Sword Art Online-The:World
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#03 遭遇
前書き
数ヶ月ぶりの更新。突発的に書いていたため、物語の展開をまったく考えてなかった……orz
改めてとりあえず色々な構想は練っているので、亀更新ですが書き上げていこうと思います。
三話目にしてオリ展開。そして新キャラ。何よりもキャラ崩壊。
報告:十二月一日。
SAO(このゲーム)が始まってから一ヶ月、現状況――――変化、無し。
先日、はじまりの街に或る『蘇生者の間』にあるプレイヤー名簿の石碑を確認した際、このおよそ一ヶ月で約2000人のプレイヤーが死亡した事が確認された。
その大半は推察ではあるが自殺によるもので、第一層郊外から外であり下方である空中へと投身自殺する者が相次いだという話を何人かから聞いた。
『悪い夢だ』『死ねば解放される』などと、似通った事を口にしていたそうだ。現環境を考えれば、まともにゲームをプレイしている方が異常とも判断できる。
そもそも、こういった事態を開発者であり主犯格である茅場晶彦は想定していなかったとは思えず、おそらくメンタルカウンセリングのシステムも搭載されている筈だと想定する。しかしそれらの存在は確認できず、おそらくはシステムの不具合、もしくは茅場本人による調整の結果、いずれかであるのは確実だろう。
近日は“始まりの街”を離れ、第一層の街、トールバーナを中心に、第一層迷宮区への攻略が行われている。前線に参加するプレイヤー達も、それぞれゲームシステムに慣れている様子も確認できた。
しかし、現状で確認できるのはそこまで。ゲームで本来あるべきパーティーやギルドの構成などはいまだ見えず、ほとんどのプレイヤーがソロプレイ状態で攻略を行っている。
迷宮区攻略の際には数名がパーティーを組むようではあったが、いずれも帰還する事は少なく、大半がダンジョン内で死亡したものと思われる。しかし彼らは少なからず、迷宮区の攻略情報を公表していたようであり、それにより近日、トールバーナにて大規模な攻略会議が開催される模様。
尚、βテスター達は優先的に効率的な狩り場を独占し、アイテム・資金を総占めしている、との噂が立っている。実際はそれは噂であり、それを行っているのは“一部のβテスター”だけだった、という事実も確認されている。
多くのβテスターは現在、所有している情報を統計し、攻略本のような物を街で配布している。
少なくとも、ダンジョンや戦闘で死ぬ確率はこれらのお陰で格段に減少したのは確かだ。
最後に。現在、一ヶ月が経過。依然、第一層は攻略されてはいない。累計死亡者数、約2000人。
× ×
「何を書いているんだい?」
木製の机にかじりつく様に、ハセヲは日記を書いていた。
このゲームの日記は外部にも持ち出せるようで、その際ログアウト後にナーヴギア内のメモリから直接抜き出す事が可能らしい。もっともそれは、同僚がインストールしてくれていたファイルを確認してつい最近知った事なのだが。
そんなハセヲの背後から顔のすぐ横、そっと肩に手を置きカイトはまるで恋人のように顔を出してくる。
「報告書ッスよ、報告書。クリアした時、全部口頭で言うなんざメンドいだろ」
「まだ第一層もクリアしてないのに、気が早いね。若いねぇ、ハセヲは」
「………っつか、キモい。横から顔出すなよ、近い。てゆーか、時間なんだから普通に声掛けてくりゃいいだろーが。ほら、さっさと行くぞ」
現在ハセヲ達は、第一層の街・トールバーナの宿屋にいる。
時間は夜、現実時間で午後八時を回ったところか。二人は基本パーティを組み、現在は夜間にのみ行動時間を絞ってレベル上げ、アイテム回収を行っている。それは、先日茅場が二人に与えたスキルが大きな要因だった。
『双刃』『錬装』、これらのスキルはシステム上存在しないスキル。ハセヲとカイト、この二人の為だけに茅場がこしらえた特別なEX(エクストラ)スキル。故に、二人はそれを与えられて後、他のプレイヤーと同様に狩りをする事が出来なくなってしまった。何故なら、
「まさか、常時発動系のスキルだとはねぇ………」
「スキルっつーか、アバターの仕様だろ、コレ。解除不能とかどんだけだよ」
カイトのスキル『双刃』は文字通り、二刀流のスキル。
最も、装備する剣は短刀、短剣などのの小型の剣のみで、長剣、大剣、盾や他の装備はそもそも装備不可能。移動速度、アイテム使用速度や技後硬直、反応速度にステータスボーナスが付加され、コンボボーナスや火力も僅かだがプラスされる。
