ソードアートオンライン VIRUS
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謝罪
リーファにそう告げた。
「……いま……いま、なんて言ったの……?」
ゲツガは首を傾げた後、もう一度言った。
「ああ、……ユキとアスナ、それが俺たちの探している人の名前だよ」
「でも……だって、その人たちは……」
リーファはゲツガの手を払い、両手を口に当ててゆっくりと後ろに下がる。リーファの顔は驚愕の表情を浮かべていた。そして、消え入りそうな声で言った。
「もしかして……お兄ちゃんと……優君……なの……?」
「は……なんで……俺の名をしてるんだ……」
ゲツガは自分が本当の名前を知ってるんだと口を滑らせた。しかしお兄ちゃんという単語に一瞬引っかかって考えるとあることに気付く。ゲツガはこの言い方とこの呼び方を呼ぶ人物は一人しかいないと特定した。
「もしかして……スグ……直葉なのか?」
そういった瞬間、リーファは顔をくしゃっと歪めた。リーファは顔を下に向けてウィンドウを出した。
「……酷いよ……こんなの……なんで、なんで……こんなことがあるの……」
顔を二、三度首を振る。そしてボタンを押して消えてしまった。
「「……」」
ゲツガとキリトは顔を見合わせる。
「まさか……リーファがスグだったとはな……」
「ああ、俺もびっくりした……」
「って二人とも、なんでリーファさんを追いかけないんですか!!」
キリトの胸ポケットからユイが顔を勢いよく出して叫ぶ。
「そ、そうだな。追いかけなきゃいけないな」
ゲツガはそう言って素早くウィンドウを出してログアウトした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
リアルに帰り、ゲツガではなく優に戻ったらすぐにナーヴギアを外してスグの部屋に向かう。ついでに言うがキリトの部屋と反対の一番端が俺の部屋になっている。優は走って直葉の部屋まで着くと扉を叩いた。
「……スグ……入っていいか?」
「やめて!!今は入ってこないで!!」
直葉が叫んだ。優はノブから手を離す。
「一人に……しておいて……」
扉の外からでも直葉が泣いているとわかった。そしてちょうどキリトが部屋から出てくる。
「どうだった優?」
「いや、正直、今は聞かないでおいてくれ」
そしてキリトに話し終えた後、扉の向こうにいる直葉に話しかける。
「どうしたんだよ、スグ。そりゃあ、今まで一緒にいたパーティーがスグって言うことには驚いたけどさ……」
そして、怒る節があることの一つを謝る。
「……またナーヴギアをかぶったことを怒ってるなら、謝るよ。でも、どうしてもあれが必要だったんだ」
「違うの、そんなことで怒ってるんじゃない」
直葉がベットから降り、ドアの前に向かってるのが足音でわかる。そしてドアのノブが回って一気に扉が開かれる。目尻には涙が溜まっている。
「あたし……あたし……」
直葉は言葉をそのあと数回小さい声で呟いて意を決して言った。
「あたしは優君のことが好きだった!!」
いきなりの告白に優は一瞬たじろく。しかし、スグをまっすぐ見続ける。
「でも、優君は心から好きな人を私が告白する前に見つけて……そっちに行っちゃったから……もう、この気持ちは言わないって決めてたのに……だから……だから、ゲツガ君を好きになろうと思った。ううん、もう好きになってた……なのに……それなのに……」
「……」
優は黙って聞くしかなかった。直葉の言葉を受け止めるしか今は出来なかった。
「なんで、なんで、こんなことになっちゃうの!!」
そして直葉は下を向いてから震えながらぽつりぽつりと呟くように言う。
「あたし……優君がSAOから帰ってきて嬉しかった。小さい頃から優しくてかっこいい優君が帰ってきてすごく嬉しかった。ようやく、私の気持ちを告げれるって思ったのに……」
