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Sword Art Online-The:World

作者:嘘口真言
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#04 決行

 
前書き



どーも、嘘口です。
ややオリジナル展開をはさみながらも、ようやく一層ボスへと進む三人。
 

 



ベンケイと二人が出会ったその当日、午後八時を回った頃か。
三人は通りを歩いていた。すぐ右手にある大広場には昼間の攻略会議に参加したプレイヤー達が酒盛りを行っている。とはいえ、やはりここはゲームであるので、味も酔いもするが一晩経てばさめる程度もの。気分の問題だ。
三人のあの後の話だが、結局彼らはそのままゴーレム狩りにいそしむ事となり、狩りに出ていた時間は総計六時間、倒した数はゴーレム以外を含め合計百は下らない。経験地よりも金銭の回収をメインに動いた為経験値はそこまでだが、今日の夜食を豪勢にする程度の余裕はある。と言うわけで、

「っしゃあ呑みに行くぞコラァ!!!」

「コラ待て十六歳、未成年が呑むだの言うんじゃねぇよ」

「一応僕ら成人してるし、そういう人の前でお酒呑むって言うのは、ちょっとねぇ………」

「雰囲気よ雰囲気。別に俺は酒呑みたいわけじゃねーけど、社交辞令っつかお決まりみたいなもんじゃねーの」

このベンケイ、見た目と身長こそ二十歳かそこいらに見えるが、実際はなんと十六歳。
現実(リアル)では剣道、柔道、空手、合気道に他幾つかと、歳のわりにいろんなものに手を出しており、大会で記録を出したものもある。高校に入ってからは球技にも手を出し、現在はバスケを専攻しているとの事。もっぱら体験する為のものなので、来年辺りには辞める予定だったそうだ。

「しっかし青春してんなぁ。俺がその頃ッつったら、ひたすら勉強だったけどな。あとはちょいちょいゲームと、そんくらいだな」

「僕は普通に部活とかしてたよ、中学の頃はバスケもちょっと齧ってたし、高校に上がってからは特になにもしてなかったかなぁ。ゲームと、あとはバイトだね」

「え、それくらい全部一緒に出来るんじゃねぇの」

…………お前と一緒にするなこの天才野郎!
追記だがこのベンケイ、現在十六歳でありながら資格取得を趣味としている様で、二人にはベンケイがこの歳で就職の有望性が輝いて見えた。もう、ITでもスポーツでもアパレルでも何でも御座れ、と言えばいいのか。さらにそこに部活とバイト、そしてバイトで小遣い稼ぎ。もうあれこれやり過ぎスーパーマン。
家が裕福とか言っていたが、だったらそんなに色々する必要は無いんじゃないのか。ハセヲはそう聞くと、

「いやいやいや、家とか全ッ然関係ないですから。結局就職とか実力とかってようは経験の事だろ、だったら時間持て余してる今のうちに色々やっといてナンボだし。どうせ卒業したらやる事なんてわりと決まってくるんだから、親に面倒見てもらってる今の内に好き勝手させてもらうんだよ」

「「うわすっごいコイツ馬鹿だ、頭いいほうの馬鹿だ」」

そんな会話の中、ベンケイは正面にある人影に目が行った。
片方は普通の少年、もう片方はフードをかぶった男女不明のプレイヤー。食事をしているようで、その二人がいる場所を横切ると、すぐそこには宿屋。その前でベンケイは立ち止まり、目を閉じてなにかを考え始めた。
………どっかで見た事あんだよなぁ、あの黒いの。どこだっけ、何年か前のなんかの……大会、か?
うっすらと記憶はあるものの、実態が一切浮かばない。朧気ながらも、なにかの会場で見かけたというのは覚えている。それも大会、決勝近く。しかし思い浮かぶのはそこまで、そこから先は一切出てこなくなっていた。

