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外伝 ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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アリアハンでの事件 後編

 4 右手と手紙とテルルさん



「・・・だめでした」
ホープは肩を落とした。
ホープとテルルそして、冒険者ギルド幹部のライトはキセノン商会の一室で話し合いを行っていた。
ゲールについては、アリアハン城内の地下牢で拘束されている。

「ザオリクで復活しないなんて」
テルルも残念そうな表情をする。
「原因はいくつか考えられています。
一つめは、遺体が不足していることです。
昔の資料を確認すると、片手からの復活事例はあります。
その場合は、ザオリクではなく、復活の儀式を用いた場合ですが。
もう一つの場合が、魂が何らかの事情でこの身体に戻らなかった場合です」
ホープは気を取り直して解説を始めた。

「どういうこと?」
「人間には、身体とは別に魂が存在します。
生前に未練があると墓場に出現するという話はこれです。
逆に、死んでしまった事を受け入れてそのまま神の国へ旅立った可能性もあります」
「弱ったな、被害者がわからないなんて」
テルルはため息をついた。

「口を割らせるしかないか」
ライトは、残念そうな表情をする。
ライトの考えは、「何事も無理やりにさせるのは面白くない」ということだ。
「良い方法があります」
「ほう、お嬢ちゃんには拷問の技術があるのかな?」
「ええ、結構期待してください」
テルルは、悪戯を思いついた子どものような笑みを浮かべた。



「お嬢ちゃんのやり方は効果的だったよ」
「そうですか」
テルルは、あまり楽しく無い様子でライトの話を聞いていた。
「だが、本人は本当に知らないようでしたね」
「残念です」


ゲールの証言によると、
1ヶ月ほど前の早朝に、繁華街から宿に戻る途中に、右手を発見したという。
ゲールは、右手のあまりの美しさに、自分の棺桶を取り出して、中に入れると共に、周囲に他の遺体がないかと捜索した。
ゲールの探索も空しく、他の遺体を発見することが出来なかった。
やがて、人の往来が激しくなったため、ゲールは探索を中止して、宿に引き返した。
そして、遺体については他の誰かが、別のところに破棄したのではないかとゲールは推測したという。


「さて、どうしますかね」
ライトはため息をついていた。
「どうにもならないでしょう」
アリアハンの警備隊の責任者が口をだす。
「一応犯人は、ゲールということになりますか」
ホープは、確認するように質問する。
「まあ、衛兵に届けることなく、遺体を保管していましたからね」
警備隊の責任者は、ホープの質問に頷いて答える。
「とりあえず、他に遺体を発見した者がいないか、調査の必要がありますね」
ライトは、話をまとめた。



事件については、アリアハン中に広まることになった。
テルルは、事件を解決したとされ、市民から賞賛を受けた。
「私は何もしていないのに」
テルルは、ギルドの応接室で頬を膨らませていた。
「嫌なことでもあったのかい、お嬢さん」
「貴方が事件を解決したでしょう」
テルルは、わかっているくせにという目つきで、男を睨む。
「俺は、お嬢さんにいくつか疑問点の提示と、助言をしただけだ」
ライトは、目の前にいるテルルの視線をかわすと、飲み物を口に含んだ。

「俺みたいなおっさんより、かわいらしいお嬢さんが解決したほうが、世間の受けはいいのだよ」
「そのせいで、店の手伝いができなくなったわよ」
「十分、これで商売しているではないか」
ライトは、一枚のチラシをテルルに手渡す。
「これは!」
キセノン商会が開発した、新商品のチラシである。
「これで、あなたも新鮮な食材で料理できます!」
チラシには、テルルが鉄の斧を右手に持ち、いっかくうさぎの角を左手に持つイラストが描かれていた。
テルルは男から素早くチラシを奪い取る。
「かわいく描かれているじゃないか」
ライトは、くくくと笑った。

「ところで、今日は何の用事かな?」
ライトの質問に対して、テルルは手紙を男に手渡す事で答えた。
「恋文を貰ったことはあるが、本人から直接手渡しされたのは初めてだ」
ライトは昔を懐かしむ表情をみせながらテルルを見つめる。
「お父さんからよ」
「なんだ、キセノンか、残念だ」
ライトは、少しも残念そうなそぶりも見せずに、手紙を読み始めた。


「ははは」
ライトは、腹を痛そうにしながら笑っている。
「なにか、おかしいことでも?」
テルルはライトに尋ねていた。


「キセノンも、所詮人の親ということだ。
文中に7回も「娘に手を出したら殺す」と書いてある」
「え・・・」
「きちんと返事を書かなければいけないね。
「俺は、うぶな生娘には興味がない。
お嬢さんなら、ソフィアのところの坊ちゃんが、お似合いだ」とね」
「!」
テルルは顔を赤くして、ライトに何かを言い出そうとして、適当な言葉が思いつかない

そして、そんな自分に、腹を立てていた。

「そんなことより、キセノンは今回の商売で面白いことを書いている」
「どんなこと?」
「冒険者をやめた人物が、例の商品だけを購入したらしい。
そこで、俺に手伝って欲しいそうだ」
ライトは視線を、テルルに移す。
「お嬢さんに頼みがある」
ライトは真剣なまなざしで、テルルをみつめる。
「事件の解決のため、手伝って欲しい」