そして直葉の涙はついに床にぽつぽつと落ち始める。
「……でも、もう無駄になった!ようやく、ようやく伝えようと思った気持ちが一気に伝えづらくなった。ユキさんを見る優君の顔を見てると言えるはずないじゃない!!あんなに、あんな心苦しそうな顔を見たら何もいえないよ!!」
「ゴメンな……スグ……お前の気持ちに気付いてやれなくて……」
優は頭を下げて謝る。そして頭を上げて直葉を見ると、悲しそうな顔をしてから言った。
「……、二人とも放っておいて……」
そして直葉は自分の部屋の扉を閉めた。バタンと小さな音だったが寒い廊下に響いた。
「カズ……どうしたもんかね……」
「そうだな、お前のその鈍感な恋愛の部分を強制することからしなきゃならないな」
「そんなことは今じゃなくていいだろ。とりあえず、何か考えよう」
優は廊下の壁を背にして座り込んだ。和人は優に言った。
「なんか、俺の問題じゃなくて優の問題だったぽいな……。まあ、優じゃこういうの無理っぽいから一緒に考えてやるよ」
そう言って和人も壁に背を預けて座った。
「まあ、実際スグの気持ちに俺が気付けなかったのが悪いんだよな……だったら話し合うしかないんだが……今の状態は無理だしな……」
「ああ、まあそんなに話し合いたいなら時間が経ってからじゃないと駄目だな」
「カズ、それじゃ遅いだろ……どうしたもんかな……」
「別にこっちじゃなくてもいいんじゃないか?顔をあわせながら本性が聞ける方法なんて身近にあるんだし」
「テレビ電話か?少し難しい気がするんだが」
「何言ってんだ?VRMMOだよ」
そう言うとゲツガはハッと気付きなるほどと頷く。
「その手があったか……」
「じゃあ、頑張れよ。後はお前がやることだ」
そう言って和人は部屋に戻って行く。優も立ち上がり直葉の部屋の扉をノックする。
「スグ、アルンの北側のテラスにいる」
そう言って優も部屋に戻った。そして再び仮想世界へと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
再び目を開けるとそこは先ほどまでいた世界樹の扉の前だった。
「おう、ゲツガ。遅かったな」
「ああ、ちょっとあったからな、それから悪いな。考えるのつき合わせちゃって」
「ガラでもないことするんじゃねえよ、気持ち悪い。それよりも、伝えたのか?」
「まあ、一応。これから、この樹の北にあるテラスに来てくれって言っといた。まあ来るか、わかんないけど」
「そうか、じゃあ行くか」
「ああ」
そしてゲツガとキリトは世界樹の北へと向かう。世界樹の外周はとても広かったが、素早く飛んで北のテラスに降り立った。そして、ゲツガはテラスから景色を眺める。前の世界には無い景色。だが、その景色はどこと無く懐かしさを持っていた。
『やっぱ、ここがSAOサーバーのコピーだからかな……』
そう思いながら景色を眺め続けること数分、二つの羽音が耳に届く。どうやら来たみたいだな。ゲツガは振り向いてその方を見る。そこにはリーファとスイルベーンの旅たつ前に一緒にいたレコンという男がいた。
「……よう」
ゲツガは強張る筋肉をどうにか動かして微笑する。
「お待たせ」
リーファも笑みとともに言葉を返す。しばらく、二人の間に沈黙の空気が流れる。
「スグ……」
ゲツガは名前を呼ぶとリーファは手を上げてそれ以上言わないでというように遮った。そしてリーファは口を開く。
「ねぇ、優君……試合、してもいいよね?前に言ったでしょ?あたしが強くなったら一度くらいは剣で勝負してくれるって……」
そう言ってリーファは腰に下げている長刀を手に掛ける。ゲツガは一度は目を見張るがすぐに微笑んで言った。
