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外伝 ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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アリアハンでの事件 解明編

 6 推理と再会とテルルさん

ゲールは、アリアハンから追放されることになった。
彼は結局殺人者ではなかったが、死体の一部(?)を衛兵に届け出ることなく保持していたことが、問題になった。

「ダーマの神殿には、命名神マリナン様に使える神官がいる。
心を入れ替えるつもりがあるなら、新しい名前を貰って人生をやり直す事も出来るだろう」
ライトは、ゲールに改名を勧め、ゲールはそれを受け入れた。
ゲールは名前を変えて、冒険者ギルドで活動を続けるらしい。


ホープの部屋に残された、リニアの身体は、翌日リニアが引き取ることになった。
無論、展示ケースを含めてである。
どうやら、自分の部屋の一つに展示するらしい。
無論、リニアの右手はちゃんとある。


アリアハンの教会は、ホープの消失を受けて混乱した。
教会にとって、この事件は、雲一つ無い空の下に、突然雷が落ちたようなものだった。
だが、その混乱も長くは続かなかった。

理由は、ホープが他に事件を起こしていなかったこと、ホープが残した文書には「この事件には、教会は一切関与していない」と記載され、事実そうであったからだ。


そして、月日が流れ事件も忘れ去られていた。



事件が解決してから、3ヶ月後。
テルルはライトのいる、冒険者ギルドに赴いた。
「また、会いにきてくれたのか」
ライトは表情を変えることなく部屋にテルルを招き入れると、
「だが、ほれるなよ」
どうでも良さそうな表情で、テルルに注意する。
「誰が?」
テルルは澄まして答える。
「俺はまだ、キセノンに殺されたくないからな」
「そんなことは、ありえません!」
テルルは真面目な顔で断言すると、話を切り出す。


「この前の事件について、残された謎があります」
「残された謎とは?」
ライトはテルルに問いただす。
「事件から3ヶ月経過したので、再度確認したほうがよいかもね」
「そうか、3ヶ月か。
1ヶ月もたっていないと思ったが」
ライトは何かを思い出すように答えた。

「一つめは、右手の謎」
テルルは指を折る。
「二つめは、リニアそっくりの人について」

「・・・。まあ、そうだな」
ライトはうなずく。
「不満でもあるの?」
「いや」
「とりあえず、自分なりに推理をしたから聞いて欲しいの」
「おい、ここは茶を飲みながら世間話をするところじゃないぞ。
だいたいその役目は、俺じゃなくて、ソフィアのところの坊ちゃんだろう」

「今、ロマリアにいるから・・・」
テルルが、少し顔をうつむかせる。
「あの坊ちゃんが王様をやっているなんてな」
ライトは、テーブルに置いてあるお茶を飲みながら、
「幼なじみを、満足に相手できない小僧が、国を相手に何が出来るというのだ。
まあ、しっかりした部下でもいれば話しは別だけどな。
しょうがねぇ。話なら聞いてやる」


「私が考えたのは、リニアの身体を切って」
テルルが右手で左の肩を切り落とすまねをした。
「身体をつなげないまま、ザオリクで復活させます。
そうすれば、本体は元の状態で復活し、切り落とした身体はそのまま残ります」
「そうだな」
ライトは、表情を変えることなく頷いた。

「そうやって、切り取った身体をつなげて、全身を作り出し、もう一度ザオリクを唱えます。
その場合、魂は無いので起きあがることはありませんが、身体はきれいな状態になります」
「なるほどね」
「驚いていませんね」
「そんなことはない」
テルルは頬を膨らませてライトに指摘したが、ライトは表情を変えることなく、うなずいた。
「ようやく、キセノンの娘だなと納得しただけだ」
「何を言っているの?」
「何を言っているのだろうね」
ライトは肩をすくめた。

