ソードアートオンライン VIRUS
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終幕
前書き
ALOもあと一話。頑張って行こうと言うことで二話投稿
しばらく、抱き合っていた二人は体を離した。
「さあ、帰ろうぜ。現実世界に」
「うん」
ユキが少し不安そうな顔をした。ゲツガは頬を微笑みながら言った。
「大丈夫だ、帰ったらお前の病室にすぐ行くからそれまで待っててくれ」
「わかった、絶対に来てよ!三十分以内には来てよ!?」
ユキは少し無理を言ってきたので苦笑しながら答える。
「まあ、家が遠くなければいいけど正直、少し無理があるからな。まあ、それぐらいの気持ちで頑張ってくるよ」
「じゃあ待ってるから!」
そう言ってユキはウィンドウを出してログアウトして行った。ゲツガはそれを見送るとゲツガは誰もいなくなった部屋の宙を見上げてから言った。
「今ままでずっと視線が気になってたんだが、誰かが見ているんだろ?ウィルスの誰だ?マスターか?」
そう言うとマスターと呼ばれる存在ではなく。幼い声が聞こえてくる。
「あれ?やっぱりばれてたんだ」
そう言うと上から一つのノイズが発生して人が出てくる。最初は、体が見えてきてから最初はどんな奴が出てくると思ったが途中で驚きに変わる。
「な、何で……何でその姿なんだ……」
あまりにもその姿は酷似している、いや、酷似どころではない同一だ。姿が完璧に同じだった。
「はじめまして、お兄ちゃん。私がレストアだよ。マスターの能力の一つ、復元を授かった七人の一人」
「そんなのは今はどうでもいい……何でお前がその姿をしているんだ!」
ゲツガは叫んだ。その反応は当たり前と言っていい。目の前にいるレストアの姿は服装が違うが、見間違えるほど似ているのだ。
ユイに。
「うん?ああ、この姿?お兄ちゃんが前にお姉ちゃんに触ったことあったでしょ?その時に頼んでコピーしてもらってたの。で、その体をこうやってこの世界の力を使って作ったの」
「……あのときか!?」
ゲツガはユイを当して体に戻ってくる時、その時にこいつらはユイの体をコピーしたのだろう。そしてこいつが前に言った意味を理解した大事な人を助けに行く時にお姉ちゃんと再会する。こいつの言うお姉ちゃんと言うのは、プログラムの元となったユイのことだったのだ。
「そう。それでようやく私は持っている体を出したの。やっぱりこうやって体を動かすのっていい感じなんだね。私、初めてだから結構楽しいんだ」
ユイの体を動かすレストアは楽しそうにしていた。しかし、こいつらを甘く見てはいけない、何をされるかがわからないからだ。
「で、お前は何で俺の行動を見ていたんだ?まさかマスターと違った別の対価を要求する気か?」
「まさか、そんなの要求しないよ。もう、お兄ちゃんは案外心配性だね」
笑いながらレストアは答えるといきなり頭を下げる。
「私が来た理由は、お兄ちゃんにお礼が言いたかっただけだよ。ここにマスターを根付かせてくれたお礼。ありがとね、お兄ちゃん」
そう言って顔を上げてからにこりとした。ゲツガはとりあえずどういたしましてと言うが剣を落とすのをやめない。しかし、それを見たレストアは危なっかしいなといって剣に向けて手を伸ばす。
「そんなものいつまで持ってるの?さすがに危ないから私が戻すね」
そう言って何の前触れもなく武器が消えていった。
「……ッ!何をした!?」
「武器を戻しただけだよ。元は私の力で出したんだから、消す事だって簡単にできるよ」
ゲツガはこいつらの力を使っていた時は思わなかったが凄まじい力を自分は使っていたと改めて思う。
「じゃあ、私は帰るから、また会おうね、お兄ちゃん。今度は皆で会おうか、別の世界で」
そう言ってレストアはノイズを出してその中に消えていった。自分の中からあいつらが出たのはいいが色々な謎を残していったウィルスたちをただ何もしないで見送った。ゲツガはようやく頭を動かし始める。
「あいつらは、まだ何かする気なのか……」
と、その時、後ろから先ほどと同じ声が聞こえる。
「お兄ちゃん!!」
後ろを振り返ると、ユイが飛び込んでくる。レストアではないことはノイズが発生しなかったことでわかった。
「ユイ!キリトの方は無事助けることはできたのか!?」
「はい!ママを助けることはできました!お兄ちゃんはどうでしたか?」
「ああ、見ての通り助けたぞ」
ゲツガはユイに微笑んで言った。その言葉を聞いたユイは涙を流し始める。そして、離れてゲツガを見上げて言った。
「ようやく……ようやく終わりましたね……」
「ああ、戦いは終わったんだ。でも、ユイ、俺らはこれから始まるんだろ?」