「おい、ベンケイ」

「あ、あぁ」

「僕達の宿屋ここだけど、君はどうするの?」

「んー、特にどこかも決めてないしなぁ……そこら辺で野宿もよくするし。折角だし、今日はここに泊まってく」

「今日は珍しく昼間通しで狩ってたから、超眠ィ……俺ァ速攻寝るぞ。騒ぐなよ音立てるなよ起こすなよ」

「僕も今日はすぐに寝るつもりだから、大丈夫だよ。ベンケイは?」

「俺も同意。特にやりたい事あるわけでもないし、すぐ寝る。それに部屋も違うしな」

「そ、じゃあおやすみ」

「お疲れ」

「お疲れー」

宿に入りながら言う台詞ではないが、三人共に部屋に入った瞬間五分経たず眠りについたから正解だといえる。時刻は午後九時、外はいまだ騒ぎが冷めやらぬ様だった。







  ×      ×







翌日、午前六時。日が昇っていまだ時の経たぬ頃。
宿屋の近くの広場にて、カイトは伸び伸びと身体を動かしていた。昼夜逆転の生活をしながらも、どうにも朝の運動だけは欠かせないようで、それはゲームの世界だろうと変わりは無かった。とはいっても、実際にこの世界での健康管理が現実に影響するわけは無いので、せいぜい散歩と身体の柔軟程度に済ませている。
早朝の町を巡回もどきに散歩をし、ぐるりと回ったら今度は広場で軽い柔軟。
コレだけで気持ちの整理が出来ると言うのは、我ながら単純な人間だなぁと思うカイトだった。
そして全ての行程を終えると、カイトは周囲をぐるりと見渡す。広場や近くの通りには人影一つ無く、町も至って静かなまま。昼間もそこそこ静かな時はあるが、やはり早朝は神聖な静寂といった感じだ。

「………ホントに、僕らは変な事に巻き込まれるなぁ…………」

朝日を見て脳裏に浮かび上がるのは、己の青春時代。十台半ばの頃のあの日々。
『The:world』に出会い、その世界の中で様々な人と出会った。別れもあったし、再会もあった。悲劇もあったし、喜劇もあった。感動もあれば、激昂もあった。カイトにとってのもう一つの人生の姿が、そこにはあった。
ハセヲもそう。『The:world』に触れ、感じ、知り、繋がり、始まり、想い、歩み、終わり、新しく始まる。人の縮図ともいえる世界が、あそこにはあった。あの世界は彼らにとって紛れも無い、もう一つの人生だったのだ。
だが、この世界はなんなのだろうか。
人の思いなどそこには一切無い。あるのはただ一人の、狂気。そしてそれに巻き込まれた、一万の人間。狂気に喰われ消えていった二千の人間。狂気に立ち向かう多くの人間。
こんなものは現実では、ましてゲームなどでもない。ただの絵空事で、空想で、幻想に過ぎない。あの男は、あの狂った科学者は、きっと夢を見ているに違いない。寝ても覚めても見続ける、壊れた夢物語、狂った童話。全てを己へと振り向かせ、差し向ける為の、狂奔。コレが、人の望むことなのか。否、人だから望もうとするのか。人で“いられなくなる”事を、人で“あらぬ”事を。

「報酬は夢、対価は命か……随分と、割に合わないなぁ」

ふっと笑い、近くの石に腰を下ろす。正方形にカットされた、石の椅子だ。
……そういえば、書類溜まってたなぁ。佐伯(さえき)さんきっと怒ってるだろなぁ、『ハセヲにカイト何をしてるの!?』とか、僕達死にそうになってても言ってそうだ。香住君はそんな佐伯さんを『まぁまぁ、一応二人も頑張ってるんだからここは大目に見ようよ』って、やんわりと佐伯さんを宥めてくれるに違いない。跡で絶対『今度合コン付き合えよ?』とかメールで来そうだ。
火野君はそんな二人を遠目に見ながら『大の大人が情けない……私を見習いたまえ』とか小さく言ってそうだ。でも誰も反応しないから、一人でこっそり拗ねたり。あぁ、早く戻りたいなぁ。
仕事がしたい、遊びたい、いろんな人と話したい、触れ合いたい、皆と一緒にいたい。
思い返すほどに、いろんな事が浮かび上がる。そしてそっと気付く、己の頬を伝う懐かしく感じる温かさ。

「…………泣いちゃってるじゃん、僕」

結局のところ。カイトは、現実に戻りたいのだ。
この世界がどれだけ理想であろうと、現実には敵わないのだ。笑いながら、カイトは頬の涙を拭う。そして周囲をきょろきょろと見渡すと、誰にも見られていない事にほっとする。大の大人が泣いてるなんて、結構恥ずかしいものじゃないか。
そう、見られてはいない。見られ“かけて”いた。広場の奥、通りのほうから人影が歩いてくる。
NPCかと思ったが違う。陰にうっすらと、剣が見えた。腰から伸びる、一本の筋。そんなものを持てるのは、誰かなんて決まっている。この世界では、武器を持てるプレイヤー以外で、武器を持ったNPCを見た事が無いからだ。
姿を現したのは、青い騎士風の青年。腰に携えた直剣と、背負った盾がカイトにそう思わせていた。こんな早朝から狩りか、と思ったがどうやら違う。彼はそのまま広場の石椅子に腰掛けて、まるで瞑想でもしているかのように動かなくなった。
その様子が厭に気になり、カイトは青年に声をかけてみた。すると、

