ソードアート・オンライン ―亜流の剣士―
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Episode1 スキル
「なぁ、お礼って言っちゃなんだけどよ。これから一緒に昼飯行かねぇか?おめぇも朝から狩り続けてた口だろ」
「ん、あぁ。そういえばもうそんな時間だな。……」
クラインの誘いに俺はすぐに返事を出来なかった。別に嫌なわけでも都合が悪いわけでもないのだが、今のクエストを今日全力で片付けようと思っていたために、昼食を取るという頭がなかった。
俺の沈黙を拒否と取ったのか、クラインの表情が少し暗くなった。
「わりぃ、無理にってわけでもないんだ」
「や、こっちこそ。嫌じゃないんだけど…さ。今日は昼食べる気なかったから」
ホルンカには食事が出来るような場所が残念ながらない。何かを食べたければ、はじまりの街まで戻るかホルンカの住民に頼むと戸棚から出てくる――残念ながらひどくカビ臭い――パンを食べるかの二択だ。
……もう一つ、ネペントのドロップ品として落ちる《肉食植物のツタ》なるものがなんとか食べられないこともないが……オススメは出来ない味だった。
「俺はもうちょっとこのまま狩るよ。悪いな」
「いや、なら俺らも一緒に狩るぜ。さっきの例だ。おめぇもあれだろ?アニブレのクエストやってんだろ」
「あぁ、まぁな」
「俺らも一人、メインを片手剣で行くやつがいるからよ。ぜってぇ一緒にやった方が効率いいぜ」
おめぇらも構わねぇよな?、というクラインの問い掛けにその仲間が打てば響く返事をした。そこまで言われてしまえば断る理由もない。今まで好きで一人でいたわけでもないし、パーティープレイは全く困らない。
「じゃ、お願いするよ」
「おうよ!」
再び差し出された手を握り返すと、クラインが俺をまじまじと見ていることに気がついた。表情も実に複雑だ。
「俺の顔、なんか付いてる?」
「やっ、わりぃわりぃ。そういやおめぇさん、なんで一人でいるんだ?見た感じ、人付き合いが苦手って感じでもねぇしよ」
そのクラインの質問に思わず苦笑してしまった。そういえば、俺だって最初から一人だったわけじゃなかったんだ。そう、きっかけが――
「ちょっとスキルがな、変なの取ってて。それで一緒にいた連中に愛想尽かされちゃってさ」
「マジか…」
思わず本音が漏れたような言い方に、クラインの仲間の一人がクラインの脇腹を肘でつついた。
「お、おぉ。すまねぇ。俺はおめぇがどんなスキル取ってようが気にしねぇよ。早速、続き始めようぜ!」
「あぁ、助かるよ」
このアインクラッドには、RPGに定番の《魔法》というものが存在しない。そのかわり《スキル》が各種設定されており、プレイヤーはその無数のスキルから自分に必要なものを選び、自己を強化していくわけだ。
まず、最初にプレイヤーは二つの《スキルスロット》を与えられる。一つは当然、自分がメインに使う武器を、俺なら《片手剣》クラインなら《曲刀》で埋めることになる。余った一つは、ソロなら《隠蔽》なり《索敵》なりをパーティーなら《鍵開け》なりなんなりを入れることになる。
…まぁ、普通ならだ。ここで、RPGというものにあまり馴れ親しんでいなかった俺は所謂『定石』というものを無視してしまった。そんな俺が取ったスキルというのが――
「クライン、後ろだ!」
「おうよ!」
俺の指示にしたがってクラインが、振り向きざまに曲刀にスキルの光を宿した。曲刀カテゴリのスキル名など全く分からないが、振り抜かれた曲刀が後方から迫っていたネペントを両断した。
俺とクライン達の役割分担として、レベルに余裕のある俺がクライン達に指示し、あくまでレベリングが主目的であるクライン達がネペントを狩りまくる。
そして、花付きが出たところで俺がそいつを仕留めることになっていた。
ただ一つ問題になるのが、前方の指示に意識を向けていると自分自身が無防備になってしまうことだ。人に指示を飛ばしながら視界にうっすら浮かぶマップに意識を向けられるほど俺は器用じゃない。
しかし、その問題点は意外にも俺の《やらかしたスキル》が、俺が後方の草むらにピッタリ張り付くことでカバーしていた。
クライン達に指示していた俺の『耳』が、草むらの揺れる極小の音を拾った。振り向きざまに発動した《ホリゾンタル》が、草むらから俺をバックアタックしようとしたネペントを確かな手応えで切り飛ばした。
そう、普通のプレイヤーでは拾えないような小さな音を聞き分けたこれこそが、俺のやらかしたスキル、《聞き耳》だ。
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