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外伝 ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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ウエイイ開放作戦での演説

「それでは、お願いします」
ジンクが目の前にいる、少年に声をかける。
少年は、冒険時の服装の上に深紅のマントを身につけ、頭上に金の冠をのせていた。
どこかの王子様に見えるが、この少年はロマリアの王様である。
「ああ、わかった」
少年は頷くと、立ち上がり、兵達の前に登場する。
目の前の兵士は約1,200人。
首都ロマリアを防衛する部隊である。

ジンクから少年に対して、ウエイイ開放作戦における首都ロマリアの防衛を任せる部隊に対して、演説を要請された。
本来、少年とジンクは作戦開始後速やかに、ウエイイ攻略のため、ルーラにより前線に移動する予定であった。
しかし残された部隊を率いるのが、これまで部隊を指揮したことがない内政大臣マニウスであった。
少年に演説の要請があった背景には、マニウスの小心な性格が災いし、兵士達の士気が下がっているのでなんとかして欲しいとのことだった。
少年は、自分も軍隊を率いた経験がないと言って断ろうとしたが、
「近衛兵総統デキウス閣下から一目置かれているので、兵士達の信頼が厚いので問題ない」
と、ジンクとマニウスから言われて、少年は引き受けるしかなかった。

「くれぐれも、「てきとうにやってくれ」とか「私は戦争が大好きだ」とか、言わないでくれよ」
「・・・。わかっているさ」
少年はジンクからの指摘を適当にあしらうと、兵達の正面にたった。
少年は、あらかじめ用意した内容を基に話し始めた。


「諸君。
今回の戦いは、ウエイイ開放作戦における、ロマリア防衛戦である。
諸君の任務は、来るべきモンスターに対して、ロマリアを守ることである。
今回の戦いは、40年ぶりの奪回作戦である。
これまで、多くの人々が奪回を望み、そのたびにモンスターからの襲撃を受け、挫折した作戦でもある。

戦闘という危険な賭に臨むべきではないという声も聞いた。
私が、国外から就任した王だということで、権力を得るためにしくんだ、無責任な作戦ではないかという声も聞いた。
私のことを影で「口先だけの王」と揶揄するものがいることも知っている。
それらの声に対して、私が答えるのはただ一つである。
私は私がロマリア最後の王にならないために、この作戦を行うと。

この国には、現在様々な問題を抱えている。
貧困の問題、格差の問題、軍事の問題、政治の問題、財政の問題。
多くの問題はそれぞれが難問であるため、すぐに解決出来るわけでは無いことは明らかである。
だからといって、私はそれらの問題から逃げることはしない。
王として与えられた役割に、逃げるという選択肢は始めからないからだ。
私が逃げない限り、ロマリアは王国としての輝きを持ち続けると信じている。

諸君。
私は、諸君を信頼している。
私が先ほど話した問題は、元をただせば一つの原因から始まっている。
モンスターの侵略である。
モンスターを殲滅することで、問題を解決する糸口であることを私は知っている。
そして、諸君の能力で実現可能だという事も知っている。

諸君。
ロマリアはかつて、広大で美しい国だったことを私は知っている。
一面の小麦畑、子どもでも小魚や貝を取ることができる小川、家畜を放し放題にできた草原。
ゆたかではなかったかもしれないが、国民全ては楽しく日々を過ごしていたと、ロマリアで産まれた私の母が、祖父から子守歌代わりに聞かされたことを知っている。
その美しいロマリアから、土地を、財産を、生命を奪うモンスターがいる。
モンスターは魔王バラモスによって、統率された動きを見せて、次々と都市を攻略していった。
今の我々には、もはやこのロマリアしか残されていない。

我々には、もはや絶望しか残されていないのか。
我々は、目の前の現実から目をそらし、城の中での闘争を繰り広げるしかないのか。
絶対に違う。
我々が成すべき事は、悲嘆に暮れることでも、隣人を貶めることでもなく、他人の財産を奪うことでもない。
我々が成すべき事は、失われた先祖の土地を、美しかった国土を、子ども達が無邪気に遊ぶことが出来る広場をモンスターから取り戻すことである。

我々は、これから城外に出て作戦行動を開始する。
まもなく大量のモンスターがこの城を襲撃するはずである。
諸君がこれまでに味わったことのない、大規模な戦闘になるだろう。
だが、私は心配していない。
諸君は、遠くノアニールの先にある洞窟で、厳しい訓練を耐えてきた精鋭なのだから。
具体的な作戦を組み立てたのは、デキウス総統が信頼してる部下達だからだ。
私は諸君に英雄的な行動を求めない。
日常の訓練を思い出し、そのまま行動に移せば、必ずや勝利を勝ち取ることが出来るはずだから。

諸君。
私は、諸君を信頼している。
君たちの中には、近衛兵総統デキウスと共にウエイイ開放を望んだ者も多いという。
ウエイイ開放は、モンスターから襲撃を受けた都市を開放する史上初の作戦となるだろう。
そして、私は作戦の成功を疑ってはいない。
だが、ウエイイ開放が成功しても、ここロマリアが滅ぼされたら意味がない。
ここ、ロマリアの防衛が成功して初めて、本当の意味での勝利となる。
この戦いの成功は、諸君の力量にかかっているのだ。

諸君。
私は、諸君を信頼している。
防御作戦は、攻略作戦よりも忍耐が必要となる。
真の英雄は、耐えるときに耐えることを知っている。
37年前のロマリア防衛戦は、我々ロマリアの民が、耐えること、そして英雄であることを世界に示す戦いであった。

諸君がこれから示す戦いも、前回の防衛戦と同じ、いやそれ以上の価値のある戦いとなる。
なぜならば、ウエイイに挑む戦士達を、心おきなく送ることが出来るのも、ウエイイを開放した戦士達をにこやかに迎え入れることが出来るのも、諸君にしか出来ないことなのだから。

諸君。
私は、諸君を信頼している。
諸君が最強の戦士であることを。

諸君。
私は、諸君に期待している。
諸君が死ぬことなくこの戦いを終わらせることを。

諸君。
私は、諸君を確信している。
諸君がロマリアを防衛し、ウエイイを攻略した戦士達を笑いながら出迎えることを。

では行こう、諸君。
栄光を知る、ロマリアの軍旗と共に。
我々の先祖が、ロマリアの軍旗と共に見守っている。
我々の神々が、ロマリアの軍旗のそばで力を与えてくれている。

では行こう、諸君。
ロマリアの栄光のために!
ロマリアの未来のために!」


目の前の兵士達は、紙を持たずに常に兵士を眺めながら話をする王様に感激し、大きな歓声を上げながら、整然と部隊が進軍していった。
「原稿も読まずに演説するとはすごいですね」
珍しく、ジンクは少年を絶賛した。
「魔法の力なのだけどね」
少年はきまりがわるそうに答える。
「魔法?」
ジンクは、しばらく考える。

「噂には聞いていましたが、新魔法ですか」
「そこまで、すごくはないけどね」
少年は、昔勇者に教えた魔法について説明する。
「「しゃべりだす」ですか」
「汎用呪文なので、MPさえあれば、誰でも使えるよ」
少年は苦笑していた。
「卑怯な気もしますが、まあいいです」
ジンクも苦笑していた。 
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