「おはよう」

「ん? やぁ、おはよう。気持ちのいい朝だね!」

メッチャ好青年だった。こう、キラキラが周囲を包んで輝きまくるようなタイプの、宝塚系の好青年。
細かく様子を観察してみると、どうやら瞑想とかじゃなくて単に眠かっただけらしい。目元に小さなクマのようなものがある。睡眠不足なんてこの世界にあるのかと思ったが、まぁ人にもよるだろう。

「こんな早朝から何を? みたとこ、ソロで狩りでもなさそうだけど。パーティー待ち?」

「そんなところだよ。…………今日、俺のパーティーでこの第一層のボスを攻略するんだ。簡単に言うなら、俺はこのゲームの最初の攻略組の隊長、ってところかな」

…………この人か。この人がそうなんだ。
話には聞いていた。プレイヤーを纏め上げ、攻略を効率よく進めようとする指揮者がいると。
この青年がそうなのか。笑顔を絶やさない、この好青年が。ようやくと言うか、逆に今までよく一度たりとも出くわさなかったものだ。攻略組というからには、彼もこの町で宿を取っているに違いない。例え違う宿で寝泊りしようと、町のショップや工場では必然的に一度は会う筈だ。
それすらないとなると、最早運命的ななにかを感じざるを得ない。カイトはいつの間にか、青年に興味を持っていた。興味と言うか、感心だ。やはり“思ったとおり”だ。自分達が動かなくとも、人は勝手に前に進んでいく。コレが人間の、コレが意思ある者の在り方だ。
きっとこの男は、前線で人々を束ねる将になるに違いない。人々も、彼を(しるし)(いく)さに嬉々として望んでいくだろう。“彼となら勝てる”“俺達なら出来る”と。

「ゲーム初日から、率先して攻略をしようとは決めていたんだけど。やっぱりこう、命が懸かると感じるものが違うな。怖い、っていうか……そう、虚しいと言うのかな。負けたら死ぬはずなのに、その実感が無いんだ」

「ここでの僕らは仮想的な生命だからね。こっちで死んでいざ現実に戻れば、その時僕らは“ただの肉の塊”さ。それが理解できる人間は、決して戦おうとはしない。“勝てる”と分からない限りは、決して剣を取ろうとはしないさ。人間ってそういうものだもの」

「…………すごいな、まるで往年の老兵って感じじゃないか。君っていくつ?」

「これでも二十四だよ。よく高校生くらいって言われるけど、お酒も呑めるし煙草も吸えるよ。呑まないし吸わないけどね」

「………俺とそんなに違わないんだ。いや、見た目が若いから、てっきり高校生くらいと思ってて……なんていうか、すまない」

別に怒ってはいない、ストレスを感じることも無い。
友人と宅呑みで深夜にコンビニによれば身分証明必須、夜間の宿直の際の買出しには警官の職務質問必須、果ては学生を対象としたインタビューを受けて『君、中学生だよね?』の一言。カイトは最早、悟りの領域に至っていた。
彼の心底申し訳なさそうな謝罪に、あははと笑ってしまう。と、気付いたことがある。

「カイト。そういえば名前、教えてなかったよね」

「あぁ、そういえばそうだな。俺はディアベル、よろしくカイト。
…………戦いの前にいい感じに緊張もほぐれたよ、ありがとう。次に会うとしたら……第二階層かな?」

「そうだね。僕は正直“強くないから”戦いには向いてないし、たぶん前線に加わっても僕は“邪魔”にしかならないだろうから。でも、なんていうか……頑張ってね。それじゃ」

あぁ、自分はなんて弱いのだろう。
いざ戦いに赴く者を目の当たりにすると、真っ向から向き合えない。
いざ戦いに皆と共に加わろうと思っても、自分の力が疎ましい。それを知れば、決して自分達は彼らと交わることは出来ないだろう。そう思わずにはいられない。目の前の彼も、きっとそうだろう。
だからカイトは、早く彼と別れたかった。申し訳ない感情が溢れすぎて、自分の正義感というものが崩れそうだった。だが、

「カイト!」

ぴたりと足を止め、肩で振り返るとディアベルは立ち上がってこちらを見ていた。
何度か視線を外し、その都度こちらを見て、数秒を経て彼は口を開いた。

「…………強すぎる人間が、弱い人間と一緒に戦うのは、悪いことだと思うかい?」

カイトはディアベルの目を見て心の中で、あぁ、と言った。この目はそうだ、この男もそうだ。きっと、自分達と同じだ。人とは違うなにかを持っていて、それを自覚していて、それに胸を焼かれている、そんな目だ。
それがなんであれ、カイトには“そういうもの”だと理解できた。だから去り際に、振り返って背中越しにこう応えた。