ハセヲのスキル『錬装』は、瞬間換装のスキル。
初期装備として使用可能な装備一式、直剣、短剣限定での二刀流も可能、一定のレベルを超えれば徐々に使用可能な上位互換の装備が解放されていくようだ。
戦闘中の換装直後の硬直は無く、アイテムストレージから一々アイテムや装備を選択する必要もなく、スキルに設定された特殊なスロットに設定した場合、『懐に手を入れる』『腰に手を回す』などといったモーションだけで各アイテムを使用できる、という便利スキルでもある。
現在は様々な技を習得中ではあるが、それを差し引いてもこのスキルは“優秀すぎる”。
いくらGM(ゲームマスター)から与えられたものとはいえ、こんな物を大衆の前で晒せば碌でもない事になるのは間違いない。それどころか、今後のゲームの進行にすら関わる大問題だ。
MMOにあるまじき、管理者のユーザー優遇。そんな下らない話を、“いけしゃあしゃあ”と誰かに話す事など、とても出来なかった。
そうなると、二人の活動時間はプレイヤー達が寝静まる夜間に限られる。
システム上は不要だそうだが、ハッキリ言えば此処が今の彼らの現実。日常は現実と変わらない。食べ、話し、眠り、起きる。それは欠かせない。
そんな2人が郊外の平原へ向かう折、市街の道の途中でカイトがふと呟いた。
「あ、そう言えば。明日の昼間に街の広場で、会議みたいなのやるんだって。たぶん、本格的にボス攻略をするんじゃないかな。ハセヲはどうする、参加する?」
「…………ボス攻略、ね。……正直言えば、俺達が参加しなくても必然的にそう言った漸進的なプレイヤーが何人かは出てくる。そいつらに任せるのもありかと俺は思う。言うなら、こんなスキル持ってる俺達が前線に出たところで『えこ贔屓だ』『チートだ』って、卑下されるに決まってる。前線には、極力出ない方面で行きたいね、“俺は”」
…………ホント、素直じゃないなァ。
カイトも、過去にそういった話で何度も運営やプレイヤー達ともめた経験がある。しかし結局のところ、それは大きな問題の前には小さな事で、最後には皆で協力して事件を解決した、という美しい終わり方をしている。
しかし、命が関われば話は別だ。
現実に命を賭けたこの世界で、『固有スキル保持者』というのはあまりに逸脱し過ぎている。別に、自分達が率先して攻略を進めていく必要はないし、他のプレイヤーに隠れて必要最低限の狩りをして生活して、ゲームがクリアされるのを待てばいいだけの話だ。
だが、こうして自分達がそう言った“力”を与えられた事には、きっと理由が、必然が存在するのだと、カイトはそう思っている。もっとも、これはカイトの経験上の話で、ハセヲに関してはどうかは分からない。
分かっているのは一つ。自分もハセヲも、共に『じっとしていられる性格では無い』という事だけは明確だった。だが、今は動くべきではない。今動けば、未だ纏まりのない人間関係に、決定的な亀裂を与えるだけなのだから。
「大丈夫だよ。そのうち、僕達の事を理解してくれる人が現れる――――と思うから」
「思うじゃ全然安心できねーよ………」
「この世界は広い。それに聞くところによれば、スキルには色々とクセのある物があるらしいじゃないか。日常系の生活スキルや戦闘系スキル、各スキルの熟練度で発生する『EX(エクストラ)スキル』、中でも特異なのは発生条件不明の『ユニークスキル』なんてのがあるらしい。
そのうち僕らの『双刃』も、ユニークスキルとして公表して、堂々と前線に出てみようよ。少なくとも、動きやすくはなる筈だ」
「そうだといいんだがな………」
「あ、それはそうとさ。ハセヲ、最近何か美味しいモノ見つけた?」
街の外への門の手前で、あまりに方向路線ぶっ飛ばしな質問にハセヲは思わず立ち止まり、おかしな表情を浮かべていた。猫背になりながら、『うわ何言ってんだコイツ』を一手に表現したような、とんでもなくけだるそうな表情。
言うまでも無く、半目だ。
「え、なに、僕おかしい事言った? いやそりゃ、いくらゲームでも生活はするんだから、おいしいモノとか結構気になるでしょ? ほら、街でわりと高い目のメニュー頼んだけど、すっごい質素な奴しか出てこなかったし。見た目はスゴイ派手なんだけど、お味がシンプルってゆーか、超独特ってゆーか」
「ゲテモノほど美味い、とはいかないって事だろ。いい教訓じゃねーか」
