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清教徒

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第二幕その四


第二幕その四

 プリマスの城はその清教徒達の前線基地となっていた。ひっきりなしに兵士達が詰め、行き来していた。最早この城は清教徒達にとって最大の軍事基地となっていたのである。
 今その城を嵐が襲っていた。日が暮れその中に風と雨の音だけが聞こえる。そこを一人のマントに身を包んで男が進んでいた。彼はこっそりと城の中に入り宮殿へと向かっていた。
「誰も私には気付いてはいないか」
 辺りを見回してそう呟いた。そしてマントのフードを取り外した。それはアルトゥーロであった。
「よし、誰もいないな」
 風と雨が急に止んだ。空は晴れわたりだし、月も姿を現わそうとしていた。黄金色の大きな月が城を照らしていた。
「敵がいないのは幸いか。だが問題はこれからだ」
 上を見上げる。そこにはテラスがあった。見ればそこには白い服を着た女がいた。
「あれは」
 見ればエルヴィーラであった。彼女は何かを語っていた。
 アルトゥーロは姿を隠して彼女を見上げた。聴けば何やら唄っているようだ。
「この唄は」
 聴き覚えがあった。これはかって彼が唄っていた唄であった。エルヴィーラの前でも披露したこともある。彼は美声の持ち主でもあり唄でも定評があったのである。
「だがおかしいな」
 アルトゥーロはその唄を聴きながら思った。何処か調子が外れていたりするのだ。美麗な唄の中にそれがあった。それを聴きながら不思議に思った。
「どういうことだ」
 それが何故かはわからない。だが唄は次第に遠くなっていく。どうやらエルヴィーラは部屋に戻ってしまったらしい。彼はそれを残念に思った。
「彼女は一体・・・・・・。むっ」
 ここで人の気配を察した。姿を隠した。するとそこに兵士達がやって来た。
「夜警も楽じゃないな」
「全くだ」
 彼等はそう話をしながらこっちにやって来た。
「ところであの侯爵様はどうなったんだ」
「私のことか」
 彼はそれを聞いてすぐに察した。
「まだ見つからないらしい。だが生きていることは確かなようだ」
「そうか」
 兵士達は同僚の話を聞いて頷き合った。だが誰もその当人が側にいることは考えもしなかった。
「じゃあいずれ捕まるだろうな」
「ああ、王党派ももう終わりだ。あの侯爵様も断頭台送りだろう」
「いい方らしいがな。残念なことだ」
「それは問題じゃないさ」
 一人の兵士がここでこう言った。
「問題はクロムウェル閣下と同じ考えかどうかなんだ。これは俺達だってそうだ」
「そうだったな」
 皆それを聞いて暗い顔になった。
 最早イングランドにおいてクロムウェルは絶対者となろうとしていた。彼こそが法律であり彼こそが正義であった。心ある人々は密かにこれは絶対主義より危険だと感じていたがそれを口にすることはできなかった。口にすれば自らの身に危機が及ぶからだ。そしてそれを否定することももうできなくなってしまっていたのだ。正義は曖昧なものである。だからこそかつては王が正義であったのに今ではクロムウェルが正義となっているのだ。それが変わるまでは何も言うことができなかったのである。正義は曖昧なものであるが絶対なものであるからだ。
「あの人に逆らったら俺達だって断頭台行きになるんだ。いや」
 兵士は言葉を変えた。
「縛り首かもな。俺達は」
「嫌なものだ」
 この当時首を切られるのは貴族の特権であった。縛り首は長い間もがき苦しむ。それを考慮してか首を切られるのもまた貴族の特権だったのである。これはローマ帝国の時代からである。ペテロはキリスト教徒として弾圧を受け首を切られているがこれは彼ローマ市民として高い地位にいたからであった。多くのキリスト教徒は餓えた獣達の餌となり惨たらしく殺されているのである。
「なりたいか?」
「馬鹿を言うな」
 兵士の一人が声を少し荒わげた。
「御前だってそうはなりたくないだろう」
「勿論だ」
「俺だってそうだ。誰だって死にたくはない」
「そうだな」
 彼等はそんな話をしながらその場を立ち去った。アルトゥーロはそれを見届けると静かに出て来た。
「行ったか」
 そして再びテラスを見上げた。
「行くか、いや、どうするべきか」
 彼は逡巡した。
「会いたい。だが会ってもよいものか。今の私はしがない流浪の者。しかも罪を問われている。そのような者があの方に相応しいのだろうか」
 思い続ける。
 
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