「……はい、お兄ちゃんもお姉ちゃんを迎えに行ってあげてください。お姉ちゃんもそれを望んでいるはずです」
ユイは少し悲しそうな顔をするが頭を優しく撫でて言った。
「そう悲しそうな顔すんな。また、会いに来てやるからさ。ユイのデータはこの世界じゃなくて別のところにあるんだろ?」
「はい、パパのナーヴギアのデータの中にあります」
「じゃあ、また会えるな。それじゃ、俺は会いに行って来るからそれまでお別れだ」
「わかりました、お兄ちゃん。また」
ゲツガは微笑んでからウィンドウを出すとログアウトボタンを押した。ゲツガはユイに手を振る。ユイも笑顔で振ってくれた。しかし、ユイにはあのことを言うべきかは迷ったが今は言うべきではないと判断した。今はそんなに心配をかけたくなかったからである。ユイの見送りを笑顔で受けたゲツガの視界はブラックアウトした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ゲツガから優に戻った。つまり仮想世界から現実世界に戻ってきた優はぱっと目を開ける。目の前には直葉の顔があった。直葉は優が目を開けたのと同時に飛び上がる。
「わっ、びっくりした!」
「スグ……」
「ご、ゴメン。勝手に部屋に入ってきて。お兄ちゃんは帰ってきたのに優君だけまだ帰ってきてなかったから心配になっちゃって」
身体に力が入るようになったら起こす。
「そんなに遅かったのか……遅れてゴメンな」
「優君も……ようやく全部終わったの?」
「ああ、終わったよ」
一瞬、ウィルスのことを思い出すが直葉には話すのはやめておく。しかも、あの世界で死にかけたことも正直話すのをやめておいたほうがいいだろう。
しかし、ほんの数日の間に直葉には何度も助けられたし、教えてもらった。優は直葉の頭に手を置 いて撫でた。
「本当にありがとな、スグ。お前がいなかったら、俺、ユキを助け出すことは無理だったかもしれない。お前には本当に感謝しているよ」
直葉は少し照れるようにもじもじさせた。そして意を決したように顔をあげて言った。
「ううん、あたしも本当に嬉しかったよ。ゲツガ君…ううん、優君の役に立てて」
直葉は優に近づいて肩に顔を埋めた。少し薄めの服装だったため肩の辺りに少しぬれた感じがした。これは涙だろう。
「じゃあ……ようやく帰ってきたんだね、あの人が…ユキさんが……」
「ああ、やっと……やっと帰ってきたんだ。スグ、俺はユキのところに行ってくる」
「うん、行って。きっとユキさんも優君を待ってると思うから」
「ゴメンな。じゃあ行ってくるよ」
そう言って優は掛けてあるコートを引っ張って着ると、部屋から急いで出る。縁側から靴を履いて、ママチャリをだして、玄関に行く。玄関には直葉が待っていた。
「あ、優君これ」
そう言ってサンドウィッチを差し出した。優はそれを受け取る。開きっぱなしのサッシを出てまたがる。
「じゃあ、行ってくる」
「気をつけてね。ユキさんにもよろしく」
「今度、スグにもちゃんと紹介するよ」
そして、ゲツガはペダルを力いっぱい踏みしめた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
雪のおかげで交通量がへってきているため優は遠慮なく飛ばせる。優は早くユキに会いたいと思ってスピードを上げる。優は何も考えずにただただ病院に向かうことだけに集中した。
しかし、もしも彼女が帰還していなかったときのことが頭の中でよぎる。病院のカーテンをくぐっても帰ってきていないユキを見て自分は耐えられるだろうか。しかし、頭を振ってその考えを追い出す。
ようやく、大きな建物の影が見えてくる。病院はもうすでに消灯しているのかほとんど灯りが落ちている。優は正面玄関に向かう。正面玄関はすでに閉ざされていた。しかし、和人が先に来ているらしく横の小さな門が開いている。優はママチャリでその門をくぐると駐車場の横にママチャリを止めて、病院の入り口に向けて走る。
広い駐車場の途中、白いセダンから人の頭が見える。その顔には殺意が浮かび上がっていて、スモークガラスでない車の窓からはギラリと光るナイフが見えた。そして、何かを何度も踏みつけているのか鈍い音が聞こえる。
優は更にスピードを上げて白のセダンに走る。そして白のセダンの屋根に手を置いて飛び越える。そして優はそのまま、その男に膝蹴りを決めると屋根の上に着地する。
「優……」
「カズか。危なかったな」
優はセダンから飛び降りると和人に手を差し出す。その手を取って立ち上がる和人は先ほど優が蹴った男に視線を移した。
「須郷はさっきので気絶したのか?」
「さっきの?ああ、顎に思いっきり決めてやったから大丈夫だと思う。でも、一応縛っとくか」