「まあ、やりかたはそんなものだろうさ。
ところで、ホープは何故そんなことをしたのだろうね?」
「リニアを飾りたかったのでは?」
「それなら、ゲールよりも先に、俺かお嬢ちゃんのところに頼めば済むはずだ。
いくら俺でも、ホープの頼みなら疑いなど持たない」
「そうですね」
テルルはしぶしぶ頷いた。

方法がわかっても、理由がわからなければ、完全な解決にはならない。


不機嫌そうな様子で沈黙を続けるテルルを眺めながら、ライトは話を切り出した。
「調べてわかったことだが、リニアの身体を保管したケースの代金は、リニアから支出されている」
「それって、あたりまえじゃない。
今、リニアの家に置いてあるのだから」
「そうだな、今の状況であれば。
だが、実際にお金が支払われたのは受注時だ」
「受注時!ということは・・・」
テルルの表情は驚愕に染まる。

「そう。最初からリニアに譲渡される事になっていたということだ。
当然、リニアからいったんホープに資金が移動して、ホープから支払われたという流れになっているが」
「リニアとホープは協力していた」
ライトは黙ったままだ。

「でも、なぜホープは自供しなかったの?
自供すれば、たいした罪には問われなかったのに」
ライトは、テルルに対して真剣な目で質問する。
ホープはリニアを殺したかもしれないが、リニアから依頼されたのであれば、事情は異なる。
「アリアハンに、避難民に対する支援組織が有ることを知っているか?」
テルルは頷く。
「その支援組織に、リニアが最近、支援を開始したそうだ。
ちなみに、その組織の元代表はホープだった」
ライトは少し考えてから、話を続けた。
「今回のリニアからの依頼に対する報酬かもしれないね。支援も継続的に行うようだし」

「でも、あの身体がリニアにとって、そこまで大切なものなの?」
テルルは指摘した。
金銭の支出ならともかく、全身をそろえるためには複数回殺される必要がある。
ホープのレベルなら、睡眠呪文ラリホーと即死呪文ザキの連続使用で痛い思いをすることはないだろうが。


ライトは黙ったまま、テルルを眺めていた。
「どうしたのよ、急に?」
「俺の推理を話す前に、聞きたいことがある」
ライトの言葉は、いつもと違って真剣だった。

「何よ?」
「テルルは、永遠の若さを望むかい?」
「考えた事もないわ」
テルルは即答した。
「たとえ、老いてしわくちゃのおばあちゃんになっても、それまでに生きてきた証を捨てるつもりは無いわ。当然、化粧とかで、美しく見せることはするけれど」
「・・・。そうか」
ライトは、しばらくテルルの表情を読み取ろうとしたが、首を振ると、話し始めた。

「とりあえず、推理を話す相手として認めよう」
「何よ、そんなにもったいぶって」
「そうだな。
あくまで、可能性の話をするだけだ。
ただし、誰にも言うなよ」
「わかったわ」

「とは言っても、ここまでの話を聞けば、わかるかもしれないけどね」
ライトは、少し笑っている。
「・・・」
テルルは少し考えて、驚愕の声をあげる。
「まさか、若さを保つため!?」

「理論上は可能だろうね」
ライトはつぶやく。
「人の身体を、魂の入れ物だと考えれば、元の身体を蘇生不可能な状態にすることで、別に用意した身体で蘇生させることができると思うよ」
「・・・。そうね」
テルルはライトの言葉に頷いた。
「こんなことを思いつくことができるのは、ホープぐらいだろうね。
そして実際にやってしまった・・・」
テルルは黙ったまま聞いていた。
「やったことは、神の教えに背くことだろうね。
だから、自分が犯人だとわかるようにしたのかもしれない」

ライトは椅子から立ち上がった。
「そして、自分1人で全てを背負って自殺した」
「・・・」
ライトは後ろを振り向いていた。
テルルは、黙ったままライトの背中を眺めていた。


