOというゲームはとてつもない注目を浴びつつそのサービスを開始した。
これまであこがれつつも入ることのできなかったファンタジー―剣の世界に自分自身が入り込み、実際に戦闘ができること。それはやはりと言うべきか、その日のうちに人々を虜にした。自分自身で体を動かし戦闘するだけでなく、料理や鍛冶など文字通りその世界で生活ができるのだ。ゲームのためだけに徹夜をするほどの奴等が食いつかないわけがない。
だが、幸せな時間はその日のうちに終わりを告げた。
原因は脳子量学者であり、このゲームの開発者でもある萱場明彦の一言にある。
このゲームのクリア条件は、このゲームの舞台である浮遊城“アインクラッド”を頂―百層まで攻略すること、唯一つである。
これだけならなんてことのない、ただのゲームの説明で済まされた。
問題はそこから先。
ゲームのクリア以外のログアウト方法はなし。そして―
HPの消滅をトリガーとする、現実世界での、死。
要するに今も視界に映るこのHPバーだけは何としても死守しなければならないという訳だ。
とはいえ、今の俺にはそんな基本的なことさえどうでもいいと感じられた。
階を追うごとに強くなっていく敵、終わりの見えない戦い、消えていくかつての仲間たち、そしてけして忘れてはならない俺自身の、罪。
あの日から一時も脱いだことのない、真紅のコートに触れる。たったそれだけで今も鮮明にあの時の出来事を思い出させてくれる。
いうなれば、戒め。
かたい皮の感触を感じ、決意を新たにする。
もう迷わない。他の一万人のプレイヤーたちと同じように萱場の実験動物として無意味に戦い、死んでやる。
今はもう分る。この感情が絶望というものだと。
物語にはよくある、ありふれた感情だと思っていた。だが、実際はもっと複雑な感情だとこの頃実感している。
もう死んでもいい、そうは思っているのに-
左腰に納められた愛刀“孤狼”の柄に手をかける。ざらざらとした質感が手に伝わる。
腰をかがめ、脚に力をためる。
敏捷寄りのビルドのおかげで俺は自分が一陣の紅い風になったように感じた。
黒ローブがぐんぐん近まる。
十分に近づいたところで、抜刀。同時に“孤狼”の刃を紅いライトエフェクトが覆う。
カタナスキル、単発居合技“鮮血の月”。
とある特殊な一工夫によって俺の代名詞となっている“ソードスキル”である。
“ソードスキル”。それは現実ではただの一般人Aの俺たちプレイヤーの攻撃の要。
ある決まったモーションをすることで、通常攻撃の数倍の速度、威力を誇る一撃を放つことのできるシステムだ。
その法則にのっとり、システムアシストによって加速された俺の右腕が閃いた。
同時に黒ローブの死神も単発重振り下ろし技“ジャッジメントライト”を放つ。
青白いライトエフェクトが俺の鼻先に迫る。
だが―
「おあああぁっ!」
狂刃が俺に触れる前に、紅く光る刀が黒ローブの細い体を水平に二分した。
奴のHPが0を示し、真っ黒な体が、まるでガラスが砕けたような爆砕音と共に四散した。
愛刀を鞘に納める。言葉にできない複雑な感情が湧き出てきて、俺は大きくため息をつく。
パリパリの逆立ち髪をゴシゴシと搔き、なんとか一言ひねり出す。
「結局生き残ることに執着してんだよなぁ」
ズボンのポケットに手を突っ込み、先の見えない道を歩き出す。
デスゲーム開始から一年、死者約三千人、最前線五十一層。
俺―ザインはいまだ生き残っていた。
後書き
という訳で、大量加筆版です。
完結もさえてない作品に作るものではないかとも思ったんですが、500字制限ではさすがに限界がありました。
ま、似たような展開で進みますが、どうか感想などお願いします。
ページ上へ戻る