「そんな事無いよ? ○○○○○○の丸焼きとか、○○の佃煮とか、○○の素揚げとか、美味しいの沢山あるし。あ、ちょっと外れたところに行けば○○の踊り食いなんてのもあるらしいね、美味しそうだなァ」
身振り手振りなジェスチャーで、カイトは食材の姿を一つ一つ再現していく。そのどれもが日常生活では縁の無い生き物ばかりで、ワリと創造力の強いハセヲはその動きだけで背筋にぞっと鳥肌が立つのを感じた。
固有名詞を用いるなら、節足動物とワーム関係の。
「やめろ言うんじゃねーよ! 想像しただけでぞっとするモンばっかり挙げてんじゃねーよ!」
「揚げ?」
「いや合ってるけど! 俺がそう言うの苦手なの知ってて言ってんのか、なんかの嫌がらせか憂さ晴らしかよ!? ってかアンタ、そんなに食に旺盛だったのかよ!?」
「ふっふっふ、これでも結構グルメなんだ。昔はそれほど食事に興味は無かったんだけど、最近じゃ佐伯さんと香住くんと一緒に休暇とって、美味しいもの巡りとかやった事あるよ。あ、足は佐伯さんの車ね。こないだは横浜まで行ってきたんだ」
「んな情報欲しかねーよ! なんだよ、俺だけハブられてるってのかよクッソォ!」
「よし、それじゃ今日も元気に狩りに行こうか。夜間クエスト『騒音の蝙蝠狩り』に出発!」
「(………あーダメだ、この人にまともにノリツッコミしてたんじゃこっちの身が保たねぇ………)」
× ×
「で、結局出席はしないと」
草原フィールド、小高い丘のど真ん中で、カイトは寝転びながらそう言った。
時刻は昼時。昼食として買ったパンをかじりながら、二人は空を見上げていた。
場所は第一層の北の果ては果て、モンスターの出現率やアイテムドロップ率の低さから誰も寄り付かないような広大な草原。おまけに近場のタウンまでの距離が非常に遠く、ただただ非効率の対象としてもはや誰もここの事を気にも留めない。
しかし、問題のある二人にとってはこのフィールドは最適。何をしてもおよそ気づかれる事はないし、何があっても誰かに情報が漏れる心配も無い。故に、こうしてくつろいでいられるのだ。
「今朝方様子を見てきたが、結構な人数だった。ハッキリ言って、俺達の助けは必要ないだろ、アレ」
「僕も同感。ていうか、アレだけ有志がいるんなら僕達の必要性無くない?」
「言うなよ。せっかくゲームやってんだから、多少は攻略に先進的になろうぜ。……っつか、その為にここにきてるんだろ?」
時刻が一時となった。直後、二人が寝転ぶ草原より数百メートル先に、異変が起きる。
地面の土が盛り上がり、中からモンスターが現れた。数は一体だが、なにぶんサイズがデカイ。身の丈6メートルはあろうか、その“岩の巨人”は地面からその足を抜くと、周辺をゆっくりとした歩調で歩き始めた。
この辺を徘徊するモンスターだろうか、特に進行方向が定まっているわけではなく、本当にただ歩いているだけ。そのモンスターが出現すると同時、二人はパンを一気に飲み込み、ゆったりと腰を上げる。こんな人気の無いフィールドに何故二人がいるのか、そのもう一つの理由はといえば、アレだ。
「ゴーレム。二時間おきに自動で出現と消滅を繰り返す、高レベルモンスター……適正レベルで言えば、10くらいかな? そう考えると、結構意地悪だよね。デスゲームなだけに」
「階層で言えば、三階層のボスクラスの強さはある。その分、吐き出すアイテムやら経験値は美味しいんだが………けど、倒せないわけじゃない。パターンとモーションの判定さえ把握しちまえば、ちょっと硬いただのノロいデカブツだ。フクロで叩いて蜂の巣だぜ」
「ねぇ、“そこの君”! どう、一緒にやらない!?」
カイトは背後の小さな茂みに向かって、大きく声を張り上げた。
ガサガサとなにか逃げ回るような音が続くかと思えば、その正体はすぐに顔を出した。
金に染まった短髪、190はあろうかという高身長、初期設定よりは明らかに薄い装備。手に持つのは近場の町で売っている一番高い槍。高い攻撃力と通常より少し長いリーチが特徴だ。
そんな男は、なんとも「しまったしまった」という表情で頭を掻きながら丘を登ってくる。
「いっやぁ~、悪い悪い。なんか悪巧みしてんのかなーとか思ってさ、ちっと隠れちまった」
「お前は?」
「俺ぁベンケイ、ソロだ。アンタらは?」
「僕はカイト。この白いのの先輩」
「俺はハセヲ。この青いヤツの後輩。で、お前はこんな超ど田舎に何の用だ? 」
「いやよぉ、この界隈のモンスターやらクエストやら全部やり尽くしちまってさ。なんか目新しいもの探してあちこちフラフラしてたら、偶然アンタらを見かけたのよ。んで、なんか始めて見るモンスターがいるから、隠しイベントかと思ってんだけど……」
