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ソードアート・オンライン ―亜流の剣士―

作者:チトヒ
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Episode1 助太刀



ここで少しリトルネペントというモンスターについて、追加で説明しておかねばならない。
通常のネペントはさっき俺が切り飛ばした、胴体がウネウネした気味の悪い肉食植物だ。現時点の俺のレベルなら正直、一日にいくらでも狩れる相手ということになる。
そして、《花付き》ネペント。正式名称でなく俺や他のプレイヤーがそう呼んでいるわけだが、頭に花が咲いているそいつを狩ることが《森の秘薬》のクリアのキーになるわけだ。

…だが、実はネペントにはもう一種別の個体が存在する。そいつは《実付き》と呼ばれ、頭上の花が咲いていてくれれば非常に有り難い場所に大きな種子を乗っけている。
まぁ、出現率が《花付き》とほぼ同等と言われているため、当然俺はそいつを今の今まで見かけたことはなかった。
そして、そいつを見かけた時は、自身のリアルラックよりリアル《アンラック》を疑った方がいいかもしれない。なぜなら、実付きの頭の果実を攻撃してしまうと、そのパンパンに膨らんだ種子は即座に破裂し、嫌な臭いを発して辺りのネペントをごっそり寄せ集めてしまうのだから。

…とまぁ、偉そうに語ってはみたが、これはある本からの受け売り。そして、ここからが実体験。


周囲に漂う相当に不快な臭いに顔をしかめながら見た先には、十数匹のネペントどもに囲まれた一団がいた。
索敵のない俺の貧弱なフィールド表示ではよく分からないが、どうやら周りには、他のプレイヤーもいないらしい。

応戦する彼等の中で一際大声を張り上げる男が目についた。

「おめぇら!こんくらいなんてことねぇからあきらめんじゃねぇぞ!」

だが、威勢のよい声に対して、曲刀を持ったその男のHPは既に半分を切ろうとしていた。
それもそうだ。今彼は動揺を隠せない仲間のために一人で複数のネペントを相手取っているのだから。

(周りに助けもなし。曲刀のやつは慣れてそうだけど、仲間が危なっかしいな…)

どうせ、現場まで来てしまったのだ。このまま傍観に徹するのは性に合わない。
背の剣を抜き放ち、狙いを定めるべき相手を探った。…どうやら、あの曲刀使いの相手を減らしてやるべきらしい。

狙いを曲刀使いが相手している実付きに定め、離れていた距離をダッシュで詰めた。
いわゆるバックアタックになるわけだが、本来ネペントには視覚が存在しないため、バックアタックは効果がない。だが、今のようにターゲットを攻撃しているときは例外だ。


かなり付近まで実付きのネペントに近づいたが気付く風もなく前方へツタを奮いつづけている。この身体の向こうでは、さっきの彼が戦っているのだろう。
剣を肩に担ぐように構える。ソードスキルの立ち上がりを意識しながら大声で叫んだ。

「後ろに飛んでくれ!」

直後、薄い黄色を帯びた剣が右上から左下にかけて、斜めに振り抜かれた。

片手剣スキル《スラント》

実付きは通常のものよりも防御力が高いのか、少しズッシリと手応えがあったが、先ほど同様スキルをくらったネペントが砕け散った。
撒き散らされる半透明のポリゴンの向こうに無精髭を生やした男の驚いたような顔があった。男の口が何か言いかけるように開いたが、すぐ次のネペントが襲い掛かってきて話しているような場合でもなかった。

ただ一言、

「手を貸す!」

そうだけ俺の方から言い、そのあと数十分間はその場にそれぞれの気合いの声だけが聞こえていた。




「いやぁ、マジサンキューな!オメェさんのおかげでなんとか助かったぜ」

幾度目とも知れない感謝の言葉に返事をする。

「気にしないで。それに半分くらいはあなたがやってたから」

それでもまだ男は感謝が足りないらしく、俺の手を取ってブンブン振り回していた。

「いや、マジでよかった。仲間全員無事だったしよぉ!」

そう言う彼の数人の仲間は、それぞれが思い思いに地面に体を投げ出して戦闘の後から放心していた。
結構な数のネペントがいたから当然か。

その中の目の合った一人が申し訳なさそうな笑顔を浮かべた。つまり、このリーダー格の男は悪気があって俺の手をブンブンしているわけではないということ。元々こういう性格なのだろう。

ようやく、俺の手を離した男が照れ臭そうにバンダナを巻いた頭を掻いた。

「おっと、すまねぇ。助けてもらったのに自己紹介もまだだったな」

そういうと男は再び手を差し出した。

「俺はクラインってんだ。オメェさんは?」
「あぁ、み……じゃなくてカイト。助けられてよかったよ」

あまりゲーム慣れしていないせいで思わず本名を口走りそうになったが、なんとか堪えて俺は曲刀使い改めクラインと握手を交わした。

 
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