しばらくして、ライトは椅子に再び座った。
「まあ、これはあくまで俺の推理だ。実際にリニアが行わない限り、事実かどうかわからない」
「そうね」
「この事件は解決した。それも、随分前にね」
「・・・。そうね」
テルルは頷いた。
今のライトの推理は、確認することが出来ない。
公表して、リニアにダメージを与えることもできるが、それだけだ。
逆にこの事件が表に出て、不老不死の方法が明らかになれば、この世界の法則が乱れることになるだろう。
それだけは、絶対に避けなければならない。


「それにしてもだ」
ライトが、テルルを眺める。
「さっきは、永遠の若さを望まないと即答したが、本当か?」
「疑っているの?」
「ソフィアのところの坊ちゃんが、望んだらどうする?
「いつまでも、若いままの姿で愛し合いたい」とか言って、迫られたら」
ライトは楽しそうに質問する。
「そ、そんなこと、あり得ないから!」
「照れることないだろう」
ライトは大きな声で笑っている。
「失礼します!」
テルルは、むきになって返事をすると、部屋を出て行った。


「もったいないことをしたな」
1人部屋に残された、ライトはつぶやいた。
「あんなにかわいく、成長するなんて思わなかった」
ライトは昔キセノンとかわした言葉を思い出した。
「十年前に、「キセノンの娘がかわいくなるはずがない」といって、断ったのが痛かったな」
ライトはため息をついた。
「まあ、ソフィアの坊ちゃんの事に夢中のようだから、俺なんか相手にされないけどね」
ライトは立ち上がって、仕事に専念することにした。

「それにしても、ソフィアのところの坊ちゃんか・・・」
ライトは、アーベルの情報が記載された紙を眺めながら、考えていた。

「王に就いたけど、退位を考えているとはな。
そこまでして、冒険がしたいのか?
よくわからないな。
テルルと結婚し、キセノン商会を掌握するため?
それなら、王位に就いたままテルルと結婚して、産まれた子どもの1人をキセノン商会に継がせれば問題ない。
あとは、魔王を倒すことで得られるものがあるのか?
だが、勇者が魔王を倒したという栄誉を主に担う。随行したものに、王位を捨てるほどの価値があるとは思えない・・・」
ライトはひとりごとをしばらく続けたが、
「一番わからないのが、あんな坊やのどこが良いのだ!」
と叫ぶと、資料を机に叩きつけた。

「といっても、せいぜい嫌がらせをすることぐらいしか、出来ないな・・・」
ライトはアーベルの資料と、先ほどテルルに話した内容に関する資料を眺めながら、考えた。
「アーベルの冒険が終わったら、支援組織の手伝いを要請させよう。
となると、冒険が終わるまで、どのくらい時間がかかるかわからないが、事前に仕込みが必要だな。
あとは、ソフィアの協力が必要だな。
大丈夫、かわいい娘が欲しいと言っていたから、問題は無いだろう」
ライトは何かを思いついて、資料の内容を確認すると部屋を出て行った。



「ここは、何処でしょう?」
天界を探索中に、とある階段を下りたセレンは、周囲を見渡す。
少し大きめの広間がありその中央に教会のようなものが配置されていた。
「とりあえずモンスターは出現しないようね」
テルルは、少し疲れた様子で返事をする。
二人に遅れて、もう二人が階段を下りてきたが、周囲の状況を眺めるだけで何も言わなかった。

「めずらしいですね、こんなところに人が来るとは」
がっちりした体格の僧侶が、四人の冒険者達を見つけると声を掛けてきた。
声を掛けられた4人は、一瞬武器を持ち直したが、すぐに武器を下ろす。

「!」
「ホープさん・・・」
セレンは驚愕の表情を示し、テルルは名前をつぶやいた。
「私は神につかえる身でありながらあやまちをおかしてしまいました。
だからこうして、ここで身をきよめています」
 
 

 
後書き
いくら冒険を続けても、町の人は年を取らない。
そんなことを経験したことはありませんか?

この問題に対する一つの回答案を自分なりに、作ってみました。
もちろん、独自解釈です。
異論反論等あると思います。 
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