そう言って須郷と呼ばれる男に近づく。須郷は口から泡を吹いていて、気絶していた。優は素早く須郷のネクタイを取ると腕に巻きつけた。
「カズ、行こうぜ。こいつ、多分目を覚まさないと思うから」
「ああ」
優は和人に肩を貸してやり、病院に向かった。
広いエントランス前の階段をどうにか和人を登りきらせることができると自動ドアの前に立つ。開く気配がないため、横にあるスイングドアを押して入る。カウンターには誰もいなかったがその奥にあるナースステーションからは僅かな光と談笑が漏れいてた。
「すみません!」
優は声を出して数秒で女性看護師が二人出てくる。両方の看護師には訝しむような色の表情を浮かべていたが隣にいる和人の腕を見て驚いていた。
「どうしたんですか!?」
と、自分の服にも結構な量な血がついていたらしい。
「駐車場でナイフを持った男に襲われていたので助けました。男は白いセダンの後ろあたりで泡を吹いて倒れています」
二人の顔にも緊張が走る。すぐさま、年配のほうの看護師が機会を操作して細いマイクを顔に寄せる。
「警備員、至急一階ナースステーションまで来てください」
その呼びかけから数分、ちょうど近くにいたらしい警備員が現れる。看護師が状況を説明すると、通信機に何事か呼びかけてエントランスに向かった。ひとりの看護師もその後を追う。残った看護師は和人の傷の具合を確かめながら言った。
「君達、十二階の、結城さんと本庄さんのご家族よね?傷はこの腕だけ?君はどこも怪我していない?」
少々誤認があるようだが訂正するのもめんどくさいと思った優と和人は首を縦に振った。
「そう。すぐドクターを呼んでくるからそこで待っててください」
言うや否やすぐにどこかに行ってしまった。優はすぐさまカウンターから身を乗り出してパスカードを二つ掴み取ると片方を和人に渡した。
「行こうぜ、待ってる暇なんてないだろ?」
「そうだな」
そう言って優は和人に肩を貸して看護師と逆方向に歩いていく。エレベータは一階に停止していたためボタンを押してすぐに乗り込んだ。上に上がる時の小さな負荷がかかると和人はよろめきそうになるが何とか支える。十二階についてエレベータを降りると和人は言った。
「優、お前はユキのところに行ってやってくれ」
「でも、お前はその身体でアスナのところまで行けるのか?」
「問題ない。お前は早くユキにあって安心させてやれ」
和人はそう言った。優は何も言わずに頷くとユキのいる病室に向かった。ゲツガはどんどんと足を速める。もうすぐ、もうすぐ、彼女に、ユキに会えるから。ユキのいる病室まで数秒で辿り着く。そして、パスを通してロックを解除すると、僅かな電子音とともに扉は開いた。
病室からは僅かな香水の香りが漏れる。とても心地よい香り。しかし、この香りと同時に不安がこみ上げてくる。このカーテンを開けるとまだ彼女が眠っているんじゃないか、しかし、優はそんな考えを捨てるように前に進む。カーテンを掴むと勢いよくカーテンを開ける。
先ほどまで薄暗かった部屋の一部が月の明かりにより明るくなる。ベットには身体を起こして窓の外を眺めている一人の少女がいる。優は話かけようとするが声が出ない。何とか振絞って声を出す。
「……ユキ」
その声が聞こえたのかゆっくりと振り返る。そしてユキは優を見ると微笑んだ。
「ゲツガ君」
ユキの声はあの世界で聞いていたものとほとんど変わらず、その声は優にとってはとてもすばらしく感じる。優はすぐにユキの元に行くとベットに腰をかける。そして、ナーヴギアに乗せられた手をゆっくりと取る。その手は痛々しいほど細かったが、優にとっては関係ない。その温もりを感じるように握り締めた。そして、もう片方の腕をユキの後ろに回して抱きとめる。
「ようやく……ようやく終わったんだね……長い……長い戦いが……」
優は自分の目から涙が流れるのに気付く。そしてユキの言葉に答えるように言った。
「ああ、やっと終わったんだ……」
「ゴメンね、ゲツガ君。まだ耳がちゃんと聞こえないの。けど、ゲツガ君の言っている事はわかるよ……」
そして、身体を離すとユキの目からも涙がこぼれていた。そしてユキは微笑んで言った。
「この世界では、はじめましてになるね。本庄雪乃です」
優は涙を拭って微笑んで言った。
「ああ、はじめまして、如月優だ。お帰り、ユキ」
そして互いに唇を触れ合わした。その瞬間再び涙が流れるのを感じる。しかし、悲しみの涙ではなく喜びの涙なのでその涙はとても心地よい温かさを持っている。
これであの世界での戦いの幕は下ろされた。
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