「…………そんな事が出来るのは“君みたいに”誰かを守れるような強い人だと、僕は思うよ」






  ×      ×





「(…………なぁ)」

「(…………ンだよ)」

「(カイトのヤツ、なんであんな“おセンチ”な空気散布してるわけ?)」

「(知るかよ。朝一ナンパして、ボロッボロに振られたんじゃねーのか)」

アレからカイトは、自室に篭ったきりだった。
既にあれから四時間近くは経っている。もうディアベル率いる攻略組はダンジョンに向け出立している頃だ。あまりに動く様子が無いし、呼んでも反応が無い、しかし鍵は開きっぱなし。
中に入って呼びかけても『うん、そうだね』『あぁうん』と言った曖昧な返答しか出てこない。様子がおかしいと察したベンケイも姿を見せるが、一向に変化はなし。放心状態を超えて、昇心状態-昇天と放心の掛け合わせ-だ。

「カイトぉー、俺らゴーレム狩りに行くけど、お前はどうすんの?」

「あぁうん、そうだね。僕は遠慮しとくよ」

これだ。ちょっと間を空けるなら何か考えているような感じもするが、一切淀みなく答えられると、どことなく腹が立ってくる。ベンケイは『大丈夫かコイツ』で留まれるが、ハセヲはそうにも行かなかった。
苛々が頂点に達したハセヲは、ベッドに横たわるカイトの肩を掴んで立たせる。それでもなお呆けた状態で反応の無いカイトに、不意に口角を吊り上げた不気味な笑みを浮かべて、ハセヲは、


「フライング……二丁目固めェェエエエッッッ!!!!!!」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁあああああ」

雄叫びのような、カイトの叫声が響く。要約すると、『飛び腕ひしぎ十字固め』のことである。
なお、現実的にコレをやると骨折程度ではすまないので注意されたい。しかし安全圏である宿の中ではちょっとしたじゃれ合い程度に扱われるので、ハセヲは遠慮なく技を極められる、と言うわけである。

「う、美しい…なんて綺麗な技の極め具合、まさに芸術ッ!」

「ギブギブギブ死ぬ死ぬ死ぬ無理無理無理ぃぃいああああああああああああッッッ!!!!!!??????」

「先輩おはよう御座いマース、当店自慢のモーニング二丁目固めはいかがでしょうかァ!?」

「あの……そろそろマジで逝くかも…………」

「1、2、3! ハセヲ、WIN!」

腕を取り上げ、高らかにハセヲの勝利を宣言する。
その傍らで、カイトは全身をヒクヒクとさせながら悶絶していた。そんなカイトをつんつんと突きながら、ベンケイは彼の悩みの種を当てて見せた。というか、どう考えても一つしかない。

「お前もしかして、攻略に参加したいの?」

「うん」

ズドンッ!!! と、カイトの小さな尻にハセヲの蹴りがしっかりと極まる。

「だからノータイムで答えんじゃねーよ。テメェの悩みの薄さが知れ渡るだろーが」

「いや薄くは無いと思うけど…………けど、またどうしてだよ? この間話したら『別に参加しなくてもいいんじゃない?』的な感じだったじゃんよ。どういう心変わり?」

それから彼は、今朝に会った青年の事を話した。
自分は彼に突き動かされただけなのかもしれない。元々攻略の意思はあったが、そこへと踏み出す“きっかけ”が、たまたま彼だったと言うだけだ。
ハセヲもそうだ。今でこそ否参加を謳ってはいるが、いずれはカイトと同様に痺れを切らして前へと出て行くに違いない。ベンケイも、そんな二人に喜んでついて行くだろう。仲が良いとか、正義感とかじゃない。“そうせずにはいられない”“そうしなければ居ても立ってもいられない”、彼らははそういう人種なのだ。

「俺は二人についてくとして、お前らはどうすんだよ。カイトはやる気満々、ハセヲは?」

二人はハセヲを見上げる。
ため息一つ、ドアへと振り向き、彼は一切悩む素振りも無くこう言い捨てた。


「行くぞ」




 
 

 
後書き



武器のイメージ。
ベンケイの槍は、マヤ・アステカ系列の『ホルカンカ』。
カイトの短剣はインド系列の『クリス』を二刀。
ハセヲは武器を無尽蔵に使用できるので、その都度書いていく予定。
というか、読んでくれてる人がいるという事に喜びを隠せぬ嘘口であった。
 
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