「そういえば、そんなこと前に言ってたな……いいぞ、スグ。相手してやる。キリト!剣をくれ!」
そう言うとキリトは、そらよと言って背中に持っている巨剣を放り投げた。ゲツガはそれを掴んで逆手持ちに切り替える。
「本気で相手してやるからスグも全力で来い」
ゲツガは今までと比べ物にならないほどの闘士を出す。それに蹴落とされまいとリーファは踏ん張っていた。
「さすがだね……優君は……でも、これくらいじゃ負けない!いくよ、優君!!」
「ああ、来い!!」
そしてリーファとゲツガは同時に地を蹴る。リーファはゲツガに向けて剣を振り下ろしてくるがそれを体を少しずらし、回避するとゲツガは剣を拳を突き出す。拳はリーファの頬を掠るが避けられる。
しかし、これはストレートの前のジャブ、ゲツガは素早く拳を引き戻しながら剣をアッパーの要領で切り上げる。それをリーファは受け止めるが、そのまま吹き飛んでいった。リーファは空中で体勢を立て直して、再びこちらを向く。その目には恐怖などの感情は無く、歓喜に似たような色を帯びていた。
ゲツガは微笑み、空を飛ぶリーファに近づき、再び剣を横に振るう。だが、リーファはそれを予測していたのか体勢を低くしてかわすとそのまま剣を前にして突っ込んで来る。ゲツガはもう一方に手で剣の側面を触ると強めに押す。すると一直線に向かっていた剣の軌道がずれ、ゲツガには当たらなかった。ゲツガはそのままリーファに斬撃を叩き込もうとするが掠りはしたが見事に回避された。
「やるな、スグ!」
「優君、こそっ!」
そしてゲツガとリーファは剣をぶつけ合う。力だけはゲツガの得意分野のためつばぜり合いでは確実にリーファを弾き飛ばす。そして一度大きく距離を取る。そして、同時にゲツガとリーファは突撃する。しかし、ゲツガは武器を捨てた。せめてもの償いとしてリーファに斬られようと思った。しかし、ゲツガとまったく同時にリーファも武器を捨てていたのだ。なぜと思う前に二人は交差して衝突する。ゲツガはリーファを受け止めてその場に浮遊し続ける。
「どうして……」
「何で…」
ゲツガとリーファは同時に声を出す。しばらく目を見張っていたがゲツガは自分が剣を投げ捨てた理由を話す。
「俺はな、スグに謝ろうと思ったんだけどさ……どう謝れば実際あってもわかんなかったんだ。……そん時にスグが勝負しようって言ったからその試合でせめて剣を受けようと思ってな……」
リーファを抱きしめて言った。
「ゴメンな……お前がずっと苦しんでたのに……気付かなくて……俺……自分のことばっかでお前のことをちゃんと見てやれなかった……本当にゴメン……」
リーファはそう言うとゲツガをゆっくりと抱きしめて言った。
「あたし……あたしの方こそ……」
しかしそれ以上言葉が出なかったのか、リーファはゲツガの胸に顔をうずくめてしまった。そのまま、しばらく浮遊していたがやがて少しずつ降下していき、草の上にふわりと着地した。ゲツガはうずくまるリーファを優しく撫でた。そして、ゲツガはリーファに言う。
「俺ら……キリトと俺は、本当の意味であの世界から帰ってきていないんだ。終わってないんだよ、あの事件はまだ。あいつらが目を覚まさないと本当の俺らの現実は始まらないんだ……。だから、あいつらが帰ってくるまでスグのことをどう考えていいのかわからないんだ……」
「うん……」
リーファは小さく頷いて、呟くように言った。
「あたし……あたし、待ってるから。優君が、本当の意味でこの世界に帰ってくるの、その時を。……だから、あたしも手伝うよ……。だから、優君……説明して……お兄ちゃんや優君の大事な人のことを……何でもう一度この世界に入ろうと思ったことも……」
「ああ、わかった」
ゲツガはゆっくりと頷いた。
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