「残念、あれはただのゴーレム。ちょっと経験値とアイテム回収が嬉しいだけの、この階層のレベルで戦ってもデメリットしかないモンスターさ。まぁ、経験地稼ぎが目的なら格好の的なんだけど」
カイトの説明に、ベンケイは「あぁ~」と理解したような口振りで応える。
実際、この階層でレベル上げ重視のモンスターやクエストは実のところソレほど存在はしていない。どちらかといえば、従来のMMOにも存在する練習用クエスト程度のものばかりで、ゲームレベルはまだ低い。
しかし、例外的に“あぁいった”モンスターも存在する。周回プレイや高速クリアのための要素としては、確かにお手ごろなモンスターだ。偶然かそんなゴーレムは、足取りをこちらへと向けている。その様子を見ると、ハセヲはカイトに耳打ちするように話しかけてきた。
「(どうすんだよ、コイツがいちゃあ戦闘なんか出来ねぇぞ?)」
「(…………いや、逆に都合がいいかもしれない。彼を、僕らのパーティーに加えるんだよ)」
カイトの言に、ハセヲは即座に理解を見出した。というか、それは彼も考えていたことだ。
第一に、彼は「この界隈のクエストやモンスターは狩り尽くした」と言った――つまりデスゲームとはいえ、この階層程度ならば余裕でクリアする実力は持ち合わせているという事だ。
第二に、彼はソロであると言うこと。抜きん出た実力者は大抵、統率者になるか単独で行動するかの二択になるが、彼はハセヲ達同様の後者。この様子では前線攻略にもさほど興味は無い様だし、まだ発足はしていないが、今後どこかのギルドに所属する可能性もそう高くない。
ならばいっそ全てを開示し、協力を求めるのもアリだ、と言うのがカイトの判断である。
しかし、いくらソロプレイヤーとは言え「僕達、チートプレイヤーなんだ」というような輩を、はいそうですかと二言返事で仲間になってくれるとはとても思えない。というか、普通なら運営に通報する。ソレが常識。
しかし、このSAOならば。この世界ならば、彼も理解を示してくれるかもしれない。
なにより、今後二人だけでSAOを攻略するのにはどう足掻いても無理があるのだ。ならばいっそ。
「(……俺の上司はアンタだからな、最終的な決断はアンタに任せる)」
「(分かった、まぁ僕を信じてよ)
ベンケイ、君かな? ちょっと話があるんだけどいいかな?」
隣にいたはずのベンケイは、いつの間にか草原へとRun Awayしていた。
ベンケイはかけだした! 目標、ゴーレム。彼は戦うそぶりを見せている!
「ひぃぃいーーーやっほぉぉぉおおおおうううぅぅっっっ!!!!!!」
「「…………はあ゛ぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーッッッ!!!???」」
カイトは、久々にキレかけた。ハセヲは、脳血管ブチ切れていた。血管ないんだけど。
初見のイメージは「落ち着きのあるヤンキー風好青年」だったが、今の一瞬で全てが変わった。
あの男は「落ち着きの無い小学生級バカヤロー」である。過去に似たようなヤツと面識のある二人は慣れているつもりだったが、どうやらそれは勘違いだった。慣れてはいても、耐性が出来た訳ではなかったようだ。
しかし、そんな彼の様子に二人はどこか吹っ切れていた。
ゲームでそんなに悩む必要あるか――――そんな単純な結論を、二人は今更になって思い知った。が。
「俺達の獲物横取りするたァ許せねぇなあオイ………狩るぞコラ」
「いやいやいや、落ち着きなよハセヲ。ここは穏便に足元狙ってダウン取った後に、モンスターに一撃入れてもらうエコでクリーンな解決法を取ろうじゃないか」
まぁ、とりあえず。
「「いくぞコラァーーーーーーッッッ!!!!!!」」
「ついて来いやァーーーーーーッッッ!!!!!!」
ただただ、笑みがこぼれる。昔、初めてゲームを手にしたときのような、そんな無邪気で抑えきれない感情。あぁ、ゲームとはやはりなんと楽しいモノなのだろう。
ゲーム性も必要だが、MMOにおいて最も必要なもの。それは――――人との繋がりである。
後書き
ベンケイのイメージ……『黒子のバスケ』の黄瀬くんかなぁ。
Cvもそのまんま木村良平さん。やたらテンションの高い『はがない』の小鷹と思えば納得。
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