 5 女神と犯人とテルルさん



アリアハンが、夕闇に沈む頃、キセノン商会の腕章をした男達が、とある住居を訪れていた。
「こんばんは、キセノン商会です」
「どうぞ、入ってください」
住居の持ち主はキセノン商会の人々を向かい入れた。
「お届け物です」
巨大な布を引き出すと、そこには透明な巨大ケースが現れた。
「確かに、依頼した商品だ。
奥の部屋まで運んで欲しい」
主人は商品を確認すると、奥の部屋に招き入れた。



日が沈み、暗闇に覆われた部屋のなかに、1人の男が足を踏み入れる。
「待たせたね」
男は、1人の女性を担いでいた。

男に担がれていた女性は、大きな布に包まれていた。
布からはみ出した両足は、汚れのない白さを見せて、繊細な彫刻品のような美しさを纏っていた。
布の反対側からみせる頭部は、金髪に覆われて表情をうかがい知ることはできない。

男は、部屋の奥に鎮座したケースの目の前に立つと、女性を慎重に下ろした。
くるまれていた布がほどかれると、そこに女性が現れた。

女性は何も纏わない。
少女から女性に成長した身体は、幼さを僅かに残しながら、成熟した曲線を見せる。
つぼみから花が開いた瞬間を閉じこめたかのように見える全身は、白い輝きを放っているように錯覚してしまう。
長く繊細な金髪から覗かせる顔は、白い彫刻で作られた女神の顔に酷似している。
相違点と言えば、少し大きめの瞳と、口元の微笑から微かに見せる妖艶な笑み。

そして、女性は今にも動きそうな感じがするのは、透き通る白い素肌から浮き上がる血管によるものなのか、みずみずしい素肌によるものなのか。
男は、目の前の女性に興味を示すことなく、目の前のケースを開こうとする。


「なるほど、リニアの右手だったのね」
透明な箱が、中から開いた。
「誰だ?」
しかし、姿は見えない。
「わかると思ったのに、残念」
「テルルさんか」
「そういうこと。
商品が犯罪目的で使用されていないか、確認させて貰ったわ、ホープさん」
テルルは箱の隣で、横たわる女性の姿を確認しながら姿を現す。

「きえさり草か?」
「よくご存じで」
「名前だけは知っています」
ホープは苦笑していた。

「では、失礼します」
テルルはキメラの翼を取り出した。
「待て!」
「!」
ホープはテルルの腕をつかんだ。

「離して!」
「逃げなければ、離す」
ホープの握力に、テルルは動くことが出来ない。
「その言葉、嘘はないな」
部屋に新たな男が進入してきた。

「助けには、来てくれたのね」
テルルはギルドの幹部ライトに視線を移す。
「当然だ。
お嬢さんに何かあれば、キセノンに殺される。
俺はまだ、死にたくない」
ライトの回答に、憮然とした表情を見せたテルルを無視して、ライトはホープに問いかける。
「というわけだ、約束を守ってくれ」

「ええ。
私の最後を見届けて欲しいだけです」
ホープは、苦笑しながら頷いた。
「そうか、残念だ」
ライトは、少しも残念そうな表情をみせずにつぶやいた。

「?」
テルルの問いただすような表情に気付いたライトは、テルルに視線を移しながら答える。
「お嬢さんがいれば、なんとかなると思ったのだがね」
「?」
「自白を期待していたのさ。
親しい女性が相手なら、動機を話すかもしれないとね」

「期待にこたえられず、申し訳ない」
「謝ることでもないさ。
まあ、上手くいったらもうけもの程度しか、期待していなかったし」
テルルは何か言おうとしたが、何を言えばいいのかわからなかった。

「とはいえ、ご存じだとは思いますが、一つだけ説明します。
あれは、リニアではありません」
「なんですって?」
テルルは驚きの声をあげ、そばにいる女性を眺める。
先日教会であった、リニアとそっくりだった。
「でも!
あ、あれ?」
「どうした、お嬢さん?」
ライトはテルルの表情の変化を読み取り、質問した。
「リニアとは、ゲールに依頼を受けてから会いました。
それに、右手が・・・」
そばにいる女性には、右手があった。
その女性の右手は、以前ゲールが隠していた右手と、同じだった。
「どういうことだ、ホープ?」
ホープは微笑したまま答えない。

「それでは皆さん、お別れです」
「おい!」
「ザキ」
ホープは、ライトの静止を振り切り、自分自身に死の呪文ザキを唱えた。
呪文は成功し、ホープは息を引き取った。


「さて、教会で復活させるか」
めんどうくさそうにライトはつぶやく。
「待って!」
テルルは、ホープの身体が光に包み込まれるのを確認した。

ホープの死体は、中に浮き、まばゆい光に包まれながら消滅していった。
「天に召されたのか・・・」
ライトはつぶやく。


やがて、ギルドの幹部が派遣した冒険者達が部屋に侵入した。
テルルは慌てて、横たわる女性を布で包み込んだ。
とりあえず、事件は解決した。 
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